8.シャーロット嬢いわく、国王夫妻のために頑張った一日
ふわふわふわと、指がひたすら毛皮の感触を楽しんでいた。いつもより撫でるスピードが速いし、ひょっとすると落ち込んでいるのかもしれない。書類をのけて貰った机の上にて、後ろ足をにょーんと伸ばす。ドレスは白フリルと茶色のチェック柄ドレスで、人の姿に戻れば、モスグリーンの品の良いドレスへと変わる。
「それで結局、私は色んな人と仲良くしようと思ってたんですけど、アルフレッド様ったら嫉妬心が大爆発しちゃって、お尻すら嗅げなかったんですよ~」
「尻を嗅ぐのか……」
「嗅ぎますよ? 基本中の基本です! 人間だって笑顔で挨拶するじゃないですか。それと一緒ですよ」
「いや、違うと思うが。かなり」
「否定にも覇気がありませんねえ、陛下。どうして落ち込んじゃってるんですか?」
「……」
秋が深まってきて肌寒いからか、白いシャツの上からアーガイル柄の白黒ニットを着ていた。今日は午前だけお休みなので、金髪混じりの茶髪がくしゃっとしている。でも、髪を整える気力が無いほど、落ち込んじゃってるだけかもしれない。そうやって無防備な姿でいると、実年齢よりすごく若く見える。私は密かに陛下が、素晴らしい効能の化粧水でも作らせて、お肌に塗っているんじゃないかと疑っている最中……。私がふんふんふんと、鼻先を動かしていると二の腕を組み、溜め息を吐いた。
「喧嘩したんだ、妻と」
「あら~。何をしちゃったんですか? 陛下」
「私が何かした前提で話すのはよせ。毟り取ってやろうか、毛を」
「そのもふもふを楽しんでいるのは一体、どこのどなたですか? それに人払いをしたぐらいですから、私に話を聞いて欲しいんでしょう?」
「……」
「も~、仕方ないですねえ。特別にお腹を触らせてあげましょうか?」
「いらん……」
とは言いつつも、お腹を向けた私をじっと見下ろしたのち、無言でもふもふし出した。うーん、いまいち! やっぱりアルフレッド様の手が一番。あとで会えるから、今は陛下のつたないもふもふで我慢しよう。
「それで? 怒られちゃったんですか? 口を聞いて貰えなくなっちゃったんですか?」
「本当は今日、体調が良いのなら城の庭を散歩するはずだったんだ……。二人で」
「楽しいですよねえ、お散歩! 最近は叔父様がボールを投げてくれるんですよ。それが楽しくてついつい長引いてしまって」
「……ただ、やたらと眠かったみたいで。眠いたいのなら眠ればいいと伝えたんだ」
「それで? 陛下も優しい気遣いが出来るじゃないですか!」
「何故、お前がそうも偉そうなのかがよく分からん……!!」
「痛い痛い! はにゃをつままないでください! はにゃを!」
私の鼻先をぎゅっとつまんでいた陛下が笑い、手を放してくれた。も~、陛下じゃなかったら蹴り飛ばしてたところだけど……。一瞬だけ、足の甲を踏みつけるぐらい、許されるんじゃないかしらという考えが浮かぶ。そんな私の考えには気付かず、力なく笑いながら頬杖を突いた。
「でも、貴重な休みだし、無理に出ると言って聞かなくてな……。だからつい、君の出産に国の未来がかかっているんだからと言ってしまったんだ」
「あ~、だめですねえ。王妃様は子供を産む道具じゃないんですよ? 気をつけなくちゃ!」
「それで、泣き出してしまって……。情緒不安定になっていてな、最近。慌てて弁解したものの、クッションやら物やらを投げ付けてきて」
「それで、追い出されて今に至るという訳ですね?」
「……まぁ、あながち間違っちゃいない」
「ちゃんとごめんなさいしました? 小さい頃のアルフレッド様も出来てましたよ? ごめんなしゃい~って!」
「……」
「痛い痛い! はにゃがっ、はにゃがもげるっ!」
また手を放し、深い溜め息を吐く。でも、ここで私相手に愚痴っている暇があったら、王妃様の下へ行って一生懸命謝ればいいのに……。とうとう、突っ伏してしまった陛下の頭をふんふんと嗅ぎ回る。
「陛下? ほら、ついていってあげますから! 私と一緒に王妃様に謝りに行きましょう? じゃないと、ずっとこのままですよ~?」
「顔も見たくないと言われたんだ……。お腹の子に障るとあれだし、今は距離を置いた方が、」
「もー! バカじゃないですか?」
「ば、ばかだと……?」
のろのろと顔を上げ、ショックを受けたように固まった。あっ、温室育ちだからバカって言われたことがないのかも? ひとまず丁寧にお座りして、可愛い顔をしておく。アルフレッド様ならこれで全部許してくれるし。
