表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/46

第21話「青を着る」

「じゃあ、今日はこれ着て帰って」

沙羅が満足そうに言う。


澄んだ、きれいな青。

水面みたいに静かな色だった。

「下着と、さっきまで着てた服は」

「袋に入れておくね」

棚の下から布袋を出して、

手早くまとめていく。


「残りは、明後日には出来るから」

「仕事着と、普段着」

「ちゃんと使い分けられるように作るよ」


「……ありがとうございます」


「いいの」

沙羅は軽く言って、

もう一度、流花を見た。


「今日は、これで十分」

鏡の前で、服を整える。

布は軽く、

動くたびに静かに揺れた。


「じゃあ、また」

キヨが声をかけ、

流花も頷いて店を出ようとする。


――と。

「待って」

沙羅の声に、足が止まった。


「髪、長いでしょ」

そう言って、

どこからか細いリボンを取り出す。


それも、同じ青だった。

「後ろ向いて」

慣れた手つきで、

流花の髪をまとめる。


きゅっと結ばれて、

首元が少し軽くなる。

「うん……いい感じ」


沙羅は一歩引いて、満足そうに言った。

「この街へ、ようこそ」


少しだけ照れたように、

でも、はっきりと。

「これからも、よろしくね」

一拍おいて、笑う。


「引っ越し祝いってことで」


「……ありがとうございます」

その言葉は、

今までで一番、自然に出た気がした。


青い服と、

青いリボン。

それを身につけて、

流花は店の外へ出る。


外は、昼の町の匂いがした。

人の声。

荷車の音。

布をはたく音。

「似合ってるわよ」

隣を歩きながら、

キヨが言う。


「……そうですか?」

「そうそう」

「変に目立たないのに」

「ちゃんと、そこにいる感じ」


流花は、自分の袖口を見る。

布が、動きに合わせてついてくる。


借りものだった頃の、

落ち着かない感じが、もうない。


「服ってね」

キヨは前を向いたまま言った。

「暮らしの道具なのよ」

「合ってると」

「考え事が減るの」

「考え事が減ると」

「周りが見える」

流花は、ゆっくり頷いた。


「……確かに」


市場のほうから、

人の声が流れてくる。


「この町、どう?」


少し間を置いて、キヨが聞く。


「まだ、分からないことだらけです」

正直に言うと、

キヨは笑った。


「それでいいのよ」

「分からないまま」

「暮らしながら、馴染めばいい」


「馴染めなかったら?」

流花が、ぽつりと聞く。


キヨは少し考えてから言った。

「そのときは」

「別の町に行けばいい」

「川の向こうにもあるし」

「丘の先にも、港のほうにも」

「ここだけが、世界じゃないから」


その言葉に、

胸の奥が、すっと軽くなる。

「……ありがとうございます」


「何が?」

「こういう話を、してくれて」


キヨは肩をすくめた。

「当たり前でしょ」

「一緒に暮らすんだから」


料理屋の看板が見えてくる。

「さ、戻ろ」

「お昼の仕込み、あるわよ」

流花は、青い服の裾を軽く押さえて、

一歩、前に出た。


青い服を着る回でした。

服や色が変わるだけで、

景色の見え方も、少し変わる気がします。

流花がこの町を歩く足取りが、

ほんの少し軽くなっていたら嬉しいです。

次は、また日常へ。

仕事と暮らしが、ゆっくり重なっていきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