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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第三章 ただ幸せな結末へと向かって
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7.大体みんな、自分の妻や夫をペット扱いしている

 



 とりあえず、黒いウサギと一緒に座っている女性の向かいが空いていたので、そこへ逃げるようにして腰かける。次第に集まっていた視線がふっと緩み、それぞれ話をし出した。良かった。ほっと胸を撫で下ろしつつも、膝の上にシャーロットを乗せる。すぐさま伏せをして、毛皮の下に前足を隠していた。


「ふふふ、初めまして。こんにちは。もしや、アルフレッド殿下とシャーロット様ですか?」

「あっ、はい。初めまして……」


 あらかじめ招待客には「非公式の訪問だと思って欲しい」と通達してあるらしいが、どう振舞えばいいのかよく分からない。緊張していると、波打つ黒髪と黒い瞳を持った女性が品良く笑った。膝の上に乗った黒いウサギはスーツを着ていて、こちらを警戒しているのか、しきりにじっと見つめてきている。


「私、アン・オルコットと申します。こっちは夫のジェームズ・オルコット。どうぞよろしくお願い致します」

「あっ、こ、こちらこそ……」


 ああ、だめだ! どもってしまう! 少し薄暗い部屋の中で震えていると、シャーロットがむんと胸を張って「初めまして! シャーロット・オーウェンと申します」と挨拶した。とたんにアンの表情がとろけて、声も甘いものになる。


「初めまして、シャーロット様。ああ、もし良ければ、あとでもふもふさせて頂けませんか?」

「いいですよ、別に!」

「アン……」

「あなたは殿下に触って頂いたらどう? 今日は念入りにブラッシングもしてきたし」

「えっ!?」


 け、決定なのか? しかし、そんなことも言えずに黙り込む。どうしよう? 元の姿が分からないと抵抗があるぞ、これは……。でも、ジェームズはシャーロットとは違って立ち耳のウサギだった。白いシャツからあふれ出している毛皮は黒く、いかにも艶やかで触り心地が良さそうだ。心を落ち着かせるため、シャーロットの頭を撫でながら観察する。


(でも、この際、男性でもいいか……。男性であればきっと、ロッティも嫉妬しないだろうし、思う存分もふもふが出来る)


 最近では、女性の獣人をもふもふするだなんてとんでもない! と思えるようになってきた。最初こそ「浮気かな?」と思い、戸惑ったが今なら分かる。浮気だ。他の女性をもふるだなんて浮気だ。物思いにふけっていると、アン夫人が話しかけてきた。


「殿下、お困りなのではありませんか?」

「えっ? あ、ああ、確かに……。獣人と婚約するのは初めてで……。アン夫人はどうでしたか? ご結婚されてどのぐらい経つんですか?」

「四年経つんです。最初こそ毎朝のお散歩に戸惑ってたんですけど、今ではもうすっかり慣れました。リードもきちんと隠していますよ」

「り、リードを?」

「はい。シャーロット様も恥ずかしがるでしょう? 人目のないところでつけた方がいいですよ、なるべく。あと私も以前は友人に、これ、夫のリードなのと言って自慢したりしていましたが……」

「ひっ!? そ、そんなはしたないことをしてたんですか!?」


 衝撃的だったらしく、シャーロットが膝の上でぷるぷると震えている。夫も思うところがあるのか、小さく身震いしていた。この間、ノエルにシャーロットのリードを見せたことは内緒にしておこう……。そっと顔を逸らしていると、アン夫人が申し訳なさそうな笑みを浮かべ、胸元に手を添える。


「そうなんです。ちっともよく分かっていなくて、獣人のことが」

「わ、私も分かっていないところが多いのですが……」

「まあ。お力になれるかもしれませんわ。どんなことでお悩みですか?」

「ええっと、まず、ぬかるみに突っ込んで行って、泥遊びをしてしまうんですが……。やめさせる方法っってありますか? ちっとも聞いてくれなくて」

「もっ、もうしません。もうしませんよ? 私は……」

「本能が騒ぐ時があるからな。よく分かる」


 ジェームズが得心気味に頷き、ふんと鼻を鳴らした。シャーロットがほっとした顔をして「ですよね~! 騒いじゃいますよね!」と言っているのを見て不安になる。ウサギの方がいいと言われたらどうしよう……。私にあるのは毛皮じゃなくて頭髪だし、勝ち目は無いかもしれない。胸の内に湧き出てきた不安をひっそり噛み殺し、溜め息を吐く。アン夫人が勘違いをして、困ったように笑った。


