3話・息抜きとお買い物(1)
「ライラさま、クーリストさま、貴族街をさんさくしませんか?」
クラージュ皇国にお邪魔して二週間ほどが経った頃のお茶会の席で、フレーレにそう言われた。
わたしがきょとんと瞬きをすると、フレーレは両手を合わせてにこにこと笑う。
「おとうさまにね、ずっとおねがいしていたんです。わたくしひとりでは皇宮のそとにでるきょかがおりなかったんですが、ライラさまとクーリストさま、そして護衛をつれるのであれば、貴族街までならあそびにいってもいいといってくれたの」
ふわふわと心底嬉しそうに笑うフレーレの言葉に、わたしはぱっと笑顔になってクーへと視線を向けた。紅茶のカップをちょうどソーサーに置いたクーが少し難しい顔をしている。
「すてきね! クーさま、ぜひいきましょう!」
「そうだね。……まぁ、貴族街までなら問題もないと思う。ダレエルを筆頭に護衛を何人かつれていけばいい」
「セイラもいっしょでもいいですか?」
「ああ」
わたしが念のため問いかけると、クーは柔らかく微笑んだ。
最初こそセイラに対して問題発言もあったクーだが、二週間の旅を通してわたしの世話を甲斐甲斐しく焼いてくれたセイラに随分と心を許したようだった。
セイラは優秀だものね!
旅の間、わたしだけじゃなくてクーの支度を手伝ったりもしていたし!
わたしはみんなで出かけられるのが嬉しくて、にこにこと笑った。クーもフレーレも楽しそうにしていて、次の日に護衛をつれて貴族街を散策することになった。
歴史の都と呼ばれるクラージュ皇国の皇都はずっと気になっていたから、そういう意味でも嬉しい。
いつか、平民街とかにも遊びに行きたいな。
* * *
翌日、普段より少しだけグレードを落としたドレスに袖を通した。
皇都についてからメイドが調達してくれた、クラージュ皇国の貴族に紛れるための洋服だ。
エクスクレム王国とクラージュ皇国では当然ながら文化が違う。文化が違えば、ドレスといった服飾品の流行もやっぱり違う。
普段はエクスクレム王国の最新の流行りのドレスをあえて着ているのだが、本日は悪目立ちをするのを避けるためにクラージュ皇国の最新の流行のドレスに袖を通した。
エクスクレム王国の流行りのドレスより、少しだけ軽い布だ。多分、王都のいたるところに水路があって、涼しい王国より少しだけ皇都の方が気温が高いからかもしれない。気温の分、布が薄くなっているのだろう。
普段とはちょっとテイストの違うドレスに、鏡の前でくるりと回ってみる。
「可愛らしいですよ、ライラ様」
「ありがとう、セイラ! しんせんな服だわ!」
セイラの誉め言葉にお礼を口にして、鏡に映る自分をじいっと見つめた。
年頃の女の子なら宝飾品や化粧もするのだろうけれど、わたしの年齢だとまだそこまでしなくてもいい。
鏡の中には自分で言うのもなんだが、金髪にアメジストの瞳の美幼女がいて、ちょっと嬉しい。
「クーさまにもかわいいっていってもらえるかしら」
「もちろんです」
ぽつりと零した言葉に力強く頷いたセイラに少し笑って、わたしは支度が終わったからと待ち合わせ場所に向かうことにした。
* * *
「わぁ! すごいわ!!」
馬車に揺られて窓から貴族街を見る。エクスクレム王国とは全然違う街並みに胸を高鳴らせていると、クーとフレーレが小さく笑った。
ちなみにクーとフレーレには合流時にちゃんと褒めてもらった。
「たのしんでいただけて、うれしいです」
「ぼくも新鮮だよ。ふうけいをみているだけでもたのしいね」
そうやって雑談をしている間に目的地に着いた。今日の出掛け先は信用できる、という点が重要視されたため、貴族街に構えられたクラージュ皇家に代々商品を降ろしている高級商人の店だ。
ライラとして暮らすようになって、店に足を運ぶのはクーとわたしの婚約発表でお祭りが開かれたあの時以来である。
基本的に王族や公爵家には商人の方が商品を持ってきてくれるので、お店に行く機会がない。それはそれで「私」にはまだまだ新鮮なのだけど。
「つきましたよ。クーリスト殿下、ライラ様、フレーレ様」
馬車が止まって扉が開かれる。扉を開いたのは筆頭護衛のダレエスで、外にはセイラも待機していた。
セイラと一緒がいい、とはいったものの馬車までは身分が違うから、とダメだったのだ。
身分の違うメイドと一緒に買い物ができるだけでも、許容してくれたフレーレに感謝である。
「手を、ライラ」
「ありがとうございます、クーさま」
先に降りて手を差し出してくれたクーのいじらしさにときめきが止まらない。
わたしの! 婚約者が! かわいい!!
クーはわたしのあとに降りたフレーレにも手を貸していたが、嫉妬することはない。交友の一つだとわかっている。
「本日はようこそおいでくださいました。私、オードル商会会長のゼラヒ・オードルと申します。ぜひ、ご存分に楽しんでいかれてください」
店先まで出てきて出迎えてくれたゼラヒにひとつ微笑む。細長い印象を受ける、スラリとした人物だ。
だが、貴族とはまた違った油断ならない雰囲気が商人の気質を感じさせる。
「ありがとう、でむかえ感謝するよ」
クーが先に口を開いたのを確認して、わたしも口を開いた。
「とってもたのしみにしていました! きょうはよろしくおねがいします」
「ここの商家のしょうひんはとても品がいいんですよ、ライラさま」
「フレーレ様にお褒め頂き恐縮であります。ささ、店内へどうぞ。自慢の一品を集めてまいりました」
ぺこりと頭を下げたゼラヒが開けた扉をくぐる。お店の中はどんな感じかとわくわくしながら、わたしはクーと並んで扉をくぐった。




