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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第三章 ただ幸せな結末へと向かって
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9.二度目のウェディングドレス選びと欲望

 




 王族の結婚式といえば、格式高くて荘厳でありながらも、どこか華やかさのあるもの。だから、花嫁は露出度が高いドレスを着たりしないし、色気を出す必要も無い……と思っていたんだけど、デザイナーのエマ二エルはそう思わなかったらしく、持ってきたドレスは背中が大胆に開いているセクシーなものだった。


 でも、品の良さもある。鎖骨から首の後ろにかけては、繊細なレースが肌を覆っているし、胸元も開きすぎていない。少しどきりとするような深めのハートネックだけど、色気がありつつも品良く、ふっくらとした丸い谷間を出せているような気がする。腰はきゅっとくびれているけど、裾にかけてふわふわのシフォン生地が広がっているし、小さなパールやグリーンの宝石が散りばめられていて可愛い。手首までレースがあるところも気に入った。


 だけど、アルフレッド様は思うところが沢山あるらしく、若干青ざめている。今日はかっちりとした茶色のスリーピースを着ていて、瞳と同じ、深い青色のネクタイを締めていた。黙り込むアルフレッド様を気にかけず、はねた茶色の短髪と茶色い瞳を持つ、黒いスーツ姿のエマ二エルがにっこりと微笑み、胸元で手を組む。


「いかがでしょう? アルフレッド殿下。シャーロット様の可憐さと品の良さを引き出しながらも、色気を(かも)し出してみました。せっかく豊満な胸をお持ちなんですから、生かさない手は無いかと!」

「しかし、これはちょっと大胆なドレスに見えるが……」

「肌見せは極力減らしました。このドレスは清楚でありながらも、劣情をかき立てられ、思わず(けが)したくなるようなピュアな色気を出せるもので、」

「ちょっと待ってくれ、頭が痛い。そういうものは一切求めていないんだが!?」


 彼女が「あら」と言って、茶色い瞳を丸くさせる。ハラハラしながらも見守っていたら、ドレスの裾を気にしていた針子────エマ二エルの部下であり、妹のような存在でもあるらしい、黒いスーツ姿のクレアが見上げてきた。クレアは社交的で色気のあるエマ二エルとは違って、堅物で真面目な女性だった。後ろで黒髪をきっちりまとめ、澄んだ黒い瞳で射抜いてくる。


「シャーロット様、いかがでしょうか? 着心地のほどは。苦しいところや痛いところはございませんか?」

「あ、無いです。ぴったりです! 太ってなくて良かった……」


 ほっと胸を撫で下ろした私を見て、にっこりと穏やかに微笑む。クレアはどこか人を寄せつけないオーラを出していて、口数も少ない方だった。縫い付けた宝石やパールが気になるのか、手袋をはめた両手で生地を持ち上げ、色んな角度から眺めている。


