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この世界は、小さく静かでちょうどいい~小さな体ではじまる異世界転移〜  作者: ウラン
第4章 《風街アドバイザー》

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第101話 アドバイザー

風読みの駅は、朝の光に包まれていた。


ここに来て1週間。 今日は風受けへ戻る日だ。


ホームは、街に帰る人、仕事で風読みに来た人達とで少し混雑していた。

中央の湖を回る列車は、一日二便。


「なんか、色々あったけど、あっという間だった気がするね」

ナギが言う。

「うん」

流花は駅舎の柱にもたれながら、少しだけ空を見上げる。

会議室の緊張。 湖の休日。 手紙。 あのざわつき。

全部が、まだ身体の中に残っている。


「風巡り、寄るんだろ?」

ナギが確認する。

「うん。帰りに少しだけ。風巡りの街、少しだけ見てみたい」

「研究所、楽しみにしてたぞ」


その時。

「待ってー!」

聞き慣れた声が駅に響く。

振り向くと、ツカサが全力で走ってきていた。


手に何かを握っている。

「間に合った……」

息を整えながら、流花の前に立つ。

「これ、急いで作ってきたから」

差し出されたのは、小さな厚紙の束。

流花は受け取る。


そこには、きちんと印字されていた。

――

流花

風街アドバイザー

――

「……え?」


ナギが横から覗き込む。

「もう作ったのか」

「中央管理としては必要だからね」


ツカサは、いつもの軽い顔をしているけれど、 目は少しだけ真面目だ。


「これから、各街から正式に依頼が来るようになるから、これ使って」

流花は名刺をじっと見つめる。

紙なのに、重い。


「アドバイザーって……本当に書いてある」

「本当だよ」

ツカサは少しだけ肩をすくめる。

「会議で名前が出た時点で、もう“個人”じゃない。流花ちゃんは風街のアドバイザー職に就任しました」


ナギが横で小さく笑う。

「出世したな」

「違うよ」

ツカサが言う。

「責任が増えただけ」

風が吹く。

駅の旗が揺れる。


流花は、名刺を指でなぞる。

「私、まだ何もしてないよ」

「してるよ」

ツカサは即答する。


「いろんな街の会議で空気変えたでしょ」

流花は目を上げる。

「乾燥野菜の件も、祭の件も」

「風巡りの人達は、あれで方針変わったんだよ」


ナギが静かに頷く。

「そう、流花ちゃんは確かに風街を変えたんだよ」

少し沈黙。


ツカサは、少しだけ声を落とす。

「これからはさ」

「“呼ばれる側”になる」

流花の胸が、静かに鳴る。


「逃げられない?」

「逃げてもいい」

ツカサは言う。

「でも、多分お前は逃げない。でしょ」

一瞬、目が合う。

冗談っぽく、でも本気で。

「風街、動かす気あるだろ?」


流花は少し笑う。

「そんな大げさな」

「いや、あるね」

ナギが横から言う。

「会議で、いろんな提案してるときの流花ちゃんは顔違ったもん」

流花は視線を逸らす。

少し照れる。


「……楽しかっただけ」

「それが一番怖い」

ツカサが小さく呟く。

「楽しいやつは強いぞー」


列車の汽笛が鳴る。

時間だ。

ツカサは一歩下がる。

「風巡り寄るんだろ?」

「うん」

「名刺、ちゃんと使えよ」

一瞬、いたずらっぽく笑う。

「無くしたら再発行は有料な」

「え?」

「冗談、使いきったら言えよ。流花ちゃんに俺が届けに行くから」


でも、最後に少しだけ真顔になる。

「流花」

「ん?」

「選ぶのは、お前だよ」

それだけ言って、ツカサは軽く手を振る。


ナギが列車に乗り込みながら言う。

「人気者だな」

「違うよ」

でも、名刺はしっかり握ったまま。


列車がゆっくりと動き出す。

風読みの駅舎が、少しずつ遠ざかる。


ホームに立つツカサが、小さくなっていく。


流花は窓際に立ったまま

もう一度名刺をじっと見る


まだ、慣れない感触。

名刺なんて、はじめて持ったな


中央の湖が、線路の向こうに広がる。

水面が朝の光を受けて、細かく揺れている。


風街は、丸い。

ぐるりと湖を囲むように、

それぞれの街がある。

風受け。

風巡り。

風守り。

風綴り。

風読み。

全部つながっている。

会議で見た顔が、ひとりずつ浮かぶ。


ぶつかり合った言葉。

納得できなかった視線。

それでも最後は同じ方向を向いていた空気。


――私、本当にあの中にいたんだ。

名刺を取り出して、もう一度見る。

風街アドバイザー。

自分の名前の下にある肩書きが、

少しだけ、怖い。

でも。

嫌じゃない。


ナギは向かいの席で、ぼんやり外を見ている。

「何考えてる?」

ふいに聞かれて、流花は少し笑う。

「これからのこと、かな」

「これから、ね」

「うん、ちょっと責任重大かなって」


正直に言うと、

ナギは少しだけ安心した顔をした。

「似合うと思うけどな」

「何が?」

「風街アドバイザー 流花さん」


流花は目を瞬かせる。

「まだ似合わないよ」

「そのうち、なじむと思うよ」


列車は湖沿いを抜け、

木々の間に入る。

光が、車内の床にまだらに落ちる。


流花は背もたれに体を預けた。

――呼ばれる側になる。

その言葉が、胸の奥でゆっくり沈む。


呼ばれるってことは、

期待されるってことだ。

応えられなかったら?

失敗したら?

でも。

会議で言葉を出したとき、

怖さより先に出たのは、わくわくだった。

あの感覚は、本物だ。


列車が緩やかに速度を落とす。

風巡りの街が、見えてくる。


飲食店らしいカラフルな屋根。

煙をはいている工場の煙突。


食の匂いが、もうここからでも漂ってきそうだ。


流花は小さく息を吸う。

「よし、行こっか」

ナギが立ち上がる。

流花も立つ。

名刺は、胸ポケットのまま。


まだ似合わないけど。

でも――

逃げる気は、もうなかった。

列車の扉が開く。

第4章、はじまりました。

長い会議の章が終わって、

ついに流花は“呼ばれる側”へ。

名刺一枚で、立場も、責任も、見える景色も変わります。でも中身はまだぐらぐらのまま。

風街アドバイザーとして、流花はどう動くのか。

そして、あの4人の距離はどう変わっていくのか。

ここから少しずつ、風街は次の段階へ進みます。

引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

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