18.僕、本当に生まれてきても良かったの?
いつも父上の顔色をうかがっていたような気がする。機嫌が良いかどうかをうかがっていたんじゃなくて、怖かったんだ。母の面影を追い求め、私の顔を覗き込む時、シワが刻まれた顔が嬉しそうに、でも、どこか淋しそうに微笑んだ。そんな顔をすると、目元の落ち窪みが余計に目立つ。父の顔は日に日に衰えて、時折「マルティナ、早く会いたい……」と呟く。
怖かったんだ、父が今にも亡くなってしまいそうで。怖かったんだ、まだ何も言えていないのに、冷たい骸となって、返事をしてくれないような気がして。怖かったんだ。
自分が生まれてきても良かった存在なのか、この顔が父を苦しめてはいないだろうかとか、母がどんな人だったのか、どうして肖像画を全部焼いてしまったんだろうとか、寂しいだとか身の置き場がないとか、本当にここにいてもいいんだろうかとか、上手く言語化出来ない苦しみが常にあって、それを素直に伝えていいのかどうかすら分からなかった。
でも、父に聞いてみたかった。本当は「大丈夫だよ」と言って、頭を撫でて欲しかったのかもしれない。
「父上……」
「ああ、ごめん。アルフィー。急ぎの用事が入ったんだ。ほら、お前も会ったことがあるだろう? キャロラインの具合がどうも悪いみたいで」
その日、父の腹違いの妹が亡くなった。森へピクニックに行くどころじゃなくて、父は慌てて城を飛び出して行った。以前から約束していたのに、あっさり行ってしまった。当時、十歳だった私は拗ねて部屋に閉じこもった。兄が来ると知っていたから。食事も摂らずに、ベッドの上で膝を抱えていると、予想通りすぐにやって来た。音もなく扉が開き、寒いのか、白いケーブル編みのカーディガンを着込んだ兄が顔を出す。
「アルフィー? ……こんなに寒いのに。どうした? まだ拗ねているのか」
「放っておいてください、分かってますから」
そうだ、分かっている。父がわざと約束を反故にした訳じゃないということも、父が自分を気にかけていない訳じゃないということも、全部全部分かっている。でも、つらかった。冬の寒い森の奥深くを進んで行き、こんこんと清らかな水が湧き出る泉を通り過ぎると、それまで、ちらほらと雪が舞い落ちていた森が一瞬にして変わり、暖かい春の空気と降りしきる花びらに包まれるという、王族しか行けない“とこしえの春の森”に行ってみたかった。その近くで父と母が出会い、ひっそりと二人で冬の森を歩き、春のピクニックを楽しんだそうだ。
だから、私はそこに行ってみたかった。父と二人でそこへ行けば、普段はタブー視されている母のことが聞けるような気がして。聞きたかったんだ、そこで。本当にこれで良かったのかとか、お酒や煙草をやめる気は無いのかだとか、もう少し休む気は無いのかとか……。父が死んでしまいそうで怖かった。年々、痩せて骨が浮き出てくるのがおそろしかった。
膝に頭を押し付けて、顔を隠していると、兄が近くまでやって来た。ベッドがぎしりと軋み、座ったということが分かる。明かりがついていない部屋は薄暗くて、寒くて、暖炉の火だけが暖かく揺らいでいたけど、手も足も冷え切っていた。寒い。歯が鳴ってしまいそうだ。兄は隣に腰かけ、何も話そうとしない。沈黙に耐え切れず、私から口を開いた。
「本当は……春の森にいたはずなのに。今日は」
「だな。空気が読めないばあさんだ、よりにもよって今日死ぬだなんて」
「兄上……」