「残念ですわ。アルフレッド殿下はお気に召さなかったようで……」

「素晴らしいドレスだとは思うが、そういったものは醸し出さなくてもいい! 極力露出は控えてくれ。ウサギ耳が引き立つような、可愛らしいドレスでいいんだ」

「ですが、アルフレッド殿下から見て、このドレスを着たシャーロット様はいかがですか? 色気が無いと悩んでらしたので、試しに作ってみたのですが」

「えっ?」

「ふぉっ!?」


 さりげなくしれっと暴露されてしまった。私がおずおずとアルフレッド様を見上げれば、どこか呆然とした顔をしている。


「……そんなことを? 一体どうして、」

「えっ、えーっと、あの! 私のこのウェディングドレス姿、どうですか!? すごく気に入ったのでもう、これにしてしまいたいのですが!」

「ええっ!? それは流石にちょっと……。ロッティには他にもっと似合うドレスがあると思う」


 ことごとく不評で落ち込んでしまう……。私がうなだれていると、エマ二エルがくすくすと笑い出した。


「アルフレッド殿下。オーレリア様から聞いていた通りの方ですね?」

「……妹から何を聞いたのかは知らないが、口からでまかせのことばかりだろう。くだらない」


 孤高の王子様モードに入っているアルフレッド様がそう吐き捨て、やれやれと言わんばかりに首を横に振った。本当は今回、リンジーが来る予定だったんだけど、ウサギのウェディングドレスに加えて、カラードレスを作ることになってしまい、過労で倒れてしまいそうと音を上げ、しぶしぶ人間用ウェディングドレスの作成を、オーレリア様お気に入りのエマ二エルへ譲った。それにしても、前回採寸した時、アルフレッド様はお忙しくていなかったし、気にしてなかったけど、エマ二エルと相性が悪いみたい……? つんと顎をそらしたアルフレッド様を見て、また彼女がくすくすと笑う。


「大層、シャーロット様のことを可愛がっておられるとか。今まで女性を寄せつけてこなかった殿下のお心を溶かした方は一体、どんな可愛らしい女性なんでしょうと思っていたんですけど、想像以上に可愛らしい方で驚きましたわ」

「……」

「ええ、分かりますとも。不安ですよねえ、こんなドレスで登場したら。ふふっ」

「結婚式にこんな背中が開いたドレスは相応しくない。それだけだ」


 からかいをものともせず、アルフレッド様が私に近寄る。念のため背中を見せてみると、腕を伸ばし、いきなり背中をつうっとなぞってきた。指先で肌をなぞられる感覚にびくりと、肩が揺れてしまう。


「ひゃっ!?」

「あ、す、すまない。突然触れてしまって」

「い、いえ……大丈夫です」


 慌てて向き直れば、アルフレッド様が気まずそうな、照れ臭そうな顔をしている。何も言えずに見つめ合っていると、エマ二エルがほうと、感心したように息を吐いた。


「お二人とも、初夜をまだ迎えていないからかしら。反応が初々しいこと」

「ぐっ!? げふ、げふっ!」

「だ、大丈夫ですか? アルフレッド様」


 驚きすぎたのか、アルフレッド様が咳き込んでいる。背中を擦りながらも、エマ二エルを見てみると微笑んでいた。どことなくオーレリア様に似ているような気がする、この方。


「アルフレッド様はこう見えて、純粋な御方なので……。からかうのはほどほどになさってください」

「申し訳ありません、シャーロット様。頑なにそのドレスを着たシャーロット様のことを褒めないのでつい」

「お姉様」


 クレアが小さな声でたしなめると、舌先を出してお茶目に笑う。憎めない人だった。ようやく落ち着いてきたアルフレッド様が、咳払いをしながら姿勢を正す。


「褒めようがないからだ。あらかじめ伝えておいたイメージとまったく違う……!!」

「そ、そんなに似合ってませんか? 私」

「そうではなく……。ああ、もう、まいったな」


 アルフレッド様が珍しく乱暴に、濃いブラウンの髪を掻きむしりながら私の前に立つ。おもむろに肩に両手を添え、ぐっと引き寄せてきた。


「すごくよく似合ってる。……他の誰にも見せたくないぐらいに」

「ふぉ、ふぁ、ふぉっ!?」

「もう二度と着て欲しくないな、このドレスは。色気がありすぎて困る」


 止めを刺すかのように呟いたあと、ぱっと離れていった。心臓がばくばくする。いつもの優しいアルフレッド様も好きだけど、冷たくて、誰のことも寄せつけなさそうなアルフレッド様も好き。なんだかとことん、特別扱いされているような感じがして。


「彼女のことは褒めた。つべこべ言わずに、次のドレスをさっさと出してくれないか? あまり時間が無いんだ」

「あら、残念。その褒め言葉をお聞きしたかったんですけど」

「殿下。またシリル様の力をお借りしても?」

「もちろん。よろしく頼めるか?」

「はい」


 それまで壁際に控えていた兄のシリルが、ふんぞり返りながらやって来た。アルフレッド様が贈った深い青色のローブをまとい、きちんと耳の毛も整えてある。以前とは大違い。兄を眺めているとクレアの下へ行き、人形が着るようなサイズのウェディングドレスを受け取って、ぽんっと元の大きさに戻した。それを手袋をはめた手でうやうやしく扱い、クレアに手伝って貰いながら、私の体へと当てる。


