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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第三章 ただ幸せな結末へと向かって
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14.もう二度と薬には手を出さない……。

 



「ふふふ、成功して良かったですね! これでオーレリア様も心置きなく嫁げますし、アルフレッド様もほっとしたでしょう?」

「ああ、良かった。あんなにもぎくしゃくしていた二人がまさか、あそこまでちゃんと仲直り出来るとは思ってもみなかった……。兄上も喜んでいたし、良かった」


 よ、よろ? 喜んではいないと思うんですけど……。でも、やけにしみじみとした表情を浮かべながら、呟いていたので何も言えなかった。ウサギ姿の私が見上げていると、おもむろにシャツのボタンに手をかけ、外し出す。慌ててお尻を向け、見ないようにした。アルフレッド様は最近、私の前でもためらいなく脱ぎ出す。人の姿の時は流石にしないけど、ウサギ姿の時なら何をしてもいいと思っているのか、全部脱ぐようになった。恥ずかしくなってきて、脱衣所の隅で縮こまる。


「アルフレッド様? は、恥ずかしいからそれ、やめて欲しいんですけど!?」

「ああ、ごめん。つい。……でも、だめかな?」

「ふぉふっ!?」


 訂正。ウサギ姿の時なら何をしてもいいと思っているんじゃなくて、アルフレッド様が大胆になってきただけでした……。後ろを振り返る勇気が出てこなくて、前足をもにもにと動かしながらうつむく。


「アルフレッド様ってば、も~! そう言えば、昼間からお腹ふがふがもしてくるしっ! 堂々と人前で首輪をつけてこようとするしっ! 爪きり中に誰かが入ってきてもやめないし、前から大胆なところがありましたよね……!?」

「う、うーん。まぁ、ロッティが大胆って言うのなら、大胆ということにしておこうか。でも、見てもいいよ。別に。気にしないから」

「ふぉっ!?」


 み、見る? 見ない? どうする? ついつい脳内に、逞しい体つきをしたアルフレッド様を出しちゃったけど、日頃から特に鍛えてはいないし、もっとこう、ひょろっとして色が白い感じ……? 私が懊悩(おうのう)している間にも、衣擦れの音が響き、アルフレッド様のズボンが床に落ちる。わわわ、淑女! 淑女はここで振り返って、婚約者の体を見たりはしません!! 自分をたしなめていても、むくむくと興味が湧き上がってくる。


(で、でも、アルフレッド様なりの冗談かもしれないし……。ここで本当に振り返って見たら、幻滅されちゃうかもしれない)


 怖い、幻滅されるのは。でも、見てみたい。ちょっと葛藤(かっとう)したのち、思いきって聞いてみることにした。


「あ、あの、アルフレッド様? 見てもいいというのは冗談ですか? それとも本気なんですか?」

「ん? ロッティが見たいのなら見てもいいよ」

「ひっ、引いたりしません?」

「引いたりするのなら、最初から言ってないよ。ほら、ロッティ。見たいのならこっちにおいで?」


 いつもの優しくて甘い声が、艶めいているような気がするけど、それは気のせいでしょうか? そんなこと、聞けなかった。隅の方で震えていると、背後に来たアルフレッド様がくすりと笑い、しゃがみこむ。腕を伸ばし、そっと背中に触れてきた。


「ロッティ? 寒いかな? 大丈夫?」

「だ、大丈夫です……ぜ、全部脱いでますか? 入浴着を着ていますか!?」

「着ていないけど、全部は脱いでないよ。大丈夫」

「は、はい……」


 アルフレッド様が見られるのを待っているような気がして、おそるおそる、後ろを振り返ってみる。するとまず最初に、青い瞳が優しく蕩けていくのが見えた。靴下を履いていない足首に、すらりとした(すね)、意外にもほんのり逞しい胸元に目が奪われる。


「いっ、意外でした! アルフレッド様、意外とひょろひょろじゃありませんね!?」

「……ロッティは素直だね」

「す、すみません……!!」


 落ち込んだように呟いてから、はぁと溜め息を吐いた。今までガウンのような、白い入浴着の間から出ている肌しか、見たことが無かったから新鮮。私が凝視(ぎょうし)していると、もう一度くすりと笑い、ふわふわな頭を撫でてきた。