「泥まみれになっているのを見ると、驚いてしまいますよね……。私はいっそのこともう、泥遊びの日を決めちゃいました」

「へっ? あ、ああ、なるほど。そういった方法が?」

「はい、そうなんです。毎月泥遊びの日を決めたら、やっと我慢してくれるようになって……」


 愛おしそうに黒い瞳を細め、夫の頭を撫でていた。でも、そうか。いっそのこと決めてしまった方がいいのかもしれない。見下ろせば、シャーロットが期待に満ちた瞳で見上げてきた。可愛い。笑いかけながらも、その頭を撫でてやる。


「じゃあ、私達も決めようか。アーサー達と一緒に」

「うっ、で、ですよね? 勝手に毎週にしたら怒られちゃいますよね?」

(毎週、泥遊びするつもりだったのか……)


 呆気に取られながらも撫で続けていると、シャーロットが機嫌良さそうに「帰ったら一緒に決めましょうね~」と言い始めた。良かった。もうこれで、私がこてんぱんに怒られることもなさそうだ……。ほっとしていれば、いきなりアン夫人が咳払いをした。


「あの、殿下? シャーロット様をもふもふしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「あ、ああ。どうぞ。じゃあ、私はご夫君をもふもふするということで……」

「う、浮気しちゃうんですね?」

「あれ、だめだったかな?」

「ちょっとその、だめになってきちゃいました……」


 シャーロットが不機嫌そうに、鼻をふんふんと鳴らし始める。まいったな、どうしよう。戸惑っているとアン夫人が黒い瞳を光らせ、素早く夫を抱えると、私の隣へと置いた。それから、一切の無駄が無い動きでシャーロットをさっと抱き上げる。


「ふぉふっ!?」

「可愛い~! 本当に素晴らしい毛皮ですこと! シャーロット様!」

「あ、アン、俺の方が上だよな!? なっ!? なっ!?」


 私の隣にお座りをしたジェームズが戸惑う。それを見下ろし、アン夫人が真剣な顔で言い放った。


「殿下! 今のうちです、お早く! 獣人は褒められながらもふもふされると、大抵のことはどうでも良くなってしまうんです! ですから、私の夫を素早く抱き上げてもふもふしてくださいませ!」

「えっ!? は、はい!」


 言われた通り抱き上げると、吸い付くような手触りの毛皮にうっとりしてしまった。ふんわりと、ベルガモットのような良い香りが漂う。そのまま抱き締め、思う存分もふもふすると、この上なく幸せな気持ちになれた。


「ああ……ロッティの毛皮とはまた違って素晴らしいですね。たまらない」

「理解頂けて何よりです、アルフレッド殿下」


 しかし、これでいいんだろうか? 本当に。シャーロットが気になって、ふと見てみると、いつの間にかソファーの上でお腹を向けて、うっとりしていた。すっかりアン夫人に体を預け、お腹を両手でもふもふして貰っている。かなりショックだった。こんなにも、あっさりと、見知らぬ人間にシャーロットが体を許すだなんて……。


「じぇ、ジェームズさん。奥方はテクニシャンか何かで……?」

「そうなんですよ。初めて会った時も骨抜きにされまして」

「そ、そうなんですか……?」

「はい。彼女は今まで会ったどんな女性よりも、素晴らしい腕を持っているんです」


 ショックだ。あのシャーロットが甘えるように「ぷっ、ぷっ」と鳴いて、嬉しそうに前足を動かしているだなんて。さっきまで浮気と言っていたのに、あっという間に、私のことなんてどうでも良くなっているな……。


(存在価値、存在価値が。私の存在価値が無くなってしまう……!!)


 茫然としていると、ジェームズが気を使ってお腹を向けてくれた。ただ、シャーロットの素晴らしきふわふわなお腹には、到底及ばなかったのは言うまでもない。無事に骨抜きにされて、ぐにゃんぐにゃんになったシャーロットを複雑な思いで抱え、席を移動する。次は真っ白に輝く毛並みを持った大型犬で、こちらは裸だった。挨拶をしながらも、シャーロットを目の前に置いてみる。すると尻尾をぶんぶんと振って、鼻先を近づけていった。後方では、心配そうな表情の女性が佇んでいる。


