転生令嬢はむしろ望むところである
異世界転生してるな、と気付いたのは結婚し嫁入りした家の寝室、初夜を迎えるべく夫となった相手が来るのを待っていた時だった。
思い出すタイミングがとてもおかしい。
せめてもうちょっと前か、もしくは初夜を終わらせた翌朝とかにしてほしかった。
え、だって、これから初夜だよね?
セッ……ゲフンゴフン、ともあれヤるんだよね?
え? 前世の記憶蘇ったばっかのとこで?
情報整理したいなとか思ってるところで?
いやまぁ、まだ夫となった人が来てないから考える時間くらいはあると思ってるけど。
なんて思っていたらフラグが立ってしまったのか、ドアが開いた。
そうして入ってきたのは勿論先程結婚式をした新郎、つまりは私の夫となった相手である。
あ。
わ、私この人知ってる~~~~!
異世界転生は勿論そうだけど、まさか前世で読んでた漫画のキャラじゃんこの人~~~~!
あれ? え? 待って?
私、その人の妻?
お?
あれでも漫画だとこの人奥さん亡くしてたよな……
えっ、私死ぬんか!?
ちょっと待ってほしい。
異世界転生してる事実に気付いた矢先に自分がこれから死ぬかもしれないとか、情報の出し方がおかしい。一度にドバっと出しすぎでは!?
なんて思っていたら、夫はどこか張り詰めた表情のまま私へと向き直った。
「その、なるべく君を愛さないようにするから……」
そして放たれた第一声。
「そこはよくある話として、君を愛する事はない、とかではないでしょうか?」
そして私はこの手の作品にありがちなテンプレのセリフとなんか違うな? と思いながらも反射的に突っ込んでしまっていた。
――夫が何を言われたのかわかってないみたいなポカンとした表情をして立ち尽くしている今のうちに、ざっくり情報を纏めようと思う。
まず私が転生したこの世界。タイトルは忘れたけど、確か恋愛ものだった。
ヒロインが様々な困難を乗り越えて、最終的に愛する人と結ばれるという王道展開だ。
そしてヒロインは私、ではない。
夫も漫画で出てきたキャラの一人だが、この夫、ヒロインを手に入れようとして色々やらかす……言ってしまえば悪役とか当て馬とかそっち系に該当する。
妻を失い、ヒロインと出会いそうしてヒロインに惚れ、なんとしてでも手に入れようと画策するもののヒーローとヒロインの絆を深めるだけに終わり最後は人生破滅コースへまっしぐらな悪役兼当て馬である。
失恋した挙句人生破滅って部分だけ見るとなんかかわいそぉ……って思うけど、しかしヒロインを手に入れるためにやる事が中々過激で擁護のしようがないのでむしろざまぁとか言われちゃうタイプのキャラである。
ヤンデレ属性持ちでもあったな。というかむしろそんなんだからヒロイン手に入れようとしてやらかすあれこれが一般から見てドン引き系なのもあったわけなんですが。
ちなみに漫画の中でこの男――名をゼクセンと言う――の過去も多少描かれているが、確かに初夜だか知らんが妻と向き合って愛さないようにするとかどうのこうのと言ってたっけな……と思い出す。
そっかー、漫画の中の世界完全一致とは言わんが、まぁ原作とほぼ同じ道筋をたどってると言っても過言じゃないのか今。
しかし漫画の中の妻はその言葉に、愛を乞うのだ。
つまり私は初手から原作崩壊させてしまった。セリフが違う。
今から原作ルートに戻る事も可能だとは思うけど、しかしそれは愚の骨頂。
「他に愛人がいるのなら今日はそちらへ行かれては?」
「いいや! いないっ! いないからっ!!」
そろそろフリーズ状態から抜け出すであろうタイミングを見計らい私がそう言えば、ゼクセンは首がもげそうな勢いでぶんぶんと横に振った。
よしこれで原作展開からはそれたな。
「そうですか? それで、初夜、するんですか? 別に後日日を改めてもいいんですよ?」
正直こっちも前世の記憶思い出してあっこれ異世界転生じゃん、ってなってるからそんな状態で性行為はなぁ……ぶっちゃけそんな気分じゃないんだわ。
あっれー? なんか思ってる反応と違うなぁ? みたいな顔をしてこてんと小首を傾げるゼクセンは、数秒沈黙した後、
「そう、だね。そうした方がいいかもしれない。お互いのためにも……」
と戸惑いを隠せない声で言った。
そうか、じゃあ今日は何もしないでおしまいだな。寝よ。
「あれっ?」
ここは夫婦の寝室であって個人の寝室ではない。