私を見つめる、忌々しそうな青い瞳。父とキャロライン叔母様は仲が良かった。でも、憧れの兄が得体の知れない女に現を抜かして、今でも落ち込んでいるのが気に食わなかったらしい。父がいなくなるとすぐに、「忌々しい子。お前なんか私の甥っ子じゃない!」と言って、酷い時は熱い紅茶を浴びせてきた。すぐに兄が激昂した。持病のリウマチが苦しいらしく、叔母は情緒不安定で泣き喚く時もあった。
「この子が悪いんだ、この子が!! お兄様だって、この子がいなきゃとっくの昔に戻っていたのに!」
今思えば、若年性の認知症も患っていたかもしれない。大騒ぎしたあと、泣きつかれて寝室にこもることも多々あった。父は決まって、そんな妹の肩を持った。
「キャロラインも病気でつらいんだよ、アルフィー。本当はあんな性格じゃないんだ。でも、ごめんよ? 怖かっただろう」
「は? あのばあさんは昔からあんな性格ですよ。父上の前では猫を被っているだけです。今後、そんな寝ぼけたことを言うのなら、二度とアルフィーには会わせません」
「どうしてだ!? ギルバート、お前はこの子の母親じゃないだろう!?」
「私はマルティナ夫人から、アルフィーを任されているんです。いくら父上とは言えども、アルフィーの害になるのなら排除します」
「そ、そんな……!!」
慌てて謝ってくれたが、心は晴れなかった。その後、一月ほど父と兄がぎくしゃくしていた。私はというと、胸の中にある錘が徐々に重たさを増して、息苦しさを感じるようになっていた。払っても払ってもまとわりつく、“自分はいらない存在じゃないのか”という強い思い。やがて、兄も私から離れていった。弟とも上手くいかなくなった。妹のオーレリアだけが、変わらず傍にいてくれたが、一緒にいて落ち着く存在とは言いがたく、王太子の毒殺事件があってから、ますます居場所が無くなってしまった。
「そろそろ、アルフレッド殿下も気が合いそうな女性を探さなくてはいけませんね」
「よしてくれ、ルイ。私は一生、兄上の補佐に徹していたいんだ」
「そうは言っても、王妃様に子供が生まれなかったらどうなさるおつもりですか? もしも万が一、アルフレッド様が王位を継ぐとなった時に、支えてくれるような女性が傍にいないとなると……」
「やめてくれ、考えたくもない。それに兄上なら大丈夫だ。他の女性を迎えて側室になさるだろう、現にそう言っていた」
「ならいいんですけど。でも、アルフレッド殿下の幸せは?」
「えっ?」
幸せ? なろうと思ったことがない。いや、なれると思ったことがない。幸せ。それをじっくり味わったことが無いから、どういうものかすらよく分からない。唯一、幸せだと思った瞬間は、いらない存在である私を一心に慕ってくれた、王太子のユリシーズと一緒にいる時だけ────……。ぐっと、羽根ペンを握る手に力が入る。
(っああ、だめだ、だめだ! あの子の死に顔を思い出す。やめよう、やめよう! あの時私がお茶に誘わなければ、いや、代わりに食べて死んでいれば)
自分でそう考え、背筋がぞっとする。自殺する気なんて無いのに、ふと、あの子と同じ場所に行った方がいいんじゃないかという気持ちが浮上する。王城には暗雲のような、重たい空気が立ち込めていた。誰も彼もが私を疑っている。望んだことなんてない王位を望み、実の甥を毒殺した男だと思われている。くらりと軽いめまいがした。視界が霞んでゆく。
(……母上、どうして会ったこともない私のために死のうとお考えになったんですか?)
