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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第4章 《風街アドバイザー》

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第104話 整えるという仕事

研究所の廊下は、静かに長かった。


白い壁。

規則正しく並ぶ扉。

足音だけが、かすかに反響する。


カズコが先を歩き、

その半歩後ろを流花とナギが並んでついていく。

三人の距離は、微妙に均等だ。


ナギが小声で言う。

「これから行く倉庫は、外から来るものが全部置いてあるんですか?」

「ええ、入ってきた食品は全部ですね」

カズコは振り返らないまま答える。


「整える前の食材です」

「整える?」

「ええ。私達が使えるように」

歩調は変わらない。


「外の食品はそのまま食べれるものはほとんど無いので」

流花は少しだけ視線を上げる。

「ほとんど?」

「みてもらえればわかります」

静かに言う。


流花は息を整える。

「それでも、外の情報は必要ですよね」

カズコはわずかに肩をすくめる。


「ええ、もちろん」

そして、少し間を置く。


「研究所の男たちは、外の話が好きですから」

廊下の奥に金属の扉が見えてくる。


「夢がある。刺激がある。広がりがある」

声は淡々としている。

「外を知っている人は、いつだって歓迎されます」

その言葉は軽いが、重い。


ナギがちらりと流花を見る。

カズコは歩きながら続ける。

「外から来た人が設計した理論は、なおさら」

わずかに振り返る。

目は冷静だ。


「その理論に、期待して、盛り上がる」

創太の名前は出さない。

だが、分かる。

「整えるのは、いつも別の人間ですけどね」

足が止まる。


金属の扉の前。

流花は一瞬だけ黙る。

胸の奥で、何かが引っかかる。

ナギが息を呑む。

流花は静かに言う。

「だから、見に来ました」

カズコの視線が止まる。

「ここの仕事を」

ほんのわずか、沈黙。


それからカズコは鍵を差し込む。

「外のものが私達にどう映るのか、確認してください」

金属音。

扉が開く。


乾いた空気が流れてくる。


常温倉庫の扉が閉まると、外の音が遠のいた。

空気は乾いている。


棚は高く、大きな袋が整然と並ぶ。


「ここが常温倉庫です」

カズコが言う。


ナギがきょろきょろと見回す。

「思ったより広い」

「外から来るものは大きいし、ここには半年分が入りますから」


カズコは一番手前の棚の袋を指差す。

白い袋。

一キロと印字されている袋が山のように積まれてある。

「この辺は砂糖、三温糖、黒糖」


流花が尋ねる。

「もっと大きな単位で買った方が安くないですか?」

「安いでしょうね」

即答。

「でも、運べると思いますか?」

カズコは一キロの袋の上に軽く乗った。

「一キロの袋、私達にはキングサイズベッド位ありますよね」

あちらをみて下さい。


倉庫の向こうには大きな扉があり、沢山のローラーや梯子が並ぶ。

「外から来たトロッコはまずあそこから倉庫に搬入されます。移動式のローラーを使って何人もの作業員が5日かけて棚に収納するんです」

「5日…」

ナギが息を飲む。


確かに、風街の3ヶ月の量だ。

確か砂糖だけで200キロって言っていた。

流花は、会議の時の数字を思い出す


ナギが袋の口を覗き込む。

「粒はそのまま?」

「いいえ」

カズコは首を振る。


カズコは隣の研究室に二人を連れていく。

小さな粉砕機と、いくつかのふるい。


「そのままだと、私たちの身体には少し粗い」

袋から少量を出し、トレイに広げる。

外では見慣れた砂糖の粒。

「細かくする。ただし、やりすぎない」

ふるいにかける。

落ちてきた粉は、元よりも少しだけ細かい。

「細かくしすぎると粉糖になる」

流花が言う。

「扱いづらくなるんですか?」

「湿気を吸いやすい。固まりやすい。計量が難しい」

カズコの説明は淀みない。

「だから調整が大変なんです」

粒を整える。

削りすぎない。

残しすぎない。

その塩梅。


カズコが紙袋を手に取った。

流花も見たことのある、こちらの砂糖の袋だ。