「あのですね? 王妃様は陛下に優しくして欲しいんですよ! 子供を産むのが役目だって理解してはいるんですけど、あからさまに出産を国事扱いされたらへこんじゃいます」
「まぁ、だろうな。だから謝ってみたんだが……」
「足りないです。ぜんぜんだめです。陛下は女心がちっとも分かっていません!」
「たかだか、ウサギごときに女心を説かれても困る……」
「もふもふさせませんよ!? もうっ! いいんですか!? アルフレッド様しゅきしゅき物語も聞いてあげませんよ!?」
「ちょっと待て。それはなんだ? そんな話、一度もしたことないが?」
「えっ? してるじゃないですか、いつも。こぉ~んな顔で、アルフィーがぁ、二歳の頃にぃって言ってるじゃないですか~」
「……」
「痛い痛い! 頭を掴まないでくださいっ! ウサギは繊細なんですよ!?」
陛下が無言で私の頭を握り締めたあと、手を放して溜め息を吐いた。も~、さっきからこの繰り返しで飽きちゃった! 私は傷心の陛下を慰めようとしてるだけなのに!
「いいですか!? 王妃様はちゃあ~んと優しく慰めて欲しいんです。お花でも持って謝りに行きましょうよ~」
「そう言えば、宝石花が咲いたところだったか……」
「そんなことは知っているのに、王妃様がかけて欲しい言葉は知らないんですねえ」
「……」
「あれ、落ち込んじゃいました? ごめんなさい」
ひとまず温室で大事に育てられているという、宝石花を摘みに行こうという話になり、執務室から廊下へ出た。待っていた側近に軽く話したところ、少し離れたところから、護衛の魔術師がついてくることになった。アルフレッド様の場合、城の警備は万全だからということで、基本的に一人でもお散歩出来るんだけど、陛下の場合、そうじゃないみたい……。隣でぴょこぴょこ、歩きながらも話しかける。
「陛下。ずっと人がいる環境って窮屈じゃないんですか?」
「お前だって、常に人が傍にいるだろう?」
「いえ、私はお庭で一人になったり、街中を義妹と一緒に歩いたりするので……。家族以外の人とずっと一緒ということはありませんよ。あと、歩くスピードをもうちょっと落として、ふぉっ!?」
ひょいっと、陛下が黙って私を抱えた。抱えたのち、廊下の窓を眺めながら溜め息を吐く。
「この状態が常に当たり前だからな。今さら、特に何とも思わない。それに、一人にして欲しい時は言えば言いだけだ。自由が無い訳じゃない」
「なるほど。ウサギ姿で歩きながら喋ってたら、疲れちゃいました……」
「どうして人の姿で歩かないんだ……?」
「慰めです。隣に愛くるしいもふもふがいたら、気分もちょっとは晴れるでしょう?」
「なるほど。私へのサービスとは知らなかったな」
陛下が虚ろな眼差しで呟いた瞬間、廊下の角からオーレリア王女が飛び出してきた。ぶつかりそうになって息を呑みこみ、後ろへと一歩下がる。腕には真っ白の飼い猫を抱えていた。煌く銀髪はおろし、深い紺色のドレスを着ている。
「おい、危ないだろう。廊下を走るなと何度言ったら分かる? オーレリア」
「あら、お兄様。ごきげんよう。この子をお義姉様に会わせてあげようと思っていたところなの。……でも、先を越されてしまったかしら? お兄様はこれから、お義姉様を抱っこしてお散歩でもするところなの?」
「……別にそういう訳じゃない」
「あらあら、てっきりそうかと思いましたのに。でも、意外でしたわ。まさか、お兄様まで毛皮のとりこになるだなんて!」
にっこりと意地の悪い微笑みを浮かべ、硬直している陛下を見上げた。この二人、ひょっとして相性が悪い……? おろおろしていれば、陛下がもう一度溜め息を吐く。
「また教師を庭で撒いたとか……。いつまでもそんな状態じゃ、嫁ぎ先で上手くやっていけないぞ?」
「心配してくださるんですか? 流石はお優しい陛下。最近は雪解けが始まったと言われるぐらいですものねえ~、ふふふふ」
「当たり前だ。心配で心配で仕方ない。国を背負っているという自覚も無く、末の妹が他国へ嫁ぐんだからな。しっかりして貰わなくちゃ困る」
「でも、王妃様と喧嘩なさったとか。私の心配よりも、ご自分の心配をするのが先ではなくて?」
「……」
アルフレッド様がここにいてくれたら良かったのに……。真顔になっていると、陛下が私を床へそっとおろした。いつもはもう少しぞんざいにおろすのに! やっぱり、オーレリア様の目があるから?
