第29話 持って帰るもの
おもちゃの櫛と、ビーズ、鉛筆キャップ。
それから、少しの紙。
流花は腕いっぱいに抱えて、階段の方へ向かった。
途中で、足を止める。
荷物を下ろすための昇降機が、きちんと設えられていた。
木枠に滑車、太めの縄。
「……ちゃんとしてるな」
ただ置いてあるだけじゃない。
何度も使われて、直されて、
今も現役で動いている感じがする。
(これも、何世代も前から使われてきたんだろうな)
流花はそう思いながら、荷物を一つずつ載せた。
がたん、と音を立てて、下へ降りていく。
「昇降機使ったらこのひも引っ張って上に戻しといてね」
ナギの言葉にやっぱりちゃんとしてるなって嬉しくなる。
下では、モクレンとタケトが書類を広げていた。
紙の端を揃え、慣れた手つきで文字を書き込んでいる。
「これに書いた分が欲しいんだけど」
モクレンが紙をまとめる。
「ゆっくりでいいから、下ろしておいて」
「結構多いけど、お願い」
「水車小屋の職人さんたちが、取りに来ると思うから」
そう言いながら、書類をナギに渡した。
ナギは一つ頷いて受け取る。
そのとき、モクレンが流花の腕の中を見て、声を上げた。
「あ、かわいい」
「それ、何か作るの?」
「……まだ決めてないけど」
流花は少し照れて笑う。
「何か作れたらいいなって」
「いいじゃん」
モクレンが即答する。
「用途決まってなくてもさ」
「形から作るの、全然ありだよ」
「使い道って、あとから思いつくことも多いし」
「そっか……」
「作れたら教えてね」
「道具いるようなら、貸すし」
「あ、刃物とかはタケト管理だけど」
「ありがとう」
ナギが台車を引いてきてくれた。
「これ、使っていいよ」
荷物を載せる。
木の台に、鉄の軸。
ところどころ、色の違う部品。
(……これも、多分)
おもちゃの車を加工したものなんだろう。
倉庫の中で見たものと、ちゃんと繋がっている。
「ありがとう、ナギ」
そう言うと、ナギが少しだけ近づいてきた。
「……会議のこと、考えててね」
「また、話しに行くよ」
小さな声だった。
流花は、黙って頷いた。
外に出ると、空が思ったより明るかった。
倉庫の影を抜けて、風が当たる。
タケトは仕事があるらしく、ここで別れる。
ナギとも反対方向だ。
モクレンと二人、台車を引きながら歩き出した。
「ねえねえ」
モクレンが、にやっと笑う。
「さっきさ」
「ナギと、ちょっといい雰囲気じゃなかった?」
「……え?」
「なんか距離近くなかった?」
「気のせい?」
「気のせいだよ」
「はいはい」
「そういうことにしとこ」
軽く笑って、肩をぶつけてくる。
「それよりさ」
「お腹空かない?」
「空いた!」
即答だった。
「だよね」
「じゃ、お昼行こ」
「素敵なカフェ、あるんだよ」
台車が、ころころと音を立てる。
その音が、不思議と心地よかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
倉庫から、それぞれがそれぞれの「持ち帰り」をしました。
まだ形にはなっていませんが、
作る気持ちは、もう動き始めています。
次は、少し息抜き。
カフェでのお昼です。
また続きを読んでもらえたら嬉しいです。




