第30話 カフェテリア
町の中央に、大きな木が一本立っていた。
その根元を囲むように、木の色に溶け込んだテラス席が並んでいた。
「あそこ」
モクレンが指を示す。
「デザート、うまいんだよ」
「荷物あるし、テラスでいいよね」
「うん」
台車を脇に寄せて、二人で席に腰を下ろす。
風が通り抜けて、流花の長い髪がふわりと揺れた。
メニューを開くと、並んでいるのは見慣れた名前ばかりだ。
ナポリタン、オムライス、グラタン。
「私はナポリタン」
モクレンが即決する。
「流花は?」
「……オムライスにしようかな」
「注文するね デザートは後で決めよう!」
料理を待つあいだ、木陰が気持ちいい。
町のざわめきも、風の音も、全部ちょうどいい距離にある。
「で、店の仕事どう?」
「忙しい?」
「うん、忙しい」
「でも?」
「でも、楽しい」
「でしょ」
モクレンが笑う。
「キヨもヒロさんも優しいし」
「蓮も真面目だし」
「うん」
「ちゃんと見てくれる店だよ」
流花は頷く。
「それが、すごく嬉しい」
料理が運ばれてくる。
オムライスの黄色が、日差しに映える。
「その服さ」
モクレンが言う。
「ほんと似合ってる」
「青、いいよね」
「うん。流花っぽい」
「……流花っぽい?」
「落ち着いてるのに、ちゃんと目に入る」
「流花ってそんなイメージ」
流花は少し照れて、スプーンを入れた。
「ねえ」
「モクレンの仕事って、どんな感じなの?」
「うーん一言で行ったら設計」
「この町に、いろいろ作ってる」
「今は、風車小屋ね」
「水を汲み出すの?」
「それもあるけど」
「機織りに使う予定なんだ」
「機織りかぁ」
「そう」
「服の人、多いからね、この辺」
「今は他に二つあるんだけど
新しいとこが回りだしたら、だいぶ楽になる」
「完成したら、見てみたい!」
「もちろん」
外の風が、また吹く。
テラスの影が、ゆっくり動く。
「こういう昼、いいね」
流花が言うと、
「だよね」
モクレンが、呟くように返す。
とりとめのない話は、まだ続く。
でも急ぐ理由は、どこにもなかった。
今回は少しゆっくりめのお話でした。
倉庫のあと、働くことや暮らすことが、ちゃんと「日常」になってきた感じを書きたくて。
流花にとっても、読んでくれている方にとっても、
ほっと一息つける回になっていたら嬉しいです。
次は美味しいデザート。
何にしようか迷い中です!
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




