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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

花を拾い命を捨てる

作者: ウミノソコ

私の初めての物語です




         際会  / 一輪



起きて早々感じる違和感。 足が重い。何か冷たくて大きなものが足に乗っかっている。 ゆっくりと足元を見る。そこには髪の長い女がいた。俺の足の上にうつぶせになってうなっていた。俺が見ていることに気づくと、女は飛び起きた。しかし不思議なもので、女は宙をふわふわと飛んでいた。そうしてやっとわかる。女は足がなかった。それに身体が透けていた。女の不思議な体をじろじろ見ていると

 「何も言わず人の体をじろじろ見るなんて失礼  じゃない」

かわいらしい声 で俺を怒鳴った。俺は女に一言謝った。俺はそういえばと思い時計に目を向ける。もうそろそろ準備をしないと会社に遅れてしまう。俺は女の横を通り、支度を始めた。


「なんでそんなに冷静なのよ!お化けだよ、なんで驚かないの!」


女はふわふわ飛んで追いかけてきて、また怒鳴った。リスみたいな声で。俺は幽霊とかは怖いと思わない。 存在しないと思っていたからだ。だからといって今怖いわけでもない。お化け界隈はどうなっているのか、こんなに可愛い子を驚かせ役にするなんて……まったく怖くない。

 「君名前は?」

女は構ってほしそうだったので渋々それを聞いた。女は戸惑っていたがすぐに

 「子冬よ。好きな花はパンジー。」

ありきたりな名前だ。それに何故好きな花の名前を言ったのかわからない

 「俺は春樹だ。好きな花は桜。」

 「はっ、ありきたりな名前ね。 でも私も桜は好  きよ」

と煽るように笑った。お前には言われたくないと思いながら俺はまた支度を始めた。女は俺の周りをウロチョロして時々「どこいくの?」「これは何に使うの?」「あんた一人暮らし?彼女もいないのね。」

とまあよく飽きずに俺に話しかけてくる。俺は面倒くさいので全部無視した。やっと飽きてくれたのか、女はどこかへ行った。


支度を済ませもう出るぞというときに事件が起こった。リビングのほうからガシャーンとなにかが割れる音がした。急いでリビングに向かうと、女が涙目で両手をプルプルさせながら俺のほうを見た。女の周りにはコップが割れたのか、ガラスの破片がそこら中に散らばっていた。


「わ、わざとじゃないの。その、 驚かそうと、コップを移動させておこうかと思って。そしたら手が滑っちゃって。でもわざとじゃないのよ。」


わざとじゃないからいいとかそういう問題じゃなくて。俺はとても腹が立ったが怒鳴る気にはなれなかった。理由は、女が両手を頭のところに持ってきて震えていたからだ。俺には殴られるのを待っているように見えた。ここで珍しく俺の中の善意が働く。俺は女の頭の上に手をそっと置いた。女に何があったかは大方予想はつく。いや、おれの勝手な妄想である可能性は非常に高い。女は撫でらると少し困った顔をしていたが、すぐに顔を赤くしてまた謝った。


 「俺は怒っているけど怒鳴ったり手をあげたりはしない。でもこれは片付けろ。」

割れた破片を指差してそう言うとすぐに直し始めた。今更だが、お化けって物理的な事できるんだなと感心した。


俺は女に一声かけてから家を出た。遅刻だが別にいいだろう。もうじきやめようと思っていた会社だ。どうせ遅刻なら寄り道をしていこう。 そうして俺はくるりと向きを変えて また歩き始めた。





 ここは行きつけのカフェだ。最近は週に三回はここに来ている。店に入ると陽気な笑顔で彼女が迎えてくれる。


「あれ、春樹さんじゃない。仕事は?」


「遅刻」


「こんな所で道草食ってる場合じゃないでしょ..」


彼女は頬を膨らませた。やっぱりどんな顔でも可愛いな。俺は彼女が好きだった。名前は夏美さん。俺が今思いを寄せている女性だ。初めて会った時に俺は彼女に一目惚れをした。俺は不愛想でいろんな人から避けられてきたのだが、そんな俺に彼女は嫌な顔一つ見せず優しく接してくれた。

俺はちょろいというのか。すぐに好きになった。


「ほら、これだけ飲んでお仕事がんばってください!」


コーヒーの入ったカップを俺の前に出して少しだけ笑顔を見せて他の客のところへ行ってしまった。本当にやさしくて素敵な女性だ。これは誰にも言っていない秘密なのだが、近々俺は彼女に告白をしようと思っている。




