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9・志村さん[長村門道]の刀

「なるほど、西の国の鍛治技術が格段に上がったのは吉間さんか」

「期待の方はさすが志村ドクターだね、あのTVドラマみたいにペニシリンは作った?」

「青かびで?」

「そうそう」

「いやぁ〜、あれはちょっと無理だねぇ」

「嘘なのか!あのドラマ好きだったのに!」

「いやいや理論的には可能だけど、科学の知識もいるしペニシリン株を出す菌の維持も難しいね。向こうでもペニシリン工場は結構凄い設備だよ」

「へぇー」

「抗菌っぽい?不安定な液体なら出来るかなw」

「それじゃあ民間療法レベルだよ!」

「そうそう、残念だけどそのぐらいまでしか作れないね」

「そうなんだー、あっ、志村さんこれ渡しとくよ」

2本の刀を目の前に置く。


「おお!コレはありがたい!」

志村さんと八代さんは俺が打った刀を遣ってくれて居たのだ。

こっちの世界に来た時、もしかしたら2人も来ているかも知れないと思い用意をしていた。


1本は2尺で反り5分の樋無しバランスが取れた中切先の直刃。

外装は黒色の天正拵で目貫無し、柄の立鼓(りゅうご)と呼ばれるクビレも浅めにして、鹿革のバックスキンを巻いた小太刀。

もう1本は9寸5分・約29センチの一般的な物より短い、6寸・18センチ程の三角断面の鎧通しだ。合口拵えだか志村の希望で極小の鍔を付けている。


鎧通しとは甲冑の隙間を狙う武器だ。

馬手(めて)差し=右手差し、と言われる。


他の装備と干渉しないように右腰に差し、組み打ち時に右手で抜き敵に留めを刺すのが目的だ。

とにかく重ねが厚く刺す事に特化した接近戦専用の武器だ。


刺した後にこじって傷口を広げ相手に致命傷を与える事が出来る。

分類的には暗器に近いのかも知れない。

志村さんがこの鎧通しで流派には無い、独自の技を遣う事を俺と八代さんは知っている。


小太刀の方だが志村さんは左右の手で剣を持ち替えるので、目貫による違和感が嫌で付けないのだ。

もちろん目貫は装飾の意味だけでなく、握った時の指の巻き留め・滑りどめみたいな役割もあると言われているが正直なところよくわからない。


ゴツい物は見栄えは良いが握りの収まりが悪い。

自分と八代さんはフラットも嫌なので低い目貫を入れている。


拵えによっては手のひら・手の内に目貫を持ってくる物もある。

逆目貫が特徴の1つである柳生拵だ。

手の窪みに収まるので滑らす刃の向きが分かりやすいと言う事なのだが、かなり合う合わないの好みが出る。

この柳生拵は他にも特徴として刻みの入った千段印呂鞘が使われる。

これは実戦において鞘を捌く際の滑り留めになっているのだ。

実戦剣術の系統の考え方と言える。


ただ居合・抜刀術では使う人は少ない。

居合には帯の滑り、捌きが良い石目などの鞘が人気だ。細かい凹凸が摩擦を軽減してくれるのだ。

身近な物で例えるならご飯のしゃもじにエンボス加工してある物は、ご飯粒が付きにくいのと同じだ。

(まぁ決して居合が出来ない訳では無いので好き嫌いだが)


自分的には手の内に異物感がつきまとい収まりが悪く、鞘の捌きも思い通り行かず、かなり相性が悪かった拵だ。


他にも“講武所拵は丈夫で実践的だが柄が長めで太い”などそれぞれの拵には特徴があるので、自分に合う拵は慎重に選ぶ事だ。


八代さんの刀は2尺3寸の反り5分樋無し反り浅目、沸出来の互の目乱れ。

まぁ大和守安定の写しだ。


外装は突兵拵がお気に入りだ。

これは鞘の先端のコジリを担いだライフルが引っかからないように尖らせ、装飾を省き鞘を薄く細くしている。

これは俺も気に入っている拵の一つだ。

肥後の他に選ぶとしたらこれを選ぶ。

薄い鞘で腰の収まりが素晴らしく良い。

かなりシンプルな拵だ。

機能が形を作った美しさがある。

目貫も系の下に入れず外に出ている”出し目貫”を使っているのが気に入っている。


他に美しく実戦的と言うと志村さんの天正拵や、

更にはあのニノ太刀要らずの示現流・野太刀自顕流(薬丸流)の斬撃に耐えられる、超実戦的な薩摩拵もある。

各拵はそれぞれの戦闘体制に特化した良さがあり、究極の機能美である。


ちょっと話しは逸れるが、実戦のみに特化した軍用の物などはこのような機能がデザインを決める事が多い。

有名なフライトジャケットMA-1で例えると、手首のリブが長いのもレバーに引っかから無いように長くなっていたり、狭いコクピットでの動作を妨げ無いように短い丈にしたりしている。

(街で着ると収納が少ない面で不具合があるが・・・)

軍物は他にもM65フィールドジャケットなど古さを感じないデザインが多い。


さて自分の刀だが、2尺1寸反り6分の寛文新刀の形状で浅くかき流しの樋を入れている。

刃文は直刃で拵は肥後で鞘は石目だ。


肥後は居合に最も向いている拵だと思う。

自分はバランスを取る為、小さ目な鍔をつけている。

素早く抜刀するのに確実に滑らず剣をを掴めるように、鹿革のバックスキンを柄糸に使っている。


刀の作り方は色々ある。

この世界の弟子には水心子正秀(すいしんしまさひで)系の造りを教えている。

我々3人の刀はそれとは別の造り込みをして居る。

因みに東の国に輸出する刀は鉄質を下げ、高温で焼き入れし焼き刃を派手目にしている。


それから5日間、北の使節団と東の国のクーデターの話し、周りの小国に攻め支配しはじめた話しをし、これからの我々のスタンスと対応を確認し帰国した。

志村さんとは定期的に手紙のやり取りをするように決めた。


◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️


先日、国にクーデターを起こした9人の渡来人が量産型と別に注文してきた。

依頼の手紙に書いてあった名を見て驚いた。

あいつらだったのだ。

(全く、簒奪などとやはりあいつらはロクな奴らじゃ無いな)


身幅150ミリと言うあり得ない段平で、脆くなるギリギリで思いっきり濤乱刃にしてやった。

(これはこれで結構作るのが難しかったが・・・)

縁頭・鍔は贅沢に金を使ってやった。

かなりゴージャスで重い!笑


大喜びしてお礼状を書いてきたのには苦笑した。

ゴージャスは儀礼用にしたいから、更にもう1本づつ実用のを欲しいらしい。

これは身幅70ミリ重ね10ミリで鋼を割り込んだ刀を作った。

刃文は研ぎで炎のような模様を付けた。

拵えは大きめの縁頭に鉛を詰め込んだ。

鍔も分厚くしといた。

これもバランスが恐ろしく悪く重い刀になった。

「素晴らしい!ずっしりして安定感がある!」っと大喜びらしい。

物を知らない奴らをからかうとても面白い。


東の国は武器の購入量が増えた。

きな臭い感じがビンビンする。

守護殿に相談して志村さんに手紙を出した。

志村さんも奴らも来てるとは思わず、びっくりしたらしい。


その人柄をよく知る志村さんによると、天狗影流の松岡宗家は支配欲求が強く、若い頃からしょっちゅう先代に叱られ頭を下げていたから、権力を手にすれば間違いなくやる側にまわる。との見解だった。


北の国と西の国は同盟を結ぶ事にした。





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