8.婚約首輪選びと殿下の困惑
「あっ! ここです、ここ! 首輪、首輪!」
「ここか……」
腕の中におさまった彼女がはしゃいだ声を上げる。確かに、彼女が鼻先で示した店先の看板には、「獣人専門店」という文字が踊っていた。赤ワイン色の支柱に、重厚なチョコレート色の扉が美しい。ショーウィンドウの中を覗き込めば、ベルベットの真っ赤な布の上に座った、犬のぬいぐるみが黒いスーツに身を包んでいる。獣人向けに、スーツやドレスも扱っているのだろう。
隣にいる妻らしき犬のぬいぐるみが、造花付きの小さな帽子をかぶっているのを見て、目が自然と開く。彼女に買ってあげたい。……いいのがあればいいが。
「じゃあ、ロッティ。入ろうか? 大丈夫?」
「あっ、はい! 大人しくしておきますね……妃らしく、つつましく!」
「別に気にしなくてもいいのに」
「いいえ、気にします! 私はアルフレッド様の妃になる身ですから!」
彼女がふんふんと鼻息荒く、そう宣言する。私としては別に、そんなこと気にしなくてもいいのにとしか思わないが、どうやら彼女はそうじゃないらしく……。正式に婚約が発表された日から、しきりに「アルフレッド様の妃として!」と言い、頑張るようになった。念のため、店に入る前に、深くカンカン帽をかぶり直し、後ろを振り返る。いるはずの護衛を探してみたが、いなかった。昼下がりの街には人があふれていて、賑やかに通り過ぎてゆく。
(姿は見えないが、おそらくいるだろう……入るか)
今日は一般人をよそおうべく、麻のベージュ色ジャケットとズボンを身につけている。腕の中の彼女は、素朴なグリーンの花柄ドレスを着ていた。────もちろん、濃い青色のリードと首輪もつけている。片手で彼女を抱え、ゆっくりと重たい扉を押して入ると、すぐに店主らしき女性が飛んできた。まだ若く、ここの制服なのか首元にスカーフを巻いて、黒のパンツスーツを着ている。栗色の瞳と黒髪が優しげでありながらも、凛々しいのが印象的だった。
「いらっしゃいませ! ええっと、もしや貴方様は」
「予約していたアルフレッドです。申し訳ない、唐突にこんな……貸切にして貰って」
「いえいえ! 大歓迎ですよ……まぁ! 噂にたがわず可愛らしい。初めまして、シャーロット様。アルフレッド殿下。店主のダリア・フラーと申します。お目にかかれて光栄ですわ」
にこにこと笑って、ウサギ姿の彼女を覗き込む。すぐに元気のいい声で「初めまして! シャーロット・オーウェンと申します!」と挨拶していた。さりげなく辺りを見回してみると、約束通り、店内には誰もいない。黒い大理石の床と白い壁紙は高級感にあふれていて、案外、広々としている。挨拶もそこそこにして、ショーケースの中を覗き込むと、色とりどりの宝石が並べられていた。
どれも大粒で発色が良く、テリもあって美しい。今日はここから石を選び、デザイナーでもある店主と相談して、首輪とリードのデザインを決める。……色々とあるらしい。リードの太さとか、首輪の形状だとか。
「どれにする? ロッティ。好きなのを選んでいいよ」
「わっ、わ~……!! 綺麗に茹で上がった、ほうれん草と同じ色の宝石があります! 素敵~!」
それまでにこにこと笑って、こちらを見守っていた店主のダリアが、とたんに顔を曇らせ、「ほうれん草……」と呟く。ひやひやした。宝石が好きな女性にとっては、あまり嬉しくない褒め言葉なんだろうか? 美しいグリーンの宝石を見て、目を輝かせ、「ほうれん草の色!」と言う彼女が可愛くないんだろうか……。
理解に苦しむ。が、本当にただ、宝石が好きなだけなのかもしれない。慌てて一歩右へ進み、彼女に違う宝石を見せる。
「ほ、ほら。このピンク色も可愛くて綺麗だよ。ロッティ。よく似合いそうだ、茶色い毛皮にも白い肌にも」
「あっ! 本当ですね! でも、青色が気になります。アルフレッド様の瞳の色だから」
「ロッティ……」
可愛い。これから身につける宝石は青色になるだろうから、婚約首輪くらい、好きな色の宝石を選べばいいのに。嬉しくなって抱え直し、頭のてっぺんにキスを落とせば、「ぷっ、ぷっ!」と可愛らしく鳴いた。
「なので、ピンクと青が混じった首輪にしたいです!」
「でしたら、こちらの宝石はいかがでしょうか? ユニコーンの棲む谷で採れた宝石でして、奇跡的に内包物もなく、守護の魔術もきちんと働いています」
「それは……珍しいな」
「すごいんですか? この石」