「いいか? シャーロット」

「はい、お兄様」

「いくぞ。少しめまいがするかもしれん」

「三流ですからねえ、お兄様は」


 私の言葉を無視して魔術をかけた。とたんに足元の影から、光り輝く植物のつたが伸び、私と新しいウェディングドレスを絡めて縛り上げてゆく。くらりとめまいが起きたあと、着ていたウェディングドレスが床に落ち、慌ててクレアが拾い上げる。私はもう、新しいウェディングドレスに着替えていた。すぐさま、応接室に置いてある全身鏡へと駆け寄り、アルフレッド様の方を振り返る。


「どうですかっ? これは! 意外性が無くてつまらないんですけど」

「いいんだ、ウェディングドレスだから意外性が無くても! 似合ってるよ、シャーロット」

「つまらないですよねえ。でも、堅物にも気に入って貰えるようなウェディングドレスにしましたの」


 その言葉通り、胸元を出さないロールカラーつきのシンプルなウェディングドレスだった。でも、あまりにも装飾を落としすぎていて、シルク生地の上質さは伝わってくるんだけど面白みが無い。挙式当日は肘までの手袋を着用するみたいだけど、堅苦しすぎる。アルフレッド様も不満だったのが、顎に手を添え、うーんと唸っていた。


「次。もう少し華やかさが欲しいな」

「わがままですねえ、まったく。シャーロット様? シャーロット様はこうして欲しいとか、ご希望はありますか?」

「えっ? いえ、無いです……。私、ドレスにこだわりは無くて」

「そうでしたね。オーレリア様は細部までこだわる方ですから、戸惑ってしまいまして。申し訳ありません」

「確かにオーレリア様はすごくこだわりそう……」


 きっとオーレリア様なら、ウェディングドレスにもこと細かく注文をつける。でも、特にこだわりは無かったので任せた。兄の手を借りて、また次のドレスに着替える。


「これはどうですか?」

「……可愛い! いいな、これにしようか」

「本当、よくお似合いですわ。シャーロット様」


 肩をふんわりと覆っている花柄レースのパフスリーブに、緩やかなハートネックが可愛らしい胸元。腰の位置は高めで、空気を含んだシフォン生地が幻想的に広がっていた。ほのかに青みを帯びた白い生地は、軽やかでありながらも光沢があって、すごく素敵! これにレースのベールを合わせると、すごく綺麗に見えるんだろうなぁ……。ドレスに興味なんて無かったのに、ついつい嬉しくなってしまって、くるくる回ってみる。


「わーっ! 可愛い! ふわふわっ! このお袖も好きです、可愛いっ!」

「シャーロット、回ると危ないからちょっと……」


 アルフレッド様が駆け寄ってきてくれたので、ついでに手を取り合い、二人で軽く踊ってみる。私が笑いかけると、嬉しそうに笑ってくれた。腰に手を添え、弾むようにステップを踏んでゆく。


「ねえ、くるっと回すやつしてくれませんか!? お願い!」

「一回だけね。はい」

「わ~っ……楽しい! ありがとうございます!」


 アルフレッド様の手に導かれ、くるりと体が回る。ふと気が付けば、クレアもエマ二エルも微笑ましく見守ってくれていた。


「あっ、すみません。ついはしゃいでしまって! 素敵なウェディングドレス、どうもありがとうございました!」

「ふふふ、いえいえ。ああ、そうだ。リンジーのお店から、ウサギちゃんのカラードレスを預かっているんです。何でも、挙式当日に着ないのにわざわざ注文なさったとか。そう聞いていますよ? アルフレッド殿下」

「ありがとうと伝えておいてくれ……」

「はい。お店の方にそう伝えておきますね。無理が祟って彼女、寝込んでいるらしくて」

「なるほど、それでか。まぁ、いずれそうなるんじゃないかと思ってた。いつも目の下にクマが浮かんでいたからな」


 いつもの優しいアルフレッド様なら、「心配だな」の一言ぐらい、言ったのかもしれないけど、エマ二エルとクレアの前だったから、それ以上何も言わなかった。無事にウェディングドレスが決まったので、二人が笑顔で退出し、兄のシリルも「何かあったら呼んでください」とだけ言い残して、部屋の外に出た。ようやく二人きりになれたので早速、届いたカラードレスを見てみようと思い、テーブルの上に置いてあるトランクに手をかけたところ、私の手に手を重ねてくる。


