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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第三章 ただ幸せな結末へと向かって
64/83

10.拗ねてしまったシャーロット嬢と禁断の関係

 


 あの時、ちゃんと扉をノックして開けていたら、あんな光景を見ることは無かったかもしれない。私が授業を終え、るんるんと弾む足取りでアルフレッド様が待つ応接室の前に立って、ノックもせず扉を開け放した瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできた。


「アルフレッド様、お待たせしました~! って、え……?」

「あ、ロッティ」


 目の前のカウチソファーの上でべろんと、お腹を向けているのはウサギ姿の兄。その兄を組み伏せるようにして、お腹をもふもふしているのはアルフレッド様だった。驚いているのか、青い瞳を見開き、ぴくりとも動かない。声も出せず、立ち尽くした私を見て、慌ててアルフレッド様がソファーから体を起こした。よほど二人で楽しんでいたのか、アルフレッド様が着ているベージュスーツはよれっとしているし、お兄様のネクタイは床に放り投げられている。わなわなと肩が震えた。


「違うんだ、ロッティ! これは……」

「言い訳なんて聞きたくありません!! 私がいない間に、こそこそと隠れてお兄様の体を楽しんでいたんですか!? 私にはもう飽きちゃったんですか!?」

「わ、悪かった! ごめん! そんなことはないよ。でも、男性相手ならいいかと思って……」

「一緒です! 浮気ですっ! そんな、そんな、私がいぬ間に、お兄様をもふもふして楽しんでいただなんてっ……!!」

「あっ! ロッティ!?」


 あまりの衝撃にぽんと、体がウサギに戻ってしまう。またたくまに、品が良いグリーンのドレスから、赤と黒のチェック柄ドレスへ変わる。何も気にしないおおらかな獣人だったら、好きな人がこそこそと隠れて誰かをもふっていることぐらい、気にしないのかもしれないけど! 私がたたっと、駆け足でソファーの下へ潜れば、アルフレッド様が焦って追いかけてきた。床に這いつくばり、暗がりに身を潜めた私を覗き込んでくる。


「ごめん、ロッティ! シリルならいいかと思っていたんだ……。でも、君は嫌だったんだね? 本当にごめん。もう二度としないよ」

「おっ、お兄様なら分かっていたはずです! ちゃんと! 好きな人が自分の前以外で、誰かをもふもふしているだなんてっ、どれだけ嫌なことか!」

「でも、シャーロットもティナと楽しんでいるだろう? つべこべ言われる筋合いは無い」


 人の姿に戻ったのか、そんな言葉と共に黒い革靴が現われる。アルフレッド様が焦って振り返り「どうしよう? シリル」と聞いていた。


「ほら、殿下を困らせるんじゃない。心が狭いぞ? シャーロット」

「お兄様を推薦するんじゃなかった……!! 解雇してください、解雇! アルフレッド様!」

「でも、気を許せる相手なんだよ。シリルは媚びへつらったりしないし、こう見えて気配りも出来る人だから」

「体のみならず、中身も好きだって言うつもりですか!? ブーッ、ブーッ!!」

「お、落ち着いて? ロッティ。完全に野生に返っちゃってるな……」


 アルフレッド様がおそるおそる伸ばしてきた手を、容赦なく前足で叩き落とす。小さく「いたっ!」と呟いてから、手を引っ込めた。でも、怒ってはいないようで、心配そうな顔で覗き込んでくる。


「ごめんよ、ロッティ。つい、シリルの毛皮をもふもふしたくなってしまって」

「お兄様の毛皮と私の毛皮、どっちが好きなんですか!? 手触りが良いのはどっちですか!?」

「もちろん、ロッティの毛皮だよ。吸い付くような手触りと滑らかさを持つのはロッティだけだし……。毛皮の良さにかけて、君の右を出るような者はいない。だから、出てきてくれないか? ごめんね、本当に」


 アルフレッド様がもう一度、優しい声を出しながら手を伸ばしてきた。悲しくて悲しくて、涙が滲み出てくる。私がお勉強を頑張っている間に、お兄様はお腹を向けて、アルフレッド様にもふもふして貰っていただなんて……。しぶしぶ近寄って、アルフレッド様の手をふんふんと嗅げば、嬉しそうに笑って「可愛い~」と言う。


