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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第一章 本当はか弱い王子様とウサギ令嬢の私
33/83

番外編 どうしても出来なかった質問

 



 何故、自分はこうも単純なことが言えないのか。ごくりと喉を鳴らして、溜まったつばを飲み込む。そう、今日こそは────……。


(どんな男が好みなのかを聞く! 聞く!!)


 恒例(こうれい)のもふもふをし終えたあと、彼女はにこにこと機嫌良さそうに笑って、スコーンを頬張っていた。可愛い。口元にブルーベリージャムがついている。ルイなんかは「好みの男を聞くよりもまず、好きだと告白して婚約を申し込め!」と言ってくるが、無理だ。まだ知り合って間も無いし、いくら一目惚れしたからといって、こんな情けない中身の男が王弟としての地位をふりかざして、結婚を迫っていいと思うのか? いや、思わない。死ぬべきだ、そんな思い上がった男は。


 首筋に汗を掻きながらも、ちらりと彼女の方を見つめる。ちょうど、新しいスコーンを手に取って、「ふんっ」と言いつつ、綺麗に真っ二つに割ったところだった。可愛い。少しだけ誇らしげな顔をしてから、息を吐き、断面にクロテッドクリームを塗り広げてゆく。見ているだけで胸が狭くなってきた。本当はもう少し距離を縮めたい、キスがしたい。唐突に浮かんできた考えに、冷や汗を掻く。だめだ、だめだ。


(このままだと今日も聞けない……が、しかし!)


 これなら聞いてもきっと、不自然じゃない。優しい彼女のことだ、「個人情報を把握しようとするだなんて!」とは言ってこないだろう。……多分。大丈夫だ、いけるいける。こほんと一つ、咳払いをしてから微笑む。


「あー、シャーロット嬢? 確か、この前は本が好きだと言っていたが」

「あっ、はい! 好きです。殿下はどんな本が好きですか?」

「えっ? ええっと、それが大体読み尽くしてしまって。シャーロット嬢おすすめの……そう! 恋愛小説は!?」

「恋愛小説?」


 彼女がスコーンを手に持って、きょとんとした顔で首を傾げる。可愛い。初めて人に恋をしたからか、驚くほど光り輝いて見える。ふいに、澄んだグリーンの瞳が曇って(くも)、眉がへんにょりと下がった。


「ですが、私、その……」

「ど、どうしたの?」

「あまあまな恋愛小説しか読まないのですが……殿下にはきっと、退屈でしょう?」


 儚げに微笑み、スコーンを齧り取る。いや、彼女の好きな恋愛小説を隅から隅まで調べ上げ、理想のヒーロー、そう、つまりは好みの男を探り出したい!!


「いやっ、そんなことはない! ええっと、その、実は、実はこう見えてもそういった類のものが好きで……」

「えっ? そうなんですか!? 今、記憶喪失ものが熱いですよね!」

「だ、だね、熱いね……」

「でしたら今度、おすすめの本を数冊持って参りますね! なるべくあまあますぎない、男性でも楽しめるようなものにしますから」

「あ、ああ。よろしく……」


 その結果、彼女の好みは上から目線でものを言ってくる男ではなく、物腰が柔らかで、どこか影のある男だと判明した。ただ、さらに研究すべく、今ご令嬢方の間で人気の小説を借りた。


『これはヒーローがちょっといまいちなんですけど、殿下は好きかもしれないので……』

『へー。でも、一応読んでみるよ。ありがとう』

『はい! 面白いですよ~、ハラハラドキドキ展開が続いて!』


 と言って、貸してくれた小説のヒーローには最初愛人がいた。が、無邪気で欲の無いヒロインをかりそめの妻として迎え、その愛人と遊び呆ける。しかし、いつしか傲慢(ごうまん)な愛人に嫌気が差してきて、欲の無い、無邪気なヒロインに恋をする。よく分からなかった。内容が頭に入ってこない。


(今、人気だと聞いたんだが……女性を大切に扱わない男がいいのか? よく分からない)


 しかしながら、数少ない友人の一人も「真面目すぎてつまらない」と言って振られていたし、ある程度、女性は雑に扱われるのが好きなのか……? 額に汗を滲ませ、彼女に借りた小説を読んで研究する。これが寝る前の習慣となっていた。


