第26話 倉庫番の話
倉庫の奥で、モクレンとタケトの声が遠くなった頃。
流花は、まだ色あせた壁を見つめたまま、ナギに言った。
「ねえ……ナギはさ」
ナギが振り返る。
「大きい人のこと、知ってるの?」
一瞬の間もなく、ナギは頷いた。
「うん」
「会ったことあるから」
流花は、思わず息をのんだ。
「……あった、こと……?」
「あるよ」
驚きが、そのまま顔に出ていたのだと思う。
ナギは、少しだけ声を落とした。
「これは、みんなには内緒ね」
「トップシークレットだから」
「ナギは……トップなの?」
そう聞くと、ナギは困ったように笑った。
「ある意味ね」
「そういう一族だから」
流花は、言葉を探した。
聞きたいことは山ほどあるのに、どこから聞けばいいのか分からない。
ナギは、それを分かっているみたいだった。
「色々聞きたいよね」
「でも、今はここまでにしておこう」
「徐々に話すよ」
多分ここはお会計をするレジ台なのだろう
その上を歩きながら、ナギは続ける。
「次の倉庫番会議でさ」
「流花のこと、話してもいいかな」
「……倉庫番会議?」
「そう」
「僕たちみたいに、大きい人のことを知ってる一族が、各町にいるんだ」
「季節ごとに、年に四回」
「集まって、色々相談する場所」
流花は、知らない単語をひとつずつ受け取るように聞いていた。
小さな台を見つけて
二人でそこに座る
ナギが流花を見つめて話を続けた
「次は、来週にあるんだ」
「そこでね、流花の話をしたいと思ってる」
「今までにも」
「大きい人が、小さくなって突然この世界に来たことが、もしかしたらあったかもしれないでしょ」
「そうしたら」
「流花も、これからどうすればいいか考えられると思って」
しばらく、沈黙が落ちた。
それから、ナギは少しだけ照れたように言った。
「……実はさ」
「流花のこと、もう家族には話したんだ」
「じいちゃんと、父さんにも」
流花は、目を瞬いた。
「え……?」
「会議にはじいちゃんと一緒に
何回か出てるからね」
「僕も流花のことどうしたらいいのか
考えてて」
「倉庫番、継いだばかりだって聞いたよ」
「ああ」
ナギは苦笑する。
「本当は、じいちゃんの次は父さんなんだけどさ」
「でも、あの人」
「大工仕事が好きすぎて」
「倉庫番は僕にやらせたいって、きかなくて」
少しだけ肩をすくめる。
「だから今は、僕がやってる」
流花は、倉庫の広さをもう一度見渡した。
この場所。
この役目。
この距離感。
ナギが、最後に言う。
「怖かったら、無理にとは言わない」
「でも……」
「流花がここに来た理由を」
「一緒に探せたらいいなって、思ってる」
倉庫の天井のずっと上、
人の手が届かない高さにある硝子窓、
そこからの光が少し眩しかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
倉庫と倉庫番について、少しだけ輪郭が見えてきました。
まだ全部は話せないけれど、
この世界には、ちゃんと“知っている人たち”がいます。
次は、もう少し先の話へ。
流花の立場も、少しずつ変わっていきます。
また続きを読んでもらえたら嬉しいです。