鼻先を動かし、見上げてきた彼女に微笑みかけ、その頭を優しく撫でる。気持ち良かったのか、ふすんと息を吐いて毛皮を膨らませた。体が重たくて可愛い。力が抜けてる。
「通常、こういう守護の魔術が宿った宝石は透明度も低くて、内包物だらけなんだ。他の貴石と比べて、見た目も劣る。でも、これは一級品だね……。普通の美しい宝石にしか見えない。ええっと、効果は?」
「これを身につけている間、悪意をはねのけるとされています。ですが、殺意には対応していなくて……」
「それでいい。十分だ。では、これを頂こうか」
「このピンク色の石は!? なんですか!?」
「ええっと、申し訳ありません。シャーロット様。そちらはただの宝石でして……」
「そ、そうなんですね……」
がっかりしてる、可愛い。彼女にとって物珍しいものなんだろう、魔術の宿る宝石というのは。もう一度抱え直してから、笑う。思いの外楽しい。二人だけでこうして、訪れるのはどうかと思っていたが……。出発前の不安はとっくに消え失せていた。
「欲しいのなら贈るよ、ロッティ。趣味でいくつか集めているんだ」
「そ、そうなんですか!? でも、見るだけでいいです。見るのが楽しいんです!」
「そうか。じゃあ、今度一緒に見ようか。変わった内包物が多くて楽しいよ。さて、どうする? あとはどの宝石がいい?」
「あの、もうこの二つだけでいいです……高そう」
「予算にゆとりはあるから、気にしなくていいんだよ?」
「いいです……心臓がぞわぞわしまふ」
「分かった。じゃあ、この二つで頼む」
「かしこまりました。リードの方はどうなさいますか?」
「リードには宝石じゃなくて、リボンをつける予定なんです!」
「かしこまりました。では、そのように」
ダリアが微笑ましいものを見る目で、彼女を見つめていたのでほっとする。人の姿でもいいんじゃないかと思ったが、いかめしい表情で首を横に振られてしまった。どうやら獣の姿で、リードと首輪を買うからこそ、恥ずかしくていいらしい。よく分からない……。
さらに掘り下げて聞いてみると、ふふんと自慢げに胸を張り、「だって、そうしたらいちゃいちゃ度が増すでしょう!?」と言ってきた。……よく分からなかったので、曖昧に微笑み、「そうだね」と返しながら、毛皮をもふもふするしかなかった。
首輪にはめる宝石を選び終えたので、奥の個室へと移動し、ソファーに腰かける。狭いながらも、ペールグリーンの壁紙と絨毯が品良く、ゆったりと寛げる空間だった。壁には何枚か風景画が飾られ、花瓶には白百合が活けられている。手ずから紅茶を淹れ、バタークッキーと共に運んできてくれたダリアが、スケッチブックを手に取って座った。さらさらと、いくつかシャーロットの希望する「華奢で可愛らしいリード」を描いてゆく。
「いかがでしょう? シャーロット様。殿下の手の負担を軽減すべく、持ち手には牛革を採用し、グリーンとピンクの紐を編み上げ、可愛らしさを演出してみましたが」
「す、素敵ですね! あの、もうそれでお願いします!」
「えっ!? これでよろしいんですか!?」
「はい! 私、他の人とは違って、リードにこだわりはないんですよ……」
「ま、まぁ、そうなんですか? 珍しいですね。大抵の方は気になさるのに」
き、気にするのか……。日頃、獣人を相手にしているダリアにとって、珍しい出来事だったのか、栗色の瞳を丸くさせていた。よ、よく分からない……。膝の上にお座りした彼女が、少し照れ臭そうに「こだわった方がいいんでしょうけど」と呟く。
「でも、よろしいのでは? 人間の旦那様、奥様はたいてい理解出来ないので」
「あっ、あれ!? そうなんですか!? でも、これ、好きな人に持ってもらうんですよ!? そのっ、ここぞという時の下着と同じぐらい、重要じゃないですか……!!」
「えっ? そっ、そうなんだね……?」
「つっ、通じない!? これが価値観の違いでしょうか……?」
「ふふふ。皆様、一様に驚かれますね。このことに関しては」
彼女に説明して貰いたい。獣人の文化や嗜好について、こと細かく教えて貰いたい……。が、耐える。今日は首輪をオーダーしに来たのであって、獣人の文化を学びに来たわけじゃないんだ。気を落ち着かせるため、しっとりふわふわな毛皮を撫でる。本当にあの時、ルーナ嬢を触ってしまわなくて良かった。あのあと、鋭い目つきでふんふん、ふんふんと執拗に手のひらを嗅がれた。……もしも触っていたら、一ヶ月もふもふ抜きの刑を私に与えるつもりだったと聞かされ、背筋が震え上がってしまった。
(一ヶ月も彼女に触れないだなんて! 死んでしまう……!!)