「分からない……よく分からない。いや、しかし、彼女は好みじゃないって言ってたし……」


 気を取り直して、今度は彼女が好きだという恋愛小説を借りた。以前は穏やかな性格の男がヒーローだったが、今回の小説は違う。


「何故だ……!! よく分からない! どうして、どうしてこの前借りた小説の男とは性格が違うんだ!? よく分からない……好みじゃなかったのか? 穏やかな男が」


 ヒーローは幼い頃、年下のヒロインに助けられて恋心を抱く。この辺りは全然いいと思う。問題はこのあとすぐだ。成長したヒーローは一途に彼女のことを想い続け、軍人となって成り上がり、見事彼女に婚約を申し込んで結婚する。しかしながら、ヒロインにとって彼は弟のような存在だった。「恋愛感情が無くても、夫婦としてやっていけるわよね!」という、残酷な台詞を笑顔で言い放ち、ヒーローは打ちのめされる。


「ど、どどどどどうしよう……!? 婚約を申し込んで、彼女にそんなことを言われたら……死ぬ、死ぬしかない……」


 ヒーローが打ちのめされると同時に、私も打ちのめされた。手に汗を掻いてしまう。どうも、彼女はわずらわしい貴族社会から解き放たれ、田舎で農業を営みたかったらしく、せっせと、新居である屋敷で畑仕事にいそしんでいた。そして、肥料を売りに来た村の青年と親しくなり、農業や天気の話を通じて、どんどんその距離を縮めていく。ヒーローが「せっかくの休みだし、デートにでも誘おう」と思い、彼女に会いに行くと、畑で他の男と親しくしていて────……。


「ひっ、ひいっ! そ、そんな! い、いきなり監禁してしまうのか……!? 話し合いは!? 告白はしないのか!? それにま、まさか、彼女もそんな願望を抱いて!?」


 だがしかし、彼女を監禁? 水と食事を与え、狭いところに閉じ込める……。


「あれ? 飼育になったぞ……?」


 ついうっかり、ウサギ姿で想像してしまった。おそらくこれは違う。そこから小説は急展開を迎え、蓄積(ちくせき)された長年の想いをぶちまけたヒーローが、戸惑うヒロインをあろうことか、無理矢理押し倒して、妊娠させてしまった。ここから、さらによく分からなくなってくるんだが、ヒロインもヒロインで「そんなに私のことが好きだったのね……!!」と言い、本物の夫婦になることを決意する。


 彼女いわく、「彼をここまで追い詰めたのは私なんだから……」らしいが。チュンチュンと、小鳥がさえずっている中で首を傾げてしまった。


「いや、その男が悪いと思うんだが……一体どうして、この状況下で相手の男に恋をしたんだ!? よく分からない、よく分からない、シャーロット嬢の好みがよく分からない……!!」


 私も監禁すればいいんだろうか? 彼女を。


(でも、可哀相だからたまには外に出してあげて……逃げたら困るから、リードにつないで。嫌われないよう、毎日甘いリンゴや人参をあげて)


 だめだ、どうしても戸惑いながら、初めてウサギを飼った人になってしまう……。


「……聞けたら良いんだけどなぁ。聞けないなぁ、好みの男」




「えっ? もう読んだんですか!? 十四冊もあったのに?」

「あ、ああ……徹夜で一気読みしてしまってね。起こしに来たアーサーに叱られたよ」

「へー! 殿下、意外とこういうのがお好きなんですねえ。嬉しいです! どこが一番面白かったですか?」

「あー、ええっと、想いが通じ合ったあと、二人で街に出かけるところかな……?」

「分かります! 今まで不憫で、無神経なヒロインに振り回されていたクリス様がほっとして、のびのびと楽しく、デートを満喫してるところ、感動して泣けてきちゃいますよね……!!」



<その後>



「あー、ロッティ? 実は前から聞きたくても、聞けなかったことがあるんだが」

「はい?」


 二人で中庭を散策していると、隣を歩くアルフレッド様が、やけに緊張した顔で尋ねてきた。咳払いをしたあと、照れ臭そうに顔を伏せ、耳たぶを赤く染める。


「その、好みの男は……? どんな感じかと」

「アルフレッド様ですよ? もちろん!」

「えっと、具体的に教えて貰えるとありがたいんだが」

「ええっと、プライドが高くなくて、優しくて穏やかで、ちょっと情けないところがあって、私が辛い時に励ましてくれて、ちゃんと寄り添ってくれる人です!」


 腕を伸ばしてその手を握り締め、笑いかけてみると、驚いたように青い瞳を瞠ってから、嬉しそうに微笑んだ。薔薇のつぼみが花開いたかのような、特別で幸せそうな微笑み。


「……うん、ありがとう。あーあ、もっと早くに聞けば良かったなぁ。こうして」

「えっ? ずっと気にしてくれてたんですか? 嬉しい~!」






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