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1・ラスティネイル

不定期ですが、ぼちぼち更新していきます。

よろしくお願いします。

11月・毎年文化の日に大東京神宮の秋の大祭が行われ、流鏑馬・古流武術・現代の剣道などの演武が奉納される。


この祭りは武術の奉納演武だけでは無く、音楽の演奏会や国際色豊かな屋台やフリーマケットなどの催しがあり、1日で数万人の参拝者が訪れ都内でも大人気のイベントとなっている。


俺はこの演武に参加する為に朝早く家を出た。

年寄りの朝は早いので全く問題はないが、電車の移動が好きでは無い。

免許を返納するまでは自家用車で来ていたので、荷物を持っての電車はかったるく感じる。


大東京神宮の武道場で紋付に着替え、愛刀の大和守安定(やまとのかみやすさだ)の写しを手に提げ演武場の流派の集合場所に向かった。


「あちゃー八代(やしろ)さん来たんだ。あ〜じゃあ本番はそっちの隅で演武して。あぁ、それと来ないと思ってたから弁当は無いからね。昼になったら自分でコンビニにでも行って買って来てよ」


「・・・・・・」

(やれやれ出欠確認して参加費取っといて、来てみれば相変わらずこの扱いか・・・来なきゃ来ないで文句を言うし、本当にケツの穴の小さい男だ・・・)


ウチの流派は慢心流という500年続く、いわゆる古流剣術ってやつである。

300年前に本流が潰れた事により、傍流であった我々が主流となった。

途中継承にうやむやな所が有るので、この伝わっている技が本当に500年前の物か?と言うとかなり怪しいのだが・・・まあ、大半の技は明治・大正・昭和で作られた物であろうと推測する。


一昨年、先代宗家が88歳で他界し56歳の息子が継いだのだが・・・・・・いやこれが・・・はっきり言って最悪!


剣技は絶望的だ。

素人が見れば見てくれだけは良いので素晴らしいと思うであろう。

玄人目からは・・・・・・ただバタバタ慌ただしく身体が動いて居るだけだ。

刀法の理が無い非常に残念な演武だ。


そして刀の知識はほぼ無い・・・

刀なんぞただの道具程度にしか思って居ないだろう。

柔道有段者なので刀なんぞ無くても、体術で何とかすると言っている。

馬鹿馬鹿しいので言わないが、徒手の格闘技より剣術の方が圧倒的に強い。


最近は講習会でも訳の分からない稽古をさせられるようになり、流派のレベルが間違い無く年々低下している。


ヤツの取り巻きは本部の若宗家直弟子なので、間違っても決して意見はしないイエスマンばかりだ。

なのでますます裸の王様状態となっている。

武術協会の副会長に抜擢され、梅田副会長と皆から呼ばれて鼻高々の得意の絶頂だ。


この武術協会の松岡会長は高名な天狗影流なのだが、先代宗家と交流があった俺から言わせると技のレベルがかなり低い。

ここの流派も40年前と比べレベルが下がっているので、ウチと同じ事が起きているのだろう。



俺の名は八代誠(やしろまこと)。66歳。慢心流の師範だ。

流派師範の称号は先代から頂いた。

俺は別の支部に所属しているので若宗家からは外様の扱いだ。

本部の他に支部は12あったのだが、若宗家の嫌がらせで皆支部を解散し次々と流派を脱会し、とうとうウチの支部の俺だけとなった。


師範は俺だけとなったので、それからはかなり露骨に嫌がらせを受けている。

子供じみた手口の嫌がらせだが、それが人としてクズ過ぎて最近は本気で吐き気がする。


若宗家の纏う“気”が良くない。邪気を感じる。

オカルトっぽく聞こえるかも知れないが、“気”と言う物は有るのだ。

「何かこの人嫌だな」っと思うのは自分の“気”と、相手の”気”の波長が合わないからだ。


隅で素振りをして居ると、その馬鹿・・・いや若宗家が俺の前にやって来た。

(刀振ってる者の近くに来るなよ全く・・・)


「やっぱ場所狭いからさぁ、本番での演武は遠慮してくれ無いか?」

若宗家と本部の連中はニヤニヤ笑っている。


俺は、「あぁ、なるほど!私は切れる真剣を使って居るので危ないですからね」っと返した。


すると若宗家と取り巻きの顔がサッと変わり、怒りの形相になる。


コイツらは手を切ってしまうのが怖くて亜鉛合金の模造刀を使っているのだ。

若宗家の刀は昔の美術的価値の高い鍔や金具を使っている、ハバキなどは驚きの金着せだ。

(普通は後世に残すべき工芸品を居合に使うバカはあまり居ないぞ!)


で、刀身は亜鉛合金よりちょっとお高い砂型鋳造だ。

「模造刀に70万もかけるなら現代刀で良いから真剣使えよ!」っと言いたいところだ。

(嫌味の一撃も効いたからとっとと退散するか。)


「おい、八代の爺さん!貴様もう来なくて良いぞ!」

「は?どういう事かの?」

「馬鹿野郎!貴様は破門だボケ!」

「じじいなのはしょうがないが、いきなり馬鹿野郎と怒鳴り付けるのは今の時代は問題だと思うぞ若造?」

「黙れ!ぶち殺すぞ!」

(残念なぐらい品が無い)

「ぶち殺すってお前なぁ、警察呼んじゃうぞ?訴えちゃうぞ?動画撮って拡散しちゃうぞ?」

「若宗家は怒りで地団駄を踏んでいる」

(まぁ、引き際だな)

「バカ宗家・・・いや間違えた、若宗家分かったよ破門だな」

「おい、じじい!今後一切流派の名前を使うなよ!」

「はいはい、分かった分かった、じゃあな世話したな」

「貴様の世話にはなってないわ!クソじじい!」

「はいはいじゃあね」


長く修行してきて流派にも愛着があり、今までの恩返しのつもりで指導してきたのだが、若宗家からしたらかなり目障りだったらしい。

破門になった事で不思議と心が晴れた。

自分はもうそこまで流派に愛着は無かったのだろう。

(色々と枯れてしまったな)


武道場に戻り途中で、ちょっとした人だかりが出来ている。

(ん?何か揉めてるのか?)