私に宛てて、遺された手紙にそう書いてあった。体の弱い私が出産に耐えられる訳がありません。でも、本望です。ずっとずっと子供が欲しかった。でも、諦めていた。だけど、陛下が私の夢を叶えてくださった。王妃様や他の女性を差し置いて、私だけ陛下を独占するのは気が引けたけど、とても幸せでした。アルフレッド。その名前を呼ぶことは無いのかもしれないけど、私と陛下が考えた名前です。あの人が「ようやく息子を持てるような気がする」と、嬉しそうに言っているのを聞いて、胸が締め付けられました。
ギルバート殿下はすごく優しい方です。一見冷たそうに見えるけど、本当は優しい方でいつも私を慰めてくださいました。ごめんなさい、アルフレッド。言いたいことが上手くまとまらないけど、私が死んでしまったとしても、どうかどうかお願いだから気にしないで。本当は抱っこしてあげたかったけど、つらい時、頭を撫でてあげたかったけど、きっと無理です。ごめんね、弱いお母様を許してね。でも、自分の命よりあなたの方が大事です。何があっても生きていて欲しい。陛下とギルバート殿下を助けてあげてね。
それから、あなたが私のように気を許せて、一緒にいると幸せになれる相手と巡り会えて、幸せになれますように。それだけを願っています。あなたがお腹に宿ったと知った瞬間、本当に嬉しかった。あの時、私は一生分の幸せを貰いました。だって、お医者様からは妊娠出来ない体だって言われていたから。だから、生まれてきてくれてありがとう、アルフレッド。愛してる。
こんな手紙を読めば、死のうという気は起きなかった。どんなに苦しくても、生きていくしかないと思った。母の死と引き換えに生まれた子供。自分の中にそんな意識が強く根付いていて、ユリシーズが亡くなった今、改めて生まれてきて良かったんだろうかと思う。だから、そんな考えを振り払うためにも、仕事に打ち込んでいた。夜通し手紙の返事を書き、苦手なスピーチを引き受け、被災地や病院にも積極的に足を運んだ。つらかった。周りからは「もう少し休んだ方が」と言われたが、無視して休日も働き続けた。
「忙しければ忙しいほど、あの子の死に顔を忘れられるような気がしたんだ……」
ユリシーズが苦しみ、もがきながら亡くなった時、絶叫した。自分の喉からあんな音が出るとは思っていなかった。愛らしい顔が苦悶の表情で凍りつき、死んでいった。あれほど苦しいことはきっともう、起きないだろう。死ぬまで。そう本気で思ってしまうぐらい、苦しくて苦しくて、この苦しみをどうやって逃がしたら良いんだろう? どうやって耐えたらいいんだろうと思い、仕事に打ち込んでいた。四年が経っても傷は鈍く痛み、たまに膿が出てくるかのように、時折鮮明に思い出し、悪夢を見て、その度に自分が死ねば良かったんだと思うようになった。
母が遺してくれた手紙も、茨となって心に絡みつく。いつかあなたが、一緒にいて幸せだと思う相手と巡り会えて、幸せになれますように。母の唯一の願いはそれで、二十八年たった今でも叶えられない。母に向ける顔がない。申し訳ない。
「幸せになれなくて申し訳ありませんと、泣きながら眠ったこともある。……今は幸せだが、あの当時の私にとって幸せとはファンタジーだった。本や誰かの中にしか存在しないもの、それが幸せだったんだ」
だから、すっかり諦めていた。幸せになれずとも構わない。どうせこんな生活を続けていたら、いずれは早死にするだろう。ひっそりと死んで、すぐに誰からも忘れ去られる。王が素性の知れない女を連れて帰って、生ませた子供なんか誰にも必要とされない。すぐに忘れ去られる、誰からも愛されないし、かえりみられることもない。
「母は無駄死にだったんだ。病んでいたんだろうなぁ、あの時の私は。そんなことをひたすら心の中で呟きながら、城の中庭を歩き回ったこともある」
母の願いを叶えることも出来ず、国にも貢献出来ない。税金の無駄遣いだ。どうして生きているんだろう? さっさと死ねば良いのに。自傷行為を繰り返すかのように、仕事に打ち込んだ。そんなある日のこと、ルイの声が耳に飛び込んできた。