何もしないと言った以上てっきり私が自分に与えられた部屋のベッドへ戻るのだろうと思ったゼクセンは、しかし私が戻らずベッドに潜り込んで三秒後にスヤァ……と眠り健やかな寝息を立てた事で。
えっ、お部屋戻らないんですか? みたいな素っ頓狂な声を上げた。
すまんな、前世の記憶を思い出した今、私に原作漫画のキャラと同じような、あんたの死んだ奥さんムーブは無理だ。
というわけで翌朝である。
朝食の間にもう少し原作について思い出してみよう。
この悪役兼当て馬男ゼクセンは、元々愛が重たいタイプである。好きになったら一直線、片時も離れたくないとほぼずっと相手と一緒にいようとするタイプだ。愛というよりは最早執着で、本人も愛が重たい事を自覚しているタイプである。
自覚したのは、幼い頃に飼い育てていた鳥を死なせてしまった事からだ。
虐待したわけではないが、お世話しすぎて構いすぎて小鳥に多大なストレスを与え死なせてしまったのである。
貴族の家に生まれておいて、この男自分が好きな相手には手ずから色々とやりたいタイプであった。
世話を使用人に任せて時々可愛がるくらいで済めば鳥もそこまでじゃなかっただろうに、おはようからおやすみまでずっとゼクセンが面倒を見ていた結果鳥はストレスを患ったのである。
そこに至るまで構いっぱなしというのも逆に凄いな。
その後も彼は猫を一匹、犬を二匹程構いすぎからのストレスで死なせている。
猫とか構われすぎて嫌になったらシャーッて威嚇とかして適当な物陰に逃げ込んだりするとかしてそうなのにな……犬とかむしろ構われたらその分飼い主に相手してもらって喜びそうなのに、それすら凌駕してストレス源になるまでとか、どんだけだよ……
ちなみにこのエピソードは彼が幼い頃の話だ。
幼い頃からそんな感じで愛がずっしりしていた。
それもあって、年頃になったゼクセンは見た目はそれなりにイケメンではあるものの、いざ結婚相手を探そうかとなって両親があれこれ見繕って見合いをさせても、最終的にお断りされ続けるのである。
愛の重さが執着心となり、そうして束縛とかそっち方面にいった結果お嬢様方から恐怖をもたれ、そうしてお断りされる……という流れだったらしい。少なくとも漫画でちらっとあったエピソードではそうだった。
あからさまなNGワードは出てなかったと思うけど、でもそこはかとなく監禁されそうな雰囲気とかあったら普通のお嬢さんならそりゃ怖がる。
夫婦での社交はともかく、それ以外の時は行動制限されそうな感じを匂わせてたり、実家に帰るなど以ての外、みたいな感じだとか、人知れず亡き者にされるのでは……? みたいに考えるお嬢さんが出てきてもおかしくはない。
実際貴族の妻を迎え入れておきながら、実は平民の愛人がいて妻をこっそり始末した上で愛人を妻としてすり替わらせる……みたいなのがあったらしいからね。身内が見たらバレるだろ、っていうのはそうなんだけど、そのために極力接触を減らすとかで事件が明るみに出るまでを先延ばしにはできてしまうのが恐ろしいところよ。
そんな事件があったせいで、お嬢さんたちはそれらを思い浮かべたのだろう。ゼクセンにそんなつもりがこれっぽっちもなくたって、一度植え付けられた恐怖は簡単になくならない。
ゼクセンの身の回りを調べたところで愛人なんていないとなっても、後から作る予定なのでは……? と疑心暗鬼になる人はいるわけで。
実際潔白なんだけど、調べるとなんか知らんが怪しい部分がボロボロしているのがこの男である。
あと、私との結婚前にゼクセンの両親が事故で亡くなったのもなんか疑惑に拍車をかけてる。
事故は本当にただの事故なんだけど、ゼクセンが両親が邪魔になって始末したのでは……? みたいな噂もあったからね。疑惑はあっても明確にやりました、っていう証拠がないから――あるはずないんだけど――周囲はそれとなくゼクセンの家と当たり障りのない関係に留めている。
普通、他家との交流もなくなりかけてたらそもそも社会的にやってける? ってなるけど、ゼクセンの家は国における穀蔵地帯で、その関係で当たり障りのない薄めの関係であってもどうにかなってしまっているのである。
弱小貴族であるなら結婚相手もいないし将来的には爵位をお返ししてひっそり引退生活かなぁ、とかそういう道もあるかもしれないが、ゼクセンの家でそれやっちゃうと逆に問題があるので何が何でも結婚相手を見つけて跡取りを、となっているのだ。
漫画だとゼクセンが退場した頃には王家が後釜見つけてたんだっけか……?
