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2話・暗殺者に襲われまして(2)

 目を覚ました後、屋敷は上から下への大騒ぎだった。


 セイラはわたしの言葉通り、メイドが姿をみせる前にわたしを起こしてくれた。

 ただ、わたしがまだ意識の統合中でぼんやりとしていたから、メイドが慌てた様子で駆けつけてきた時も、わたしはぼんやりしていて、セイラはわたしが教えた通りの説明をメイドにしたらしい。


 急いで部屋に戻されて、セイラは別室に連れていかれた。

 ベッドに横にされて、お屋敷お抱えのお医者様に見てもらって、両親が顔を出した。


「ライラ、いったいどういうことなんだい?」


 厳格が服を着て歩いているようなお父様の声音は落ち着いているけど、厳しさを孕んでいる。

 わたしはようやく意識が少しずつはっきりしだしていて、あらかじめ用意していた答えを口にした。


「夜空がとてもきれいだったのです。お星さまを近くで見たくて」

「なら、執事かメイドを呼びなさい。一人で夜の庭にでるものではない」

「ごめんなさい」


 わたしが素直に謝るとお父様は眉間の皺をほぐすように指をあてて、ため息を吐き出した。


「あの、セイラという子供。屋敷のお抱えの騎士団の目をかいくぐってどうやって屋敷に忍び込んだのか」

「迷ったのだといっていました。大人に話しかけるのは怖くて、わたしを見かけて安心したと」

「……そういうことにしておこう」


 あ、これお父様気づいている。というか結構無茶だったよねぇ。

 わかってはいるんだけど、わたしの脳みそではこれが限界だよ。とりあえず、セイラにおとがめがいかないようにしなければ。


「ねぇ、お父様。わたし、誕生日プレゼントをまだ決めていなかったでしょう? ほしいものができました!」


 わたしがにっこり微笑んで言うと、お父様の表情が明らかに引きつった。

 何か言われる前にいっちゃえ!

 お父様は厳格ではあるが基本的にわたしにゲロ甘なので、押せ押せで行けば何とかなる!

 と、信じたい。


「セイラがほしいわ。あの子をわたし付きの侍女か遊び相手にしてください」


 ね、お願い。

 ぶりっこぶってみるために、両手を合わせて上目遣いでおねだりをする。

 お父様はじっとわたしをみたあと、深いため息を吐き出した。


「……お前は聡い子だからな。なにか理由があるのだろう?」


 昨日までは五歳にしては聡かったかもしれませんが。すでに中身は十六歳です。


「いいだろう。ただし、セイラという子に侍女教育を施した後からだ」

「はぁい」


 たしかになにも知識がないまま公爵家の侍女にはできないよなぁ。

 そこが妥協点だと察してわたしが大人しく頷くと、お父様はまだなにか言いたげにしていたけれど、結局それ以上言葉を重ねなかった。

 というか、お父様が口を開く前に部屋の扉がノックされた。


「旦那様、お嬢様。カークグリス様とクーリスト様がお越しです」

「?!」


 ま、ままままままって!!

 クーリスト?! クーリストって言った?!


 わたしが目をまんまるに見開いている間に、お父様がメイドに返事をして、扉が開かれる。


 そこには。

 そこ、には。


 『私』が恋焦がれた、クーリスト・エイベル・アスクウィスが、いた。


 ゲーム画面で見た時より、随分と幼い姿。

 でも、間違えるはずがない。あんなに焦がれた相手だ。


 さらりと揺れる銀糸の髪。宝石のようにキラキラ輝く翡翠の瞳。白皙の肌。

 銀色の髪はまだ短く、おかっぱに近い髪形で切りそろえられていて、艶やかな銀糸の髪が美しい。

 幼くとも整いすぎるほど整った容姿をもつ、『私』の恋する相手。


「ライラ嬢、お久しぶりです。倒れたと聞きまして、お見舞いにきました」


 そう告げて、綺麗な礼をとったのは、クーリストの隣にいた金髪碧眼の年上の男の子。

 金色の髪を短く切りそろえていて、太陽にあたってきらきら輝いて見える。


 この子もめちゃくちゃ容姿が整っている。

 でも、クーリストとはあんまり似ていない。どうでもいいことを思考した直後に、慌てて返事のために記憶をたどる。


 ええっと、ええっと。五歳の『ライラ』の記憶を総動員して考える。

 金髪碧眼はこの国では王族の証である。


 てことはこの人は王族で……あ! クーリストの兄の第一王位継承者のカークグリスですね?! ライラの婚約者第一候補の!


 えっ?! カークグリスが婚約者第一候補?!

 じゃあクーリストは?! わたしのクーなのに!!


 頭が大混乱している。お父様がなにか言っているけど、耳に入ってこない。

 わたしは慌ててベッドから飛び降りて、クーリストに駆け寄った。

 カークグリスが目を丸くしている一方でクーリストの表情は変わらない。


 でも、わたしはお父様の驚いた声を右から左に聞き流し、クーリストの正面で足を止めると、クーリストの両手を握り締めた。


「お慕いしています! クーリストさま!!」


 大好きです、クー! が、お嬢様言葉にとっさに変換された。


 わたしの突然の告白劇に、クーリストが幼さゆえにまだ大きな瞳をこぼれんばかりに見開いて、隣に立っていたカークグリスが笑いだして、お父様の絶叫が屋敷に響いた。

 混沌、ここに極まれり!

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