家に帰ると女がいた。朝のあいつだ。隠れているつもりなのだろうか。ドアから足がはみ出ている。というか、ドアから足が生えている。通り抜けられるのだろう。物に触れられるのか触れられないのかどっちなんだと思いつつも俺はドアを開けた。


「わぁぁぁぁぁぁあー!!!!!」


女は両手をいっぱい広げて驚かした。


「わー」


俺も両手を挙げて驚いたふりをした。


「すごく棒読みじゃないの!逆に傷つくわね!」


女はぽかぽかと俺を叩きながら言った。痛くもないし驚きもしない。

「わーーって言って驚かすお化けがどこにいるんだよ。ドッキリ番組じゃあるまいし…。あと邪魔。」


少しきつく言い過ぎたかと思ったが女は


「フン!何よ!ベー!」


と、生意気な口調で残し、どこかへ行った。あいつはおばけというかなんというか、ただのちょっとやんちゃな子供だ。

女はいつまでここに居座るつもりなんだ、と思いながら夕飯の支度をした




















        怪々  /  二輪


 






最近起きると足が重い。かれこれ一週間続いている。俺は足元を見た。女がいる。どうしていつも足元なんだ。俺は女を叩き起こし、ベットから出た。

  「ほんとあんた情ってもんがないの?かよわい女の子が寝ているのをたたき起こして…。ひどすぎるわ!」


かよわい、というか、弱いの間違いだろう。俺は洗面台に向かった。今日はいつもよりおしゃれをする予定だ。今日は夏美さんとデートなのだ。俺が勇気を出してお誘いしたところ、 彼女は笑顔でオーケーを出した。だから今日は女に構っている暇はない。だが女は俺の周りをウロチョロして問いかけてくる。「なんでおしゃれしているの?」「もしかして彼女でもできた?」「なんで無視するのよ」

…うるさい。俺はデートと一言。女はとても驚いた顔 をして固まった。女をよけて出ようとした。そうしたら女が 「いってらっしゃい」と下を向いて言った。俺は行ってきますとだけ言って家を出た。しばらくどうして女はあんなに落ち込んでいたのかと考えた。すぐに結論が出た。女は嫉妬したのだ。唯一の人間 の友達の俺が誰かと遊びに行ったから。俺は不覚にも可愛いなと思ってしまった。


待ち合わせ場所はショッピングモールの入り口。彼女はもうそこに立っていた。俺は駆け足で彼女のもとへ行き


「ごめん、待った?」


と聞いた。彼女は太陽のような明るい笑顔で


「いいや、待ってないよ。私も今来たところ。」


女神かと思った。 優しいだけじゃなく気遣いまでできるとは。 彼女に惚れない男はいないのではないか、と思った。俺は行こうかと彼女を手招きした。 服屋に行き、ご飯を食べ、雑貨屋に行き、また服屋に行き。女の人は服を見るのにたくさん時間をかけ、色んな店をまわると聞いた。正直俺は暇だったが、楽しそうに服を見る彼女を見ているとそんなのどうでもよくなった。服屋を数件見終わって外に出た。 夕日がもう見えなくなるときだった。夏美さんは細い夕陽を見つめ、綺麗、と言った。俺も綺麗だと思った。夕日を見つめる彼女はまるで何か大切な物を見るかのようなうっとりとした目をしていた。


「好きです」


俺はうっかり口に出してしまった。夏美さんは驚いたように目を大きく開けて俺を見る。夏美さんは顔を赤くしていた。俺自身もびっくりした。まさか思ったことがこんなにも軽く口に出るとは思ってもいなかった。夏美さんは口を開いた。俺は全身に力を入れていた。


 「お気持ちとても嬉しいのだけど、私彼氏がいるの。あなたとは友達でいたい。ごめんなさい。」


彼女はそう言うと深く頭を下げた。俺は冷静を装った。


「そっか。それは仕方ないや。でも気持ちを伝えられて良かった。」

と俺は笑顔でそう言うと彼女は困ったような顔をして俺の顔を見た。同情なんてやめてくれ。


「もう遅いし送っていくよ」


彼女はありがとうと言って俺についてきた。帰り道、路地を通る。路地はとても暗かった。 足元が見えなくなる。ならどうして通ったか。近道だったからだ。歩いているときの彼女との会話はいつも通りだった。まるでさっきのことがなかったみたいに。彼女の家に着いた。俺は振り返って彼女を見た。彼女はにこっと笑いありがとうと言っ た。俺は彼女が部屋に入るまで手を振った。ドアが閉まり彼女の姿がなくなった。俺は玄関の前まで歩いた。彼女は鍵をかけていなかった。というか鍵がなかったのだ。俺はドアを開けた。すると彼女は目の前にいた。