協会会長の天狗影流松岡宗家と流派の者が集まっている。

後ろ姿の白髪から老人だと思われる人物が、若者に囲まれて何か抗議されている。


「何しに来たんだ?演武なんぞやらせんぞ!」

「いや、大祭を楽しみに来ただけだが?」

「何だ会長にその態度は?いつまで師範ヅラしてるな!」

「おい!今では協会とは関係無いだろが?お前こそ一般人に対して何を会長ヅラしてるんだ!歩いてるだけで絡むとはチンピラ並みだな!」

(おっ、あの声は志村さんか!?懐かしいな!)



天狗影流の先代宗家の一番の高弟、志村甲(しむらこう)さんだ。天狗影流は剣術なのだが、志村さんはその大柄のガタイにそぐわす小太刀の技の名手だった。

志村さんは先代が亡くなってしばらくして、今の宗家と合わず流派を離れてしまったので20年ぐらい会って居なかった。

(揉めてるな、ちょっと助け船だすか)

「何だ揉めてるのか?おい刀とか持ってるぞ!誰か!警備員呼んだ方がいいんじゃないか!」

人混みの後ろの方から声をあげた。

 

「大丈夫ですよ!この人は真剣が怖くて使えないから、ずっと模造刀ですので!」

志村さんが松岡宗家を見ながら答えた。


「ちっ!とにかく演武場に近寄るなよ!」

捨て台詞を残して去って行った。


「やぁ、志村さん久しぶり!」

「おお、やっぱり八代さんか!さっきの助け船は八代さんだなすぐわかったよ!久しぶりだね!」


「全くウザ絡みですな」

「あぁ、あいつケツの穴が小さいんだよ、下手くそだからひがんでるんだあのハゲ!八代さんは演武かい?」

「いや、さっき破門になったばかりのホヤホヤだ」

「・・・そっちの若造も相変わらずだな察するよ」

「全くだ、すぐ着替えるから一緒に回ろう」

「おう!いいな!」


志村さんと歩き出す。

「ん?八代さん、あれ過信流抜刀術の吉間さんじゃ無いか?」

刀を持った小柄な老人が下を向いて歩いて来た。

「吉間さんだな!おーい!吉間さん!」


声に反応し顔を上げる。

「これは懐かしい!?、八代さんと志村さんか!」

「吉間さん久しぶり!演武じゃ無いの?」

「そのつもりで来たのですが、来年度の本部未納のため流派を退会させられました」

「は?まだ11月ですよ?」

「その連絡は来たので納めたのですが、値上がりしたので会費の不足で時間切れでアウトです」

「嵌められましたな。何を言ってもダメっぽいですね」

「内容証明出を打つようですな」

「法に訴えるのも馬鹿馬鹿しいですな。まぁ、辞めさせる事が決まってたんでしょう」


「そっちの若宗家はかなり個性的な人ですよね?」

「頬にマジックで十字傷弟子達に人斬り抜刀斎と呼ばせてますな、人を斬った事は無いようですがw」

「はぁ、それはなんとも痛々しいですな」

「香ばしさが非常に漂ってますな」


「武術協会の事務長になったのがかなり嬉しいらしいですな。竹山事務長!っと周りから呼ばれてニコニコしてますよ」

「そう言う権力的地位に立った時にその人の本質が出ますな」

「本当に位が無い」

「同感ですなぁ」

「残念ですな」


吉間兵助(よしまへいすけ)は室町時代から続く過信流抜刀術の流派の師範だ。

人前での演武はゆっくり大きく踊りのような演武をするが、人が見ていない時の抜刀術は恐ろしく速く、納刀は剣が鞘に入るのが見えないぐらいだ。


その素晴らしい剣技と刀剣に対する知識の深さ、あとは温厚な性格から門下生から人気があった。

それを妬んだ過信流宗家と他の師範に嫌われ、今では完全に干されている。


その昔、演武会では俺と志村さんと吉間さん3人“剣の三人衆”などと呼ばれて一目置かれていた。


何十年も過ぎるとその事を覚えている者も居なくなり、今や三人衆全員流派内で疎まれる存在だ。



武道場外で志村さんに待ってもらい、吉間さんと俺は紋付を脱ぎ作務衣に着替え刀を仕舞う。

外に出て4人で神社敷地内を駅方面に歩いて行った。


途中、蹄の音が聞こえる。流鏑馬が始まったようだ。

「この蹄の音はいつ聴いても良い音だな」

「気分が高揚しますなぁ」


(・・・・・・・・・ん?)


蹄の音がパタッとしなくなった。


その途端激しい揺れが来た!


『うわぁ!デカいぞ!』

立ってられなくなり四つん這いになる。

目の前の地面が割れた!

咄嗟に横に転がったが、虚しくも穴の中に落ちて行った。



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