第31話「プリンアラモード」
プリンアラモード。
なにかのベリーや木の実みたいな果物
多分リンゴとメロン
そしておっきなプリン
その一番上に、白いふわふわがのっている。
流花は、スプーンを止めて言った。
「このクリーム、どうやって作ってるんだろ」
モクレンが一瞬きょとんとする。
「クリーム?」
「うん。生クリームでもすごく軽い」
「なにそれ」
即答だった。
「え?」
「生クリームって何?」
「聞いたことない」
流花は、思わず笑ってしまう。
「牛から取るんだよ。牛乳っていうのがあって、それを――」
「うし?」
モクレンの眉が寄る。
「……なにそれ、生き物?」
「そう」
「でかい?」
「でかい」
「へえ……」
プリンを一口食べながら、真顔で考えている。
流花はちょっとしまったなっていう顔をする
(この大きさじゃ牛は飼えないのか)
「じゃあ、これは?」
流花はスプーンで白い部分をすくう。
「木の実だよ。
潰して、油分だけ集めて、泡立ててる」
「……なるほど」
流花は、スプーンを握ったまま少し黙る。
(ココナッツクリームみたいなかんじかぁ)
「木の実の油で、ここまでできるんだ」
「研究の成果ってやつ」
モクレンは得意そうに言った。
「隣町にはそういう研究してる人達
いっぱいいるからね」
流花は、もう一口プリンを食べた。
カラメルが少し苦くて、甘さが引き立つ。
「……そんなの生き物が、普通にいるんだ」
ぽつりと、モクレンが言う。
「ねえ、流花ってさ」
少し間があって。
「どんなとこから来たの?」
胸の奥が、きゅっと鳴る。
来た場所。
前の世界。
自分が、大きかったこと。
言葉が見つからず、スプーンを皿に置く。
沈黙を破ったのは、モクレンだった。
「あ、いいよ」
軽く、でも迷いなく。
「話したくなったら、で」
それから、ぱっと表情を変える。
「じゃあさ、私の話しよっか」
流花は、小さく息を吐いた。
「私ね、ここじゃない町の生まれ」
「そうなんだ」
「建築一家。
親も祖父母も、みんな作る人」
「そおなんだ」
「長女だからさ、自然と設計やる流れになって」
肩をすくめる。
「ちゃんと勉強してから、この街に来た」
「今は?」
「今はもう、楽しくて仕方ない」
即答だった。
「考えたのが形になるの、最高だよ。
風とか、人の動きとかさ」
一瞬、声を落とす。
「親は結婚しろってうるさいけどね」
「……あるある」
「聞こえないふりしてる」
二人で、くすっと笑う。
「たまに帰るの?」
「年末くらいかな」
モクレンは、テラスの外を見る。
「この街、好きだし。
友達も多いし」
それから、流花を見る。
「新しい友達も、できたしね」
冗談めかして言うけれど、目はやさしい。
流花は、胸の奥が少しあたたかくなるのを感じた。
皿の上のプリンは、もう半分も残っていない。
「……あ」
モクレンが、ふと思い出したように言う。
「そろそろ行かなきゃ」
「?」
「沙羅のとこ。服」
「あっ」
流花も広場の時計を見上げた。
「そうだった」
「食べたら、行こっか」
立ち上がると、風がテラスを抜けた。
プリンアラモードの皿が、午後の光を受けて、静かにきらめいていた。
今回は、少し甘めのお話でした。
プリンアラモードを書きながら、世界のサイズ感や「当たり前の違い」を、ゆっくり出せた気がします。
流花の話は、まだ途中です。
でも、無理に話さなくていい時間があるのも、今のこの街らしいなと思っています。
次は服屋さんへ。
また少し、日常が動きます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