「ごめんよ、本当に……。もう二度としないから、君の嫌がるようなことは絶対に」

「アルフレッド様……」

「シャーロットは心が狭いんですよ。私なら、婚約者が他の獣人を触っていようとも気にしないというのに」

「お兄様の嘘つきーっ!! 聞きましたよ!? この前の交流会で、お義姉様がヒョウに夢中になってもふもふしていると、拗ねて毛を毟り取っていたって! お義姉様が他の獣人を触るぐらいで毛を毟っちゃう、弱い獣人のくせにえらそうな! キーッ!」

「……」

「そうだったのか、シリル……。毛を毟り取っていたのか?」

「やめてください、殿下。こっちを見ないでください! それにもう魔術で毛を生やしました。私の体に欠点なんてありません」


 アルフレッド様の手が遠のいていったのが淋しくて、つい、のそのそと光のある方へ行ってしまう。それに気が付いたのか、アルフレッド様が素早く私の体を掴み、ずるりんと一気に引きずり出す。


「捕まえたっ! ロッティ、ごめんよ~? 君の毛皮に勝る獣人なんていないし、もうシリルをもふもふしたりしないから!」

「アルフレッド様……。そんな言葉で揺らぐ私じゃありませんよ?」

「嘘をつけ。尻尾が揺れてるじゃないか」

「はふっ!?」

「尻尾が……? どれ」


 私を抱きかかえ、ほっぺたにすりすりしていたアルフレッド様が笑う。あまりにも嬉しくて、左手がお尻に添えられているのに、短い尻尾をぶんぶんと振ってしまった。私の揺れ動く尻尾に触れながら、ほっとした顔をする。


「本当だ、可愛い……。でも、初めて見たかもしれないな。尻尾が揺れてるところ」

「あれ、そうなんですか? 殿下の前では尻尾を振らないんですか?」

「私、尻尾をちゃんと自制出来るレディなんです! 淑女たるもの、好きな人の前でも、軽々しく尻尾を振っちゃいけません。いつもお義姉様の前で、尻尾をぶんぶん振ってるお兄様とは違うんですぅー!」

「いちいち余計な一言が多いな」

「ぶぬっ!?」

「こら、シリル。だめだって……」


 忌々しそうな顔をした兄に鼻をつままれたけど、すぐにアルフレッド様がたしなめてくれた。威嚇のためにぎょりぎょりと歯軋りをしていたら、嫌そうな顔をして見下ろしてくる。


「アルフレッド様、こんなお兄様の一体どこが良かったんですか……?」

「ロッティ。ええっと、興味本位でもふってみただけなんだ。ごめんね」

「許しません! もう二度と私に隠れてもふもふしないでくださいね? 目の前でなら、かろうじて許せるんですけど!」

「そ、そうなんだ……?」

「殿下もシャーロットが、こそこそと人目を忍んで誰かと散歩していたらどうですか? しかも、リード付きです」

「リード付きか。それはもやもやするし、浮気だな……」

「でも私、他の人にリードなんて持たせませんよ!? そこまで軽い女じゃありません!」


 腕の中でふんと鼻を鳴らせば、でれっとした笑顔を浮かべて「可愛い~!」と言いつつ、頬擦りしてくれた。無言でお兄様を睨みつけ、出て行くよう指示していると、ちょっと肩を竦めてから何も言わず、背を向けて出て行った。アルフレッド様が顔を上げ、物言いたげな様子で見送る。


「アルフレッド様……。そんなにお兄様の体が良かったんですか!? だからそうも熱視線を!?」

「いや、そうじゃなくて、急に出て行ったなと思っただけで」

「アルフレッド様の浮気者、アルフレッド様の浮気者……!!」

「ご、ごめん……」


 私が腕の中で恨みごとを言っていると、溜め息を吐いて「まいったな」と呟く。……そろそろ、心が狭すぎて呆れられちゃったかもしれない。でも、だって、お兄様があんな風に殿下に甘えている間中、ずっとずっと、私は難解な外国語と睨めっこしていたのに、アルフレッド様ときたら、興味本位でお兄様といちゃいちゃしたりして……。悲しすぎて、勝手に鼻が「ぷしゅん、ぷしゅん」と鳴り始める。


