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第23話 眠れない

※ブックマークありがとうございます。

この小さな世界を見つけてくださって、とても嬉しいです。

湯屋から戻る道は、もうすっかり体に馴染んでいた。

夜の空気はひんやりしていて、

湯気の残る髪に、風がすっと通る。

石畳を踏む音も、遠くの灯りも、

「帰ってきた」と思わせるものになっている。


店の裏口を閉める音。

一階の灯りが落ち、

二階へ上がる階段が、きしりと鳴った。


部屋に戻る前に

流花は2階の洗濯場の桶に水を張る。


今日一日着ていた、青い服。

まだ一着しか持っていない、

でも、すっかりお気に入りになった服。

袖をまくって、水に沈める。

押して、揉んで、すすぐ。

湯屋で温まった体のままの洗濯は、

少しだけ楽だった。


前の世界では、

洗濯は「やらなきゃいけないこと」だった。

ここでは、

ちゃんと一日の終わりにある、

生活の一部になっている。


ぎゅっと絞って、部屋に戻る

窓を開けてベランダに干す。

この場所は、風がよく通る。


夜のうちに、きっと乾いてしまうだろう。

「……明日、着ていけるな」

小さく呟いて、戸を閉める。


布団を敷きながら、ふと思う。

前の世界では、

休みの日は、だいたい寝ていた。

友達も、家族もいた。

誘われれば、出かけることもあった。


でも、

自分から動くことは少なくて、

「今日はいいや」と、布団に戻ることの方が多かった。

ここに来てから、

もう何日かが過ぎている。


朝起きて、

働いて、

湯屋に行って、

洗濯をして、眠る。

そんな流れが、

当たり前みたいに回り始めていた。


布団に腰を下ろし、灯りを落とす。


明日は、休み。

倉庫に行く。

そう思った瞬間、

胸の奥が、少しだけざわついた。


「倉庫って、どんなとこなんだろ」

ナギは、倉庫番だと言っていた。

倉庫番って、

何をする仕事なんだろう。


物を管理して。

運んで。

この町の、裏側を支える仕事。


ナギの家にあった、

あの広い空間を思い出す。

引っ張って帰った、

プラスチックのトラック。


自分の体と、道具の大きさ。

この町のつくり。

どれも、少しずつ合わない。

でも、

使えないわけじゃない。


「……合わない大きさ、か」

そんな言葉が、ふっと浮かぶ。


ここは、何なんだろう。

考えても、答えは出ない。

でも、

まったく知らない世界、という感じもしなかった。

言葉も。

文字も。

食べ物も。

どこか、前の世界の続きみたいで。

わかっているのは

ここに歴史があるということ。


ここは、ずっと前から存在していたはずで。

ここで生まれて育った人達がいる。

そして私は何故か

小さくなってここにいる。


そう考えると、

余計に分からなくなる。

「……考えても、仕方ないか」


小さく息を吐く。

明日は休み。


お出かけ。

それだけで、

今日はもう十分だ。


布団に潜り込み、目を閉じる。

楽しみで、少し眠れそうにない。


でもそれも、

悪くない。

当たり前の一日が終わって、

当たり前の明日が待っている。


それが今は、

ただ、嬉しかった。


次回は、休みの日の朝から始まります。

倉庫へ向かう一日の中で、

この世界について、少しだけ輪郭が見えてきます。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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