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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第三章 ただ幸せな結末へと向かって
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17.私の体に夢中になる薬を飲ませた結果

 




「は~、癒される。死ぬかと思った! ごめんよ、ロッティ? もう二度としないからね……」


 すりすりと、紺色のスーツを着たアルフレッド様が、私の毛皮に頬擦りしながら息を深く吐き出した。でも、牧草が美味しすぎて慰めれない! うーん、久々に食べると美味しい。この外に生えていた草ならではの青臭さと、瑞々しい食感がたまりません。ぱりぱりと、アルフレッド様の部屋に咀嚼(そしゃく)音が響き渡る。内装がこの間来た時とは変わっていて、青い海と帆船柄の絨毯、金の植物柄の中に、可愛いウサギちゃんが隠れている壁紙になっていた。それを見てにまにま笑っていると、アルフレッド様が急に、毛皮から顔を上げた。目の前のテーブルには牧草の他に、果物がぎっしり詰まった木籠が置いてある。


「美味しい? ロッティ。食べてる音がまた可愛いね……!!」

「お義姉様やローランド叔父様にも好評なんですよ! 揃って食べれる時は私だけ牧草を食べてます」

「そ、そっか。悲しくならない?」

「いいえ、ちっとも! テーブルの上で食べてるだけで、皆さんに可愛い~! って言って貰えるので。たまに、サービスでお腹も向けてあげてるんですよ? えらいでしょう?」

「えらいね~! まあ、ロッティが嫌じゃないのなら良かった」

「獣人の中には、動物の要素を色濃く残した種族なんだから、そのままの姿の草や果物、お肉を食べるべきであり、スパイスやソースで味つけされた料理を食べるべきじゃないっていう、自然派の方もいるのですが……」

「そ、そうなんだ? 知らなかった」

「でも、私は人間用の食事が美味しいので、そっちを食べていたいです! まあ、たまには健康のためにも、採りたての牧草や生の果物を食べようかなと思って食べてます。だから悲しくならないし、食べるべきヘルシーメニューなんですよ? 牧草は!」

「可愛い~!!」

「聞いてますか? 私の話……」


 もふもふ断ちの影響なのか、見上げただけでぎゅうっと強く、抱き締められてしまった。も~、アルフレッド様ってば! 部屋に入ってすぐ、私のドレスを脱がせて、ころんっとソファーに引っくり返してから、お腹ふがふがをしてきたし、相当飢えてるみたい? でも、気にせずに牧草を食べる。


「は~、可愛い。この三日間本当に辛かったよ、ロッティ……!!」

「今度、また余計なことをしたら一週間禁止にしますからね!?」

「分かった……。その、どうしても薬は飲まなきゃだめなのかな?」

「えっ!? 私に飲ませておいて、アルフレッド様は飲みたくないって言うんですか!? ええーっ!?」

「うっ! ご、ごめん……。でも、せめてどういう薬を飲むかぐらい、教えてくれたって」

「内緒でぇ~す! それも含めての罰ですからね? 分かってます?」

「分かった、ごめん。覚悟を決めて飲むよ」


 テーブルの上には木籠の他に、青いガラス瓶が置いてある。それをアルフレッド様が見つめ、複雑そうな顔をしていた。でも、とりあえず果物が食べたい!


「アルフレッド様? 次はりんごが食べたいです、りんごが! むいて食べさせてくださいっ」

「分かったよ。ええっと、ごめんね? 膝からおろすけど大丈夫?」

「えっ? お膝の上にいたいんですけど、だめですか……?」

「だめじゃないよ!? だめじゃないんだが、ほら、皮が落ちてきたりするかもしれないから……。果汁で、毛皮がべたべたになったりするかもしれないし」

「そうなったら、アルフレッド様に拭いて貰うので大丈夫ですよ?」

「っはは、分かった分かった。それじゃあ、汚れたら拭こうか。えーっと、ナイフナイフ」


 アルフレッド様が腕を伸ばし、果物ナイフとりんごを手に取った。それから、思わぬ器用さでしゅるしゅると、真っ赤な皮をむいてゆく。瑞々しくて美味しそうだった。ほんわり漂う、甘酸っぱいりんごの香りとアルフレッド様の匂い、そして、足の裏から伝わってくる体温。嬉しくなってついつい、垂れてきたりんごの皮にじゃれついてしまった。