「ど、どうしたの?」


困惑する彼女を俺は抱きしめた。とても強く。


 「痛い、痛い。ねえ、どうしたの?放して。」


苦しい声で、小さな体で、弱い力で、抵抗する彼女はとてもかわいかった。今まで以上に。


「は、放して。本当に痛いの…!け、警察を呼ぶわよ。」


彼女はそう言うとポケットから携帯を 取り出した。俺は携帯を持つ手を叩いた。携帯が落ち、彼女は小さな悲鳴を上げる。

強く、ゆっくりと。 俺はポケットから小さなナイフを取り出した。 彼女に見えないようにナイフを彼女のうなじに回し、刃を突き立てる。 彼女が叫ぼうとした瞬間にうなじを切った。口を押えたので悲鳴は聞こえなかった。

悶え苦しむ彼女を見て可哀想だと思ったから俺は彼女の背中を何回も何回も何回も何回も刺した。いつしか彼女が抵抗しなくなった。俺は彼女の身体を放した。そのまま床にばたっと崩れ落ちた。背中からは沢山赤い宝石が流れ落ちているように見えた。 好きな人にフィルターをかけてしまう、というのも納得だ。血がこんなにも綺麗に見える。 彼女は赤がとても似合っていた。あのカフェのエプロンが赤だからかもしれない。俺は真っ赤な彼女を抱き上げて血を洗い流す為に風呂場へ向かった。流すのには少し惜しいと思ったが持って帰るためには仕方のないことだった。 彼女をきれいに洗い抱き上げ、俺の着ていたコートを彼女に着せた。彼女はとても冷たかった。きっと寒いに違いない。俺は彼女の家を出た。 そして、誰もいない路地をゆっくり 歩いた。










「何、それ」


家には女がいた。でもこいつはお化けだからまあいいだろうと思っていた。正直忘れていた。


俺は彼女をベッドに寝かせて話した。


「今日デートした人」


「それ生きてるの?」


「綺麗だろ」


「ねえ、話聞いてる?その人、殺したの?」


「殺してないよ。綺麗だろ。」


「もう駄目ねあんた。で、それどこに置いとく気?」


「ここに」


「いやよ…。怖いし…。腐ってきたらご近所迷惑よ。ここ壁薄いんだし、どこかに隠さないと」


ここで俺の中の何かがいきなり戻ってきた。そして前にいる夏美さんを見て俺は絶句する。またやってしまったのか。

何処かに隠さないと

女の言葉を思い出した。


「隠せる場所ならある。」


俺はすぐに隠しに行く準備をした。今の時間帯は酔っている人が多いため堂々と死体と 歩いていてもバレない。もし何かと聞かれても酔いつぶれて寝てしまったので運んでいる、 と言えばどうにかなる。俺は家を出た。1時間くらい歩いた先に工場がある。廃工場だ。もう誰も使わないし、お化けが出るなんて噂もあるため誰も近寄らないのだ。





廃工場に着いた。視線を感じ後ろを見ると女がいた。


「ごめん、気になってついてきちゃった。」


女はそう言った。俺は女に構わず工場の扉を開けて中に入った。開けた瞬間に、 鼻がねじ曲がりそうなくらいの悪臭が中から漏れ出る。 工場の中心にはブルーシートが何かを隠すようにかぶせてあった。俺はそれに近づきブルーシートをとった。中には約十人の女性がいた。全員もう息はない。中にはもう腐ってしまい、皮膚がボロボロの人もいる。俺は女性達の横に夏美さんを寝かした。 最期に夏美さんの顔をじっと見て再びブルーシートをかぶせた。そしてもう後ろを向かないように帰ろうとした。すると女が俺に話しかけた。


「…もしかしてここにいる全員、あなたが殺したの?」

 

「そうだ。」


「もう 一度中を見せてほしい」


女にそう言われて俺はもう一度ブルーシートを持ち上げた。すると女は夏美さんの横にいた女性の顔を見ながら言った。


「この人はどうして殺したの?」


なぜ答えなければならないのかよくわからなかったが、俺は話した。

「その人は飲み屋で知り合ったんだ。すごくいい人だった。こんな俺にも優しく接してくれた。二人で出かけたときにこの人のスマホの画面が見えたんだ。彼女と男とちょっと小さい女の子が写ってた。幸せそうな彼女の顔を見てすぐにわかったよ。これは家族なんだって。だから殺した。俺じゃなかったんだ。なのに俺にあんなに優しくして。俺を弄んだんだ。そう思ってしまって…俺はその人を殺めてしまった。俺は本当に償えないほどの罪を犯してしまった。」


