4話・息抜きとお買い物(2)
お店の中には、さまざまな商品が並んでいた。
煌びやかな商品を中心に案内されて、一つずつ説明を受ける。
子供受けを狙いつつ、メンバーが王族と皇族、公爵令嬢なので、少し背伸びしたものの説明も多い。
一通りの説明をしてもらって、その中でわたしが気になったのは、ショーケースのようにいっそう大切そうに飾られた宝石らしきものだった。
「これは……輝石?」
宝石に見えるけれど、多分違う。幼い頃から高級な宝石に触れて過ごした「ライラ」としての直感が告げるので、似たもので価値あるもの、という選択でそう口にした。
わたしの言葉にゼイラは「よくおわかりで!」と声をワントーン高くした。
「こちら、皇国でもっとも高名な輝石職人が作った最上クラスの輝石になります。色も透き通っていて美しく、どのような加工にも耐えうる強度です」
たしかに、飾られている輝石は窓からの光を受けてきらきらと輝いている。
ガーネットによく似た色合いの赤い輝石は、でもなんだかわたしには違和感があった。
「……?」
じぃっと輝石をみつめていると、ゼイラが嬉しそうに近寄ってくる。わたしが輝石を気に入ったと思ったのだろう。
「こちら、お求めになりますか? いまでしたら加工代はこちらで負担させていただきましょう。ネックレスにも髪飾りにもブローチにもできます。お持ちのドレスに合わせて加工させていただきますよ!」
わたしは違和感を口にしていいのか束の間迷って、静かに首を横に振った。
「いいえ、だいじょうぶよ。きになっただけなの、ごめんなさい」
「残念ではございますが、気になっていただけただけでも行幸でございます」
さすが高級商人。わたしの言葉に無為に食い下がることはせず、綺麗に話を終わらせた。
その後も宝飾品をいくつか見せてもらったけれど、結局どれもピンとくるものはなかった。
「ねえ、セイラはどう? なにかきになるものある?」
「私、ですか?」
一緒に、といいつつ商人がわたしたちだけを贔屓にしていたので、一歩下がったところでダレエンの隣に佇んでいたセイラに話を振る。
セイラは少し驚いたように目を開いてから、穏やかに笑った。最近やっとセイラが自然にみせてくれるようになった、嬉しげな笑み。
「私はライラ様が下さるものだけで充分です」
「うーん」
それならそれで、セイラになにか贈りたい。
でも、ここに並んでいるものはセイラにはちょっと高すぎる。
でも一方で、なにも買わないのも悪い気がする。
「そうだ! せっけんはある? 香りのいいものがいいわ」
「ございます。すぐにお持ちいたします」
石鹸ならきっと普段使いができるし、そうではなくと特別な日に少しだけ使って気分を上げることもできる。香りがよければなおさらだ。
わたしの言葉にゼラヒが素早く商品を並べだした。何でも置いてるなぁ。
「セイラ、なんのかおりがすき?」
「ライラ様」
「えんりょしないで。いつものおれいよ!」
にこにこと笑って私が促すとセイラはおずおずと「ライラ様が使われている、花の香りです」と答えてくれた。
でも、わたしが使っている石鹸のお花って、なんだったわからない。
「フラウラのかおりですね。わたくしもいいかおりだとおもっていました」
まさかのフレーレがズバリと当ててくれた。フレーレがいうならそうなのだろう。
フラウラってたまにデザートに出てくる、イチゴみたいな果実のはずだ。
わたし、そういう香りをまとっていたらしい。新発見である。
「あるかい?」
すかさずクーが横から口を挟んだ。ゼラヒが一つ頷く。
「もちろんでございます。こちらをどうぞ」
一番端に置かれていた石鹸を渡される。あ、本当にちょっとだけ違うかもしれないけど、たしかに同じ香りな気がする。石鹸自体もはなびらみたいに加工されていて可愛らしい。
セイラを手招きして香りを嗅がせてみると、セイラの表情が輝いた。
「ぜひ、こちらをいただくわ」
「畏まりました」
恭しく頭を下げたゼラヒがそのまま商品を包む。貴族の買い物なので、お金は後ほど別の人間が支払うのだ。
「クーさまとフレーレさまはどうされますか?」
「ぼくは……あそこの絵画がきになる」
「わたくしはいつも買っている商人ですから、だいじょうぶです」
わたしの買い物を見守ってくれていた二人に声をかけると、それぞれの返事があった。クーの言葉にゼラヒが嬉しそうに絵画のコーナーへと案内を始めた。
それについていきながら、わたしはそっとセイラの様子を伺う。セイラは心底嬉しそうに、渡された石鹸の入った包みを抱きしめていた。
そこまで喜ばれるとわたしも嬉しい。
「ライラさま、こんどつかわれているせっけんをおしえてください。まったくおなじものがほしいです」
「そんなにいいかおりだった?」
「はい、とっても」
にこにこと笑うフレーレにちょっと首を傾げつつ、あとでセイラより役職が上の身の回りの品を手配してくれているメイドに聞こうと決めた。
* * *
クーも気に入った絵画を二つ買い上げた。
その頃には良い時間で、買い物を終えてわたしたちは馬車で皇宮への帰路についている。
「そういえば、ライラは輝石のなにがきになっていたの?」
「そういえば、ずいぶんねっしんにごらんになっていましたね。どうされたのですか?」
クーとフレーレに尋ねられて、わたしはちょっと眉を寄せた。
馬車の中という他に人がいない空間なので口にしても問題はないだろうが、言語化が難しい。
「わたしはまえに王都できせきをいただいたのですが、それとくらべていわかんがあるな、とおもったの」
「いわかん?」
「はい」
クーの言葉に一つ頷く。クーは難しい顔で黙り込んでしまった。
フレーレがついで口を開く。
「ライラさま、その輝石はおもちですか? はいけんすることはできますか?」
「これです」
肌身離さず持っている輝石をポケットから取り出してフレーレに渡す。
フレーレは軽く目を見開いて、じいっと軌跡をみて柔らかく微笑んだ。
「こちらをおもちなのでしたら、さきほどのものはおとってみえたでしょう」
「どうして?」
疑問をそのまま口に出すと、フレーレは慎重な手つきでわたしに奇跡を返してくれたあと、解説してくれた。
「輝石のじゅんどがちがいます」
「じゅんど?」
「こめられた魔力をひっとうに、せいぞうのかていでふじゅんぶつがはいっていないのです。とてもうつくしい輝石ですわ。アスクウィス王家はとてもゆうしゅうな輝石職人をめしかかえていますね」
なるほど? わたしには違和感としか言えなかったけれど、そういう違いがあるのか。
納得して頷いていると、クーがなぜか自慢げに胸を張った。
「この輝石職人はライラがみつけてきたんだ」
「まあ、すばらしいさいのうです」
フレーレの手放しの賞賛に、ちょっと照れる。本当に偶然で狙って見抜いたわけではない。むしろ、見抜いたのは流れ的にクーのほうだった。
「だいじになさってください。きっとライラさまにとってひつようなものになります」
「はい!」
フレーレの助言に元気に返事を返して、輝石をポケットに仕舞う。もうちょっとちゃんと加工しなおして、身に着けてもいいものにしてもらおうかな。
いまのブローチの加工だと、公爵令嬢が身に着けるにはちょっと、といわれてしまうのだ。
ポケットの中のブローチの輝石の存在を感じながら、そんなことを考えるのだった。




