第2編『ちいさな食事』
他のサイトと並行したいので、既に他で公開している分を投稿します。
おかえりのない家に帰ってきた。
スイッチを押して明かりをつけると、リビングには千円札。
スリッパの擦れる音がよく響く。
千円札を裸のままに、近くのコンビニまで向かう。
大人がわたしを見下ろしている。
下の棚から眺めていく。
新発売は、上側にある。
わたしは店員さんに「これください」と声をかけた。
「はいはい待ってねぇ」
箱を抱えた店員さんは、軽い動きで秋の新発売スイートポテトの蒸しパンを渡してくれた。
「ありがとうございます」と言えば「どういたしまして」と返ってくる。
なんだか不思議な感じ。
甘いジュースもいいけれど、ウーロン茶もいいかも。
まだ余裕あるからお菓子を買おうかな。
ミニクッキーもいいし、ドーナツもいい、グミも捨てがたい。
全部買うと超えてしまうから、どれかひとつにしなきゃね。
また明日も選べる。
サラダも買わなきゃ、サラダは棚の上段にあるから、ドレッシングなしを取ってもらう。
カウンターに行くと、店員さんはいつもニッコリ。
ポケットから出した袋に入れてくれる。
裸の千円を渡して、おつりをもらう。
もう一度おかえりのない家に帰ってきた。
明かりはさっき点けたから大丈夫。
台に乗って手を洗い、泡せっけんも忘れず使う。
よし、とタオルで手を拭いて台からおりた。
イスに座って、今日の夕ごはんを広げる。
袋のガサゴソと擦れる音がよく聞こえてくる。
それからアイパッドも忘れずに、お気に入りの親子でできる実験チャンネルを流しておく。
テーブルは今日もにぎやか。
ふふん、と満足にひたりながら、スイートポテトの蒸しパンをちぎって食べる。
お芋のしっとり甘い味が口に広がり、笑顔が浮かぶ。
よく一人で食べると味がしないって聞くけど、不思議とわたしは美味しく食べられる。
朝ごはんは美味しくない。
お昼ごはんはまぁまぁ。
夕ごはんはとっても美味しいのだ――。
ひとりの夕食を、いちばん美味しいって思える子。