浮気する予定はないが、今の内にもふもふしておこう。私が必死にもふもふしている間、彼女とダリアは熱心に、首輪のデザインについて語り合っていた。
「ですから、私の毛皮に埋もれず、ちょっとだけ見える太めのものにして頂きたいのですが……」
「かしこまりました。ですが、それだと優雅さに欠けてしまいます。近頃の流行は首輪のチラ見せなんですよ」
「くっ、首輪のチラ見せ……!? 新しいですね。最近はそうなんですか?」
「ええ、そうなんです。むしろ、見えなくて構わないとおっしゃるご令嬢も多くて」
「み、見えない!? ええっと、でも、それはそれで清楚でいいかも……!! 素敵ですね!」
「ああ、ロッティ? あまりにも見えないと淋しいから、正面に回ると、よく見えるような太さで……その、出来たらでいいから」
婚約首輪に、口を出すような男は嫌われるだろうか? はらはらしつつも、彼女の頭をもふっていると、恥ずかしそうに身じろぎした。
「あ、アルフレッド様……大胆ですね? さては独占欲ですか!?」
「どっ、独占欲……!?」
「殿下。人間にそのつもりがなくても、首輪は獣人にとって独占欲の現われなんです。それに、好きな人に体と心を許したという証でもあるんですよ」
「そ、そうなのか……」
「ええ。好きな方に首輪をつけて貰い、歩き回るという行為はすなわち、私はこの人のものなんですよと主張していることになる……。さらにはそんな自分を喜んで見せ、外で一緒にお散歩する。人間にとっては、キスをしながら歩いているような恥ずかしさなのだとか」
「た、助かった。ありがとう」
「いいえ、お役に立ててなによりです」
ほ、欲しい! 彼女が傍でこうして、常に説明してくれたらどんなに楽か……。でも、ロッティが嫌がるからやめよう。現に今、ぎりぎりと歯軋りをし出した。私が他の女性と話しこんでいるからか、ストレスが溜まったみたいだ。
「ああ、ごめんよ。ロッティ……ええっと、そうだな? 君は私のものだって、周囲にそうしらしめたいから、首輪が目立つように太く、」
「そ、そんな! 恥ずかしい!! 首輪を太くするだなんてっ! げっ、下品ですよ!?」
「下品なのか!?」
「持ち主からの愛と独占欲を主張するものですから。太いと愛情を誇示していると取られ、はしたないと眉をひそめられてしまうんです」
「そ、そうだったのか……だめなのか」
「はい! 淑女たるもの、首輪は細めに! です!!」
「あっ、うん。もう、私は黙っていようかな……?」
よく分からない。きっとここは、あれこれ口を出さない方が懸命なんだろう。兄上からも「女性の指輪選びに口を出すな」と忠告されていたが、こういうことだったのか……。毒見役がいないので、毒に反応すると赤くなるスティックをポケットから取り出し、念のため紅茶に浸す。このまま三分間、待つ必要があった。気を悪くしただろうかと思い、見てみると、熱心に何かを描いていた。……良かった、そんな心配はいらなさそうだ。
「でしたら、首輪の太さは三センチほどで……? 動くと、毛皮からちらりと見える程度で」
「いえ、その、あと五ミリほど太くして頂けると……!! アルフレッド様がええっと、太くして欲しいと、そうお望みなので!!」
「お二人はまだお若いので、太めの首輪でいいかと」
「でっ、ですよね!? 首輪を太く出来るのなんて、若い内だけですよね……!?」
恥ずかしかったのか、「きゃー! 言っちゃった!!」と叫び、膝の上でごろごろと転がり回る。よ、よく分からない……。人間からしたら、太い首輪も細い首輪も一緒なんだが。獣人と結婚した女性や男性のつどいがあれば、ぜひとも参加してこの困惑を話してみたい。途方に暮れていると、「失礼しました」と言い、彼女が毛並みを舐めて整え始めた。ふわふわ揺れ動いていて、すごく可愛い。
「それでは、このデザインでよろしいでしょうか?」
「あっ、はい! ですが、その、おっ、同じサイズの首輪をつけて、サイズ感を調整してみたいのですが……!!」
「もちろんございますよ。カーテンに隠された試着室が!」
「あ、ありがとうございます……!! 見られちゃうの恥ずかしいので、助かります!」
「カーテンに隠された、試着室……?」