「だ、大丈夫かな? ロッティ、くれぐれも殴ったり蹴ったりしないようにね……?」

「分かってます!」

「私の夫、打たれ弱いんです。どうぞ程々に……」


 黒い鼻先とふわふわな鼻先がちゅんとくっついた瞬間、可愛くて声が出そうになってしまった。綿毛のような金髪を持ったジーナという名前の女性も、ほっとしたように笑顔を見せる。


「どうかと思いましたが、無事に仲良く出来て良かったです……!!」

「私もほっとしました。それにしても犬の獣人ですか。ロッティは毎日三十分程度のお散歩で済むんですが、そちらはどうですか?」

「もう大変ですよ。どんなにくたくたに疲れていても、お散歩と舞踏会は別だって言って、庭を散歩させられるんです。私としては一人で行って欲しいんですけど、それだと淋しくなっちゃうみたいで……」

「ああ、やっぱり犬の獣人だとそうなるんですね? あと、困ったこととかは? 日々、どんな感じですか?」

「革靴やスリッパを噛んでだめにしたりだとか、ソファーをばりばりに引っ掻いて噛んだりだとか。あと、獣人のお友達を大勢連れて来て、リビングをめちゃくちゃにしてしまったことがありまして……。しばらくの間、汚れも匂いも取れませんでした」

「うわ! それはかなりきついですね……」


 足元ではシャーロットと真っ白な大型犬がくるくると回って、じゃれ合っている。そうしているのを見ると、ウサギと犬が遊んでいるようにしか見えない。にこにこと笑って見守っていれば、ふと犬がこちらを見て目を輝かせ、尻尾を振りながら近付いてきた。


「初めまして、アルフレッド殿下! オリヴァーと申します」

「あ、ああ。どうも初めまして。触っても?」

「どうぞどうぞ」

「アルフレッド様!? 浮気も……ふぉっ!?」


 シャーロットが何かを言う前に素早く、ジーナ夫人が抱き上げて顔を埋めてくれた。獣人のパートナーがいる場合、相手にもふもふをして貰って黙らせてから、お目当ての獣人と触れ合うといいらしい。必死でふわふわと、真っ白に輝く毛並みを撫でていると、ちぎれんばかりに尻尾を振りながら、飛びつかれて顔を舐められてしまった。とたんに息が出来なくなる。


「わぶっ!? 待っ、まっへ、ぶ、ぶっ!」

「あ、も、申し訳ありません! 殿下。ついはしゃいでしまい……」

「いやいや、大丈夫ですよ」


 でも、中身は男か……。いやいや、正気に戻らないでおこう。深く考えない方が幸せだ。でも、この一部始終をシャーロットに見られてしまったらしく、急にジーナ夫人に抱っこされたまま、怒ってじたばた暴れ始めた。


「キーッ! アルフレッド様にキスしてもいいのは私だけですっ! 離してくださいっ! あの犬に制裁を与えねばなりません!!」

「も、申し訳ありません! 夫は相手が老人だろうが、子供だろうが、ついつい飛びついて舐めてしまうんです! どうぞ許してやってくださいませ!」

「なってないです! 自制出来ないだなんて! 子犬ちゃんでもないくせにっ」

「で、でも、ロッティも自制出来てない時はあるから……」


 オリヴァーが震えながら、尻尾を足と足の間に挟み、私の後ろに隠れ出したものだから、シャーロットが完璧に怒り狂うウサギと化してしまった。しぶしぶ別れを告げ、怒っているシャーロットをぎゅっと抱き締める。


「ごめんよ? もう二度と舐められないようにするから……落ち着いて? ロッティ」

「不敬罪、適用出来ます? あれって」

「いや、出来てもしないかな! どうどう、落ち着いて」

「腹が立ちます! わぶっ!?」

「シャーロット様、小さく切ったオレンジのマフィンですよ~」


 どこからともなく現われた女性が、怒り狂うシャーロットの口の中へぽんっと、マフィンを突っ込んだ。とたんに吊り上がっていた目元が和らぎ、幸せそうな表情でもぐもぐと食べ始める。可愛い。


