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4話・わたしの運命の人

 わたしの唐突な告白に、屋敷は上から下への大騒ぎになった。

 なんだったら、王家を巻き込んだ大騒ぎである。


 クーリストとカークグリスが王城に戻った翌日、わたし、ライラ・フォン・アラベリアとクーリスト・エイベル・アスクウィスの正式な婚約が内々に決まった。


 わたしは、婚約がしたくてクーリストに愛を告げたわけではなかったのだけど、婚約に不満があるわけではないし、むしろ絶対クーリストを幸せにして見せる! と意気込んだ。

 そこで、ハタと気づく。


(ここがゲームの世界なら、いずれクーリストは死んでしまう……?!)


 それは断固阻止だ。

 世界を救う旅でクーリストが死ぬ未来は絶対に変えなければならない。


 あれ? でも、なんかおかしいな。違和感がある。


 朝食後、わたしはダイブしたベッドの上で悶々と考える。

 ここが死ぬ直前までプレイしていたゲームの世界なのは、間違いない。

 だって、クーリストがいる。でも、カークグリスって……誰だろう。


 ゲームにはでてこなかったよね……?

 え? まって? うん? 『この世界』ではカークグリスが第一王位継承者だ。


 でも、ゲームではクーリストの義弟のキーラグエンが第一王位継承者だった。

 なお、クーリストのほうが年上で王妃様の子供で、キーラグエンは一歳年下の側室の子供なので、歪みのすごさがわかるというものである。


 それだけ、この国では王族にとって金髪碧眼というステータスは重要視される。


 クーリストは銀髪に新緑の瞳というだけで王位継承権は兄妹中最下位の第四王位継承権の設定だった。

 女の子である妹より王位継承権が低いのだ。


 そのせいですっごく迫害されていて、めちゃくちゃ憤ったからよく覚えている。


 王族の証である金髪碧眼を受け継がなかったから、第四王位継承者で、クーリストは幼少期から冷遇されていて、パーティーに入ったときには氷の王子様と呼ばれるくらい冷たいキャラだった。


 最初はツンツンだったのに、徐々にデレていく過程が本当に最高だったんだけど!


 でもなんか、それも変なんだよな。

 いままで王城でクーリストとは何回か会っているけど、クーリストの態度は年相応というか、えっと、わたしより一歳年上の六歳だから、まぁ、うん、年齢を考えれば普通だった。


 王城で冷遇されている気配もなかった。


 ライラが気づかなかったのなら、それまでなんだけど。

 カークグリスはわたしやクーリストとは年が離れている。

 今年十五歳だから、わたしとはまるっと十歳離れているのだ。


 このくらいの年の差は王族や貴族の結婚では珍しくないので、この世界の基準では別にいいんだけど。


 カークグリスは原作にいないキャラだ。だって、王位第一継承者はキーラグエンだったのだから、カークグリスがいては色々と可笑しい。

 もしかして、ゲームまでにカークグリスは死んでしまって、キーラグエンとクーリストの王位継承権が繰り上げられるのかな……?


 ……それは、嫌だなぁ。


 だって、カークグリスはとってもいい人なのだ。

 大人しくて人見知りが激しい『ライラ』にもすごくよくしてくれた。

 ライラを年相応に扱って、色々とプレゼントもしてくれた。

 一番もらったのはお花だ。


 なにより、カークグリスはとにかく兄弟思いなのだ。

 年の離れた弟であるクーリストを溺愛していて、クーリストの二歳した、現在四歳の母違いの弟キーラグエンもめちゃくちゃ愛している。


 キーラグエンは王妃様の子供ではなくて、側室の子なんだけど、実の兄弟のようにかわいがっているのだ。


 もし、かして。


 かわいがってくれた、カークグリスが死んでしまったから、クーリストは心を閉ざしたのだろうか。


 だったら、目標追加!

 カークグリスをなんとしても生かして見せる!!


 決意も新たに拳を握り締めていると、扉がノックされた。お嬢様、とメイドが呼びかけてくる。わたしが返事をすると、メイドが部屋に入ってきて、クーリストが訪ねてきているといわれた。