「ロッティもロッティで意外と大胆だなぁ。可愛い」

「ふっ!? す、すみません……」

「いいよ、おいで」

「その状態で抱っこはちょっと! 遠慮しておきます!!」

「あっ」


 ぴゃっと素早く逃げ出せば、がっかりしたような声を出す。でも、観葉植物の後ろへ逃げ込み、じっとりした目で眺めていると、無邪気に笑って立ち上がった。


「じゃあ、全部脱いで着替えるから。見たかったら見ててもいいよ?」

「は、はい……」


 み、見る? 見ちゃう? どうしよう? 私が悩んでいると、アルフレッド様が棚に並べられたかごに向き直り、今度こそ下着に手をかけた。目が丸くなる。ほほうという気持ちで眺めていると、アルフレッド様がこちらを見て、妖艶に青い瞳を細めた。


「意外だったな、本当に。ロッティがそこまで、私の裸に興味を示してくれるとは……」

「かっ、からかわないでください! アルフレッド様ってば、もーっ!」

「はは、ごめん。可愛くて。それに隅の方で震えているものだから、つい、からかいたくなってしまってね」

「む、むーっ!」


 からかわれてる! 受けて立ちましょう、その勝負! 勇ましく歩いて近寄り、ふんっと胸を張れば、気が付いて見下ろしてくる。少し意外そうな顔をしていた。


「あれ、大丈夫? 今度こそ脱ぐつもりなんだけど。寒いし、早く入りたいし」

「大丈夫です! この勝負、受けて立ちます!!」

「はは、勝負か~。じゃあ、どっちが勝つか競ってみようか? 目を逸らしたらロッティの負け。脱ぐのを躊躇したら私の負け。それでどうかな?」

「はい! 望むところです!」

「じゃあ、スタート」

「へっ? 早くありませんか!?」

「早くない、早くない」


 アルフレッド様が愉快そうに笑いながら、一気に下着をおろした。目が限界まで丸くなって、毛がぶわっと逆立つ。私が硬直していると、こっちを見て笑った。


「あ、引き分けかな? ……ロッティ?」

「わっ、私の負けでいいです、もうっ!」

「あっ!? 脱衣所は出ちゃだめだよ、ロッティ!」


 一気に出口へ向かって走ったあと、顔を伏せ、とぼとぼと歩いて引き返す。アルフレッド様は紳士的な男性なので、素早く入浴着に着替えていた。落ち込む私を見て苦笑し、ひょいっと抱き上げる。


「可愛いなぁ、もう。負けて落ち込んじゃった?」

「ふぁい。あと、アルフレッド様は容赦なく脱ぎすぎです……。びっくりしました。お詫びに撫でてください」

「もちろん! じゃあ、入りに行こうか」


 冷たそうな白とベージュ色のタイル床に、人魚姫が描かれているドーム型天井の大浴場は薄暗くて、ぼんやりと、あちこちに丸い真珠のようなランプが浮かんでいる。魔術仕掛けのランプで、空中にぷかぷかと浮かび、漂っていた。アルフレッド様が慎重に歩いて、青い巨大魚がじゃばじゃばと、口からお湯を吐き出している噴水のようなものへ近付き、一旦私を床におろす。


「じゃあ、まずはロッティを先に洗おうかな? おいで、こっちに」

「はーいっ」


 アルフレッド様が積み上げられていた桶を手に取って、熱いお湯に沈め、引き上げた。わくわくしながら待っていると、優しく微笑みながら、奥の方にある洗い場へ向かう。そこには石鹸とシャワーが設置されていた。


「ほら、おいで。洗うよ~」

「お願いします!」


 私が立ち上がって、前足をちょいちょいと動かせば、満面の笑みで「可愛い~!」と言って抱っこしてくれた。そのあと、ゆっくりと、熱いお湯が溜まった桶の中へ入れる。この間洗って貰った時に、私がぶるぶる震えて「しゃむい! しゃむい!」って言ってたから、お湯を用意してくれたのかも。温かくて気持ちいい。顎の下までお湯に浸かり、はふんと息を吐き出す。


「軽く洗うだけにしようか。昨日、丁寧に洗ったってオリヴィア嬢が言ってたし」

「いつの間に情報交換を……?」

「あっ、えーっと、たまに会う時があって。その時にかな! 色々聞いてるよ。寝ている最中、寝返りを打ってベッドから落ちたとか、お気に入りのりんごチップスをシリルと奪い合って、怪我をさせたとか……」

「ふぁっ!? ヴィーからそんなことを聞いたんですか!? 全部全部、嘘ですからね!?」

「大丈夫、大丈夫。どれも楽しく聞かせて貰ったよ」


 アルフレッド様がにこにこ笑いながら、お湯をまんべんなく私の体にかけてゆく。時折、地肌を揉んでゆく優しい手にうっとりしながら目を細める。アルフレッド様はいつだって優しい。私が意地汚いって知っても。