そこら辺はあまり記憶にないな。
さて、そんな粘着質に絡まる両面テープ以上にべったりした男なので、婚約者は中々決まらず、死ぬ前に両親がどうにか見つけてきた婚約者が私だ。
私――モイラ・ベルネットは子爵家の令嬢としてすくすく育っていたけれど、領地経営がド下手くそな父と社交下手な母という、貴族として圧倒的にどうしようもない両親に育てられ、将来はいっそ平民に嫁いだ方が良いのでは……? と思われるくらいの状態だった。
ド下手くそといっても、一応頼りになる人を雇ってるので領民の生活が逼迫されたりはしてなかったけど、財政的に潤うまではいってない。割とカツカツ。なので、ちょっと何かトラブったら領地は一気に火の車状態に陥るのだ。父も母も悪い人ではないんだけど、貴族としてやってくにはちょっとなー……って感じなので、他の貴族たちからも敵視されるまではいかず、こちらも当たり障りのない付き合いだった。
つまりは、娘をどこぞの家に嫁入りさせようにもいいお話がなかったのである。
そこに、領地でマジでトラブった結果借金抱える羽目になり、そこでゼクセンの両親が死ぬ前に婚約の話を持ち掛けてきたのだ。
身もふたもない言い方をすると、金で花嫁を買ったと言える。
モイラはまぁ、そんな環境で育ったため、周囲も下手に深い付き合いになって面倒に巻き込まれたら……と考えたのか、友人がいないわけじゃなかったけど、でも何かあった時に何をおいても助けてくれるような親友まではいなかった。両親の愛情を受けて育ちはしていたけれど、それだけじゃ足りなかったのだ。
そこに、弱小貴族など目ではなさそうな大きな家からの婚約の話。援助付き。
普通に考えたら裏しかないわけだが、領地がカツカツすぎてこのままでは領民の命も自分たちの生活も危ういとなった両親は、この話に乗るしかなかったのであった。
なお前世の記憶を思い出す前の私は、この話に割と乗り気だった。
若干お花畑だったのは否定できない。
モイラにとってゼクセンは相手としては破格の存在である。ゼクセンから見てモイラの家なんて弱小すぎて視界に入ってるかどうかも危ういくらいなのだ。
つまりモイラからすれば、そんな雲の上にも近い手の届かないイケメンの嫁に、と言われたわけで。
人生経験も浅い小娘が浮かれないはずがなかったのである。
なので、漫画の中のモイラは初夜、ゼクセンに愛さないようにする、と言われてそれを否定した。
望まれて嫁いだはずなのにそれじゃあ話が違うと思ったのかもしれない。
結果としてゼクセンはモイラを愛していいと本人から許可を得て、溺愛した。
溺愛というか、執着の集大成というか……
愛情に若干飢えている部分があったモイラは、最初の頃はそれを受け入れていたようだけど、何事も度が過ぎれば受け入れられなくなってくるわけで。
徐々にゼクセンを疎むようになってしまったけれど、ゼクセンの執着はそこですんなり止まるはずもなく。
ゼクセンに当たり散らしたりしても事態が改善する事もないまま、モイラは精神を病んで自殺するのだ。
ナイフで首掻っ切るとか屋敷の上の階から地面へアイキャンフライとかではない。
服毒自殺である。
は~~~~、やってらんね。
まぁ昨日の段階で愛するとかどうこうとかは先延ばしにしたも同然なので、今はまだゼクセンも距離を保った感じではいる。
ただ、下手なGOサインだすとドッグランに解き放たれた大型犬みたいな勢いで爆速スタート決めるのがこの男だ。漫画で見る限りはそうなので間違いない。
けれど、決してマテができない相手ではないのだ。
多分。恐らく。
妻を亡くしたゼクセンがその後ヒロインと出会って、そんでもってヒロインにそんなつもりはなかったのかもしれないけれど、愛を与えるような事をしでかしたものだからゼクセンは今度こそはと失くした愛を求めるようにやらかすのだが。
つまり私が死ななきゃゼクセンもヒロインに執着する事はない。私いるのにそれやったら浮気だかんね。
ヒーローとヒロインがくっつくための当て馬は他にもいたから、別にゼクセン一人いなくなったって特に問題ないでしょう。
というか、当て馬がいないと上手くいかない恋なんて、そもそも恋ですらない可能性もある。
何事もなくくっついて、盛り上がりも何もなかったとしても続く時は続くようにできているのだ。確かにスパイスがあった方が盛り上がりはする。けれど、盛り上がったらそのままずっと続いていくか、となるとそういうわけでもない。逆に盛り上がった後、熱が冷めてそこで関係が終わることだってあり得るのだ。
特に山も谷もなくたってお互いがその関係を続けていこうと思うのならば、悪役も当て馬も何もなくたってどうにかなるものなのである。
なので私は思い出した原作展開をぶち壊す事にした。
原作のように服毒自殺をするつもりもないし、ましてや実家と領地が大変なところを援助という形で助けてくれたのだ。愛が重たいとかいう理由で殺そうとも思わない。むしろそれやったらとんだ恩知らず。
朝食を終えた後、モイラは一度部屋に戻って少しばかり時間をおいてから部屋を出た。
そうして向かったのは、ゼクセンの私室――ではなく執務室である。
領地のすべてをゼクセンが担っているわけではない。だが、最終決定権を持つのは彼なのでそれなりに仕事は存在している。
