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行ってらっしゃいと言いたくて  作者: チノチノ / 一之瀬 一乃
第一章 委員総会の無断欠席コンビ
12/13

十一夢「協力の真意」

「ハーーヤーーシーくーーん?」


「は、はい……」


 最初は苦手意識のあった美術の先生兼、給食委員の担当教師である山郷(やまざと)先生にも慣れてきた。独特な話し口調から嫌味まで、色々と。だがどこか憎めないのが山郷先生の魅力でもある。

 魅力で溢れた先生に俺は昼休みの委員活動後、詰められていた。

 木町は呼び止められそうな雰囲気を察してか、気が付いたらいなくなっていた。


「先週の報告日誌、みたけどさぁーー。……ダメ、まーるーでダメぇーー」


 首を横に振って、やれやれと呆れ顔だ。あと首を振った際に香水だろうか? ウッディな匂いというのだろうか。少しおばさんくさいニオイが気になったが、今はそれどころではない。


「ダメって何がですか。ちゃんと毎日記録もつけましたけど」


「記録をつけることだけが、シ・ゴ・トだと思っているのぉーー?」


「もちろん違います。それ以外にもクラスでの呼びかけとか、ほかには……えーっと、週末には注意とか報告もして意識してもらえるように」


「――意識を促すだけが仕事だと思ってはダメーー。ちゃんとーー、結果を残せるように働きかけるのが仕事。やって満足、した気になって終わりだと何の仕事も果たしていないのと一っ緒」


 正論だった。言い返す言葉もない。


「先週の話。給食室前の集まりが一番遅かったクラスは、どこでしょう」


「……。一組です」


「配膳の速度が一番遅かったクラスはどこでしょう」


「……た、多分、一組です」


「多分ってつけて他のクラスも遅い可能性をにおわせても、無ぅ駄。世界は一組だから」


「すいません。これ以上は()()に悪い結果を残しません」


 紙ぺらレベルでぺらっぺらな『ゼッタイ』の言葉を山郷先生に使うのは二度目だ。……いや、三度目かもしれない。

 山郷先生は『絶対』という言葉を聞いて、眉を寄せる。


「じゃあ、いきなり予備エプロンを使――」


「はいッ! すいません全部一組が遅くて意識が低くて我々給食委員の働きが悪くて予備エプロンも早速使ってしまいました!」



 ×  ×  ×


 

 残された昼休みの時間は残り五分程度。


 本を読むにも集中できそうにない。五時限目は移動教室でもないので準備の必要もない。


 話し相手を探して友達がいるかクラスを見渡す。……いない。そういえばと思い出す。グラウンドに出てサッカーを楽しんでいたはずだ。今から参加するのもあれだしなうん参加できなくて残念だな全くうんやれやれ。


 仕方ないかと自席で溜息を吐く。

 引き出しから赤いファイルを取り出して開く。まだ数枚しかファイリングされていないので厚さは薄い。これも次第に分厚くなっていくのかと考えると少しやる気が湧いてきた。

 モチベーションも上がったところで、山郷先生に言われたことを反芻する。

 

 俺たち一年一組はどのクラスと比較しても段違いに遅いことが課題になっていた。四時限目終わりに給食室前に当番が集まる速度から、配膳速度、給食終了後の返却の時間まで。さらに、給食エプロンの予備を早速使用する始末。余計なところだけ予定が早くて涙がでそうだ。


「でも、なんで予備エプロンのこともう知ってたんや……?」


 山郷先生は恐ろしい。予備エプロンの件は月曜日の出来事で、つまり昨日の話だ。先週提出している報告書にはまだ記載されていない内容。一体山郷先生はどこまでの情報を把握しているのだ。怖い、怖すぎる。


 改めてファイルを確認するも、確かに給食当番の集合時間は他のクラスに比べて遅かった。


「一番最初に集まったクラスから三分も遅れて、最後に私達のクラス」


「……。や、八重やえか……」


 振り返ると、給食委員のファイルを後ろから覗き見していた八重と目が会う。そのままニコリともせずに、活動日誌の記録を思案顔で見ている。

 こっそりと、八重には伝わらないように、驚いていた俺はゆっくりと深呼吸を繰り返す。


「……言う通り、俺たちのクラスが一番遅いらしい。でもそんなこと言ったって、どうしろって言うねんな」


 急げ急げといつもみんなには言っているものの、当の本人たちは最大限急いでいるわけで、これ以上しつこく言うようだと俺たち給食委員が反感を買うことになる。

 

 それは嫌だ。

 当初の予定では、適当にやり過ごすつもりだった。委員会活動がこんなにガチでやらんとアカンって知っていたら立候補なんてしなかった。やる気もないのだから当然だ。


 今更文句を言っても誰かに代わってもらえるわけでもないので、不満はぐっと胸の内に抑える。


「集合するのに一組が一番遅れている理由は?」


 活動日誌から俺へと目線が移動するのを間近でみてしまう。

 瞳に映る俺が呆けた顔をしているのがわかった。これだけ綺麗な子が話しかけにきてくれるこの状況は、喜ばしいことと共に複雑な気持ちになる。

 