「幻滅しませんでしたか……? でも、あれはお兄様が悪いんです。私が大事に隠していたりんごチップスを食べようとするから」

「隠してたんだね? っふ、でも、それはシリルが悪いな。大丈夫、幻滅なんかしていないよ」

「ありがとうございます! あ、今のそこ! 耳の後ろです、耳の後ろ。ちょっと揉んで頂けると……ぷっ、ぷっ」

「ここが気持ちいいのかな? 可愛い」


 石鹸を泡立てた手で、わしわしと耳の後ろを揉んでくれた。ほんのり漂うラベンダーの香りも、お湯が熱いのも、アルフレッド様の声が優しいのも、全部全部、そわそわしてしまうほど幸せ。うっとりしているその時、ぴちゃんと冷たい水が鼻先に落ちてきた。


「ぶっ!? ブーッ、ブーッ!」

「ど、どうしたのかな!? いきなり野生に戻っちゃってるけど!?」

「はにゃに冷たい水が当たって驚いちゃいました……。ごめんなさい」

「可愛い~! いいよ、大丈夫だよ~」

「はふん……」


 全身をくまなく洗って貰ったあと、床で体をふるって水気を取る。アルフレッド様が「さて」と呟き、シャワーへ向き直った。


「じゃあ、ロッティ? 私も洗うから……そうだな。一人で泳がせるのは心配だし、またお湯を持ってこようか? 浸かって待つ?」

「いえ、お手数をわずらわせる訳にはいきません! それにこっそり練習して、だいぶ泳げるようになったんですよ? 先にちゃぷちゃぷしてきまーすっ」

「可愛い!! 早く行くから待っててね~」

「はーい」


 どうもアルフレッド様はウサギ姿の時、私を子ウサギちゃん扱いをする。でも、私はこれでも立派な淑女なので心配はいりません! そう言いたい気持ちは山々だけど、純粋に心配してくれてるだけだから、何も言わないで黙っておく。タイル床の上をつるんっと、たまに滑りながらも歩いて浴槽のふちに立つ。思いきって飛び込めば、どぼんと体が沈んでいった。


(でも、以前とは違うから大丈夫っ!)


 お湯から顔を出して、すいすいと泳いでいたら、ほどなくしてアルフレッド様がやって来た。笑顔で「おーい、ロッティ! 来たよー」と呼びかけてきたので、ちゃぷちゃぷと泳ぎながら向かう。


「アルフレッド様ー! 待ってましたっ」

「かわ、かわ、可愛い!! 泳いでるロッティが破滅的な可愛さ! 可愛い~!!」

「おぶっ!?」


 いきなり抱っこして引き上げられ、情熱的なキスを何度もされた。も~、二人きりとはいえ、アルフレッド様ったらも~! 少し恥ずかしくなってしまう。


「アルフレッド様? 寒くないんですか? 入りましょうよ、も~」

「ははは、ごめんごめん。つい可愛くて」


 無邪気に笑ってるその姿が愛おしくて、思わずくちびるに鼻先をちゅんと、押し当ててキスしてしまった。とたんに相好を崩し、「可愛い~!! 今の! 今のもう一回だけしてくれるかな!?」と言って、私の濡れた体に顔を擦りつけてきた。……ふわふわしてないけど、それでもいいみたい? 以前、お兄様に「濡れネズミ」と言われたこともあって、実はこの濡れた体を見られるのは抵抗があるんだけど、アルフレッド様はいつも気にせず、「可愛い」と言ってくれる。


「は~……。本当にアルフレッド様と婚約して良かったです」

「そ、そっか。なら良かったけど」


 膝の上でシャーロットが寛ぎ、のびのびと後ろ足を伸ばす。……はたして、自分は本当に良い婚約者なんだろうか。これからすることを考えると、胸が痛くなってくる。


(だが、出来ればお湯に浸かっている間、飲ませてしまいたい……)


 パーシーから渡された説明書には、“対象者が入浴中、もしくは湯上がりの時が好ましい”と書いてあった。全身に薬が回るのが早く、抜群に効果が出るらしい。ただ、本当に薬に頼ってしまっていいんだろうか? 彼女は今でも私のことを好きだと言ってくれるし、どうしても拭えない不安感があるのは自分のせいだ。その不安感を消すため、スキンシップが増える薬を盛るのはいかがなものかと……。