仕事中に行くのはな……と思いながらも、しかしモイラは一先ずそういった一般常識を捨てる事にした。
「失礼します」
許可を得る前にドアを開け足を踏み入れれば、ゼクセンは報告書へ向けていた視線を上げてきょとんとした顔を見せた。
「お仕事の片手間で結構ですので、話を聞いてもらえますか?」
「え? あ、うん」
そう切り出した事で、そこまで重要な話題ではないのだろう、と思ったのかゼクセンはモイラに出て行けと言うでもなく戸惑いながらも頷いた。それでいいのか、と突っ込みたい気持ちはあれど、まぁ追い出されるのはモイラも困るので都合の悪い部分はスルーである。
――愛人の有無を確認して特にいない事がわかった時点で自分の部屋に戻るでもなく夫婦の寝室となっていたところでそのまま眠った妻が、執務室に乗り込んできた。
ゼクセンも確かに言葉を選ぶべきだっただろうか……と昨夜は思ったのだが、しかし他に言いようがなかったのだ。
自分が面倒な気質持ちだとゼクセンは自覚している。
好きになった相手には尽くしたいし、そもそも一時でも離れたくない。
それもあって、過去婚約の話が持ち上がった時点で、そしてそれがほぼ決定になるだろうと親に言われた時点でゼクセンは彼なりに婚約者になるはずの女性を丁重に扱った。
けれどそれが逆に令嬢にとっては負担だったらしい。
束縛が激しい、なんて言われた事もある。
少しくらい自分の時間が欲しいと言われて、しぶしぶ会うのを控えればその間に婚約を解消されて別の男の元へ行った相手もいた。
解消されたのはまだマシな方で、駆け落ちしていなくなった相手もいた。
そういった話が広まって、ゼクセンの評判が令嬢たちにとってあまりよろしくない事も彼は自覚している。
生前の両親も頭を抱えていたのを憶えている。
お前は愛情深いから、と父は呆れたように言っていたし、貴方の愛情は方向性がちょっと他とずれてるだけなのです、と困ったように言う母に、なんだか居た堪れなさを感じた事だってあった。
自覚してもなおせなかった。
最初から気位の高い、尽くされて当然だと思うような女性にゼクセンが恋をすればよかったのかもしれないが、ゼクセンは別にそういった女性が好みというわけでもない。
自ら尽くすのと相手から強制されるのとでは大きく異なる。
自分の性質は自覚しているので、であれば後はもうどうにか跡取りを儲けるため結婚した相手とはなるべく距離をとって仕事としての付き合いくらいに留めておくべきだ。
そうすれば、そこまで酷い事にはならないだろう。
ただ、ゼクセンの心がとても寂しさを覚えるだけで。
昨夜の件に対する文句か、どういうつもりでの発言なのかを聞かれるのだろうと思っていたゼクセンは、しかし片手間での相手でいいと言われてそれも寂しさを覚えた。
どうせならしっかりと向き合いたいと思ったから。
だが、そうすれば間違いなくゼクセンの箍が外れる事になりかねない。
幼い頃に育てていた鳥も、猫も犬も、ついでに庭の片隅で育てた花も。
いずれも手をかけすぎて逆に弱らせてしまったという事は自覚しているけれど、それでもどうしてもやめられなかった。
何を言われるのだろうかと内心憂鬱だったゼクセンは、だからこそ最初何を言われたのかすぐに理解できなかった。
「私考えたんですけど、とりあえず録音用魔道具は外出時だけにしてほしいんですよ」
「うん、うん……え?」
「屋敷の中にいる時もずっとつけられてたら、ほら、トイレとかそういうのは流石に。トイレ以外でもこう……私だって人間ですから、もしかしたら放屁とかやらかすかもしれないわけで」
「え……?」
令嬢――結婚しているので既に夫人だが――の口から普通出てこなさそうな言葉が飛び出てゼクセンはやっぱりきょとんとした表情のままだった。
録音用魔道具は外出時だけ……?
え? どういう事?
「まぁ外に出たとして友人のところで惚気るくらいはしますけど、直接聞かれるのはちょっとなー、とも思いますけどね?
まぁ後でひっそりこっそり聞くくらいでそれをこっちに話をして振ってこなきゃ別に」
「え?」
「あと、防犯用の撮影魔道具とかも、部屋の入口なら構いませんが、室内は流石に。着替えたりするので」
「え?」
「手枷とか足枷は正直動くのに邪魔なのでそれは勘弁して下さい」
「え?」
「ただ、居場所がわかるような魔道具をつけるのは問題ありません。あからさまなのだと場合によっては取られる事もあるので目立たないのと、あとは小さめだといいですね。万が一の時に役立ちますから」
「それは、まぁ、うん……?」
「流石にトイレは一人でお願いしたいですが、お風呂はまぁ……何回かに一回の割合なら一緒でも構いません」
「え?」
「冬はさておき夏は暑い時はくっついて寝るのは正直ちょっと……涼しければ問題ありません。室内温度を調整する魔道具があるなら解決ですね」
いやそりゃそうだけども……と思いつつもゼクセンは声に出せなかった。
「他は……まぁ、されて嫌な事は嫌って言いますが、その時だけ嫌なのかずっと嫌なのかはお伝えしますので。例えば寝てる時に起きるしかない勢いでちょっかいかけられるのはやめてほしいけど、もし魘されてたとかであれば起こされてもそれはまぁそうなるよな、って私も思うので」
他にもつらつらと述べられていく言葉に、ゼクセンは理解が追い付かない。
いやあの、え……?