「アルフレッド様?」

「ちょっと待って欲しい。ドレスを見るのはあとででもいいだろう? それからでも遅くない」

「でも、可愛いドレスを着た私を見たくないんですか?」

「もちろん見たいよ。でも、今、沢山見たばかりだからね」

「ウサギちゃんの時とはぜんぜん違うと思うんですけど……」

「まあまあ。ほら、こっちにおいで。ロッティ」


 さっきとは打って変わって、甘い微笑みを浮かべ、私をソファーへ誘導した。若干緊張しつつ、深みのある真っ赤なドレスの上に手を置いていると、隣に腰かけてきたアルフレッド様が微笑み、私の手を握り締めてくる。


「この間から言いたかったんだ。……ロッティが私の前でリラックスして、ウサギ姿でいてくれることは嬉しい。嬉しいが、最近、その、あまりにも人の姿に戻らないなぁって」

「すみません。アルフレッド様の反応が良いので、つい」

「でも、私達人間はウサギにキスするよりも、人にキスする方が好きなんだ」

「えっ?」


 私の腰に手を回して、軽く頬にキスしてきた。ウェディングドレスを着た高揚感がまだ胸に残っているのか、やたらと心臓が騒がしくなってゆく。アルフレッド様を見上げてみれば、穏やかに微笑み、私の頬に手を添えてきた。


「ごめん、さっきのドレス……。ちゃんと褒めることが出来なくて。でも、すごく似合っていた。可愛かった」

「あのセクシーなドレスですか?」

「そう。でも、目のやり場に困るからね。胸元も開きすぎだったし……」


 アルフレッド様が手を伸ばして、胸の辺りをゆっくりなぞっていった。心臓がどきりと飛び跳ねる。た、確かに最近、ウサギ姿に戻っていちゃいちゃすることが多かったし、人の姿でいちゃいちゃ、してこなかったかも……。久しぶりの感覚で胸が苦しい。手を押さえれば、ちょっと悲しそうな顔をした。


「嫌だったかな? ごめん」

「いえ……。でも、久々ですね。人の姿でこうやってゆっくり過ごすのは」

「だね。もちろん、ソファーで昼寝してる君も可愛いんだけど」

「ご、ごめんなさい」

「謝らなくてもいいよ。でも、少しだけ許して欲しいかな……」


 手で私の首筋を撫で下ろし、近付いてきた。軽く私にキスをしたあと、首筋に移って吸い付いてくる。背筋がふるりと甘く震えた。こういうことは久々で緊張する。肩に手を添えると、首筋にゆっくりと舌を這わせ、赤い跡を残すためなのか、さっきよりも強く吸い付いてきた。


「あの、アルフレッド様……?」

「ごめん、やめないとな。でも、色気なんて出さなくてもいいよ。十分魅力的だから」

「少しだけ淋しかったんです。ウサギ姿の時の方が反応が良いから、私、あんまり褒めて貰えないから」

「そうか、私のせいだったのか……。ごめん、ロッティ。前みたいに体目当てなんじゃないかと思われたくなくて」

「えっ?」


 私は沢山褒めて貰えたらそれでいいんだけど。何か誤解してらっしゃるのかも? じっと見つめていたら、静かにソファーへ押し倒された。真剣な顔をしている。クッションに背中を預け、アルフレッド様の肩に手を添えながら、もう一度見つめ合う。熱っぽい眼差しに息が出来なくなった。髪が触れるような距離で、アルフレッド様がささやく。いつもの濡れた森のような香りが漂ってきた。


