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行ってらっしゃいと言いたくて  作者: チノチノ / 一之瀬 一乃
第一章 委員総会の無断欠席コンビ
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十夢「給食時間は至福の瞬間」


 今は給食の時間。

 普段は縦横綺麗に整えられた机の列は、この時間だけ別の形へと変わる。六人一班を基本に、机を迎え合わせに長方形の島を計五班形成するためだ。どこの学校も給食があるならこの形になると思うが、実際は知らない。


 和気藹々とする教室内には今日の献立である揚げ餃子の香りが残っていた。

 給食時間も残り数分に迫っており、辺りを見渡せば「お腹がいっぱいや」だの「毎日揚げ餃子がいい」だの談笑している。

 給食は無事完食できた生徒がほとんどで安心だ。


 この生活にも少しずつ慣れてきたのか、皆自分の距離感で接することで、クラスの雰囲気が形成され始めた。

 俺も食べ終わった者同士で話に花を咲かせる。中には女子も話に混じって会話して、この時間がすごく楽しい。たまに班を超えて会話が広がることもあるくらいに盛り上がる。


「ケンゴ、お前昼休みないもんな」


「ちょ、やめろって。言うないうな」


「ガチで可哀想やけど、さすがに自業自得か!」


 今日も隣の班に先日から弄られている内容を擦られる。それに俺も不快な気持ちにはならずに笑って茶化す。


「え~? ハヤシ君昼休みないん? なんでなんで~?」


 俺と友達で話していた内容に興味を持ったらしい女子に理由を聞かれる。


「いやこれガチ恥ずいから、秘密」と笑いながら誤魔化すのに相反して、周りの友達はその内容をペラペラと話してしまう。


「こいつ委員総会をばっくれて、罰として一カ月間昼休みに給食委員の仕事任されてるねんって」

「マジでえぐい! ガンバれよ給食委員!」

「先週は授業遅れるし、まぁサボらず適当にガンバれ」


 周りが適当に応援をしてくれるので、それに頑張るわと適当に返す。


「えぇ~? ハヤシ君って真面目そぉーやのに。実はヤンチャ~?」

「ギャップってやつじゃない~? いいやんハヤシ君!」

 

 女子が数人会話に混じってきた。俺も気分が上がったことにつられて少し声が大きくなる。


 会話の途中で腕にトントンと突かれる感触が、ブレザー越しに伝わる。

 なんだと思って原因の方をみると、俺の隣で餃子を食べている樋口が八重を指さしている。

 八重と目が合うとこの先の展開が予想できた。


甲矢仕(はやし)。これ、残り食べて」


 俺の座っている位置から班の中で一番遠い席に座っている八重が、ハキハキと聞こえる声で言った。

 これと言って指すのは大皿に残ったサラダ。少しむっとしながらも彼女に対して腕を伸ばす。意図を汲み取ったようで、迷いなく彼女の手が俺の手と重なった。そう、俺の手と()()()()が重なったのだ。


「は?」「えっ!?」


 俺の困惑の声と友達の驚きの声が重なる。

 俺は八重から食べられないと言われたサラダの残った大皿を受け取るつもりで手を伸ばした。しかしどうだ。俺の手には、大皿ではなく彼女の手が重なっている。まるで犬が主人にお手をするように、八重は手を乗せたのだ。


「ちょっ! ちょっと、八重……っ!? わ悪ふざけはいいから、大皿ちょーだいって……!」


「……あぁ~。大皿ね。……はい」


 少し名残惜しそうに手を放し、今度こそ大皿をこちらに寄越す。

 俺と八重とのやり取りに班の皆が固まっているのに睨み返して、黙々と口に運ぶ。


 「ねえ、サキちゃん。いつもハヤシ君に渡してるけど、私にくれても大丈夫なんだよ?」


 八重やえ 夢咲ゆめさきのことを『サキちゃん』と呼ぶのは八重の隣に座る向日むこうさん。小学校が同じで、なぜか凛とは仲が悪い様子だが、俺とはそれなりに話をしてくれるよくわからない女子だ。


 実際、向日の言う通りだ。

 六人班の島は、三個の机を横並びに繋げ、迎え合わせにして形成している。俺はその左端に位置しており、八重は対角線上の右端に位置している。つまり、八重の給食が残ったときにそれを貰い受けるに相応しい場所は俺ではなく、彼女の隣合う席か対面の席となるはずだ。しかし実際は班の中で一番遠い位置に座っている俺に渡してくる。


 向日の助け舟に感謝だ。

 

「そうやぞ、八重。俺ばっかに頼らず他の友達を頼ればええやんか」


「別に今のままでも、何も困ってない」


 八重から受け取った大皿のおかずを平らげながら、冷たい八重の返しに戸惑う。


「いや、まあ。確かにそうではあるんやけど……」


「それにこの中で一番食べるのが速いの、甲矢仕やし」


「まあ、確かに。でも今日は森塚君も食べ終わってたで」


「……。気付いてなかった」


「嘘つけぇ! 八重の対面に座ってるんやから目に入るやろ!」


「……。」

 