聞いてみると、どうやら店員さえ、入っていくのを目に出来ないよう、試着室の前にさらにカーテンがあるらしい……。不思議に思いながらも、小部屋を出て試着室へと向かう。確かに深いワインレッド色のカーテンで隠されていた。疑問に思って首を傾げていると、すかさず説明してくれる。
「獣人の方々はあれこれと、首輪を調整している姿を見られるのが恥ずかしいんです。ですから、当店ではこうして隠して、」
「ええっと、それよりも何故、恥ずかしいのかを説明して欲しいんだが!?」
「……きつめと緩め、どちらが好みかを知られるのは恥ずかしいことなんです。獣人の皆様方は男女問わず、ぴったりと感じる首輪をつけるのが楚々としていて、禁欲的であり、好ましいことだと考えているのですが。まぁ、好みがあるので」
「ありがとう、助かったよ……」
ぜんぜんよく分からない。腕の中の彼女が恥じらい、「もっ、もういいでしょう!? 首輪の話は!」と言い出す。ダリアがにっこりと微笑み、「では、私は下がらせて頂きますね」と言って一礼してから、下がってゆく。
「もっ、も~! アルフレッド様ったら! 大胆なんだから~!」
「す、すまない。気をつけるよ……」
「本当はぴったりのものをつけたいんですけどっ! でもっ、でもっ……!!」
「いや、いいよ。ええっと、私はここで待ってるからゆっくりと、」
「えっ、ええっ!? もしかして、つけてくれないんですか!?」
「あっ、うん? ごめん、試着するんだったね……もちろん、つけてあげるよ。ちょっと頭が混乱していて、回らなくて」
普通にカーテンを引くと、シャーロットが驚いて「そ、そんな! もうちょっとゆっくり開けてください! はしたない!」と言ってきた。慌てて謝ってから、次はゆっくりとカーテンを引き、素早く彼女を白い絨毯の上に乗せる。
「じゃあ、ロッティ。これで、」
「う、後ろ! 後ろのカーテン、開いてますよ!?」
「あっ、ごめん。閉め忘れてた……」
カーテンを閉めると、腰ほどの高さがある試着室の中で、ほっと息を吐いた。試着室は中がくり抜かれたような形状で、奥には鏡が備え付けられ、ふわふわの白い絨毯が敷き詰められている。横についているフックに、リードや首輪をぶら下げれるらしい。
「じゃっ、じゃあ、さっきのを出して……」
「ああ、これだね? 紫色の首輪とグリーンの首輪、どっちにする?」
「もっ、も~! アルフレッド様ったらも~! アルフレッド様の好みはどちらですか?」
「えっ!? ええっと、こっちの太い紫色かな……?」
太い方を選んだら、どういう反応が返ってくるんだろう? そう思い、太めの首輪を差し出してみたら、ものすごく恥ずかしそうな様子で毛皮をふるるっと、震わせた。
「じゃっ、じゃあ、それをつけてみますね! ふふふ、アルフレッド様ったら大胆なんだから~」
「そ、そうか。ええっと、紫色が牛革だったかな……?」
「あと、最近流行の色なんです! 今の首輪は紫色がオシャレなんですよ!」
「そ、そうか……」
よく分からないが、とりあえず相槌を打っておく。彼女がオシャレと言うのなら、これはオシャレな色なんだろう。半ば思考を停止させたまま、そっと優しく、彼女に首輪をつけてみる。忘れそうになったが、ちゃんと、ふわふわの額にキスしておいた。これをしてくれる夫、もしくは妻はとても良い人物に見えるらしく、シャーロットがいっそう震えて喜んでくれる。
「わっ、私ったらもう、すごく幸せ者です! 首輪をつける時に、ちゃんとキスしてくれる人と結婚出来るだなんて……!!」
「あっ、うん。喜んで貰えて何より……どうかな? きつくない?」
「そっ、その、私、きつめが好みなんですっ……!!」
「そ、そっか。それも恥ずかしいことの内に入るのかな?」
「はい、もちろん! だ、だって、ゆったりじゃなくてきつめがいいだなんて……!! も~、はしたないって言われちゃう~。も~!」
またごろごろと、嬉しそうに転がり始めた。そ、そうか。きついとだめなのか……。頭の中でクエスチョンマークが浮かびっぱなしだが、色々と聞くのはやめ、今度は深いグリーンの首輪をつけてみる。厳しい目つきで「やっぱりこの太さが素敵ですね! でも、あともうちょっときつい方が」と言い出す。