「耳が早いな、お前は。……今から、謝りに行くところだ」
「でも、部屋が逆でしてよ? お義姉様と一体どちらへ?」
「……」
「今から宝石花のブーケを作りに行くんです! 王妃様、お好きみたいで。それを持って謝りに行くんですけど、陛下が一人じゃ心細いみたいだから私が、」
「行くぞ、シャーロット。来い」
「犬扱いしないでくださいよ!? もーっ!」
陛下がぞんざいに太ももを叩き、私を呼び寄せる。笑顔で手を振るオーレリア様と別れ、城の一角にある温室を目指した。私が息を荒げながら歩いていると、周囲をさりげなく見回してから抱っこする。
「もういいから人の姿に戻れ。……このままの状態で庭師に会うのもな」
「おやつで手を打ちましょう。出してください」
「だから、どうしてお前はそう偉そうなんだ……!?」
とか言いながらも、ポケットの中からりんごチップスを取り出してくれた。もぐもぐと食べて飲み込んだあと「もう一枚ください!」って、ためしに言ってみたところ、黙ってもう一枚くれた。仕方が無いので、おりて人の姿へ戻る。
「さっ! 宝石花を貰いに行きましょうか」
「ずいぶんと偉そうにしているが、お前が駄々をこねなきゃもう少し早く辿り着いたんだ」
「じゃあ、一人で花を取りに行って渡したらどうですか?」
「いや、私一人で行けば、追い返されるかもしれないから……」
「結局は王妃様を怒らせちゃって、一人でごめんなさいしに行けない王様なんですね~?」
「……親の顔が見てみたい」
「父も母もウサギですよ? 母は亡くなっていますが、父なら頼めばもふもふさせてくれるかと!」
「そういうことじゃないんだ!!」
何故か、いきなりぷんぷんと怒り出した。しぶしぶなだめながらも、温室に行って花を選ぶ。秋の陽射しに照らされた温室はガラス張りで、あちこちに珍しい植物が植わっていた。息を吸い込めば、乾いた緑と湿った土の匂いがする。お目当ての宝石花は盗難防止のため、厳重に鍵がかけられた部屋が作られ、その中で咲き誇っている。特別に私も入れて貰い、中を見て回った。
「わ~、綺麗! あっ! ひょっとしてこれ、王冠に使われていたお花ですか?」
「そうそう、よく知ってるねえ。俺のじいさんがね、丹精込めて育ててた宝石花で。いやぁ~、王冠に使われるってなった時、泣いて喜んだもんよ」
庭師のおじさんは親切なんだけど、年が離れているからか、それとも私の頭にふわふわのウサギ耳がついているからか、やけに砕けた態度で接してきた。陛下が困惑する私を無視して、紺色の磁器に植えられた宝石花を見て回り、おもむろにとある宝石花の前で足を止めた。しなやかな茎は透き通ったグリーンぺリドット、葉脈が浮き出た大きな葉はエメラルドグリーン、小さくて白い花は密集している。庭師のおじさんを置きざりにして、近寄って見てみると、花弁はまろやかな光沢のあるパールで出来ていた。
「これがいいな。これを貰おう」
「王妃様、白色がお好きなんですか? それともパールが?」
「いや、知らないのか? これは子孫繁栄を願う縁起物の花で、」
「バカじゃないですか!?」
「ばっ、ばか!?」
「へっ、陛下を、陛下を、陛下をっ……!!」
庭師のおじさんが、泡でも吹きそうな勢いで青ざめている。でも、バカですか? 子供を産む道具的な発言をしたあとのお詫びでそれですか? ショックだったのか青い瞳を見開き、硬直している陛下を睨みつける。
「自信満々で選ぶから、てっきり王妃様が好きなお花かと思ったのに!」
「いや、マーガレットは宝石花なら何でも好きだから……」
「はい? おバカちゃんな上にアホなんですか!?」
「あ、あほ……!?」
「お、お嬢ちゃん、いくら何でも陛下に向かってそれは……!!」
「やり直しです! ショックを受けている場合ですか!? せめて王妃様が好きな花じゃなくても、愛してるとか謝罪とか懺悔とか後悔とか、そういう花言葉を持つ花を選ぶべきですよ!? はいっ、ぼさっとしてないで選んできてください! アルフレッド様なら、私の好きなお花を贈ってくれますよ!?」