「ていっ! ていっ!」

「ああっ、だめだよ? ロッティ! 怪我するかもしれないから」

「目の前で揺れているのを見ると、ついじゃれつきたくなっちゃうんです……」

「可愛い~! でも、あとでね? ナイフを持ってるしって、あっ! こらこら、だめだよ~」


 無視してりんごの皮に齧りつき、ぐいぐい引っ張っていると、笑いながらたしなめてきた。アルフレッド様がりんごとナイフを持ち上げ、苦笑する。


「こーら! ロッティ? これじゃいつまで経ってもむけないだろう? 早く食べさせてあげたいのに」

「もうりんごの皮がついたままでいいですよ! くださいっ」

「でも、お腹に悪いんじゃないのかな……? 皮を食べさせすぎちゃだめだって、ウサギの飼育本にそう書いてあったし」

「私はウサギちゃんじゃありませんからね? いくらこの可愛い姿をしていても、人間ですから!」

「ならいっか。ちょっと待ってて」

「はーい!」


 アルフレッド様が丁寧にりんごから、真っ赤な皮を切り離したあと、ナイフで果肉を薄く剥ぎ、笑顔で「はい、あーん」と言ってくれた。私が喜んで、りんごをしゃりしゃりと噛み締めれば、急いでハンカチを取り出し、きちんと手を拭いてから、私の頭を優しく撫でてくる。


「は~、可愛い。美味しいかな?」

「美味しいれふ! それにしても、アルフレッド様って本当に完壁な王子様ですよね! 優しくて素敵な」

「そ、そうかな? でも、そう言って貰えるのは嬉しいよ。ありがとう」

「はい! こうしてりんごの皮をむいてくれたし、牧草もわざわざ摘んできてくれたし、完壁な婚約者ですよね……!!」

「っぶふ、ま、まあ、ロッティが嬉しいのなら良かった。可愛い~」


 どうしてか、肩を揺らしながら幸せそうに笑って、私のことを抱き締める。ああ、こうやってる時が一番幸せ!


「りんごは甘酸っぱくて美味しいし……って、あ! 大丈夫ですからね? アルフレッド様もちゃんと食べてくださいね!?」

「でも、君へのお詫びで持って来たものだし、好きに食べていいんだよ?」

「ちょっと流石に、この量は食べ切れませんから……。ベッドの下に貯蔵しておいてもいいんですが」

「ベッドの下に貯蔵を……?」

「はい! 冬の間は食べ残しをそうやって貯蔵するんですよ。そうじゃなくて、ええっと、アルフレッド様と一緒にりんごが食べたいのですが」

「じゃあ、貰おうかな」


 アルフレッド様が笑いながら、今度は大きくりんごを削り取った。でも、それを見ていてふと思いつく。


「ねえ、アルフレッド様? やっぱりください、それ!」

「ん? いいよ、どうぞ。見てたら欲しくなっちゃったのかな?」


 差し出されたりんごをくわえ、食べずにアルフレッド様のことを見上げる。し、しまった! 私ってば! りんごをくわえる前に「私が食べさせてあげますよ!」って言うつもりだったのに……。仕方ないので、くわえたままで話す。


「ふぁいっ! ろーろ! はべさへへあげまふよっ!」

「えっ? えーっと、よ、よく分からないけど食べたらいいのかな? ……可愛い!!」


 数秒経ってから認識出来たみたいで、嬉しそうな顔をしつつ、私のくわえたりんごを食べて、しっかりよく噛んで飲み込む。そのあと、残ったりんごを食べ進め、私のふわふわな口にぺったりと、くちびるを押し当ててキスしてきた。何故かアルフレッド様が震え、また嬉しそうに笑う。