(でも、最近はすぐ逃げてしまうし。このまま倦怠期に入って、春の挙式までに振られてしまったら? ああ、どうしよう。ぎくしゃくしたくない、不安も口に出来ない)


 あまり迫ると、この間のようにソファーの下へ逃げ込まれてしまうかもしれないし。効果は一時的なものらしいし、ちょっと試すぐらい、許されるんじゃないか……? それにもっと好きになって貰う薬もあったのに、こういう薬で心を操るのはどうだろうと思い、手を出さなかったが、あの時買うべきだったのかもしれない。いやいや、でも、そういう風に心を操っても虚しいだけだろう。なら、効果が一時的な薬の方がよほど良い。ましな筈だ。様々なことを考えた結果、盛ってしまうことにした。そうとは知らず、膝の上でとろとろと眠り始めたシャーロットを、可哀相だが揺すって起こす。


「えーっと、ロッティ? 実は君と一緒に、ラズベリーシャーベットを食べようと思って……」

「ラズベリーシャーベット!? どこですか!?」

「え、えっと、保冷器の中に入れて、上の方に……」


 怪しまれないようあらかじめ、ラズベリーシャーベットを二つ、ルイに頼んで用意して貰った。銀の器に盛られたラズベリーシャーベットを、銀製のスプーンと共にガラス製の球体へ入れ、空中に浮かばせてある。私が手を上げれば、天井近くに漂っていた球体が、滑るようにして近付いてきた。眼前にきたそれを見て、シャーロットが「わぁ!」と声を上げる。


「食べたいです! いいですねえ、温泉に浸かりながらシャーベット!」

「だ、だね! ええっと、出すからちょっとだけ待っててくれ」

「はいっ! 楽しみ~」


 何の疑いもなく、鼻をぴしゅぴしゅと鳴らして待っている。ああ、申し訳ない。だが、許してくれ。シャーロット。一時間ほどで効果は切れるみたいだし、物は試しで……。罪悪感に胸を痛めながらも、小さなガラス製の扉を開け、二段目に載っているラズベリーシャーベットを出した。上にちょこんと、ミントの葉とラズベリーが飾られているものに薬が入っている。私のシャーベットには薬が入っていない。


(ただ、これに薬を盛った時、完全に薬嫌いのウサギを飼っている人になってしまったな……)


 苦味があると書いてあったから、必死にシャーロットに勘付かれないよう、真っ赤なラズベリーシャーベットをほぐして、薬を混ぜた。ちょっと病気になったウサギを飼っている気分になった。まぁ、実際はシャーベットに混ぜたりしないんだろうが。でも、わくわくして待っているシャーロットの口へと、スプーンを入れる時、酷く緊張した。薬が入っているとばれたらどうしよう?


(頼む! このまま気付かないで飲み込んでくれ……!!)


 苦味に気付かないといいが。はらはらしながら見守っていると、膝の上に座ったシャーロットがごっくんと飲み込んだ。


「ど、どうかな? 美味しいかな?」

「美味しいですっ! もっとくださーい」

「よ、良かった、良かった。はい、どうぞ。あーん」


 良かった、気付かず全部食べてくれた……。空になった銀の器を眺め、胸を押さえる。ああ、胸が痛い。でも、入浴中に摂取すると、すぐさま効果が現われるみたいだから、待っていよう。ただ、私も怪しげな薬を盛られないよう、今後は気をつけなくちゃな。シャーロットが「盛ります!」と宣言していたし。


「アルフレッド様は食べないんですか?」

「あっ、も、もちろん食べるよ……」

「じゃあ、冷えちゃったしその間、泳いできまーす!」

「はーい」


 も、申し訳ない……。浴槽に浮かび、楽しげに泳ぐシャーロットを見て、胸の奥が鈍く痛んだ。最低だ。黙って薬を盛るだなんて。ああ、しなきゃ良かったか? でもな……。鬱々とした気持ちでラズベリーシャーベットをつつき、空にする。ふと気になって見てみれば、向こうのふちに立ち、体をふるっていた。すぐさま見られていることに気が付き、どぼんと、音を立てて飛び込む。


「ロッティ? 大丈夫か? 迎えに行こうか?」

「大丈夫ですよ~……って、わぶ!?」

「あっ、ああ……」


 慌てて立ち上がって向かったが、体勢を立て直し、楽しそうにすいすいと泳ぎ出す。可愛い。一生懸命泳いでいるのが本当に可愛い。腕を広げ、笑顔で来るのを待つ。ただ、様子がおかしくなった。スピードが遅くなったかと思えば、急に沈みこみ、泡だけが立つ。背筋がぞっとした。