「分かった。分かったから、そう叫ぶな……」
心なしか金茶色の髪をぱさつかせながらも、必死に選び始めた。温室育ちだけど、根は素直だし、打たれ弱いのかもしれない……。結果、選んだのは王妃様の名前と同じ形をした花と白百合、それから“乙女の初恋”という名を冠した、淡いピンク色の薔薇。どれもこれも照りが濃く、眩い光を放っている最上級の宝石花だった。
「それで? これらの花を選んだ理由はなんですか?」
「やはり、私にとってマーガレットはこの花だし……。白百合も気に入っている花だから」
「で? この可愛いピンク色の薔薇を選んだ理由は? なんですか?」
「陛下に向かって、陛下に向かってそんな口を……?」
庭師のおじさんが今にも死にそうな顔をして、ぶつぶつと呟いている。いつの間にか温室に入ってきて、ひっそりと隅の方にいる魔術師も、困惑した顔でこっちを見てきた。ぱっと見は三十五歳ぐらいで、夜の闇を溶かしたかのようなローブを着ている黒髪黒目の美形だった。
「このピンク色の薔薇を選んだ理由は……その、マーガレットを今でも大事に想っているという証拠になるかと思い、」
「はい? 証拠? 王妃様の前でそんな無機質な言葉を使わないでくださいね? それに愛しているという証拠を渡すよりも、きちんと態度で示していってください。急にそんなものを渡されても困ります。それに、たかだかこんな花を渡すだけで、愛してる証拠になると思わないでくださいね? 考えが甘すぎますよ? 分かりました?」
「……お前、ウサギの姿でいた方が良かったんじゃないのか?」
陛下がしおしおと、塩をかけられたナメクジみたいになってしまった。でも、切ったお花をただ渡すだけじゃ味気無いし、おじさんのセンスはいまいち信用出来ないので、女性を惑わしていそうな魔術師を手招きする。困惑した顔をしながらも、優雅な足取りで近付いてきた。
「お呼びでしょうか? シャーロット様」
「これ、今すぐ王妃様好みのブーケにして頂けませんか?」
「えっ? ですが、それは……」
「ねえ、陛下。王妃様ってどんな色のリボンがお好きなんですか?」
「あ、確か、ピンクや淡いブルーか……? あと、私の瞳の色だからと言って冬のような青、」
「じゃあ、陛下の瞳と同じ色のリボンを出してください。それから、薔薇と同じ色のピンクリボンも。重ねて結んでこう、いい感じにしてください」
「いい感じとは……!?」
「見た感じ、恋愛経験が豊富そうですし、好きな女性に贈るブーケをイメージして作ってください。でも、謝罪ブーケなのでほどほどに華やかさを残しつつも、派手にならない感じでお願いします」
「今までの命令の中で一番難しいです……」
でも、両手を広げ、陛下が持っている宝石花をよく見ながら、シルクのような光沢の太いリボンを何本も生み出す。それから淡いピンクとブルー、グリーンと白の薄い紙を取り出し、陛下から宝石花を一本ずつ受け取りながら、丁寧に包んでいった。
「どうですか? 王妃様の象徴であるマーガレットと白百合を中央に配置しました。ですが、シャーロット様はそこまで華美ではないブーケをお望みなので、このピンク色の薔薇は小さな花に挿し変えるか、数を減らした方がいいと思います」
「流石はモテそうな魔術師さんですね! じゃあ、ピンク色の薔薇は減らしちゃいましょうか!」
「あの、ライナスと申します……」
「ライナスさん。そのふざけたピンク色の薔薇はやめて、そっちの小さな白い花にしてください」
「おい……」
「かしこまりました」
従順に返事をしたライナスを見て、陛下が絶句する。信頼の置ける部下だったのかもしれないけど、私の方が上ということに気が付いて従ってきた。ふふんと鼻を鳴らしていると、ライナスが静かに手招きをして、白い花を呼び寄せる。難しい命令だと言っていたわりには、素敵なブーケをあっという間に作り出した。