「可愛い~!! 天才だな、ロッティ。もう一回しようか!」

「いいですね! りんごの次は牧草でします?」

「んっ、ん~……りんごがまだ残ってるし、食べ終わってから考えようかな」

「はい、分かりました! お義姉様やヴィーとはいつもしてるんですよ~」

「じゃあ、私もすべきだな。二人には負けたくない」

「勝ち負けの話なんでしょうか……?」


 よく分からないけど、急に覚悟が決まった顔になる。でも、そっか。人間からしたらひょっとして、牧草って美味しくないのかも? 


「たまに私、こってりしたスコーンやお魚を食べたあと、お口直しに牧草を食べたりするんですが、これをすると胃がすっきりするんですよ! アルフレッド様はそうやって牧草を食べたりしないんですか? 牧草をすすめるの、迷惑でしたか……?」

「いいや? ちっとも! そうだな……。私もつい最近、ステーキを食べたあとその、胃もたれしてしまったから、牧草を食べて治したんだ」

「良かった~! お義姉様もたまにそうしてるんですよ~、一緒ですねえ!」

「クリスティーナ嬢もそうしているのか……」


 がっくりとうなだれ、アルフレッド様が溜め息を吐く。あれ? ローランド叔父様と同じ反応をしてる。でも、私がさかんに首を傾げていたら、目が合い、すぐさまぎゅっと抱き締めてきた。


「可愛い~! じゃあ、りんごをそうやって食べよっか!」

「はい! も~、今日はすごくいちゃいちゃしたい気分なんですね? アルフレッド様ってば!」

「いちゃいちゃ……? ああ、まぁ、そんな気分かな!」


 アルフレッド様が素敵な笑顔を浮かべて、私のふわふわな頬にキスしてくれる。それから何度も、二人でりんごを食べたあとにキスした。


「じゃあ、最後は牧草ですね? どうぞ~!」

「ロッティ? ドライパイナップルもあるんだし、そっちにしてみないか……?」

「でも、りんごが結構甘かったので、最後に牧草を食べると口の中がすっきりしますよ? これも健康のためです! はい、どーぞっ」


 私が牧草を三本ほどくわえ、期待しながら見上げてみると、儚げな微笑みを浮かべたのち、消え入りそうな声で「ありがとう。じゃあ、貰おうかな……」と呟いた。もひもひと、鼻先を動かしながら食べ進め、最後にはちゅんって、アルフレッド様のくちびるにキスしてみる。アルフレッド様にとって、牧草は胃薬的な存在だったらしく、食べている最中は無表情だったけど、キスした瞬間、顔がぱぁっと「輝いた。すぐに私を抱き上げ、もふもふし始める。


「あ~……!! 可愛い! ちょっと牧草臭いところも可愛いよ、ロッティ!」

「まあ、仕方ないですよねえ。牧草を食べたら匂っちゃうのは……。でも、可愛いって言って貰えてほっとしました。ありがとうございます!」

「そこがいいんだよ、可愛いんだよ!! は~、たまらない!」

「そうなんですか? アルフレッド様ってちょっと変わってますよね……」

「可愛い……!!」


 聞いてない。この状態で、私の体に夢中になる薬を飲ませたら、一体どうなってしまうの……!? ふがふがと鼻息荒く、アルフレッド様が私の毛皮を嗅ぎ出した。このあと大抵、「は~、可愛い! 可愛い!」と連呼しながら、私の毛皮を吸い出す。本当はむわっと、毛皮が熱く湿るのが嫌だからやめて欲しいんだけど、特別に許してあげてる。でも、そうなる前に止めないと!