「ああ、助かりました。ありがとうございます」

「おやつを持ち歩いた方がいいですよ、殿下。私も常に持ち歩いています」

「つ、常に……? 分かりました、今度からはそうしますね」

「それで、言うことを聞かなくなったらあげるんです。でも、あげすぎには気をつけてくださいね? すぐに太っちゃいますから」

「あ、は、はい……。そうします」

「それから、いたずらをしたら一週間、おやつ抜きの刑にするのもおすすめです。普段、貰ってるだけに効果は抜群ですよ」

「で、でも、可哀相なんですが!? それは。ついついあげてしまいそうです……」

「甘いですねえ! それじゃ、永遠に手がかかったままですよ。きちんとしつけないと!」


 しなやかな黒ヒョウの頭を撫でながら、赤毛の女性がにっこりと微笑む。さ、触りたい! 男性だし、触りたい……。ビロードのような黒い毛並みを持つヒョウに目が釘付けになっていると、女性が笑い出した。


「どうぞ、アルフレッド殿下。撫でますか?」

「エヴァンジェリン。そういうことは、俺の許可を取ってからにして欲しいんだが……?」

「あら、怖がられてばかりは嫌だって言ってたのはどこのどなた? こちらから申し出ないと、皆さん、なかなか触れないものなのよ。さぁ、どうぞ。お気になさらずに、夫をもふってくださいな」

「その前にご挨拶させてください!」

「ロッティ?」

「どういう人なのかを確かめます。てやっ!」

「あっ! えっ!? 匂いで分かるんだ!?」

「分かりますよ、ちょっとぐらいは」


 無理に腕から飛び降りるのはやめて欲しいと言っているのに、腕から飛び降りて床に着地した。黒ヒョウが機嫌悪そうに唸り、後ろへと下がる。シャーロットは何も気にせずに、ふんふんと鼻先を鳴らしながら近付いていった。ああ、食われないかどうか心配になるな。あの体格差は……。


「俺は人に噛みついたりなんてしない。失礼じゃないのか?」

「も~、分かってないですねえ。挨拶は基本でしょう? さっ、後ろを向いて!」

「……」


 しぶしぶと黒ヒョウがお尻を向けたので、ショックを受け、慌ててシャーロットを抱き上げる。


「だっ、だめだ! だめだ! それはちょっと流石にだめだ!! 君達の習性かもしれないが、お尻を嗅ぐのはちょっと……!!」

「へっ? どうしてですか? ほっぺたにキスをする挨拶のようなものだと思えば、」

「だめだ、複雑な気分になってしまう!!」

「でも、ご挨拶しておかないと! じゃないと、アルフレッド様にもふもふさせられません!」

「い、いや、しないから。もう、もふもふは……」


 ああ、だめだ。分かってはいるのに、どうしても否定的な気持ちになってしまう……。腕の中のシャーロットが「ちょうどいいです! どうしてもお尻に届かないので、私をお尻の辺りに移動させてください!」と言い出したので、目の前が真っ暗になってしまった。頑なにシャーロットを抱き締め、距離を取る私を見て、エヴァンジェリン夫人がくすくすと笑う。


「存外、嫉妬深いんですね? アルフレッド殿下は」

「じゃあ、俺が彼女のお尻を嗅ぐのもだめなんですか?」

「もっ、もちろん! やめて頂きたい!」

「も~、アルフレッド様ったら! 心が狭くてすみません。いつもこんな感じなんですよ~」


 あ、あれ? 私が悪い流れになっているな……? 釈然としない気持ちになりながらも別れを告げ、隅の方にあった軽食コーナーへと行く。少し休憩したい気持ちになった。見てみると、全粒粉パンで鶏ハムとキュウリを挟んだサンドイッチ、それから一口サイズのトマトとバジルのスコーン、チーズと黒胡椒のスコーン、オレンジスライスが載ったマフィンにりんごのパウンドケーキ、クランベリーのクッキーと胡桃のクッキーが山ほど並べられていた。奥には使用人が控えていて、どうやら犬姿のままで水を飲みたいらしい客人に、笑顔で水が入った器を渡している。


「ええっと、ロッティはどうする? 戻るかい? 人の姿に」

「でも、他の皆さんが獣姿の時に私だけ戻るのはちょっと……。空気読めてないじゃないですか、それだと。まぁ、そんな人もいますけどね!」

「えっ? ええ? あ、うん?」

「なので、このままの姿で食べます! りんごのパウンドケーキとオレンジのマフィンが食べたいです」

「分かった。ちょっとこの椅子の上で待っていてくれ」


 座り心地の良さそうな肘掛け椅子にシャーロットを置いてから、取りに行く。改めて見てみると人間用のもあった。でも、スコーンとキュウリのサンドイッチの二種類だけだったので、いかに従姉妹のクリスティーナ嬢が獣人を愛していて、その他の人間はどうでもいいと思っているのがひしひしと伝わってくる。しかし、張られた注意書きには「人間の方も食べられます」と一応書いてはあった。一応隅に小さく。