「これでどうでしょう? シャーロット様」
「ライナス……」
「いいですね! ありがとうございます。さぁ、落ち込んでいる暇はありませんよ? 王妃様の下へ届けに行きましょう!」
「誰のせいだと思ってるんだ……」
ナメクジ化してしまった陛下を励まし、王妃様の下へ向かう。扉の前で眩い宝石花のブーケを抱え、青ざめた陛下が見下ろしてくる。
「どうしましたか? ノックしてくださいよ、早く」
「いや、誰かに呼ばせて……」
「王妃様ーっ! 陛下が来ましたよ! 傷付いて落ち込んでいるので、ちょっとだけでもいいから話を聞いてあげてください!」
「お、おい、お前。一体何を……」
「誰かに呼ばせるっておっしゃったので。私が呼んであげましたよ? 感謝してくださいね?」
我慢の限界だったのか、苛立った表情で口を開きかけた瞬間、おもむろに扉が開いた。そこにいたのは少しだけふっくらしてきた王妃様で、温かそうな毛布を羽織っている。
「陛下? まあ、それは……」
「あっ、と、悪かった、その、マーガレット……。悪気は無かったんだが、」
「言い訳無用! ちゃんと王妃様に謝ってくださいませ!」
「……すまなかった。今後は気を付けるから、良ければ私とデートして欲しい。君の傍にいたいんだ」
落ち込んだ表情で、美しく輝く宝石花のブーケを手渡されたからか、王妃様が感動して涙ぐんでいた。笑顔でお騒がせ夫婦に別れを告げ、アルフレッド様の私室へと向かう。
「ロッティ! 待っていたよ! 兄上のところにいるって聞いたから、会いに行ったんだけど、どこにもいなくて……」
「アルフレッド様ーっ!」
「わっ!? 早いな、変身するのが」
ぽぽんとウサギ姿に戻って、抱っこをして貰った。も~、今日は本当に疲れちゃった! アルフレッド様とただ、いちゃいちゃしていたかったのに、陛下のため、王妃様のため、動き回ってえらい。私……。悲しくぴすぴすと鼻を鳴らせば、笑顔でもふもふしてくれた。
「どうしたの? ロッティ。何か悲しいことでも?」
「いいえ……。でも、陛下と王妃様のために頑張ったんですよ、私」
「兄上と義姉上のために?」
「はい。陛下をこの毛皮で慰めたあと、オーレリア様に冷たくされて落ち込む陛下を励ましつつ、温室に行ってブーケを作って貰ったんです……」
「ええっと、まったく話が見えないなぁ」
「王妃様と陛下が喧嘩してたんです。だから私、頑張って陛下を慰めて、魔術師さんにこういうブーケを作ってってお願いしたんです。それで、そのブーケを持って陛下が謝りに行ったという訳です……あっ、そこ好きです! もうちょっと地肌を掻くような感じでお願いします!」
「可愛い……」
アルフレッド様のお膝へ寝転がれば、すかさずもふもふしてくれた。いつにも増して優しい指先に、きゅんと胸が高鳴ってしまう。
「は~あっ! 今日もよく頑張りました……」
「お疲れさま、ロッティ。きっと兄上も喜んでるよ」
「そうですかねえ? あんまりそんな風には見えなかったんです……。こんなに頑張ったのに、お礼の一つも言ってくれなくて」
「そうだったんだ? じゃあ、私から兄上に言っておくよ。でも、頑張ってくれて本当にありがとう、ロッティ」
身も心もとろけてしまいそうなほど、優しい微笑みを向けてくれた。これを見るだけで、疲れが吹き飛んでいくような気がする。可愛いって言って貰えるよう、お腹を向けたまま、前足をぴょこぴょこと動かしてみた。
「ありがとうございますっ! アルフレッド様、大好きですっ!」
「可愛いーっ!! 愛してるよ、ロッティ! 可愛いーっ!! きゃわきゃわ!」
「昼間からのお腹ふがふがはっ! あうっ! 前から思ってたんですけど、婚約者であろうとも昼間からのお腹ふがふがはっ……!!」