「ドレスや装飾品に関しては私の趣味もありますが、そちらの好みもございましょう。そのあたりはお互いすり合わせていきましょうね」
「え、い、いいの……?」
「勿論。誰の妻だと思っているのです。貴方ですよ?
流行を取り入れたい気持ちはありますが、旦那様の好みも取り入れたい。あとはそこに私の好みも入れる事ができれば文句はありません」
そこまで言うとモイラは席を立った。
執務室に勝手にやって来たとはいえ、立ちっぱなしにさせるわけにも……と思ったゼクセンが使用人に密かに命じて椅子を持ってこさせていたからこそ、モイラは座ってそんな風に延々話を進めていたのだ。
「片手間で良い、と言いましたが気付けば手がすっかり止まってしまいましたね。これ以上は邪魔でしょうから私は失礼させていただきます」
「あ」
言われて気付く。
最初の方こそ一応書類に目を通そうとしていたけれど、彼女が突拍子もない事ばかり言うものだからそこから目が離せなくなってしまっていた事に。
いや、突拍子がない、とも言いきれない。
モイラが言い出した事のほとんどは、できる事ならやりたいなぁ、とゼクセンが思っていた事だからだ。
けれどそれが一般的な行為ではない事をゼクセンは理解するしかなかった。
そんなあれこれをモイラはやってもいいけどとばかりに口に出していたのだ。
「いいのかな本当に……」
立ち去ってしまったので、もうモイラの姿はそこにはない。
かつて、婚約者となった女性に自分の愛は重たい部分もあるから……と遠慮したものの、構いませんわと言われたからいくつかの提案をしたことがあった。
けれどやっぱり相手には重たすぎて、ごめんなさい無理ですと断られてしまって。
だからこそ、モイラが自分から言い出したとはいえ、実際にやったらダメなんじゃないかなぁ……と思う部分はあるのだ。
でも、もし。
もし、本当に言われた事を実行してもいいのなら。
ゼクセンが愛する者に対して実行したいと思っているあれこれを否定されないのなら。
愛さないままの方がきっと相手にとってはいいはずなのに、けれどそれでもゼクセンが思う愛を捧げても良いというのなら……
ゼクセンの心が満たされるのは、そう遠い未来の話ではないのかもしれない。
――馬鹿な知り合いの話をしよう。
自分が転生者だと気付いたのは、彼女と出会ってからだった。
家は裕福とは言い難く、故に手堅い仕事を探した。
そうしてたどり着いたのが、国の貯蔵庫とも言われているアドルファール侯爵家。
そこの使用人として私は働いている。名前は……別に名乗る必要もないな。使用人1とかでいいや。
同じように家を継ぐでもなければいい縁談の話もなさげな下位貴族が数名この家で使用人として働いているのだけれど、その中の一人と出会った事で私は前世の記憶を思い出し、そうして異世界転生したと気付いた。
彼女もまた転生者だった。
しかも彼女の言う事にはどうやらここはとある恋愛漫画の世界なのだそうだ。
私は読んだ事ないから知らない。
何が切っ掛けだったかは忘れたけど、お互いに転生者だと判明して向こうが一方的に私の事を親友か何かだと思うようになって。
休憩時間とか休みの日によく私と話をしていたけれど、私にとっては正直ちょっと理解できなかった。
なんでもこの家の前の旦那様と奥様が亡くなって後を継いだ現当主、ゼクセン様はヤンデレというものらしく、この後妻を迎えるもその妻とは上手くいかず、そうして奥様に先立たれその後出会う別の女性に恋をしてヤンデレの本領を発揮するのだとかどうとか。
一応前世でヤンデレって言葉は聞いたことあるけど、私あんま詳しくないのよな……
同僚転生者――仮に使用人2と呼ぼう――はヤンデレという属性を好んでいるらしく熱く語られたが、生憎そこまで興味がないので脳内をすーっと通り抜けるだけに終わった。
ただ、ゼクセン様の愛は重くともすれば傍から見て異常だとも思えるようなものらしい、とは噂でも聞いている。婚約者だったかつての女性に重めの執着を見せた事でお相手の女性からドン引かれ逃げられたとかどうとか。
そうこうしているうちに嫁いできたのが、モイラ様である。
彼女の家は私の家の身分とそこまで変わらなかった。
身分が上の相手と結婚して自分も偉くなったからと使用人に居丈高に振舞うでもなく、理不尽な事を言い出したり突然ヒステリックになったりもしない、話の通じる奥様だ。
むしろ器が大きすぎるとさえ思っている。
だって奥様、結婚して割とすぐに旦那様の重ための愛というか執着をほぼ受け入れたのだ。
奥様曰く、多少はセーブさせてるところもあるけど、別にこれくらいなら、という許容範囲内でなら好きにしてくれていいと思っているとの事。