「殿下ぁーっ!! ほらっ、殿下の好きなウサギちゃんですよ!? もふもふ好きですよね!?」
「……もふもふだと?」
見ると、確かにもふもふしているんだろうなと思わせる、柔らかな茶色い垂れ耳を持った女性が立っていた。どこか心配しているような、戸惑ったような表情を浮かべ、こちらを見つめていた。澄んだグリーンの瞳は吸い込まれそうで、美しかった。それに、私を見つめる眼差しが優しかった。母がいたらこんな感じだろうかと無意識に思ったが、決して君を母親扱いしている訳じゃない。そこのところはちゃんと分かって欲しい。
ふと目を覚ませば、腕の中にウサギがいた。硬直してしまった。あの可愛らしいご令嬢はどこに行ったんだろう? それとも私の夢か? 思い出そうとすれば思い出そうとするほど、残っていた僅かな記憶が解けて消えていった。それを掴むことも出来ず、ベッドから体を起こした。
「……えっ!? なんで起きたらこんな……可愛いもふもふちゃんがここに!?」
「殿下……覚えてらっしゃらないのですね? 強引に私を、部屋に引き摺り込んだというのに?」
「ええええっ……? そんなまさか、私が? どこかの森で拾ってきて? いいや、流石にそこまで毛皮に飢えていたつもりは……!!」
彼女が現れてからの毎日は本当に楽しかった。初めてだった、自分を全肯定して貰えたのは。“そんなよわよわなところが好き!”という言葉に、どれだけ救われたことか。今まで病んできたことも、苦しかった過去も全部含めて、好きになって貰えたような気がして、「ああ、頑張って乗り越えてきて良かった」と、寝る前、ふと無意識に呟いたこともある。
「私だってピアノは得意じゃありません、刺繍だって上手く出来ません。絵を描く時間も苦手で……キーってなって、ウサギの姿でじたばた寝転がる時だってあります」
「なにそれ、可愛いな……」
「だか、だから! 殿下もあまりご自分を責めないでください。私はなでなでが上手な貴方が素敵だなと思うし、だめだとはちっとも思いません! 殿下は思いますか? 淑女らしいことが苦手な私がだめだなぁって」
「いいや? ちっとも。優しいし、君はこんなにも素敵な毛皮を持っているし」
「そっくりそのままお返ししますね、殿下。貴方は心優しいし、毎日ちゃんとお仕事が出来ている方です。えらいっ!」
「わっ……」
そう言って、顔にふわんと体を押し付けられた時、涙が出るほど嬉しかった。鼻息荒く、自分の体をぐいぐいと、押し付けてくる彼女を見て、思わず笑ってしまった。
「その時に、ああ、この人だと思ったんだよ。ロッティ。結婚して毎日一緒にいたいってそう思ったんだ」
「なるほど! じゃあ、私の毛皮がアルフレッド様の心を射止めたということですね……!?」
「うーん、違うなぁ。頑張らなくてもいいよ、色々と上手く出来ないあなただから好きって、そう言われて感動したんだ。そんなことを言ってくれる人と毎日一緒に過ごせたら、どんなに幸せなんだろうって思ったんだ」
「ふぉふっ!?」
真っ赤な生地に白いフリルがついたボンネットをかぶり、赤いフリルドレスを着たシャーロットを抱き締めると、恥ずかしそうにもじもじと身じろぎし始めた。ついつい笑ってしまう。
「ああ、でも、ドレスのフリルがかさばっていて、毛皮が感じられないなぁ……」
「あとで脱いで裸になりますね! それで、悲しい思いを沢山したアルフレッド様をたっぷり慰めます、この私のむちむち毛皮でっ!」
「ご機嫌だね? ロッティ。可愛い~」
「ふふふ、森に行くのが楽しみなんです! ふふふ~」
くふくふと鳴きながら、毛皮を膨らませる。ああ、可愛い。馬車の窓を見つめれば、よく手入れされた雑木林が通り過ぎてゆく。……あの時、死ななくて良かった。ユリシーズが亡くなった時に、自分だけが生きて幸せになろうと足掻くなんてと思ったが、シャーロットから「大好きな叔父様って言ってたんでしょう? 私が王太子様なら気にせず、生きて幸せになって欲しいなって思うんですけど!」と言われ、はっとさせられた。そうだ、ユリシーズはそんなことを言うような子じゃない。
