第13話「ここから」
トラックを引いて、店の裏まで戻る。
荷台には、布が何枚も重なり、
その上に、くまのぬいぐるみみたいな着ぐるみが乗っている。
「ここでいいよ」
ナギが立ち止まって、紐をほどいた。
「じゃあ、下ろそうか」
二人で、荷物を一つずつおろす。
「結構あるね」
「うん。でも、あれもこれも使えると思う」
ナギはそう言いながら、手際よく運んでくれる。
「二階、案内するね」
女将さんの声に呼ばれて、
流花とナギは階段を上がった。
きし、と音がして、昼の店の気配が少し遠くなる。
「ここ」
女将さんが戸を開ける。
「あなたの部屋」
「しばらくは、ここでいいかしら」
中には、小さなベッドが一つ。
窓には薄いカーテン。
それだけの、静かな部屋だった。
「荷物、置いていいよ」
流花は頷いて、
ナギと一緒に、布や着ぐるみを運び入れる。
全部置き終わると、ナギは戸口で立ち止まった。
「じゃあ、俺はこれで」
「トラック、連れて帰るよ」
「今日はありがとう」
流花が言うと、ナギは少し照れたように笑う。
「どういたしまして」
「また、必要になったら言って」
「ちょくちょくご飯食べに来るから」
そう言って、階段を下りていった。
部屋に、一人になる。
布を畳んで、端に置く。
着ぐるみは、ベッドの上にそっと置いた。
カーテンに手を伸ばすと、
外の光が、少しやわらかくなる。
今日のこと。
昼の忙しさ。
ナギの家。
引っ張って帰った、あのトラック。
「合わない大きさ」
そんな言葉が、ふっと浮かぶ。
自分の体の大きさ。
道具の大きさ。
この町のつくり。
どれも、ぴったりじゃない。
でも、使えないわけでもない。
ここで寝て、
ここから働く。
考えることは、たくさんあるはずなのに、
胸の奥は、意外と静かだった。
「……よし」
小さく声に出す。
そのとき、下から声がかかる。
「荷物運び終わったらー」
「下に降りといでー」
「夜、始まるよ」
流花は扉を開け、階段へ向かった。
下から、食器の音と、人の気配が上ってくる。
夜の営業が、始まる。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
流花が「住む場所」と「働く場所」を得て、
ようやく一日を終えようとしています。
次回は、夜の営業のはじまりから。
また少しずつ、この町での暮らしが動いていきます。
よければ、続きを覗いていただけたら嬉しいです




