5話・お茶会とお菓子作り
お買い物にでかけた翌日、剣術の稽古と魔術の勉強を終えて、午後からお茶会になった。
お茶会は毎日しているわけじゃない。フレーレの都合がつくときに、フレーレから誘ってくれる感じ。
わたしとクーは遊学できてる客人だから、自分たちからはあまり頻繁にお茶会には誘わない。
綺麗に整えられたお庭で、前世でテレビでみたアフタヌーンティーより断然豪華なティーセットを前に、お喋りをするのにも大分慣れてきた。
「アスクウィス王家のおちゃかいででたケーキのあじが、わすれられないんです。とってもおいしかったから」
「わかります! 王家のおちゃかいででるケーキ、すごくおいしいですよね!」
フレーレの言葉に乗っかったわたしに、クーが小さく笑う。
どうして? と思って首を傾げると、クーがくすくすと笑いながら教えてくれた。
「王家のおちゃかいででたおかしのなかで、ライラがとくにおいしいと食べていたものは兄上のてづくりだよ」
「えっ?!」
「カークリストさまはおかしづくりをされるんですか?」
思わず素っ頓狂な声がでたわたしの横で、フレーレも驚いている。
ついフレーレと顔を見合わせると、クーが得意げに説明してくれた。
「兄上のつくるおかしはせかいでいちばんおいしいんだ!」
嬉しそうに胸を張るクーの言葉が、ちょっと悔しい。わたしもそういう風にクーに言ってほしいし思われたい。
というか、あの人は! どこまで! 設定を盛るんだ!!
ちょっとした対抗意識が芽生えたわたしは、あとでセイラに相談しようと決めた。
わたしだって! ……多分! やろうと思えばお菓子もつくれるはず!
……前世では食べる専門だったけど!!
* * *
「お菓子作り、ですか?」
「ええ! やってみたいの!」
お茶会が終わって、与えられた客間に戻ったわたしはさっそくセイラに相談した。
セイラはぱちぱちと瞬きをしつつ、首を傾げる。
「ライラ様がする必要はないと思います」
「クーさまにふるまいたいの! カークさまもされているわ!」
「……宮殿の方に相談してみますが、恐らく許可はおりませんよ?」
念押しをするようにセイラにいわれても、わたしの意気込みが減ることはない。拳をにぎって大きく頷いた。
「きいてみてほしいの!」
「はい」
セイラは基本的にわたしのお願いを否定しない。今回も頷いてくれたセイラに「ありがとう!」とお礼を告げて、わたしはるんるんの気分でそのあとの勉強に臨んだのだった。
* * *
翌日、わたしは宮殿のシェフの前で食い下がっていた。厨房のド真ん前で。
「どうしただめなの?」
「許可できません。隣国の姫君が火傷をしたら国際問題です!」
お菓子作りは許可できない、セイラを通じて告げられた言葉に納得できなくて、わたしは直談判にきたのだ。
シェフの強い言葉にむむむ、と考え込む。確かにそうなのかもしれないけれど、わたしはどうしてもお菓子作りがしたい。
「火をつかわない作業だけでもいいの!」
「ダメです。どうかご自身の立場をお考え下さい」
「むぅ」
ぷうと頬を膨らませるわたしの後ろで、セイラがおろおろしている。
これ以上食い下がるのは、さすがに我儘がすぎてしまう。わたしはため息を一つ吐き出して、シェフに声をかけた。
「いつもごはんありがとう。あじつけをわたしたちのためにすこしかえてくれているときいたの。とってもおいしいわ」
「! 過分な誉め言葉です」
我儘を言って困らせたのだから、せめてお礼くらい伝えないと。
隣国のわたしたちの口に合わせて、フレーレたちと同じ料理でも少しだけ味付けを変えてくれている、というのはダレエルから聞いていた。
その際に、さすがプロ、器用なことができるなぁと思っていたのだ。
思っていたことは嘘ではないので、わたしの素直なお礼にシェフはきらきらと目を輝かせた。
「わがままをいってごめんなさい。きょうのばんごはんもたのしみにしているわ」
にこりと令嬢スマイルで微笑んで告げて、わたしは客間に戻ることにした。
あーあ! お菓子作りは公爵家に戻ってからお父様とお母様にお願いするしかなさそう!