いつまでも私が罪悪感に苛まれていたら、ユリシーズもゆっくり眠れないだろう。改めて一人で墓へ赴き、大好きだった白百合を供えた。お母様の花だから好きなのと、生前そう言っていたから。その日の晩、白百合を抱えたユリシーズが夢に出てきて、笑顔で「叔父様、ありがとう!」と言ってくれた。夢だけど、起きてからふっと心が軽くなった。そうだ、これでいいんだ。生きられなかったあの子の分までちゃんと生きて、花やお菓子を供えてあげよう。ひとしきり泣いてようやく、重苦しい過去から解放された。
「ロッティ……本当に君のおかげなんだよ。ありがとう、私のことを幸せにしてくれて」
「ええっ? 違いますよ? アルフレッド様がいーっぱい、いっぱい頑張ったからですよ? だって、諦めていたら私のことを遠ざけていたかもしれないし!」
「いや、それは絶対にないと思うな。君がお腹を向けたら、どんな人間だって陥落する」
「それは言えてますね……触ります?」
「ぎゃんわいいっ!! ありがとう、ありがとう!!」
膝の上でお腹をころりんと向けながら、うっとりと目を細める。すかさず、黒いフロックコートのポケットから、りんごチップスを取り出し、ふわふわなYの字の口に添えると、すぐに食べてくれた。良かった、もう薬を盛られると疑ってはいないらしい。可愛く前足をりんごチップスに添え、ぱりぱりと音を立てながら食べてゆく。ああ、可愛い! このポーズもしっとりふわふわ感もたまらない! 薬の影響がまだ残っているのか、無性にもふもふしたい気分だった。笑ってお腹を撫でていると、おやつを食べ終えたシャーロットが甘えて、ぷうぷうと鳴き始める。
「私、本当にいい婚約者を捕まえることが出来て嬉しいです……!! アルフレッド様は私に救われたって言うけど、本当は私が救われているんですよ?」
「そうなんだ? 良かった、何もしていないんだけど」
「もーっ! アルフレッド様は自己評価が低すぎです! ちゃんと修正してください! アルフレッド様みたいに良い男性、他にはいませんよ!?」
「分かった、ありがとう」
可愛い。彼女の言葉はどれも、冷えた胃に染み渡ってゆく温かいスープのようだ。しみじみと両目を閉じ、過去の自分に思いを馳せる。馬車の中はあちこち冷え切ってしまうぐらい、寒かったが、膝に抱いたぬくもりがあるおかげで、寒いとは感じなかった。きっとこの先、どれほどつらく、苦しいことがあったとしても、陽だまりの中で生まれたような、もふもふな彼女がいるから大丈夫だろう。つらい日々の中で、凍えて死んでしまうようなことはない。優しく抱き締めれば、そのぬくもりに胸が苦しくなった。
「ああ、ロッティが死んだらどうしよう? 生きていけない……」
「大丈夫です! 私はまだ若いし、アルフレッド様の方が年上だし、ちゃんと看取ってあげますよ? 将来!」
「頑張って長生きしてくれ!! ウサギの獣人は寿命が短いって聞くから、不安で不安で……」
彼女がいなくなったら、またあの日々に逆戻りだ。それだけはどうしても嫌だ。どうかどうか、彼女が少しでも長く生きて、私を看取ってくれますように。めそめそと泣きながら、ふわふわな体にすがっていると、勇ましく「ふんっ!」と鼻を鳴らした。
「私がアルフレッド様を置いて死ぬと思いますか? 大丈夫ですよ、決して寂しい思いはさせませんからね! 何が何でも長生きしますからね? 安心してくださいね?」
「あ、ありがとう、ロッティ……!! 信じてるよ、ぜひ長生きしてくれ!」
でも、なるべくそういうことは考えないようにしよう。ちゃんと今を楽しもう。馬車の車輪ががらがらと音を立て、徐々に、あまり舗装されていない道を走るようになって数十分が過ぎたあと、膝の上のシャーロットがはしゃいだ声を上げる。
「あっ、ほら見てください! もうそろそろですかね!? 景色が森! って感じになってきましたよ? わ~、この辺りは雪が溶けてない! 積もってる!」