いやあの、確かに居場所がすぐわかる魔道具とか、誘拐された時とかつけてたら助かる可能性もあるけど、それを日常使いするのはどうかと思うんですよ……
聞けば友人たちの所へ遊びに行く時は録音用魔道具も身につけていっているとの事。
後からこういうお話をしたのよ、なんて旦那様に聞かせる用とか言われて、旦那様に隠し事を一切しないようにしているのは旦那様的には良い事かもしれないけれど、奥様としてはそれはいいのだろうか……と思わず首を傾げてしまった。
だって友人ですよ? その相手との会話全部筒抜けにさせるとか、どうなの? と思う。
奥様の口から友達とこういう話をした、とかそういうんじゃない。録音した内容そのままだ。
聞かれてやましい内容じゃなくても私だったら正直躊躇う。
家の中でもほとんど旦那様と一緒にいるし、むしろ旦那様が奥様の世話を嬉々として行っているので、私たちは奥様と関わる事がほとんどない。時々お茶を持って行くこともあるけど、大体奥様がいるところには旦那様もいる。
旦那様を探すより奥様を探した方が旦那様と遭遇するの確実なんですよ……
一度旦那様が愛してるよハニーみたいな事言ってるところに出くわしちゃって、奥様が、
「あ、そういう言われ方あんまり好きじゃないのよね。ハニーじゃなくてモイモイとかそっち系統ならまだ許容範囲よ」
とか言い出して、私としてはそれでいいの……? と後に一人になってから思わず突っ込んだくらい。
モイモイってそんな……ペットみたいな……響きは可愛いかもしれないけど……
旦那様も旦那様で、後日イケボで「モーイモイ♪」みたいな感じで言ってて思わず崩れ落ちそうになったわ私の腹筋が。
これだけ馬鹿っぷるしてたらそりゃ奥様が死んだ後旦那様の心が病むのは致し方なし……と思っていたけれど、どうやら使用人2が知る展開とは異なっているらしい。
まぁいくらここが使用人2の知る漫画の内容と似た世界だとしても、同じ世界って事はないでしょうよ。もしかしたら原作展開に沿った上での二次創作の世界線かもしれないわけだし。
ここが旦那様を幸せにしたくて奥様とラブラブなルートの同人誌世界であったとしても、私としてはへぇそうなんだぁ、で許容できる。
大体異世界転生してる時点で大抵の事は許容しないとメンタル崩壊しかねないからね。
異世界があるなら並行世界があったって何もおかしかないわ。むしろない方が逆にどうかしているとすら思えるわけで。
前世と比べると生活は不便かもしれないけど、まぁ、郷に入っては郷に従えとも言うからさ……
住めば都だと思えば、まぁ……
って感じで私は大抵の事を受け入れてたけど、使用人2は違ったらしい。
自分の知る展開ではない事で、このままじゃヒロインと旦那様が出会わないかもしれないと思ったらしい。
使用人2曰くヤンデレに追い詰められ恐怖で震えるヒロインちゃんぷまいです、との事。
……何言ってるかちょっとわかりませんね。
なのでこのままだと旦那様がヒロインちゃんとやらと出会ったところで、奥様がいる以上ヒロインちゃんには見向きもしないだろう、と思ったらしく。
やらかしました。なんと彼女、奥様の紅茶に毒を入れて奥様を亡き者にしようとしたのです。
バカなの?
仮にも雇用主である旦那様の奥様だぞ。それも旦那様が溺愛してる。
二人の仲が冷め切ってて旦那様の指示で奥様を殺そうとかそういうやつならともかく、そうじゃないのにやらかすとか馬鹿なの?
そもそも前世でも今世でも殺人は当然犯罪である。
しかも前世と違ってこの世界、身分ってのがハッキリ明確に存在している。
差別も区別もがっつり存在しているところで、そんな事をするとどうなるか。
毒入り紅茶を奥様が飲むことはなかった。
むしろいつもと同じお茶のはずなのに違和感を検知したらしき旦那様の手によって未然に防がれた。
そして始まる犯人捜し。
お茶を入れて旦那様と奥様のところへ持って行くまでの間に関わった相手が当然容疑者で、私も困った事にその中に含まれてしまっていた。私は茶菓子を用意したので。
私は当然身の潔白を証明するために、使用人2を売った。
最近のわけわからん言動についても訴えておいた。
私は転生者であってもこの世界に関しての原作とか知らないし。ヤンデレとかもよくわからないし。
私が詳しいのはサッカーとか野球とかフットボールとか、まぁスポーツ系であって中世ラブロマンス系作品はふわっとしか知らないんだ。本屋の新刊コーナーに置かれてるやつの表紙を見るくらいしか知らないんだ。
あとは精々ネットの広告とか……?