「……褒めたら褒めた分だけ、可愛い顔をしてくれるから。つい、理性が飛んでしまいそうになる」

「ふぁ、ふぉっ」

「でも、淋しい思いをさせてしまってごめん。ウサギ姿の時より魅力的だよ、愛してる」


 背筋がぞわわっとして、ウサギ姿に戻ってしまいそうになった。でも、まだまだこの姿に触れて欲しいから、お腹にぐっと力を入れて耐える。アルフレッド様がくすりと笑い、柔らかく私のまぶたにキスをしてきた。


「可愛い。顔が真っ赤だ」

「あの、私も好きです……。でも、ウサギ姿の時とぜんぜん違いますよね? どうしてですか?」

「ん? テンションが高すぎるってことかな? もふもふしてる時は」

「い、いいえ……!! 今のこの状態が、アルフレッド様、色気がだだ漏れ状態で戸惑っちゃうんです……」

「まぁ、ウサギの君にこういうことは出来ないからね」


 愉快そうに笑って、私の両手を握り締め、今度はくちびるにキスをしてきた。くちびるを味わうみたいに舐めて、優しく舌を捻じ込んでくる。心臓が爆発してしまいそうだった。でも、今日のアルフレッド様はすごく大胆で、キスが終わったあとも、欲にまみれた青い瞳で見つめてくる。


「……ごめん。もう終わりにしようか? ソファーの下に逃げ込まれたくない」


 苦しく喘ぐように呟いた。頬の内側がかっと熱くなる。でも、続きを待ち望んでいる自分が確かにいた。


「私、私……。この状態のアルフレッド様が好きです。もっとしてください」

「……ロッティ」


 アルフレッド様が息を詰め、静かに覆いかぶさってくる。困惑してしまった。だ、だめだったかな……? 私の両手を改めてぎゅっと握り締め、髪に顔を埋めてくる。


「だめだ、可愛い……。でも、暴走したらまた怒るだろう?」

「す、少しなら怒りませんけど?」

「君の少しと俺の少しは多分、違うだろうなぁ」


 そう呟くアルフレッド様は、いつもより大人の男性という感じがして、かなり緊張してしまった。心臓がもう限界でばくばくと、激しく脈打っている。でも、あともうちょっとだけして欲しい。


「怒りません。怒りませんから、その、あともうちょっとだけして欲しいです……」

「あー……。なら、喜んで。でも、あらかじめ言っておく。ごめん」

「ふぁ、ふぁいっ!」


 ウサギ姿に戻らないようにしなきゃ! アルフレッド様がひっそりと微笑んで、私にいつもより濃厚なキスをしてきた。もどかしい。結婚するまでお預けで。そのあとはまた、首筋に何度も吸い付いてくる。震えながら肩にしがみついていると、くちびるを塞ぎながら、体のあちこちをまさぐってきた。頬が熱くなってどうしようもなくなる。でも、嫌じゃなかったから、逃げ出したくなる気持ちを必死で押さえつけていると、耳元で「ロッティ」と甘くささやいてきた。


「もうここでやめておこうか。限界だ」

「は、はい……。う、ウサギ姿に戻りますね? 私」

「うん。残念だけど仕方ないか」


 上手く息が出来なくなった私の手を取って、ソファーから起こしてくれる。だけど、いつもより手の温度が高いような気がして、頭が真っ白になってしまった。心配そうな顔をしたアルフレッド様が、私の目の前で手を振る。


「おーい、ロッティ? 大丈夫かな? ドレスは?」

「あ、あの、まずは抱っこしてください……」

「するよ~! 可愛いなぁ、もう」


 無事にぽんとウサギ姿に戻って、アルフレッド様に抱っこして貰う。腕に顔を押し付けてから、目を閉じれば、さっきまでの熱がようやく逃げていくような気がした。


(やっぱり、ウサギ姿で甘える方が好きかも……)


 でも、さっきみたいなことも沢山して欲しいような気がする。胸がふわふわとして落ち着かない。それなのにアルフレッド様は、すっかり切り替えていて、にこにこと嬉しそうに笑いながら「可愛い~」と言って、私の頭を撫でていた。ちょっぴり悔しくなってしまった。だけど、ウサギ姿になって可愛いポーズをすれば意のままに操れるし、すぐポケットからおやつを出してくれるので我慢する。








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