「ええっと、調整出来るように……なってないな? じゃあ、調整出来るタイプの首輪にして、」
「なっ、何言ってるんですか!? 婚約首輪はそういうの、絶対にしちゃだめなんですよ!?」
「あっ、ご、ごめん。そうだったんだね?」
「はい! 愛する人とこうやって微調整して、自分好みのきつさの首輪を見つけることが……!! ああっ、私ったらもう! 恥ずかしいので今の、聞かなかったことにしてくださいっ!」
「そ、そうなんだね……」
だめだ。さっきから失敗ばかり繰り返している。ちゃんと、彼女にこれでいいかどうかを事前に確認してなくては。落ち込み、謝るとシャーロットが「いいんですよ! アルフレッド様はまだまだ、私達のことをよく知らない人間ですからね!」と言って慰めてくれた。優しい。
「ありがとう……どうかな? かなりきついけど大丈夫?」
「あっ、ああああアルフレッド様!? はっ、恥ずかしいからもう、それはやめてください……!!」
「ええっと、どうしよう? どうすればいいんだろう……」
首輪に指を通して、揺れ動かしていると、ものすごく恥ずかしそうにがくがくと震え始めた。今の仕草は最高にいかがわしいものだったらしく、奥の鏡にふわふわな頭を押し付け、「ふぉっ、ふおおおっ! 色っぽい、すごい……!!」と言ってもだえている。
「ロッティ……ええっと、大丈夫? ごめん」
「す、すみません! あまりにもっ、あまりにも刺激が強く……!!」
「そっか……」
「もっ、もうこれでいいので、出ましょうか! お店!」
「あっ、うん。じゃあ外そうか」
「は、はい! お願いしますっ」
外す時も決まりがあって、外したあと、彼女のふわふわな額にキスをしながら「また今度、私のためにつけて欲しい」とささやく必要がある。獣人にとっては殺し文句らしく、彼女が「はふーっ!!」と言ってもだえながら、「絶対絶対、他の女にそれ言っちゃだめですよ!? いいですね!?」と言ってきた。
「もちろん、君以外にそんなこと言ったりしないよ?」
「もっ、も~! アルフレッド様ったらも~! たまに色気がすごくて、戸惑っちゃいます……!!」
「う、うーん……」
嬉しそうにすりすりと、ウサギ姿の彼女が頬擦りしてきた。あまりにも可愛いかったので、彼女の毛皮をふがふがと吸い込み、引っくり返してお腹に顔を埋める。そうやって可愛がっていると、限界が来てしまったのか、おもむろにぽん! と人の姿に変わってしまった。とたんにイエローの花柄ドレスを着た彼女が現れ、頬を膨らませる。
「も~、アルフレッド様ったら! 試着室でこうやっていちゃつくの、その、すっごく恥ずかしいことなんですよ……? 帰るまで待てないんですか?」
「いちゃつく……!?」
もふもふしただけなんだが。彼女が人差し指をぴとっと、私のくちびるへと押し付け、嬉しそうにはにかむ。今度は人の姿で、いちゃいちゃするべきかもしれない。
「ロッティ」
「へっ!? あ、あの?」
「目を閉じて。……私にとって、いちゃいちゃはこういうことなんだ」
「えっ? そっ、それはどういう、」
「今からそれをじっくり教えてあげるから。ほら」
「ふおおおおっ!?」
「あっ」
またぽふんと、ウサギ姿に戻ってしまった。仕方ない。ちょっといじわるな気持ちで首輪を持ち上げ、彼女を見下ろしてみる。
「ずっとずっと、一生つけておいて欲しいな……。これ。わっ!?」
「もっ、もう無理でふっ! そんないかがわしい台詞はもう禁止です!! 心臓がっ、心臓がっ!」
「いっ、いかがわしい台詞なんだ……!?」
何はともあれ、楽しい休日だった。帰りの馬車の中でぐーんと後ろ足を伸ばし、膝の上で寝そべりながら、「もう夢に出てきちゃう~! 私も大人の階段、登っちゃった~!」と言っていたので、ますます謎は深まってゆくばかりだ。
(でも、いいか。彼女が幸せで、喜んでいるのならそれで)
理解出来なくとも、彼女のして欲しいことは何でもしてあげたい。ゆっくりと頭を撫でながら、馬車の景色を見つめて笑う。ようやく彼女と婚約出来た。願わくば、このままずっとずっと二人で仲良く、一緒にいられますように。