俺は一滴も出ていない涙を拭うフリをした。

しかし女は涙を流して「そう」と言った。その涙はとても純粋で美しく思えたのはどうしてだろうか。


「どうしてどうして泣くんだ。」


「どうしてかな。ちょっと悲しくなったのかも。」


これが普通なのかもしれない。俺は普通ではないのかもしれない。そんなのわかっていたのに。この女を見てると気が狂いそうになる。 この女も生きていれば殺してやったのに。俺は再びブルーシートを彼女達の上にかぶせて家へと歩いた。



























         打開  /  三輪












朝目が覚めるとひどい頭痛がした。昨日十分な睡眠をとれなかったからだろう。そしてもう一つの違和感を思い出す。 足が軽い。 足元を見ると女がいなかった。昨日のショックでもうどこかへ行ったのだろうか。なんにせよ俺にはどうでもいいことだった。俺は家を出る準備をした。いつもはうるさい朝だが今日は違う。とても静かだ。たった数週間なのに習慣というものは怖い。静かなのがおかしく思える。これが普通だったのに、俺は家を出た。



 するとあの女がいた。しかし何かが違う。目線だ。いつもはぶかぶかと浮いていたから俺と目線は同じだった。でもどうしてか、今は地に足がついている。それに透けてもいなかった。俺より遥かに小さい身長の人間がいた。こう見ると歳がわかる気がする。顔は大人びていて気付かなかったが、中学生くらいだろうか。女はずっと下を向いたまま無言で立っていた。


「どうしてここにいるんだ?お前は人間なのか?」


俺は聞いた。


「中で話そう。」


女はそう言うと俺の脇の下を通り抜けて部屋に入った。女はそのままいつもの部屋に向かった。俺も後につづいた。



 女は床に座り話を始めた。

 「私お化けじゃないの、あなた、幽体離脱ってわかる?私はそれに成功したってわけ。 幽体離脱って見える人には見えるのね。私びっくりしちゃった。物理もできるっぽいの。それにびっくりしちゃって、だからあの時驚いてコップを割ってしまったの。ごめんなさい。」

俺は驚いたが今はそれより気になる事がある。


 「どうしてここにいる」


女は重い頭をようやくあげて俺の顔を見た。女はスッと立つと俺の近くに来て言った。


「私昔親に虐待されてたの。あ、でも今はおばあちゃん家にいるから大丈夫よ。私とお兄ちゃんと お姉ちゃんと勇気を振り絞って逃げたの。警察にも行って、大変だったのよ。でも本当に良かった。そのおかげで私達は幸せに過ごせたの。みんなでたくさん話して、遊んで、お互いに支えあって生きていこうねって。でもね、一か月前にお姉ちゃんが行方不明になっちゃって、理由は分からなかった。警察にも行ったんだけどまだ見つからないんだって。 私たちも何かできることはないかなーって頑張って考えたの。そこで見つけたのが幽体離脱。お化けになったら移動が楽だって、お姉ちゃんを探せるって…。ふふ。子供らしい発想でしょう?でも案外悪くなかったみたいでさ、成功しちゃった。それからお姉ちゃんを探したん だけど結局見つからなかった。そんな時、お姉ちゃんが話してたある人のことを思い出したの。行方不明になる直前までずーっと話してたあの人のところに行こうって。それがあなたよ。

宮本春樹さん。」


「どうしてお前のお姉さんから俺の名前が出るんだ?」


「お姉ちゃんがあなたのこと好きだったからよ。随分仲が良かったらしいわね。お姉ちゃん、家でずっとあなたのこと話していたのよ。」


俺は何のことだか本当に分からなかった。


「俺がお前のお姉さんと関わりがあるっていう ことか??お前のお姉さんと俺はどこで知り合った?」



「居酒屋って聞いたわ」

 



「…………その人の名前は?」

 


「八代秋稀」

 


その名はよく覚えている。俺が殺した人だ。昨日この女に見せろと言われて見せた人だった。そうだったのか。俺は膝から崩れ落ちた。俺はどうなるのだろうか。捕まってしまうのだろうか。女は澄んだ目で俺を見る。


 「あなたと話すの楽しかったのよ。私、あなたが殺人鬼だなんて思いもしなかったわ。人って怖いわね。少しでもこの人と話すのが楽しいと思ってしまうと信頼してしまうの。私がちょろいのかしら。