「ああ、ロッティ! ごめん、鳴かないで? 私が悪かったよ……君が鳴いてると胸が苦しくなる。ごめん、悲しませてしまって」

「呆れちゃいましたか? こんなに心が狭い婚約者はお嫌ですか?」

「いやいや、大丈夫だよ。私も心が狭いからね……。それに、嫉妬して貰えるのは嬉しい。そうじゃなくて、その、こういう方法はまだちょっと抵抗があるんだが」

「はい? どうしましたか?」

「今朝、分けて貰ったレタスがあるんだ。食べるかい?」

「たっ、食べます! もしかして朝採りレタスですか!?」

「そう。ロッティが喜ぶかと思って持ってきたんだ。ちょっと待っててね? すぐに出してあげるから」


 私をそっと床へおろしてから、ベージュ色ジャケットに手を突っ込み、内側ポケットからシガレットケースのようなものを出した。それは真鍮製(しんちゅうせい)で、草花と垂れ耳ウサギの絵が彫られている。


「それは!? それは!? 私ですよね!? お兄様じゃないですよね!?」

「もちろん。特別に作って貰ったんだ。最近はハンカチにもウサギの刺繍が入ってる。でも、どれもこれも君だし、浮気じゃないからね?」

「良かった! あの、レタスは……?」

「ああ、この中に入ってるんだよ。これは君のおやつ入れなんだ」

「私のおやつ入れ……!?」


 す、素敵! そんなものをわざわざオーダーして持ってくれているだなんて! 私が足元で目を輝かせていると、微笑みながらしゃがみ込んでくれた。アルフレッド様はいつも私を怖がらせないよう、なるべく目線を合わせようとしてくれる。


「これには紙で巻いたレタスが入っていて……ああ、鮮度保持の魔術をシリルにかけて貰ったんだ。だから、貰った時そのままの瑞々しさだよ。ちょっと待っていてくれ」

「はい!」


 私がお利口にちょこんと、お座りして待っていると、嬉しそうな微笑みを浮かべた。ケースの中からタバコのようなものを取り出し、ぺりぺりと紙を剥がせば、中から新鮮なレタスが出てくる。喜んで飛びつけば「待てだよ、ロッティ!」と言ってきた。


「お手は? 出来るかな?」

「出来ます!」

「かわ、可愛い~!! ちっちゃい! ぽてって! 可愛い!」


 これも接待の内の一つ。アルフレッド様がお手をして欲しいと言うのなら、喜んでしましょう。他の人にはしないけど! ちょっとだけお兄様が見ているかどうか、心配になって扉の方を見る。こんなところ、家族には見られたくない……。


「どうしたの? ロッティ。ほら、朝採りレタスだよ~」

「わーい! ありがとうございます!」


 私がもしゃもしゃと音を立てて、美味しく食べていると、またでれっとした笑顔を浮かべて「可愛い~!」と言ってくれる。アルフレッド様、ちょろくて優しい。レタスを食べているだけで褒めてくれる。でも、物足りなかったのでアルフレッド様の革靴にちょんと、前足を置いておねだりしてみた。


「アルフレッド様、もう無いんですか~? もっと欲しいです!」

「あるよ~! 可愛い!! ちょっと待っててね?」


 そのあと、追加で二本ほど紙を剥いで食べさせてくれた。レタスで小腹が満たされる頃にはすっかりもう、お兄様がだらしなくお腹を向けていて甘えていたことを忘れ、ソファーに座ったアルフレッド様の膝でくつろぐ。


「その、久しぶりにブラッシングいちゃいちゃ、してみませんか……!?」

「ああ、うん。それとさっきは説明出来なかったんだが」


 アルフレッド様が言いにくそうな顔をして、まずは私のドレスを脱がしにかかる。前かがみになって優しく胴体に手を回し、ぷちぷちとボタンを外していった。こうして貰う時がひそかに好き。大事にして貰ってる感じがするから。機嫌良く「ぷうぷう」と鳴いていれば、甘く微笑み、ゆっくりとドレスを脱がしてゆく。そのドレスを軽くたたんでから、横へ置いた。そして、ズボンのポケットからブラシを取り出し、丸ピンが地肌に触れたあと、マッサージするかのように梳かしていった。すぐに背骨が甘く震え、うっかり尻尾を振りながら、後ろ足を伸ばしてしまう。