 それ以上八重は何も言わなくなったので、俺も何も言わずに黙々と食べ続ける。


 渡された大皿に残ったおかずを口に運びながら、初めての給食の時を思い出す。


 俺は食べる速度が人より早い。だからこの班で誰よりもはやくに食べ終わって、ぼーっとしていた。そこで八重が皿に残っている給食を指さして、俺に「食べて」と言ったことが事の発端だ。

 最初は自分で食べる努力をしろと注意もしたが無駄だった。全く手に付けずに昼休みを丸まる消費してでも食べなかったからだ。

 結果、一組は一皿だけ返却が遅れてしまい、給食のおばちゃんに迷惑をかけることになった。当然、給食委員担当の教師である山郷先生に怒られてしまうのは俺だ。

 そして八重はそのことを知っている。だから俺がこれ以上「自分で食べろ」と強く言っても、結果的に困るのは俺で、この手の注意が意味をなさない。


 全てを承知の上で、わざと俺に渡してきているのだ。


 もしくはこれも俺を守るためだったり? ……それはないか。


 皿に残ったサラダは一口で食べるには多い量だった。少しは食べる努力をしたのだろう、サラダの端が不自然に欠けている。

 自然とため息がこぼれる。

 食べられないから渡す。それはわかるがなぜ俺に固執するのか。別に誰でもいいだろう。


 「ハヤシ君、よく食べるなー」


 対面に座る女子、前園まえぞのは普段は隣の席の女子だ。

 俺が自分の分も食べて、いつものように八重の分も食べていることに関心しているようだった。


「これくらいなら無理なく食べれるで」


「男の子やな。流石。あ、でも今思い出したことやけど、小学生の時はユメサキもよく食べてたで」


 ――ガタンっ! と机と椅子が乱暴に移動した音が前園の会話を遮断する。


 クラス全体が静まり返るほどではないにしても、俺達の班全員が息をのむ衝撃だった。

 当の本人である八重はいつもより細められた気がする切れ目を前園に向けている。

 その眼光に前園は少し目を泳がせた後、先に続くはずだった言葉を一旦飲み込んだ後、口を紡ぐ。

 

「ハ、ハヤシ君はよく食べるし、これは将来有望かもしらんなー、はは」


 不自然な間が空いた後、止まった時間がゆっくりと再始動するように空気が弛緩していく。周りの班にはわからない程度の僅かな緊張感を残して。


「あ、ああ。……ああ、そうやな、身長がかなり伸びてくれることを祈っとこうかな」


 普段通りの自分を意識して言葉を繋げ、先に続く言葉が出てこないことを誤魔化すように残りのサラダを一口で平らげる。


「ハヤシとヤエさんはどういう関係なん。幼馴染とか?」


 俺の隣に机を並べている男の子、樋口君が疑問を投げかける。

 八重が俺との距離感が近すぎたせいでこの手の質問を度々投げかけられる。そして今はもう明確な答えができているためモーマンタイだ。


「水泳部が同じやねん。だからちょっと仲が良い。そんだけ」


「へぇー。サキちゃん泳げるん?」


「別に。普通」


 小学校が同じだった前園は小学生の頃の八重のことを多少は知っている様子だが、そうではない向日は単純な質問をする。

 八重は相変わらず無愛想で、生きるのがめんどうくさいと言った感じだ。まるで返事にも生気を感じられない。

 

「ユメサキは昔から何でもできるイメージがあるけど、水泳部に入るとは思わんかった」


「……。」


「それどういうこと?」


「え? だって八重は小学校で」


「――もうすぐ予鈴鳴るけど?」


 前園の言葉の続きを八重が強引に遮った直後、給食時間の終わりを告げる鐘の音が鳴り響く。


「あっ……」

「え、あ、それで前園、なんて?」

 

「ほら、給食委員さん。前、でたら?」


「――。」


 八重に催促され、俺はハッとする。

 既に席を立ち、教卓前にいる木町に早くしろと目で訴えられる。遅れて俺も席を立った。

 給食委員は給食時間前と後のチャイムに合わせて、教卓前に立ち「いただきます」と「ごちそうさまでした」の掛け声をする仕事があるからだ。


 教卓前に立って、俺の掛け声にあわせて全員が手を合わせる。


 そのまま掛け声を終えて一斉に動き出すクラスメイトを見ながら一つの考えが浮かんだ。


 八重が水泳部に入部したのは俺のためだろう。


 前園の発言から、八重に水泳のイメージがあったとは思えない。むしろ別のスポーツをしていた可能性の方が高い。

 彼女は未来の記憶で、俺がいつの日か怪我をすることを知っている。そのせいで、得意でも何でもない水泳部を選んでくれたのだとしたら、どれだけ優しい子なんだろうか。その選択で自分の三年間が変わってしまうことも承知で、相当の勇気が必要だったはずだ。

 この考察が検討違いなら恥ずかしい話ではあるが、それでも、ここまでしてくれる彼女に感謝の念を抱かずにはいられなかった。

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