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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第4章 《風街アドバイザー》

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第103話 流花の立ち位置

研究所の扉を開けた瞬間、空気が変わった。


商店街の匂いがふっと消える。

代わりに、乾いた紙の匂いと、微かな油の匂い。


「おお、流花ちゃん来たか」

奥の机から立ち上がったのは創太だった。


「会議ではおつかれさんだったね」

「創太さん」

声のトーンが、自然に一段上がる。


創太は笑う。

「会議ではあんまり話せなかったけど、ヒロのとこでは、良くしてもらってるかな?あいつ何にも言ってくれないから」

「ちゃんと飯食ってるか?味付け濃くなかったか?」


「すごく、よくしてもらってますよ。ご飯も美味しいし、沢山教えてもらってます」


「そうかそうか、なら安心だ」


研究所の男たちが顔を上げる。


「創太さん僕達にも紹介してくださいよ。例のアドバイザーさんでしょ?」

「中央の?」

「いや、風受けと聞いてるぞ」

「ヒロさんとこにいるんだろ?」


数人が近づいてくる。

「はじめまして、僕、コーヒーの研究してるんです。外のコーヒーの話聞かせてください」

「新しいスイーツのことききたいです」

「肉の保存法、と熟成について詳しかったりしますか?」

質問が一気に飛ぶ。


流花は少し驚きながらも、答える。


「まだ検討段階ですけど、外の焙煎は…」

「焙煎温度どれくらいなんです?」


「肉の脂はどのくらい残してますか?」


女性職員も加わる。

「外の素材って、やっぱり密度違いますよね?基本が大きいからどうやって、私達サイズにするかいっしょにかんがえましょう」


創太は満足げに頷く。


「ほらな。外の情報は宝だ」


その輪から少し離れた場所で、腕を組んでいる女性がいる。


表情は変わらない。

ただ、目だけが冷たい。


「外の話は盛り上がりますね」

その一言で、空気がわずかに引き締まる。


職員たちが、さっと散る。

創太が苦笑しながら紹介してくれる。

「主任のカズコさんだ」


「よろしくお願いします」

流花はそういって名刺を渡す


「歓迎してますよ、もちろん」

柔らかい声。

「新しい素材の話は、夢がありますから」

夢。

その言葉に、わずかな棘が混じる。


カズコは手に持っていた小さな瓶を見せる。

「これ、外のコーヒー豆を縮小した試作品です」

中には細かい粒。

「そのまま持ち込むと、大きすぎる。繊維も固い。粉砕比率を変えて、油分を抜いて、ようやくこの大きさ」

瓶を軽く振る。


「焙煎時間も半分以下に調整しました」


創太が口を挟む。

「でも味は外に近づいただろう?」

「近づいただけです」

カズコは即座に返す。

「創太さんが言ってた、外の味をそのまま再現することはまだできてないじゃないですか」


視線が流花に向く。

「ここの人達は小さいんですよ。向こうとは違って」

研究所の空気が、静まる。


流花は頷く。

「分かっています」

「本当に?」

カズコの口元がわずかに上がる。


「外の肉は、脂が厚い。細かくしてもその脂が壁になる。噛めない。飲み込めない」


机の上の図面を指で叩く。

「それを削る。削る。薄くする!」


その指は迷いがない。

「最初から小さい目線で考えないと、失敗するんですよ」


創太が、少しだけ不機嫌そうに言う。

「だからこそ外の情報が必要だろ」

「必要ですよ」

カズコは頷く。


「ただし、調整はこっちの仕事です」

その“こっち”に、境界線がある。


流花は一瞬だけ、自分の立ち位置を考える。


創太は外から来た人だ。

研究所を立ち上げたのも、外の理論を持ち込んだからだ。

ヒロの家での流花の扱いを、カズコはよく知っているってこと。


「創太さんは、優しいですよね」

カズコが言う。


「流花さんには特に」

創太が眉をひそめる。


「何が言いたい」

「別に」

カズコは肩をすくめる。

「期待してるんでしょう?この子に」


“この子”。

流花の胸の奥が、わずかに揺れる。


創太は少し言葉を探してから、答える。

「もちろん、大いに期待してる」

「でしょうね」

カズコは小さく笑う。


「外を知ってる。中央にも顔が利く」

「そして、若い、可愛い」

最後の一言が、静かに落ちる。


「研究所の男たちも嬉しそうでしたし」

職員たちが気まずそうに目を逸らす。


流花は顔が少し熱くなるのを感じる。

「ちやほやされるのは楽しいですか?」

問いは柔らかい。

でも、逃げ場がない。


流花はゆっくりと息を吸った。

「楽しい、というより」


視線を逸らさずに言う。

「怖いです」


一瞬、カズコの目が止まる。

「怖い?」


「期待されるのも、ちやほやされるのも」

流花は続ける。


「私が大きいまま話してしまいそうで」


創太が、わずかに目を細める。


「小さくするのは、ここなんですよね」


流花は棚を見渡す。

「外の理論を、そのまま持ってきても意味がないってことは承知してます」


カズコは黙る。


「でも」

流花は一歩踏み出す。


「最初から小さい目線だけで考えると、外の新しい可能性はひろがらないんじゃないでしょうか?」


沈黙。

回転音が、低く響く。


カズコはゆっくりと息を吐いた。


「口は回るんですね」

「はい?」

「創太さんに似て」

その言葉は、皮肉なのか、評価なのか。


創太が苦笑する。

「似てるなら上出来じゃないか」

「それゃあ、孫みたいなものですものね」

カズコは淡々と言う。


その奥にある感情は、はっきりしない。


羨望か、苛立ちか、警戒か。


「外からはいってきた物が沢山ある倉庫、見ます?」

カズコが向きを変える。


「理論より、実物を見た方が分かりやすいでしょ」

流花は頷く。


創太が小さく言う。

「俺も一緒に行こう」

その一言が、さらにカズコの目を細めさせる。

――やっぱり。

その視線が語る。


流花は名刺の端を指で押さえた。

“外の子”としてではなく。

“ここに立つ者”として。


「大丈夫です」


そう言うと創太は一瞬複雑な顔になるが

「そうか、倉庫は広いし、ナギもあまり見たこと無かったろ?」

「一緒に見てくるといい」


流花は、冷たい廊下へ足を踏み出した。


ついに、流花にも反対派が、登場。

書いていて、サイズを落とすという作業の大変さを改めて感じました。

理想と現場、その間に立つのはなかなか骨が折れます。

次回、倉庫へ。

ここまで読んで頂きありがとうございました

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