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氷の王子様は死ぬ運命?!-異世界転生したので推しの運命変えてみせます-  作者: 久遠れん
第二章―異国への遊学―

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1話・遊学と再会

 アスクウィス王国からの遊学としてわたしとクーがクラージュ皇国に馬車で向かって二週間ほど。


 途中、適宜休憩や宿泊を挟みながら、国境を越えた。

 わたしはもちろんクーも国外を見るのは初めてだ。それどころか王都から出るのが初である。


 最初は馬車の旅と聞いて楽しかった気持ちも、丸一日馬車に揺られた頃には消えていた。


 だって! お尻が! 痛い!!


 馬車の中はお世辞にも長旅に向いているとは言えず、少しの移動なら快適だと思っていた王家の馬車ですら、身体が痛くなった。


 とはいえ、弱音は吐けない。

 元を辿ればこの遊学はわたしがきっかけで、クーはを巻き込んだようなものだから。


 ただ、疲労は顔に出ていたのだろう。

 お付きの侍女として一緒に旅をしていたセイラは随分私を労わってくれたし、クーもわたしの体調を気にかけてくれていた。


 クーの優しさに心がときめく以上にお尻のダメージが絶大だった、といえばどれだけお尻が辛かったか伝わる気がする。


 そんなわけで、道中、主にお尻を労わりながらの旅になってしまったけれど、どうにか二週間をかけてクラージュ皇国の皇都についた。


 我が国アスクウィス王国は王家が魔術の属性として「水」を権原しやすいことも合わさって、別名「水の都」と呼ばれるくらい、王都はいたるところに水路が張り巡らされている。


 一方でクラージュ皇国の皇都は古い建物が多かった。「歴史の都」と呼ばれるだけはある。

 でも、古臭い感じではなく、手入れが行き届いていて綺麗だ。日本でいう京都のような感じ。


「クーさま! すごいですね! たてものにすごく歴史をかんじます!」

「そうだね。……やっとライラが元気になってよかったよ」


 馬車の窓から見える景色にはしゃぐわたしに、クーが柔らかく微笑む。

 新緑の瞳が穏やかに細められて、愛おしいものを見る目で見つめられると、心臓がどくりと跳ねる。


 この旅の間に、こういう眼差しを何度も受けた。

 王都にいた頃には、ここまでわかりやすくはなかったように思う。

 わたしはどきどきと煩い心臓を抑えて、へらりと笑う。

 多分、鍛えられた令嬢スマイルで、擬音なら「にこり」になっていたと思いたい。


「ご心配をおかけしました」

「心配くらいしかできないのがもどかしいところだよ。皇都の宮殿についたら、まずは休ませてもらおう」

「いえ!そんなわけには!! 皇帝陛下にご挨拶をしなければ!」

「身体は辛くない?」

「だいじょうぶです!」


 にっこりと笑う。気丈に振る舞わなければ。

 遊学できた隣国の王子と婚約者が、皇帝陛下に挨拶もせず客室に引っ込んでは醜聞になる。


 クーだってそれはわかっているはずだ。それでも、わたしを優先してくれた。その気持ちだけで十分だ。


「もう少しでつきますね! クーさま!」


 にこにこと笑う。お尻は相変わらず痛いけれど、これからの日々が楽しみなのは本当だから、嘘の笑顔ではない。


 まあ、さすがに!

 皇帝陛下にご挨拶したら、丸一日はベッドで横になりたいけれど!



* * *



「ライラさま、クーリストさま、ようこそ我が国へいらっしゃいました」


 まっすぐに向かった宮殿の身支度を整えるための客間に、フレーレが顔を出してくれた。


 メイドがノックした扉をセイラが開けて入ってきたフレーレは、聖女に相応しい真っ白なドレスを着ていた。

 何枚も重ねられたレースのドレスがただでさえ美少女のフレーレを厳かに仕上げている。

 白雪のような髪の色と合わせて、フレーレは荘厳な空気を纏っていた。


 ドレスの裾を持ち上げて、優雅に淑女の礼をしたフレーレに、わたしはついてきてくれたメイドたちに旅の為の略装から皇帝陛下に挨拶するためのしっかりとしたドレスへと着替えさせてもらっていたので、同じくドレスの裾を持ち上げて一礼する。