「この袋で10グラム、業務用サイズは200グラム。粒を整え袋に詰め替えます」

「研究所の裏手に粉砕工場がありますから、見に行ってみるといいですよ。ここからコンベアで食料が各工場に運ばれて、加工されてここに戻ってきます」


「香辛料は?」

流花が瓶を手に取る。

こちらで良くみる胡椒の瓶だ。

「こちらの胡椒をみて下さい」

カズコはそう言って袋から胡椒を取り出した。


強い胡椒の香りが広がる。

「これが入ってきた粒胡椒です。私たちは身体が小さい。このままでは香りも、辛味も強く感じる」

「粉末の胡椒ではダメなんですか?」

「粒胡椒として使いたいけど粉末だと細かすぎる」

「だから、こちらサイズの粒に整えます」

ナギが小さく頷く。

「外と同じ大きさだと、きつすぎる」

「ええ」

カズコは瓶を戻す。

「味は感覚です。身体が違えば、基準も違う」


棚の下段には、小さな袋が並ぶ。

「カレールー」

流花が指さす。

「箱を空けてカットして「詰め直す」んです」

袋をひとつ開ける。

「単純に大きすぎるから」

カズコは言う。

「1箱を20個に分けます」

ナギが目を丸くする。

「そんなに大きいんだ」

「そのままでは扱えません」


流花は少し考えてから口を開く。

「今は、フレーク状のカレールーも出ていますよ」

カズコの視線が向く。

「フレーク状?」

「はい。固形より細かいものです」

「一粒どのくらい?」

即座に返る質問。


流花は記憶を探る。

「5ミリから、8ミリくらいだったと思います」

カズコは腕を組む。

「……まだ大きいわね」

正直だ。

だが次の言葉は少し違った。

「でも」

ほんのわずか、口元が緩む。

「フレークなら、私たちも扱いやすいかもしれない」

ナギが小さく「おお」と声を漏らす。

流花は少し驚く。

拒絶されると思っていた。


カズコは淡々と続ける。

「形状が変わるだけで、作業効率は上がる」

「検討してみますか?」

流花が言う。

「現物を見てからですね」

完全な賛成ではない。

だが、否定でもない。


常温倉庫の空気は、さっきより少しだけ柔らいだ。


「次は冷蔵倉庫見てみますか?」

扉が開く。

ひんやりとした空気が頬に触れる。


冷蔵倉庫は整然としていた。

木箱が並び、葉物が瑞々しく光っている。

「これは全部、風街の農場で作られたものです」

カズコの声がわずかに低くなる。

誇りの響き。


流花は箱を覗き込む。

葉は小さい。

外で見るベビーリーフほどの大きさ。


「これで収穫なんですか?」

「はい」

「小さいまま?」


「このまま育てれば、もっと大きくなります」

カズコは言う。

「こちらでは繊維が硬くなる前に摘む」

ナギが葉をそっと持ち上げる。

「柔らかい」

「私たちの顎に合わせて育てる事が重要なんです」

その言葉は静かだが、重い。

「野菜は全部、風街で作られるんですね」

流花が聞く。

「外は成長を優先する」

カズコは温度計を確認する。

「大きいものは繊維も固い」

冷蔵庫の奥には根菜が並ぶ。


水分が適度に保たれている。

吸湿材が整然と置かれている。

「収穫後すぐに冷やす」

カズコは言う。

「加工場と直結している農場が多い」

流花は頷く。

ここには削る作業がない。

ここは最初から“風街サイズ”。


常温倉庫では外を整え、

冷蔵倉庫では自分たちを守る。

その違いがはっきり見える。


冷蔵倉庫から出るともう1つ大きな倉庫がある。

分厚い断熱材。

金属の取っ手。


ナギがちらりと見る。

「その先は?」

カズコは短く答える。

「冷凍です」

声は変わらない。

だが空気が一段冷える。


流花はその扉を見つめる。

粒を整え、

香りを調整し、

葉を小さく育てる。

その先にあるのは、

整えるだけでは済まない場所。


「行きますか?」

カズコが言う。

流花は静かに頷いた。


冷気はまだ漏れていない。

だが、確実にその向こうにある。

ベビーリーフの大きさで収穫する野菜。

粒を整える粉類。

流花たちサイズだとどうなるのかを考えるのはすごく大変でした(笑)


ここまで読んで頂きありがとうございました

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