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7話・あなたが大好きなんです!!

 公爵家に剣術指南の先生が来てくれるようになって三か月。

 最初は素振りから始まったわたしの剣術生活も、少しずつ進歩がみられるようになってきた。


 たまにカークグリスやクーリストが様子を見に来てくれるのも活力になっている。

 物心つく前からやっていた魔法の勉強と違い、剣術の練習はただただ辛かったが、これも将来クーリストを守るためと思えば辛さも吹き飛ぶというものだ。


 そんな日々を過ごす中で、わたしは一つ驚きの事実を発見した。


 カークグリスの、クーリストへの、溺愛が、すごい……!!

 いや、ほんとに。びっっっくりした。めちゃくちゃ驚いた。


 星来が入る前のライラは当たり前と捉えていたから気にしていなかったのかもしれないけど、原作を知っているわたしからすれば、本当に驚きの連続だったのだ。


 カークグリスは基本的に自分の行動にクーリストを同行させる。

 例えば、城下町の視察とか、孤児院への慰安訪問とか、その他、幼い子供でもできる王族としての公務。


 クーリストは幼いながらに公務の重要性をわかっているらしく、カークグリスの隣で真剣な顔をしているという。

 わたしは直に見る機会がないので、これは公爵家のメイドたちから聞いた話だ。


 だから、城下町ではクーリストの評判は悪くない。

 元々、原作でもそんなに民には悪い評価はされてなかったんだよなぁ。

 確かに、目の色とか髪の色とか、民にはあんまり関係ないよね。


 そして、ちょっとしたことで、カークグリスはクーリストをめちゃくちゃ褒める。

 それはもう褒める。はちゃめちゃに褒める。そこまで褒める!?

 ってこっちがびっくりするくらい褒める。


 だけど、どうしてカークグリスはそこまでクーリストを構うのだろう。

 一番初めに生まれた同じ同胞はらからの弟だから?


 うーん、と唸ってみても答えは出ない。


 なら、直接聞いてみるべきかな、とも思ったけど、生まれた時からの付き合いなのに、いまさら「なんでクーリストを溺愛するんですか?」って聞くのも違うと思う。


 ただいまカークグリスとクーリストとのお茶会の最中だが、そんなことを考えていたせいで意識が飛んでいた。

 カークグリスに「ライラ嬢?」と話しかけられて、やっと意識が戻ってくる。


「すみません、少し考え事を……なんのお話でしたかしら?」

「クーがこの間、剣術指南で褒められた、という話をしていた。なぁ、クー」

「兄上、ライラにまで報告しなくていいです……!」


 そして極めつけが「クー」呼びだ!

 原作では離脱する直前にようやく勇者たち一行に許したレベルのあだ名をずっと連呼するカークグリスが羨ましい。


 羨ましくて羨ましくて、わたしはちょっとギリっとしている。

 そりゃあ、いきなり婚約者になった幼馴染より溺愛してくれる兄のほうがいいかもしれないけど、わたしだって一応婚約者なのに……!


 爽やかに笑うカークグリスをじとっとした目で眺めていると、カークグリスがわたしの視線に気づいてしまった。

 そっと視線を逸らしたが、目ざといカークグリスは見逃してくれない。


「ライラ嬢。私になにかいいたいことがあるのではないかな?」

「う」

「遠慮しなくていいよ。私たちの仲だ」


 誤解を招きそうなので、そのいい方はやめてもらえますか……!!

 わたしはクーリスト一筋なんです!!


 だけど、これはいいチャンスかもしれない。

 わたしはドキドキと煩い心臓を片手でそっと抑えて、話についていけていないクーリストをじっと見た。


「クーリストさま」

「僕?」

「はい。……あの、わたし、も」


 ごく、とつばを飲み込む。からからに喉が渇いていたが、目の前のお茶には手を伸ばさない。


 ありったけの勇気をかき集めて、わたしは今にも飛び出しそうな心臓を抑えつけながら、やっとの思いで最近ずっと胸につっかえていた言葉を吐きだした。


「わたしも! クーさまと呼んでもよろしいですか?!」


 ……さすがに「クー」と呼ばせてください。という、呼び捨てははばかられた。

 ……わたし、腐っても公爵令嬢なので……はは……。


 わたしの決死のお願いに、クーリストはきょとんと新緑の瞳を瞬かせて、それから照れたようにはにかんだ。


「もちろんだ。君さえよければ、そう呼んでほしい。ライラ」

「っ!」


 推しが、推しが尊い……!!

 この三か月で大分慣れたつもりだったけど、やっぱり推しが尊い……っ!


 クーリスト、いや、クーの笑顔にわたしが胸をときめかせていると、小さく笑い声が聞こえた。

 カークグリスだ。


「ふふ、仲睦まじいね。そうだ、せっかくだから、私のこともカークと呼んでくれないか」

「えっ?!」

「長い名前だろう、カークグリスは」


 にこにこと微笑みながら爆弾を投下してきたカークグリスに、わたしは視線を泳がせる。


 ……いまだに、お父様がわたしとカークグリスの婚約を諦めきれていないのだ。


 だから、誤解されるようなことはしたくない、んだけどなぁ……。

 ちら、と見上げたカークグリスは、裏表のない顔でにこにこと笑っていて、わたしはため息を一つ吐き出した。

 女は度胸。同じくらい、諦めも肝心だ。


「わかりました、カークさま」

「おや、随分反応が違うな」

「仕方ないじゃないですか。わたしはクーさまの婚約者です」


 クーが大好きなんです!! と言いたいのをぐっとこらえて無難な言葉に置き換える。

 カークグリス――カークはそれさえ面白いといわんばかりに笑っていたので、不敬罪には当たらないはず。多分。

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