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5話・世界滅亡

 クーリストが王城に戻って、わたしも自室に戻った。

 今日は家庭教師が来るのは昼過ぎからだ。


 だから、午前中は自由にしていていい。


 わたしは机に向かって真っ白なノートを取り出す。

 考えないといけないことは山積みだ。


 クーリストが死ぬ未来の回避が当面の目標ではあるが、それには避けて通れない現実がある。


(世界滅亡の危機の回避……!)


 そもそも世界滅亡の危機が起こらなければクーリストが死ぬ未来だってないのだ。

 根本の原因を解決するべく、わたしは真っ白なノートに羽ペンでゲームの知識を綴っていく。


(えーと、ゲームではクーリストは主人公が敵対する国の王子だったから……)


 ゲームの大まかなあらすじはこう。


 数千年前に勇者によって封印された世界を滅ぼさんとした魔王が復活の兆しを見せている。


 それに気づいた隣国エクスレムが、新たな勇者を選出した。

 聖剣に選ばれた主人公は元は平民だったけど、勇者として今度こそ魔王を封印ではなく打ち倒すための旅に出る。

 その中で、外交でギスギスしていた我が国サクスエルに協力を求めてきた。

 魔王復活は世界の危機である。王は難色を示したが、王妃と王子(この王子はゲーム内で王位第一継承権を持つキーラグエン)に説得され、和平の証としてクーリストを勇者のパーティーに入れた。


 ……ゲームをプレイしていた時は、念願のクーリストのパーティーインに浮かれて気にしなかったけど、いまならわかる。


 王は、進言した王位第一継承権をもつキーラグエンではなく、死んでも困らない第三王位継承権保持者のクーリストを勇者のパーティに放り込んだのだ。


 すっっっごくむかつきますね?!


 相手が格上の王様ではなかったら今すぐあの無駄に蓄えられた髭をひっこぬきにいきたい!!

 まぁ、個人的感情はいったん横に置いて、ストーリーを思い出そう。


 クーリストを加えて勇者たちの旅は続く。

 魔物と戦ったり、時には人間とも敵対して、魔王に辿り着く前に。

 ――裏切り者によって、クーリストは命を落とすのだ。


 クーリストは魔王でも、魔物でもなく、人間の裏切りによって、死んだ。

 クーリストを裏切ったのは、王家だ。クーリストが邪魔だった。それ以上に、勇者が邪魔だった、我が国の王家。


 世界を救う勇者を輩出したのが、自国ではなかったのが、気に入らなかったのだ。

 だから、殺そうとした。勇者共々、クーリストごと、海の底に鎮めようとした。


 たしか、魔王を倒すためのアイテム探索の依頼で海の底のマップにいくイベントがあって、そこで裏切り者によって海底に沈められかけたのだ。


 勇者たちが脱出する時間を稼ぐため、送り込まれた暗殺者と野党に扮した騎士団の人間を相手に大立ち回りをして、クーリストは死んだ。


 ……まって、野党に扮した、騎士団……?

 王家が、王家直属の騎士団を動かしたとは考えにくい。いくらなんでも、王家が直々にクーリストに手を下すとは思えない。


 なら、仲介役がいたはずだ。

 クーリストに手を下したのは。


(お父様、だ)


 そう、クーリストを裏切ったのは公爵だった。

 そして、我が国において公爵と名がつくのは、お父様だけ。それが示す事実は一つ。


(わたしは、クーリストを殺す男の娘なの……?)


 目の前が、真っ暗になったかと思った。実際、くらりとして机に突っ伏す。涙があふれて止まらない。


 『ライラ』として過ごした五年に育まれた父親への愛情が父がそんなことをするわけないと訴える。

 娘に甘くて、将来を楽しみにしていると、ことあるごとにたくさんの贈り物をしてくれる愛情にあふれたお父様。


 でも、その一方で。


 『星来』が知っている。


 公爵である父の冷徹さ。ゲームにおける、クーリストを迫害する台詞の数々。

 きっと、ゲームの中のお父様は、クーリストが死んで高笑いでもしたのだろう。ああ、想像に難くない。


 『わたし』でも知っている。お父様は政敵に容赦がないと。

 『ライラ』に甘いお父様の、もう一つの顔。


 宰相として国のために辣腕を振るうお父様にとって、王妃様の外聞を損ねるクーリストがいかに邪魔だったかを、理解してしまったから。

 わたし、わたし、は。


(絶対に、クーリストを、助ける)


 死なせない。絶対に。


 わたしがクーリストを大好きだからっていうのはもちろんあるけど、それ以上に。

 ちょっと髪と目の色が違うっていうだけで、孤独な幼少期を過ごして、寂しい思いをして、やっと認めてもらえると、国に民に、なにより両親に認めてもらうために、過酷な旅に出ることを決意したクーリストの思いを知っているから。


「わたしが、ぜったいに」

(クーリストを、孤独にはさせない)


 決意を胸に、滲んだ涙を拭きとって。わたしはノートを閉じた。


 わたしはこの世界が舞台のゲームを完クリしていない。ストーリーはクーリストの離脱までしかわからない。


 だったら。

 いまのわたしにできるのは。


「お父様にクーリストのすばらしさを認めてもらうのよ!」


 そんな、微々たる手回しくらい。でも、きっと怠ってはいけないこと。

 お父様がクーリストの存在を認めてくれれば、国の益になると判断してくれれば。きっと、未来は変わるから。


 お父様がクーリストを手にかけたら、わたしは絶対にお父様を許せない。

 愛するお父様をこの手にかけないためにも、わたしはがんばらないといけない。

 そこまで考えて、はたと気づいた。


 ……お父様が海のダンジョンに私設騎士団(野党変装)を送ってきた時に、騎士団を率いていたの、赤毛で赤い瞳の、暗殺者だったような……?


(あの暗殺者、セイラだわ!!)


 まって! もしかしてわたし! 自分でフラグをたてたの!?

 お父様にセイラ(暗殺者)を引き合わせたことを思い出して、ざっと顔から血の気が引いた。

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