 それだけで、わたしの心は舞い上がる。

 クーリストに会える! しかも生! 気分はアイドルの握手会に出向くオタクである。


 メイドの手を借りて、できるだけ可愛く、でも、待たせすぎて失礼にならない時間で支度を整える。

 鏡に映った私は、波打つ綺麗な金の髪を腰まで伸ばしていて、宝石のようなアメジストの瞳をしていた。

 金色の髪は王族から降下したお母様譲り、アメジストの瞳はお父様譲りである。

 わたしだって、目の色は碧眼ではないけど、お父様にもお母様にも愛されている。


 それは、ひとえに王族の親戚とはいえ、直系の王族ではないからかもしれないけれど。


 でも、王族だからって金髪碧眼じゃないと許されないのは理不尽だと思う。わたしが王家に入ったら紫の目の子供だって生まれる可能性があるのに。


 王家に嫁入りする女性にも金髪碧眼が好まれるが、歴代の王妃を遡れば全てが金髪碧眼というわけでもないだろう。


 王妃だからって金髪碧眼の子供を生まないといけないのは、本当に理不尽の塊である。


 準備を終えると、クーリストはわたしのお気に入りの庭園にいるといわれた。

 メイドと一緒にゆっくりとお嬢様らしく歩いて向かうと、庭園の中にあるガゼボにいた。


 イスに座って、庭の花々を眺めている。


 わたしはクーリストに声をかけて、お嬢様らしくスカートのすそを掴んでお辞儀をする。


「お待たせしました、クーリストさま」

「楽にしてくれ。……悪いが下がってもらえるか」

「しかし……」

「彼女と二人で話がしたいんだ」

「はい」


 メイドはそれ以上言葉を重ねず、最低限の給仕だけをしてから、その場を後にした。

 残されたわたしはクーリストの正面のイスに座って緊張ではち切れそうな心臓を抱えながら、にこにこと笑う。

 しばしの沈黙の末、クーリストは絞り出すような声で告げた。


「……なぜ、僕との婚約を望んだ」

「え?」

「兄上と婚約したほうがアラベル家の理になったはずだ。兄上は君にもよくしていたじゃないか」


 クーリストは視線を伏せたまま、そんなことをいう。

 たしかに、記憶を遡れば、カークグリスはライラによくしてくれた。


 こまめに花を送ってくれて、……でも、もらったのは、花だけだったんだよな。

 アクセサリーとかドレスはもらわなかった。


 ライラは不思議に思わなかったけど、わたしはなんとなく、そこにカークグリスの思いがこもっている気がする。

 わたしはにこりと微笑んで口を開いた。


「アラベリア家がバックにつけば、クーリストさまのお立場も安定します。悪いお話ではないでしょう?」


 到底五歳が口にする内容ではない。

 でも、貴族教育――はっきりいうと将来の王妃を見据えた教育を受けてきた「ライラ」が口にするなら、不自然ではないはずだ。

 クーリストは、ぎり、と歯噛みする。


「兄上が、望まれたのか」

「まぁ、クーリストさまはカークグリスさまがそんな方だとおもうのですか」

「思わない!!」


 声を荒げたクーリストがやっとわたしをみてくれた。

 王城では陰口をたたかれる、新緑の瞳がまっすぐにわたしを射抜いて、鼓動が早くなる。


 わたしは、自分でもわかるほど、恋する乙女の表情で、ふわふわとした口調で告げる。


 だって、一目惚れをして、大好きで大好きで大好きで、死んでしまったときはゲームを叩き割ってゲーム会社に乗り込んでやろうかと思ったクーリストが目の前にいるのだ。


「クーリストさま、わたしはクーリストさまをお慕いしています。ひとめぼれでした」


 胸の前で両手を握って告げると、クーリストはぽかんと口を開けた。その表情もかわいいですね!!


「僕に……一目惚れ? こんな、外見の、僕に……?」

「外見なんて関係ありません! いえ! 関係なくはないです! だって、さらさらの銀糸の髪も、新緑のようなきれいな瞳も、わたし、大好きなので!!」


 わたしが前のめりになって力説すると、クーリストはぽかんとした表情から徐々に頬を赤くした。あ

 そして、小さく笑ってくれた。


「……君は変わった令嬢だな。ライラ」


 あ、名前。呼んでくれた。

 そう思った瞬間、改めて恋に落ちる音がしたのが自分でわかった。


 『私』の名前じゃないけど、『わたし』の名前だ。それが、すごく、嬉しくて。


 幼いクーリストの笑った顔が、それ以上に愛おしくて。

 わたしは、この命ある限り、彼を、クーリストを守ろうと、改めて決意するのだった。



***



 ライラ嬢……いや、ライラに会いに行った。


 すでに倒れた後遺症もなくぴんぴんしていたライラは、やっぱり輝く瞳で僕が好きだと告げた。


 先日までの大人しいライラとは別人のようだ。

 倒れた影響だろうか、と少し不安になったが、人格が変わるような派手な怪我をしたとは聞いていないので杞憂だろう。


 やっぱり、まっすぐに伝えられる好意は心地よかった。

 僕だけを見つめて愛を伝えるライラを、愛おしいと思った。

 ……本当は。婚約を破棄したほうがよかったのだろう。兄上のことを思うなら、なおのこと。


 でも、アメジストの瞳を輝かせて、満面の笑みで伝えられた「好き」という感情を無視できるほど、僕は大人ではなかった。


 あれほど大きな全身全霊で伝える愛を真っ直ぐに家族以外から向けられるのは初めてで、体に電流が走った気がした。

 一目惚れではないけれど、きっとこういうのを、一目惚れと呼ぶのだろうな、と思った。


 ライラの笑顔は可愛かった、愛おしかった、隣で守りたい、そう願うほどに。


 だから、兄上。ごめんなさい。


 兄上がライラを淡く想っていたのは知っているけれど、ライラが僕を見つめて愛を伝えてくれる限り、ライラは兄上に渡せません。


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