「ロッティ!? やっぱり大丈夫なんかじゃ……って、え?」

「アルフレッド様? 大丈夫ですよ」


 白い湯気の向こうで、一人の女性が立っている。いや、シャーロットだ。まさか。まさかとは思うが、人の姿に戻ったのか? 裸になってしまうのに? 一瞬で何も考えられなくなり、手を伸ばした。すぐさま、柔らかい何かに包まれる。シャーロットが濡れた手で、私の手を握り締めていた。


「えっ? ろ、ロッティ? えっ? 人の姿に? 一体どうして……」

「アルフレッド様」


 様子があきらかにおかしい。これが薬の効果なのか? どうして気付けなかったんだ!? 入浴中に使うということは、つまり────……。呆然としていたら、いきなりシャーロットが抱きついてきた。思っていたよりも柔らかく、華奢な体。一気に血が滾る(たぎ)


「申し訳ありません。私、なんだか変で……アルフレッド様に甘えたくなっちゃいました」

「えっ!? だっ、どっ、あっ、えっと、ろ、ロッティ!? これは、これは!」

「お嫌ですか?」

「い、嫌ではないけど……」


 声がいつもより甘くて、眼差しもとろんとしている。肩を掴んで引き剥がせば、すごく悲しそうな顔をした。……まるで、シャーロットじゃないみたいだ。潤んだグリーンの瞳も、上気した頬も色っぽくて、ごくりと唾を飲みこんでしまう。


「アルフレッド様……。ねえ、だめですか? 春まで待ちきれません、私」

「いやいやいやいや、こっ、ここここ婚前交渉は流石にだめだよ、ロッティ!! いや、自分が招いた災いなんだが! ああっ、しまった。どうしよう? 解毒は、解毒方法は……」

「じゃあ、キスしてくれませんか? それで我慢します」

「ロッティ」


 裸だ。よく見えないけど、裸だ。見たい気持ちと、見てはだめだという気持ちの狭間で、ぐわんぐわんと頭が激しく揺さぶられている。いや、婚約者だし、いいんじゃないか? 別に無理に見る訳じゃない。それに、シャーロットだって嫌がってはいないし……。


(だめだ! 普段のロッティなら嫌がる筈だ!!)


 ああ、バカだ。薬なんて盛るんじゃなかった。両肩を握り締めていると、シャーロットが不思議そうに首を傾げ、「アルフレッド様?」と言ってくる。ああ、バカだ。ルイに相談していれば良かった。突っ走ってしまって、何も見えていなかった。


「わ、悪い。ロッティ? よく聞いてくれ。今の君は……」

「私って、そんなに魅力が無いんですか……?」

「えっ? ち、違うんだ! ただ、これは」

「アルフレッド様」


 シャーロットが手を払いのけ、抱きついてきた。柔らかく、濡れた肌に触れ、理性が吹っ飛びそうになる。別にいいんじゃないか? このまましてしまっても。いや、ただ、婚前交渉はいかがなものかと……。背中に手を回し、その滑らかさに驚く。抱き寄せた体は想像していたよりも細く、甘い香りに脳髄(のうずい)が痺れる。触れたい、触れたい。もっともっと触れたい。このまま何も考えずに、抱けたらどんなにいいか。首筋に吸い付けば、小さく甘い声をもらした。


「ごめん、ロッティ。薬を盛ってしまったんだ……。許してくれ」

「えっ? そうだったんですか!? じゃあ、ウサギ姿に戻りますね!」

「は、えっ?」


 あっさり宣言したあと、ウサギ姿に戻ってしまった。浴槽にざぶんと沈んだので、慌てて救出する。


「え、ええっと、ロッティ? あの、甘えるのは……?」

「さっきは溺れちゃいそうになって、ついつい戻ってしまいましたけど、甘えるのはウサギ姿でも出来ますよね?」

「だ、だけど、人の姿でしても……」

「……私に薬を盛ったんでしょう? なら、悔しいので我慢します! 強い意志を持ってして、どうにかします!! 負けませんっ、絶対に!」


 いきなり、腕の中でぎょりぎょりと歯軋りをし出した。その後、私が差し出すおやつを警戒して食べなくなってしまったし、説明書をよくよく読んでみると、“自我が強い人には、効かない場合があります”と書いてあった。どうやら、薬を盛られた悔しさで、シャーロットは効果を跳ね除けてしまったらしい……。結局、生殺しにされて終わったし、もう二度とこの薬には手を出さないと誓った。



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