 並行世界で過ごす俺はどれだけ魅力的な人物なのだろうか。それは本当に『俺』と同じなのだろうか。どうしてこんなに綺麗な子と仲良くなれたのだろうか。仲が良いとは、どれだけの仲だったのだろうか。


 彼女が話しかけに来るたびについ、考えてしまう。

 俺の返答は、彼女とのやり取りは、彼女の求める俺と同じ受け答えであっているのだろうか。


「甲矢仕……?」


「……。あ、あー、それはあれやろ。一組が給食室から一番離れているから……とか?」


 理由、そんなのみんなのやる気が無いからだろうと考える。でも本当の答えではないことくらい、俺にだってわかる。だから適当に理由をこじつけるも八重は違うと目で訴えてくる。


「やる気が原因なら隣のクラスの二組とも対して記録は変わらない」


 しっかりと正論を叩きつけられたので押し黙る。二組が集合完了報告をしてから一組が集まるまでに一分以上かかっていた。他に何かないかと目線で訴えてくるが、思いつくことはないので、いっそ思っていることを正直にぶつけてやるかとやけくそで答える。


「それは……、でも、やっぱり当番のやる気が」


「他には?」


「……。」


 これ以上言っても話が進みそうになかったので、他に何か思いつく理由を適当にあげていくことにした。


「じゃあ一組だけ四時限目の授業が長引いて」


「予定通りに終わってる」


「……。」


「じゃ、じゃあ! 他のクラスは授業に余裕を持って終わ」


「予定通りに終わってる」


「んぐぅ……ッ!」


 予定通りに終わると言い切る八重にぐぬぬと唸り声をあげる。そもそも、なんで言い切れるんだと睨む。


「四時限目の授業が終わってから、他のクラスも一斉にガタガタ騒がしく音を立てて準備をしてることくらい、わかってるでしょ?」


 根拠になる情報を補足されることで反論の余地がないことを悟る。

 しばらく完璧な正論で黙ってしまった。もちろん俺が。


「お手上げや。まるでわからん」


 両手を上げて降参のポーズをとってみせるも、八重はそのあとの続きを話さない。最後まで考えろと暗に伝えているのかとも思ったが、どうやら違った。


 少し周りの様子を気にする仕草を見せて、俺の耳にぽしょりと囁くような姿勢になる。いきなり近づいた顔とふわっと香る女の子に甘い匂いが鼻孔をくすぐる。思春期真っ最中の男の子には大変刺激が強い。


「クラスのみんなにも『協力』してもらうってこと」


「え、ごめんもう一回言って」と聞こえてはいたがつい反射的に言った言葉に八重が、同じ言葉を囁いてくれる。まったくどうして、普通の内容を秘密めいた声量で伝えたのか意図が読めない。それでも沸騰した脳みそでは正常は判断などとれるはずもなく会話を続行する。


「で、『協力』って、なに」


「教えてあげてもいいけど、これ以上は秘密」


 秘密という彼女に「意地悪だな」というと、彼女は何事もなかったかのように自分の席まで戻ってしまった。

 

 浅くため息を吐いてから、少し考えを巡らせてみる。


 この最低な成績を改善するためにはクラスの『協力』が必要だと八重は言う。クラスの成績が悪いのは『当番のやる気がないから』であって、行動が遅く、意識が低いためだと思っている。今もまだそう思っている。俺が普通の当番なら何の得があって、てきぱきと動く必要があるのかわからない。だがそんなことは言ってられない。俺は現状給食委員としてその意識の低い連中を注意し、指示する役割があるのだ。それを全うしているつもりだ。


 協力。協力、か……。


「先生に怒られたくないので、給食委員の俺のためにも当番の方にはもっとてきぱき動いてくださいお願いします」

 と頭を下げてみてもいいかもしれないが、効果があるとは到底思えない。どころか俺の評価が最悪になりそうだ。自己中心野郎として黒歴史待った無し。これなら内申点の稼ぎになるどころか下がりそうでもある。本末転倒だ。


 八重の方をもう一度見る。


 彼女はいつも一人で本を読み耽っている。そんな彼女に話しかける人はいない。最初こそいたのかもしれないが、彼女との会話は少し独特で、皆少しずつ積極的に話しかけにいく生徒は減っていった。

 俺から声をかけにいくには少しハードルが高い。最近は鳴りを潜めたイジリもまた再燃する可能性がある。答えを聞きに行くのは諦めて、もう少し悩んでみようと活動日誌と睨めっこをして昼休みを過ごした。

 

 五時限目は爆睡だった。


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