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第10編『雨降り小島』

 私は、書店で購入した本を抱えて出ようとした。

 ガラス扉に張り付く雫に目がいき、咄嗟に手を引っ込めた。

 窓の外は、予報通りの弱雨で、思わず口元が歪んだ。

 あぁ、予報を甘く見ていたな。

 すぐ側の歩道は黒や透明ばかりが通り過ぎていく。

 本はビニール袋に入ってるから大丈夫だろう、と取っ手を押し開けた。

 歩道の端、軒先を選んだ。

 雨どいから零れる雨水を避けつつ、本を胸に抱える。

 まだ濡れて間もない灰色の道。

 傘の表面を跳ねる雨粒の音が、次第に強くなる。

 太い雨粒に色濃く埋もれていく道を眺め、私の足元だけが陸地になった気分を得た。

 私以外誰も困らないという絶望感が、私の口元を緩める。


 それにしても、止みそうにない斜め振りだ。雨宿り先を探そうか。

 いっそこの本を盾にして帰ろうか。

 そうだ、濡れたところで誰が心配するものか。

 寄り道をしなければなんの問題もないのだ。

 私は買ったばかりの本で頭を隠す。

 色彩が褪せた歩道の真ん中を駆け出した。

 まるで私が小さな島になって泳いでいるみたいだ。

 私は笑ってる――。

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