俺の心は氷点下!
「あー、ヒマだなぁ……」
シロは遊んでくれないし、夕飛も買い出し、赤はいつも通り学校で……金と涙はカラオケに行ってる。
いつも遊んでくれるメンツが揃いも揃ってウチにいない。
いるのは……
「スヤァ……」
除湿を効かせて涼しくなった部屋で、気持ちよさそうに寝ている鈴乱のみ。
「……こいつでいいか」
寝ているところを襲いかかるのは、ちぃっと、悪い気がするが、背に腹は変えられねぇ。
「遊べ〜!」
俺は寝ている鈴乱に突進する。
「う〜ん……」
「……起きないニャ〜。じゃあ、もういちど……」
後退して、距離を取って、態勢を立て直す。
あとは、狙いをつけて……隙を見て……
飛びかかる!
「トゥッ」
華麗にジャンプし、見事に着地!……と思ったら、あいつが寝返りを打った。
「うーん……」
『チッ……外した……って冷たっ!』
鈴乱が抱えていたタオルケットから何か白い大きめの物がこぼれ落ちる。
俺の前足がうっかり、それに触れてしまったようだ。
『にゃ……にゃんだ……これ……』
見たことのない不審な物に、匂いを嗅いでみる。
『臭いなし……』
白くてコロコロしている。まるで、白いサイコロステーキみたいだ。
前足でトントンつついてみる。
『冷たっ!』
あまりの冷たさに、声も出ない。
「……敵!」
俺は、その何だか分からない白いものを敵だと認定する。
「俺に冷たいもの、みんな敵!」
そんな俺をよそに、まるで猫のように寝こけているこいつ。
「ごはんくれるからギリ敵じゃにゃい……だが……」
こいつが持っているもの、この白いのは敵!
味方が塩みたいなもん、出してくる。
にゃにこれ。
にゃんなのこれ。
この敵の正体は!?
正体が分からなにゃいんじゃ、安心して飛びかかれないじゃにゃいか。
安心して遊べにゃいじゃにゃいか。
むぅ。
「ん……」
主人が身じろぎして、ゆっくり目が開く。
「あー、猫ちゃーん」
ぼんやりした目に、俺を映して、主人が甘えた声を出す。
「どうしたの?」
俺の様子に気づいたらしい。
ふん。まぁ、優秀だと認めてやってもいい。
「手、痛いの? 何か触……わーっ!」
手元からこぼれ落ちた白いヤツが、起き上がった主人の足に当たる。
「わ、忘れてた……。何かに使えると思って……ドライアイスもらってきたんだった……」
主人が絶望した顔をする。
「なんで、袋破れてんの?」
『あ……』
さっき、飛びかかった時……
にゃにかが爪に引っかかったような……
「って、そんなことより! ……わっ、嘘でしょ!? ドライアイス触った!?」
主人が大騒ぎしながら、俺を抱え上げ、病院行きのカゴへ放り込む。
すぐさま懐から電話を取り出して、どこぞへ電話をかけている。
「はい、はい。すぐに!」
どうやら、あの敵、主人にとっても、強敵だったようだにゃ。
……でも、ご主人。
あなたも、傷を負ったではないですか。
あなたも、それに触れたではないですか。
なのに、どうして僕を優先するんですか。
あなたには僕以外もいるし、あなたこそ、先に病院行かなきゃじゃにゃいですか。
「あは。もう、W病院になりそうだね。動物病院と人間の病院と。……ホントにごめんね。俺がもっとしっかりしていれば」
……違うにゃ。
先にイタズラしたのは、僕の方で。
たぶん、僕のせいであなたが怪我をして。
……なのに、にゃんで、僕が先……
「いやぁ、よかった。すぐに予約取れたよ。動物病院って、仕事早いんだね。人間の病院は2〜3ヶ月待ちなんて、ざらなんだよ!」
人間の病院のせいか。
だから、俺は、嫌な病院に放り込まれるわけか。
ふん。人間の病院、予約早めろ。この主人の予約だけ、早めろ。俺より先に、主人を病院に連れてけ。
できるだけ長く引き止めろ。
そして、適度な薬を与えて、出来れば俺を動物病院に連れて行くことを忘れさせろ。
俺は、病院なんか、行きたくなーい。
「よかったね! きっとすぐ治るよ!」
『嫌だにゃー!!!!』
カゴを引っ掻く音だけが、無情に響き渡ったのであーる。
めでたしめでたし。
『何にもめでたくにゃーい!』