第20話 再会
「沙羅ちゃーん、いるー?」
暖簾をくぐるなり、
キヨが店の奥に向かって声をかけた。
「はーい」
布の向こうから、ひょいと顔が出る。
「……あ」
その目が、流花を見て止まった。
「この前の子だよね?」
明るい声だった。
「はい」
流花が答えると、
沙羅は一歩近づいて、流花の服に目を落とす。
「やっぱり」
「それ、借りものよね」
キヨが、いつもの調子で続ける。
「この子ね、一昨日ここに来たばっかりで」
「着の身着のまま、って感じだったのよ」
「それで」
キヨは流花の肩をぽんと叩く。
「うちで働くことにしたの」
「料理屋で」
沙羅の眉が、ふっと上がる。
「へえ」
「じゃあ、なおさらだ」
棚に掛かった布に手を伸ばしながら、
沙羅は言った。
「動きやすい服、三、四着くらい必要だね」
「下着も、三組くらい」
キヨが頷いて、付け足す。
「でもさ、とりあえず今日着替える分は」
「出来てるやつで構わないから」
「合いそうなの、ある?」
「今から作ると、時間かかるでしょ」
「了解」
「じゃあ、まずは採寸だね」
あまりに自然な流れで、
流花は思わず口を開く。
「あの……」
二人が同時に見る。
「お金は……」
キヨが、即答した。
「いいのいいの」
「福利厚生ってやつ」
「働く人に、ちゃんとした服があるのは大事でしょ」
沙羅も頷く。
「合ってない服で火の前に立たれるほうが、困るし」
「刃物も使うんでしょ」
言われてみれば、確かにそうだった。
「……ありがとうございます」
「そうだねー」
棚の中から一枚の服を引き抜いた。
それは、
澄んだ青だった。
深すぎず、浅すぎず、
水面みたいに、きれいな青。
「……これ」
「色、合いそう」
流花は、思わずその服を見つめる。
「試してみる?」
「……はい」
奥の仕切りに案内され、
それを受け取る。
指先に伝わる、なめらかな感触。
着替えて、外に出ると、
沙羅がすぐに距離を詰めた。
「うん」
「やっぱり、青だね」
丈を少しつまんで、
袖の長さを確かめる。
「完璧じゃないけど」
「今日はこれでいける」
「ちゃんとしたのは、改めて作ろう」
キヨが、満足そうに頷いた。
「いいじゃない」
「借りもの感、だいぶ消えたわ」
流花は、自分の袖口を見る。
さっきまでとは、明らかに違う。
「……ありがとうございます」
そう言うと、
沙羅は、にっと笑った。
「私は沙羅」
「服を作る人」
「キヨさんとは、昔からの付き合いなの」
言いながら、
自分のエプロンを軽く引っ張る。
明るいオレンジ色が、よく似合っていた。
「よろしくね、流花ちゃん」
流花は、少し遅れて頭を下げる。
「……よろしくお願いします」
店の中で、
青とオレンジが、やわらかく並ぶ。
その光景を見ながら、
流花は思った。
この町で、
またひとつ、居場所の色が増えた、と。
服を選ぶ時間を書いてみました。
色や布の感触って、不思議と「居場所」を作ってくれる気がします。
流花にとっての青。
沙羅にとってのオレンジ。
この先も、そっと残していけたらいいなと思っています。
次は、仕立ての話になるかもしれません