 わたしの隣でクーも胸元に手を当てて、軽く頭を下げた。


「おひさしぶりです。おふたりがいらっしゃるのを、とてもたのしみにしていたんです」


 友好国の王子と姫、公爵令嬢としての挨拶が終われば、友人としての話に映っても問題ない。

 ふわふわとした口調で楽しげに笑うフレーレに、わたしもにこにこと笑う。


「わたしもです! フレーレさまにまた会えると思って楽しみにしていました!」

「僕もだよ。一年よろしくね、フレーレ」

「こちらこそよろしくお願いします、ライラさま。クーリストさま」


 ふわふわと笑うフレーレにわたしは小さく首を傾げる。

 少し悩んで、お節介かな、と思いつつもフレーレに忠告することにした。


「フレーレさま、わたしよりクーさまの名前を先に読んでくださいね」


 どう考えたって公爵令嬢より一国の王子の優先度の方が高い。たとえ、クーの王位継承権が低いとしても、だ。


 わたしの友人としての忠告に、フレーレは深海を思わせる藍色の瞳をまぁるく見開いた。


「ふふ、そうでしたね。ライラさま」


 ふわふわした返事に、少しだけ不安になる。

 だいじょうぶかな、わかってるかな。

 公の場でクーより先にわたしを呼ぶと、後で怒られるのはフレーレのほうなんだけど。


 不安げな顔をしたわたしのよこで、同じ意見なのかクーもまた険しい表情をしていた。



 * * *



「皇帝陛下! 御入来!!」


 皇帝の玉座で、わたしとクーは皇帝陛下を待っていた。

 わたしたちは客人だけど、偉いのは皇帝陛下なので、先に入場して待つ必要があったのだ。どこの国も形式を重んじることは変わらない。


 皇帝陛下と一緒に、フレーレとフレーレのお母様が入ってこられる。

 クラージュ皇国の皇帝陛下は、フレーレのお母様以外に妻は持っていない。側室はいないのだ。


 フレーレが将来聖女になる関係上、跡継ぎが必要なはずだけれど、それはわたしのような他国の人間が突っ込むべきことではない。


「初めまして、皇帝陛下。アスクウィス王家、第二王子のクーリスト・エイベル・アスクウィスです」

「初めまして、皇帝陛下。アスクウィス王家に連なる公爵家、アラベリア家の娘、ライラ・フォン・アラベリアと申します」


 自己紹介と共に一礼したわたしたちに皇帝陛下が静かに頷いたのが気配で伝わってきた。


「顔を上げよ。フレーレの件では随分と迷惑をかけた。穏便に取り計らってくれたこと、感謝している」

「もったいなきお言葉です」


 許可をえて、顔を上げる。礼の態勢から佇まいを直したわたしたちに、というよりクーをみて、皇帝陛下が声をかける。


「余も妻を愛する身。そこのアラベリアの娘の啖呵はフレーレより聞いている。そこまで言い切る婚約者を持ったこと、誇りに思うがいい」

「はい。私には過分な婚約者です」

「はは、卑下せぬか。よいよい、話が合いそうだ!」


 がはははは、と豪快に笑った皇帝陛下に、というよりクーの言葉にわたしの心臓が痛い。

 どきどきしている。心臓が高鳴って破裂しそうだ。


 わたしの婚約者がかっこいい! と大声で叫んで回りたい気分。


 顔を真っ赤にして、それでも俯くわけにはいかなくて、視線だって逸らせない。

 そんなわたしをみて、皇帝陛下がさらに楽しげに笑う。


「この国で過ごす一年、有意義に使ってくれればそれでよい。フレーレも時々勉学には帯同させる。同じ年頃で、次代を担う身だ。仲良くせよ」

「は」

「はい」


 鷹揚に笑う皇帝陛下に、わかりました、の意味を込めて軽く頭を下げる。

 それで、皇帝陛下への挨拶は終わった。面会中、フレーレがじいっとわたしを見ていたのがちょっと気になったけど、声をかける余裕がなかった。


 だって! お尻を筆頭に! 体中が! 痛くて!!

 

 というわけで、挨拶を終えて早々に部屋に引っ込んだわたしは、メイドの手を借りて式典用のドレスを脱いで、ベッドにダイブした。


 ここまでふかふかのベッドは公爵家を出て以来である。

 道中で宿泊した施設は王子と公爵令嬢をもてなすために最大限配慮されていたけれど、それでも限界はある。


 ふわふわの布団にうずもれて、わたしは大きな欠伸をした。

 ああ、今日はとってもよく眠れそう。


本日から第二章を連載していきます。

ぜひ読んでいただけたらうれしいです!

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