10.公園の池と千夏の異変
麻美のスマホに残された写真を頼りに、千夏は件の公園へと足を運んだ。麻美が座っていたであろうベンチに腰を下ろし、池を眺める。どんよりとした曇り空の下、水面は鉛色に光っていた。千夏は、麻美がここで何をしていたのか、どんな思いを抱いていたのか、想像しようと試みた。
その時、「チャプン」と、池の中から何かが跳ねるような音が聞こえた。麻美が以前聞いた音と全く同じだ。千夏は顔を上げ、警戒しながら音のした方を覗き込む。水面には何も浮かんでいない。ただ、薄暗い水面に、ぼんやりと**千夏自身の顔**が映っているだけだった。
一瞬、その映り込んだ顔が、いつもの自分より**急速に老けたように見えた**気がした。目の下の隈は深く、顔全体に細かな皺が刻まれ、口元には不自然な笑みが浮かんでいるようにも見える。千夏は、目をゴシゴシと擦り、もう一度水面を見たが、そこにはいつもの自分の顔が映っていた。疲労のせいだろうか。最近、事件のことで頭がいっぱいで、ろくに眠れていない。
しかし、その日を境に、千夏の日常にも異変が起こり始めた。
まず、自宅の部屋が、これまでよりも**急速に散らかり始める**ようになった。仕事から帰ると、片付ける気力も湧かず、脱ぎ捨てた服や、食べ終わった食器がどんどん溜まっていく。そして、部屋には、どこからともなく**生ゴミのような異臭**が漂い始める。
次に、夜中に目を覚ますと、どこからか**老婆の咳き込む声**が聞こえるようになった。「ゴホッ、ゴホッ」と掠れた声が、壁の向こうから聞こえる。しかし、隣の部屋は空室だ。千夏は恐怖を感じながらも、無理やり眠りにつこうとした。
そして、最も千夏を精神的に追い詰めたのは、SNSでの変化だった。これまで見ていたはずのニュースや友人たちの投稿に、時折、あの**不気味な老婆のアイコン**が紛れ込むようになったのだ。そのアイコンの老婆は、まるで千夏を見つめ、嘲笑っているかのように見える。老婆のアイコンをタップすると、そこには「誰もあんたを愛さない」「孤独死がお似合い」「次はあんたの番だよ」といった、千夏の心を抉るようなメッセージが表示される。ブロックしようとしても、なぜかボタンが反応しない。
千夏は、この「連鎖」が、自分にも迫っているのではないかという、底知れない恐怖を感じ始めた。事件の真相に近づけば近づくほど、自分自身がその呪いに囚われていくような感覚に陥る。