「実はその、シリルにもふもふの指導をして貰おうかと思って、ウサギ姿に戻って貰ったんだ」

「じゃあ、どうしてお腹に顔を埋めていたんですか? ほっぺたについていましたよ? お兄様の毛が!」

「いや、それは……つい。ごめんよ」

「お腹をふがふがするのは、最上級の愛情表現なのに……!!」

「そ、そうだったんだ? 知らなかった」

「だって、ちょっと気に食わない人のお腹はふがふが出来ないでしょう? せいぜい、頭を軽く撫でて終わりじゃないですか?」

「う、うん。かもしれないね。ごめん……」

「はい! でも、お兄様がうっとりしていたのが一番悔しいです……。お義姉様の膝に乗って甘えているくせに! あれだけで我慢すべきなのに!」


 ああ、思い出したら腹が立ってきちゃった。我慢できずに「ブー! ブー!」と鳴いていると、アルフレッド様が苦笑して頭を撫でてくれる。それからすぐに、首の後ろを丁寧にブラッシングしてくれた。またへんなりと力が抜けてしまう。


「ごめんよ、ロッティ。もう二度としないからね?」

「……まあ、レタスも貰えたし、これ以上色々言うのはやめておきます。ごめんなさい、拗ねてしまって」

「大丈夫。可愛いから」

「それを聞いてちょっとほっとしました……」


 アルフレッド様に鬱陶しがられたくないから、ちゃんとコントロールしたいのに、なかなか上手くいかない。落ち込んでいると、機嫌良く笑ってブラシを動かしていった。沢山の丸ピンが地肌を優しく刺激して、むずむずする毛が全部取り除かれてゆく。アルフレッド様は、私の気持ち良いところを全部知っているみたい。お尻の辺りもささっと素早く、でも、きちんと地肌に丸ピンを当てながら梳かしてくれた。いつもは我慢してるけど、あえて尻尾をふりふりしてみる。


「可愛い……。今度から尻尾を振って欲しいんだけどなぁ」

「ほ、ほら、はしたないでしょう? だから。子供じゃあるまいし」

「尻尾を振るのは子供なのか……。でも、この前の交流会では犬の獣人が尻尾を振っていたけど?」

「ああ、男性は考えなしに尻尾を振りますよねえ。お兄様もそうなんです。も~、男はいつまで経っても子供だなんていいますけど、まさしくその通りです。知らない人にでも尻尾を振ったりするんですよ~」

「そ、そっか」

「でも、私はみっともなくはしゃいで尻尾を振るような女じゃありません。まっ、媚びるためにそうする獣人もいるんですけどね? でも、そういうのは下品でだめです! すぐに尻尾を振るような女性は意地が悪いし、男好きの可能性大なので気をつけてくださいね? 分かりましたか?」

「わ、分かった……」


 でも、アルフレッド様が振って欲しいのなら振ってあげよう。そう思いながらもついつい、恥ずかしくなって尻尾の動きを止める。ふっと笑い、片手で優しく尻尾を包み込んでくれた。


「じゃあ、今度から二人きりの時だけ尻尾を振って貰おうかな?」

「そうします! でも、はしたないなって思いませんか……?」

「ちっとも。はしたないと思うのは獣人だけじゃないかなぁ」

「え~? そうなんですか? 尻尾がぶんぶん揺れてると、媚売ってきてるなとか、あからさまだなって思いません?」

「いや、可愛いな~って……」

「ほ、本当ですか? よく分かりません」

「獣人特有の考えだね。でも、ロッティは何をしていても可愛いから大丈夫だよ。愛してる」

「ふぉっ!?」


 私を持ち上げ、ちゅっと頭のてっぺんにキスしてくれる。嬉しかったけどこの間みたいに、人の姿の時にキスして欲しいような気がした。アルフレッド様が私の頭を撫で、優しく微笑む。


「そうだ、ロッティ? 相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

「どうぞ、なんなりと!」

「オーレリアのことについてなんだ。彼女の母親には世話になったし……出来れば、幸せになって欲しい。心置きなく、他国に嫁いで欲しい」

「なるほど?」


 オーレリア様は早くも、あちらの宮廷で権力を握ろうとしているらしく、ありとあらゆる本を掻き集めて勉強中だった。オーレリア様の部屋には現在、“貴族の女性達をも虜にした魔性の女”だとか、“傾国の美女に学ぶ人心掌握術”だとか、“権力を握る唯一の方法”だとか、禍々しいタイトルの本ばかり積まれている。それにバカにされないよう、エオストール王国らしいデザインを残しながらも、大国リーリアの流行デザインを取り入れたドレスを何着も注文している最中だし、とりつかれたようにリーリア語の勉強をしていて、日々忙しそうだった。