「……私もサンドイッチ、ちょっと食べてみるか」


 皿の上に全粒粉のサンドイッチと、言われた通り、オレンジのマフィンとりんごのパウンドケーキを載せて戻る。ただ、シャーロットが座っていた椅子には見知らぬ男が腰かけ、シャーロットはその膝の上でくつろいでいた。思わずびしりと硬直する。


「ろ、ロッティ……!?」

「あっ、申し訳ありません。殿下。つい、シャーロット嬢の毛並みが素晴らしくて」


 恥ずかしそうに謝った男は、くるくるに巻いた金茶色の髪を持っていた。そばかすが散った顔は誠実そうで、青い瞳を彷徨わせ、申し訳無さそうにしている。ついつい、王族であることも何もかも忘れて、顔面に皿を投げ付けてやろうかという気持ちになっていたが、謝ってくれたおかげで、なんとか理性を取り戻せた。深く息を吐き出せば、シャーロットが慌てて「アルフレッド様! 申し訳ありません」と言い、膝の上に座り直す。


「いや、つい……ええっと、あなたの奥方は? どちらかな?」

「足元にいますよ。ほら、綺麗で可愛いでしょう?」

「初めまして、アルフレッド様。イザベルと申します」


 それは色っぽい猫だった。猫に色っぽいと言うのもどうかと思ったが、そうとしか形容出来なかった。青みがかった灰色の毛並みを持つイザベルは、つんと澄ました表情で夫の足元に座っている。……嫉妬、したりしないんだろうか。


「ああ、どうも初めまして……。その、平気なんですか? ご夫君が他の女性を触っていても」

「ええ、まあ。別ですもの。ただの通りすがりの毛皮ですから」

「ただの通りすがりの毛皮……」

「それに、私の心はアルフレッド様のものですからね!」

「ロッティ」


 膝の上から飛び降り、私の下へ駆け寄って来てくれた。笑顔で頭を撫でていると、イザベルがゆっくりと深い青灰色の瞳を細め、笑う。


「私達、お互いに信用していますの。それに、シャーロット様は本当に殿下のことを愛してらっしゃるのですから、少しは信用なさったらいかが?」

「ああ、申し訳ありません。イザベルが……彼女はこの通り、猫で気位が高いんです。ほら、おいで」

「ちょっと指摘しただけよ」

「それでもだめだよ」


 足元にいた猫の妻を抱き上げ、困ったように笑いながら深々と頭を下げる。……でも、確かにもっと信用した方がいいような気がする。まじまじとシャーロットを見下ろせば、ふんと鼻で笑った。


「いいんです! アルフレッド様はそのままで。あんまり嫉妬されないのも、淋しくて困っちゃいますから。ねっ?」

「……ありがとう、ロッティ。ほら、おやつを持って来たよ」

「わーい! おやつ~」


 我慢し切れなかったようで、私の分のサンドイッチへと食らいつく。嬉しそうに口を開けて、はぐはぐと食べていた。また取ってくればいいだけの話だし、シャーロットが嬉しそうな顔で食べているのを見ると、全てがどうでも良くなってきた。


(楽しかったが、でも……嫉妬するだけで終わったような気がする)


 ひとまず、よりいっそうもふもふ技術を磨かなくてはならない。帰りの馬車の中、揺られながらシャーロットの頭を撫でる。


「ロッティ? もっともっと、君がうっとりしてくれるように腕を磨くよ……」

「へっ!? も、もふもふの腕をですかっ!?」

「うん。今日ので痛感した。私の腕はまだまだ未熟だ」

「じゅっ、獣人が言って欲しい憧れの台詞じゃないですかっ……!!」

「あれ、そうなんだ!? 今のもなんだ!?」

「殿堂入りしてます。獣人なら誰しも、好きな相手にそう言って欲しいものです……。君のために、もふもふの腕を上げるよだなんてっ! きゃーっ! ロマンチックで素敵~! あまーいっ!!」

「へ、へ~。そうなんだ……」


 やっぱり、いまいちよく分からない。膝の上でごろごろ寝転がり出したシャーロットを撫で、笑う。


(うん。……意外と皆さん、自分の夫や妻をペット扱いしてたし、それでいいのかもしれないなぁ)







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