「アルフレッド様? 私の体を楽しむ前に、するべきことがあるでしょう!?」

「ええっと、薬のことかな? もちろん、飲むつもりではいるんだけど、もう少しだけ君の毛皮を堪能してたいなって」

「だめです! また禁止しちゃいますよ!?」

「それは困る! 死ぬ」

「でしょう? なら飲んでください! ささ、ぐいっと」

「う、分かった……」


 アルフレッド様がしぶしぶ、青いガラス瓶を手に取った。透き通ったガラス瓶の中には、青紫色の液体が揺らいでいる。覚悟を決め、アルフレッド様が慎重に蓋を外した。飲もうとして、くちびるを瓶につけようとした瞬間、こちらを振り返る。


「ロッティ? どういう薬か教えて欲しいんだけど……」

「えっ? 私は教えて貰えなかったんですけど? 薬ということすら知らずに、はしゃいでラズベリーシャーベットを全部食べたんですけど!?」

「ご、ごめん! 許してくれっ!」


 まるで毒薬をあおるかのように、アルフレッド様が一気に飲み干した。喉ぼとけが動いて、ごっ、ごっと怪しげな薬を飲み干してゆく。つい、にやにや笑っちゃった。


(ふふふ……これでアルフレッド様が私から離れていかない! もっとしっとり毛皮だって褒めて貰える!)


 最近はやたらと獣人女性がアプローチしてくるみたいだし、他のふわふわな女に目移りしないよう、薬を飲ませておかなくては! 婚約者が膝の上に他の女を乗せて、ブラッシングしているところなんて一生、絶対に絶対に見たくない……!! 軽く震えていると、アルフレッド様が飲み終え、口元を拭った。薬を飲んだその時、近くにいた女性と目が合うと、効果が発動するって書いてあった。でも、私が声をかける前に、こちらを見下ろしてくる。目が合った瞬間、アルフレッド様の青い瞳がとろんとして、蜂蜜のような甘い微笑みを浮かべた。


「ロッティ……可愛いなぁ」

「はふっ!? もう早速効いてきましたか!? お薬が!」

「なんだろう? 毛皮が恋しくなる薬なのかな? もっともっと、触りたい……。無性に」


 アルフレッド様が優しく私を抱き締め、そのままソファーへ寝転がった。抱き枕にされちゃってる! 驚いて硬直していると、嬉しそうに頬擦りしてきて、私のことを優しく抱き締める。


「ロッティ……ああ、たまらない! この毛皮が相変わらずたまらないなぁ! 可愛い~!」

「あれ? 普段と変わらない気がしてきました」

「……本当だね? ええっと、でも、いつもより触った時の感動があるし、このまま家に帰したくないぐらいだけど?」

「ん~、ならいいんですけど! 好きです!」

「ぎゃわっ……!!」


 私が体をひねって、アルフレッド様のくちびるにキスしてみると、変な声を上げ、ふがふがと嗅ぎ回してきた。結局、アルフレッド様がいつもよりおかしくなっただけだった。


「でも、私は大満足です! これでピクニックに行った時、他の動物を見かけても、もふもふしたくなりませんよね!? 私の毛皮が一番ですよね!?」

「えっ? ああ、そんな心配をしていたんだ? 大丈夫だよ。薬を飲まなくったって、浮気なんてしないから……」

「だといいんですけど。森にはリスもいますからね! 強敵です」

「彼らは近寄ってこないと思うけどなぁ」

「分かりません! 子リスちゃんがうっかり木から落ちて、ぽんとアルフレッド様の腕の中に収まっちゃうかもしれません! そうなったら触るでしょう!?」

「だ、大丈夫だよ? どんな状況下でも触らないからね?」

「ほ、本当に……?」

「本当にだよ、大丈夫」


 愛おしそうに呟いて、私の鼻先にキスをする。そのあと、ブラッシングまでしてくれた。いつもよりブラッシングが丁寧で、梳かしている時間が長かったから、これだけで薬を買った価値があるというもの! まあ、アルフレッド様のお金で買ったものだけど……。ふふんと胸を張れば、「可愛い~」って言いながら、恍惚とした表情を浮かべ、頬擦りしてくれた。


(やっとやっと、森でのピクニックが楽しみになってきた! きっとこれで大丈夫、もう怖くない……)





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