 でも、アルフレッド様は気の弱い妹が大国へ嫁ぐとでも思っているのか、最近はしきりに「オーレリアは大丈夫なんだろうか……」と呟いている。でも、ここで無邪気に「大丈夫ですよー! オーレリア様はあちらの宮廷で権力を握って、面白おかしく暮らしていくと思います!」って言っちゃだめだろうから、静かに鼻を鳴らして同意している。私が言いにくそうに、口をもごもごさせていると、憂いに満ちた表情で「はあ」と溜め息を吐き、続きを話し始めた。


「だから、兄上と和解して欲しくて……」

「和解? 喧嘩しているんですか?」

「そうなんだ。あれはオーレリアが四歳の時……」

「ずいぶんと(さかのぼ)りますねえ。陛下が何をしたんですか?」

「ふざけて私に飛び蹴りしてきたオーレリアの頭を、兄上が思いっきり殴ってしまったんだ。その時、しつけの一環だと言った時からもう、二人の仲はすっかり悪くなってしまって……」

「相当根に持ってますねえ、オーレリア様ったら! 四歳の時のことを!」

「そうなんだ。かなり痛かったみたいで、いまだに文句を言ってるよ……。私も頻繁に(ひんぱん)あの時のことを謝るよう、兄上に言っているんだが、一向に聞く耳を持ってくれなくて」


 ひ、頻繁に? オーレリア様が四歳の時から頻繁に言っているの? なんだか気が遠くなってしまった。アルフレッド様はほら、お優しい方だから……。自分にそう言い聞かせていると、アルフレッド様が物憂げに顔を伏せる。


「でも、このままでいいはずがない。オーレリアは遠方に嫁ぐんだし、兄上とちゃんと仲直りして欲しい。それに二人とも、いつか絶対に後悔するはずだ。兄上だって別に、好きでこうなっている訳じゃないと思う。本当はオーレリアに謝りたくて仕方ないのに、なかなか素直に言い出せないんじゃないかな……?」

「そ、そうですね……」


 それしか言えなかった。陛下はきっとオーレリア様のことなんて、ちっとも気にしていないし、オーレリア様はいまさら陛下に謝って貰うことなんて望んでいないと思う。そんなことをしている暇があったら“権力という荒馬を乗りこなすためには”とかいう、物騒な本を読みふけっていたいと思う……。でも、アルフレッド様にそんなこと言えなかった。ただひたすら、アルフレッド様の青い瞳は澄み切っていた。まるで、透明度の高い海のよう。


「だからロッティ、協力してくれないか? この前も兄上はロッティに助けられて、義姉上と仲直り出来た訳だし、感謝しているみたいだ。……私の知らぬ間に仲良くなってくれて嬉しいよ。ありがとう」

(いえ、仲良くなってはいないし、陛下は絶対に絶対に私に感謝なんてしていないと思います……)


 ただ、そんなことは言えない。膝の上で後ろ足をにょーんと伸ばしながら言う。


「はい! なんたってアルフレッド様のお兄様ですからね! 最近はおやつもくれますし、この間の件もあってか、私にすっごく感謝していて優しくしてくれるんですよ~」

「兄上もああ見えて良い人だから。良かった! それじゃあ、オーレリアと兄上の仲を取り持ってくれないか?」

「えっ!?」

「私の方からも言っているんだが、二人とも頑なにそんな必要は無いと言うばかりで……。後悔するのに、ちゃんとわだかまりを無くさないと」


 アルフレッド様が良い人すぎて怖い……。親切心から言ってるから、二人にとってはありがた迷惑もいいところだと思う。でも、言わずに黙っておいた。


「分かりました! じゃあ、私が二人を説得してみますね~」

「ああ、そうしてくれ。兄上もオーレリアも、なかなか本音を話してくれなくて困ってるんだ」

(本音はそんなことをしている暇があったら仕事、もしくは勉強、そのもしくは自分の好きなことを思う存分していたい、だと思います……)


 だけど、気にかける必要なんてあるかしら? 私の毛皮で二人を陥落させて、連れて来ればいいだけの話! 気合いを入れてふんふんと、鼻息荒く鼻を鳴らしていれば、何も知らないアルフレッド様が「可愛い~! 張り切ってるね」と言ってくれた。でも、そんなところも好き。このままでいて欲しいなと、最近は特にそう思ってる。










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