……あなたもそうよ。女の人が優しいのは普通。その程度で好きになるなんてちょろすぎるわよ。世の女性みんなあなたのことが好きみたいなもんじゃない。」

と甲高い声で笑っていた。 俺は散々この女に煽られた。そしていつしか俺は女の首を絞めていた。女は咳込みながら、段々と狂気じみた笑い声が小さくなっていく。ついに女は笑わなくなった。俺はまた罪 を重ねたことを後悔した。女の顔を見た。息がない。手を離そうてした。


その時だった。背中がとても熱い。痛い。俺は後ろを見た。後ろには女がいた。足はなかった。俺はそのあと何回も背中を刺された。意識が遠のく。俺は女の横に倒れた。考えた。どうして刺されたか 首を絞められている間にお得意の幽体離脱をしていたのだ。女は俺に俺の背後に回り、隙を見て俺を刺したのだろう。 賭けにしては相当危ないが、これは俺の負けだろうか。瞼を閉じる寸前に見た彼女の顔は綺麗だった。元々顔が整っていたというのもあるが、どうしてか、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔は可愛くはないのに…。その時はどんな女性よりも美しく思えた。

そして俺はもう目を開ける力などなく、次第には考えることもできなくなっていた。































         再会 /  四輪











私は今日で二十四歳になる。私は現在カフェで働いている。 そこのカフェはとてもおしゃれで、エプロンも赤色のデザインでとてもかわいかった。そして何より働いているみんながとても優しいのだ。

私は今日誕生日というのもあってか店のみんなにお祝いしてもらったり、プレゼントをもらったりもした。他にも嬉しかったのは常連さんからのお祝いとプレゼントだった。何人か私の誕生日を知っていてく れたみたいで、わざわざお店に来て私のお祝いをしてくれる人がいた。家族以外の人から祝ってもらったことがあまりなかったからとても嬉しかった。

 お店も少し落ち着いた頃、店のみんなはケーキの材料を買ってくるとどこかへ行ってしまった。私は店で一人、いろんな人からもらったプレゼントを見たりして待っていた。

  その時、ドアの開く音がした。みんな出て行った数分後だからきっとお客さんが入ってきたんだなと思った。店の前にはクローズの札がかかっていたはずだ。きっと間違えたのだろう。私はドアのほうまで行った。

「すみません。もうお店閉めちゃって。でもせっかく来てくれたんですし何か飲みます か?コーヒーならすぐ用意できますよ。」


「……じゃあ、それで。」


帽子を深くかぶっていて背の高い男性だった。手には小さな花束を持っていた。私はすぐにコーヒーを入れてその人の席に持っていた。


「お待たせしました。そのパンジーの花束とても綺麗ですね。実は私パンジーが一番好きなお花なんですよ!どなたかにあげるんですか?」


私はパンジーがとても好きだ。自己紹介をするときはいつも好きな花を言ってしまう変な癖があるくらいには好きだ。自己紹介なんて昔に一度だけと、面接でしかなかったけど。


「…コーヒー入れるの上手だね。とってもいい香りだ。」


男性 はコーヒーのコップを回しながら言った。 私の質問に答えてくれなかったのは少しシ ョックだったが、ほめてもらえて嬉しかった。


「ありがとうございます。昔姉にコーヒーの入れ方を教えてもらったんです。きっとそのおかげです。」


私は今は亡き姉のことを話した。


「…そうか。…お姉さんも素敵なんだな。」


そう言うとコーヒーのカップを置いた。私は邪魔になるかもと思い移動しようとした。すると男性が話しかけてくる。


「……今日誕生日なんだって?」

男性は私に聞いてきた。 なんで知っているのかと思ったが別に良かった。


「そうなんです。皆さん私のお祝いをしてくれてとってもいい誕生日になりました」


「そうか。…よかったな。じゃあ、俺もお前にプレゼントあげるよ」


そう言うとパンジーの花束を私の方に出した。

その時顔がよく見えた。

男性はとてもやさしい笑顔で私を見た。

この顔を見て思い出した。

私は絶望した。

私が殺したはずの男




 


























「お誕生日おめでとう。子冬。愛してる。」
























最後まで読んでくださりありがとうございます。



登場人物の名前には春夏秋冬が入っているんです。


伏線は雑だったかもしれませんが一応所々においてます。


この後の物語や主人公、幽霊の心境などは自由に想像してください。

結末はいくらあっても良いですから。

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