それ知ってるって言っていいのか微妙なんだけど。にわかより知らないレベル。
何が恐ろしいって、旦那様、密かに屋敷の中にもいくつか録音魔道具を仕込んでいたらしい。
盗聴かと言いたいが、ここは旦那様の家なので家主が自宅に仕掛けたところで罪とは言えない。これが他人の家だったら犯罪立証できちゃうんだけども。
しかも仕掛けたところは屋敷の中でもあまり人がこないような……仮に外から泥棒とか来た時に入り込むのに選ばれそうな場所とかだったから、防犯のためと言われてしまえば使用人たちからも納得できる感じだった。
使用人2はどうやら原作展開のように奥様が死ねば旦那様が孤独に逆戻りし、そうしてその後出会うヒロインちゃんに救いを見出して原作のようになってくれると思ったらしき事を、紅茶に入れるための毒を入手した時に呟いていたらしい。
そこは心の中だけに留めておけよと思うのだけど、まぁ独り言がつい出ちゃう事はあるからなぁ……内容に同意はできないけど。
結果、その録音魔道具に残されていた音声によって使用人2は言い逃れする事もできず死んだ。
厳密には旦那様によって処分された。
その時に下手人を隠し立てするでもなく、彼女がやったと思いますよとか、彼女ちょっと頭おかしい事言ってましたからとか伝えたのが使用人2にバレたっぽくて最後にめっちゃ恨み節かまされたけど。
いやでも、原作展開に事を進めようとした結果人様の飲食物に毒仕込むとかやった時点で犯罪者なのよ。奥様が無事だから未遂とはいえ、成功してたら殺人犯なのよ。
そんなの庇う必要性、ある?
奥様が過去、使用人2の故郷を焼き払ったとか一族郎党ただの暇潰しで皆殺しにしたとかいうエピソードがあるなら毒殺目論んでも情状酌量の余地ありそうだけど、転生とかこの世界じゃメジャーなものじゃないから、単なる頭のおかしい人扱いなのよ。
彼女はこっちも転生者だとかバラしてきたけど、なんかおかしい人だと思って話を合わせてどうにか受け流そうとしただけです、私はそう言い切った。
実際私、他の使用人仲間とかに転生したとか言ってないからね。
使用人2が私も転生者である事に気付いたとはいえ、私の口からは使用人2以外の誰かにそういった話をしたことはない。
奥様がしばらくの間こっちに意識を向けている事があるような気がしたけれど、結局のところしばらくすればそんな探るような視線もすっかりと落ち着いたので。
私は使用人2と共犯だとか言われる事もなく、この先もお屋敷で働けるのだった。
前世と比べて治安悪いから、安全な場所でのお仕事って貴重なのよ……
辞めてもすぐ次、ってならないし、雇用保険とかないので、仕事辞めたらしばらくのんびりしてそれから次の職探すんだ~なんて前世のノリで言えない。
貯金だってそうあるわけでもないし、前世のノリで実家でゴロゴロしようにもそもそも今世の実家はそこまで裕福じゃないから、そんな事をすれば結婚する気も働く気もない穀潰し認定されて、下手すりゃどこぞの後妻とか愛人にされて出荷されかねない。
ここを辞めさせられるような事になるにしても、使用人2との共犯扱いで追い出されるような事になってたらどっちみち野垂れ死にコースだ。
そしたらやっぱり売るでしょ、前世住んでる世界が恐らく一緒ってだけの知り合いなんて。
私は彼女に付き合って一緒に死んでやる義務も義理だってないんだから。
――ヤンデレがヤンデレとして輝くのはいつか。
不幸な状況に陥っている時だと思う。
その不幸が、周囲から見てそう思えるものか、本人だけがそう感じる場合であるかまではさておき。
そもそも幸せな状況下でヤンデレがヤン部分を出す事ある?
心の中に不安抱えて、それでもそれを抑えようとした結果抑えきれずあふれ出して本人でさえ自分の心の制御が難しくなったところでヤンデレって病みと闇の部分を見せてくるのだと、私は思っている。
私モイラは、前世でいくつかの恋愛ゲームにだって手を出した。
その中にヤンデレが攻略対象のゲームだってあったのだけれど。
正直、そのキャラの攻略ルートに入ると、ヒロインがそいつを落とすためにせっせと通い詰めるから、ヤンデレはあまりヤンデレしないのである。
そのゲームのシナリオがそういうものだった、というオチもあり得るけれど、ヒロインが自分に好意を寄せてくる事にちょっと戸惑って不安になったりしながらも、それでもヒロインが自分と一緒にいてくれるという事態を徐々に受け入れていって、そうして最終的にくっついたそのシナリオは、なんていうか可もなく不可もなく、といった感想でしかなかった。
むしろバッドエンドルートに入ったり、他のキャラ攻略してる時にヒロインに想いを寄せているのにそんな彼女は他の男に目を向けて……なんてところから勝手に嫉妬拗らせていかにあの二人を引き裂いてヒロインを手中におさめようかと足掻いている時のヤンデレは滅茶苦茶輝いていた。まさしく本領発揮といっていいくらいだった。
でもそこでヤンデレのルートには入らなかった。同時進行で攻略できるタイプのゲームじゃなかったから。
そのルートでのイキイキしたヤンデレを見て次はこのキャラのエンディング目指そうってなったのに、いざそのルートに入るととても物足りなかったという悲しい思い出。
