表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第4章 《風街アドバイザー》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/104

第102話 風巡りの街

風巡りの駅は、とても賑やかだった。


列車を降りた瞬間、空気の密度が違う。

声が重なり、笑い声が弾み、荷車の音が石畳に響く。


「……すごい」


流花は思わず足を止め、きょろきょろと辺りを見回す。


色とりどりの布が張られた屋台。

大きな籠を抱えた人々。

背の高い煙突からは、ゆるく白い煙が上がっている。


ナギが横で笑う。

「さて、まずは研究所に行ってみる?」

「ここから遠い?」

「商店街をまっすぐ行った突き当たりくらいかな。15分くらい歩くよ」

「それなら、商店街見ながら行ってみる」


列車が去り、駅前のざわめきが少しずつ落ち着く。

二人は人の流れに混ざるように歩き出した。


風巡りには、大きな商店街が三本ある。


一本目は飲食中心。

二本目は日用品と加工品。

三本目は卸と業者向けの店が並ぶ。


さすが風街で一番住民が多いだけある。

どの道も活気に満ちていた。


肉が焼ける匂い。

出汁の匂い。

魚を炙る匂い。


炭火のぱちぱちという音が、あちこちから聞こえる。


まだ午前中。

朝ごはんを食べてから一時間も経っていないのに、胃がきゅっと鳴る。


「……お腹空いてくるね」


流花は素直に呟く。


足取りは自然と軽くなっていた。


八百屋の前では、カットされた色とりどりの野菜が整然と並んでいる。

赤、橙、緑、紫。

水滴が光を受けてきらりと光る。


「風巡りの奥は大きな農園になってるんだよ」

ナギが説明する。

「駅の反対側が港で、魚はそっちから運ばれてくる。だから朝は特に賑やかなんだ」


「へえ……」

流花は感心して声を漏らす。


確かに、野菜も魚も、すごく新しい。

並んでいるだけで、街の体温が伝わる。


――現場だ。

ふと、そんな言葉が頭に浮かぶ。


会議室で見た数字や資料とは違う、

生きている動き。


「本当に活気がすごいなぁ」

流花は、今度は少しだけ静かに言った。


その視線は、以前より少しだけ観察する目になっている。


ふと、角を曲がったところで、ガラス張りの店が目に入る。

白いレースのカーテン。

ショーケースの中には、ふわりとした色とりどりのケーキが並んでいる。

焼き菓子を焼く匂いが通りまでとどく。


「わー!」

流花の声が一段高くなる。


「美味しそう。ちょっとだけ食べていく?」


ナギは即座に首を振った。

「だーめ。早く行かないと創太さんが待ってるんだから」


「……じゃあ後でね」

少しだけ頬をふくらませる。


その顔を見て、ナギは小さく笑った。

「あとで時間あれば来ようね」


また少し歩きながら流花が

「ナギはよくここに来るの?」


「たまにね。風受けからバス出てるし」

「え、バス?あるの?」

流花は本気で驚く。


「隣同士の街はバスで繋がってるからね。列車みたいに乗り心地はよくないけど」


「知らなかった……」

会議では聞いていない情報だ。


「帰りはそれで帰る?」

「乗ってみたいかも」

ナギは少し意味深に笑う。


「流花ちゃんは、ちょっとビックリするかもよ」

「何に?」

「さあ」

それ以上は言わない。


流花は一瞬気になったが、聞かないことにした。

知らないまま体験するのも悪くない。


商店街の奥へ進むにつれ、店の雰囲気が少しずつ変わっていく。


屋台の数は減り、代わりに大きな建物が増えていく。

人の流れも、買い物客から働く人へ。


荷台を押す若者。

白衣姿の女性。

帳簿を抱えた年配の男性。


そして。

通りの突き当たりに、ひときわ大きな建物が現れた。


石造りの外壁。

三階建て。

中央に風巡りの紋章。


「あれが研究所。風巡りの役所も兼ねてるから大きいよ」

ナギが言う。


流花は立ち止まり、見上げた。

窓の数が多い。

奥行きもある。

さっきまでの賑やかさが、少しだけ遠く感じる。


胸の奥が、ゆっくりと鳴る。

――ここが、現場。


名刺が、胸ポケットの内側で静かに触れている。


さっきまで甘い匂いに浮かれていた自分と、

今この建物を見上げている自分が、少しだけ違う。

「行こっか」

ナギが言う。


流花は小さく息を吸い、頷いた。

商店街の喧騒を背に、

二人は研究所の階段へ向かう。


まだ知らない空気が、

扉の向こうで待っていた。


風巡り編、はじまりました。

食の街はやっぱり賑やかで、歩くだけでお腹が空きますね。

でも観光回で終わらないのが風街。

次回、研究所へ。

いよいよ本番です。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