原作展開そのままいくと、私はいずれゼクセンの愛情表現の重たさにうんざりして服毒自殺するはずだったのだが、しかしそれを回避した……と思ってたんです。
ところが私以外にも転生者が身近にいたらしく、私が飲むつもりだった紅茶に毒が混じってたみたいで。
原作と同じ死に方を危うくするところだったのだ。
修正力かと思いきや原作順守な転生者の仕業だったようなので、そこは正直ちょっと安心した。
世界が原作修正力とか発揮したら流石に私も勝ち目がない。世界にどうやって勝てと。
なんていうか片時も離れたくないし常に私が何をしているかを把握していたい束縛とか支配したいタイプの旦那様に、私は事前にある程度歩み寄りを見せた。
嫌な事は嫌っていうけどここからここまでなら許容範囲として受け入れますよ、というアレだ。
寝る時だって寝返りも打てないくらいがっしり絡みつかれたまま寝たら翌朝身体バッキバキになりそうだけど、別に一緒のベッドで寝るのは全然かまわないし、GPS代わりの魔道具装備するのだって何も困らない。
自分の私室の盗聴盗撮に関しては勘弁してほしいけど、そもそも私は旦那様が執務室にいる時は基本的に同じ部屋で大人しく本を読むか、夫人としての家の切り盛り関係を隣の部屋で指示出しとかしたりしてさっさと戻って来るものだから、私の部屋にそこまでいないのもあって、防犯面で私がいない時だけ盗聴盗撮状態である。
旦那様がこれまた手ずから私の面倒をみたい、という奇特な事をしたがったりするので、使用人が私の世話をするよりも旦那様が手をかける事の方が多いしな……
そもそも旦那様今まで婚約者候補の女性に散々逃げられてきたくせに、なんでドレスの着付けができるのかが謎。
あと手料理まで振舞われた時は、この人は一体どこに何を目指しているのかと思ったわ。
これがいかにもな、ザ・男飯! みたいな感じならまだしも、一流のシェフが作りましたみたいな料理が皿の上にのってたからね……
自分が作った物で私の身体が作られてく事に幸せを見出してるっぽい。
先んじて異物混入だけはしないでねって釘は刺した。
一部の界隈だとヤンデレ軽率に食べ物に血とか混ぜてくるからさ……
正直な話、前世を思い出す前の私だったなら多分途中で愛の重さにうんざりしてたんだろうなとは思うけど。
しかし私は怠惰を極めし女。やればできる子だったけど、正直やる気がまったくない。
面倒な構造のドレスだって頑張れば一人で着れるけど、面倒だから使用人の手を借りる事だって躊躇わないし、旦那様が着替えさせてくれるといっても断らない。
旦那様が「はいあーん」とハートマークが語尾につきそうなノリでやってきてもひな鳥のように口を開けるし、お返しに私もやらかす事もある。
正直に言おう。ヤンデレのはずの旦那様は、私がほぼすべての事を受け入れてるせいで病む予兆が一切ない。傍から見たらただのバカップルだ。しかも相当鬱陶しいタイプの。
まぁそら原作知ってて原作順守したいタイプの転生者からすれば殺意芽生えてもおかしくないかなって思うわ。だからって私が死ぬつもりはないけど。
何はともあれ、旦那様が私の事を思うがままに甘やかしまくっている事で精神的にも満たされてるようなので。
ヒロインと出会ったとしても彼女に執着する事はほぼ確実になさそう。
というか、少し気になったから、社交界で聞いた噂的な感じで旦那様にヒロインさんの周辺とかそれとなく調べてもらったんだけどね?
他にも転生者がいたみたいで。
なんか、ヒロインとヒーローの当て馬とか恋のスパイスとかエッセンスとか悪役とかになるはずだった人、軒並みそのフラグ折れてたみたいで。
なんかヒロインちゃんの恋愛フラグがそのせいでポッキリ折れたっぽいんですよ。
ヒーローと知り合いはしたようだけど、特に恋愛に発展しなかったみたいで。
燃え上がるような恋じゃなくても、穏やかな感じで育めなかったかー……とは思ったものの。
まぁ、一組のカップル成立のためだけに複数名が犠牲になって挙句死んだりするくらいなら、そんなもん成立しなくたっていいや、というのが私の正直な感想だった。
成立させるとなると私がまず死ぬからね。
死ぬくらいなら私は旦那様に全てを委ねてお世話される方を選ぶわ。
夫人として最低限の事はしないといけないわけだけど、それ以外はぐーたらできるんだからほぼニート生活って最高。
ヤンデレが好きになるタイプ、大体どっか押しの弱い人の良いヒロインちゃんが多いんだけど、そういうの大体バッドエンド分岐も多いのよな。気が強すぎる相手だと初っ端からフラグバキバキになって心もバキバキにされそうだからヤンデレも避けるのかもしれない(笑)
全部じゃなくても大体を受け入れるタイプをあてがってみた結果、ただのバカップルになりました。
ヤンデレは 病まなきゃ無害 そらそうよ
お粗末様でした。
次回短編予告
手を伸ばせば掴み取る事ができる未来があるのなら、たとえスペアと呼ばれていようとも手を伸ばすのは当然の事。未来は絶対的に決まっているわけじゃないのだから、変えるための行動は咎められるものではない。
次回 ただの下剋上
スペアがいるという意味を、よく考えた方がいい。