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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第一章 本当はか弱い王子様とウサギ令嬢の私
30/83

29.上手なステップの踏み方と怒れる彼女

 



 今年流行りの色鮮やかなグリーン、ショッキングピンクや、南国の海のようなエメラルドグリーンのドレスをまとったご令嬢がさんざめき、楽団がまろやかな音楽を奏で、豪華なシャンデリアが光り輝く大広間を、よりいっそう華やかにしている。各国の大使や顔見知りの貴族に挨拶したあと、人の波が切れるのを見計らって、一歩踏み出してきたご令嬢と対峙(たいじ)する。もちろん、お互いに淑女の微笑みを張りつけたまま。でも、その頭に付いた犬耳や猫耳を見て、頬が引きつってしまった。そう、何も獣人の貴族令嬢は私だけじゃないもの。全体の三割ぐらいで、数は少ないけど。


「ご婚約おめでとうございます、アルフレッド殿下!」


 彼女がやたらと犬耳を伏せ、潤んだ焦げ茶色の瞳でアルフレッド様のことを見上げている。とっさに後ろ足でダンダン! と床を蹴りたくなってしまった。いっ、犬耳が生えていればいいってものじゃないの! アルフレッド様は、私以外のもふもふはお呼びでないの! 


 ふんふんと殺気をみなぎらせ、それでも淑女として微笑みを張りつけていると、アルフレッド様が耐え切れないといったご様子で、くすりと笑みをこぼした。見てみると、私でもくらりとしてしまいそうなほど、甘くて優しい微笑みを浮かべてらっしゃる。


「ありがとう、クレア嬢。どうぞ、この後も楽しんで?」

「はっ、はい……!!」


 クレア嬢とやらがぶんぶんと尻尾を振って、うっとりとした顔で見上げていた。わっ、わざわざドレスから尻尾を出したりなんかして! 嫌味な女! 苛立ってアルフレッド様の腕をつかみ、寄り添っていると、すぐに腰を抱き寄せてくれた。良かった! 完璧な王子様モードに入ってるみたい。


 それからも様々な耳や尻尾がついたご令嬢が、「ご婚約おめでとうございます」とひっきりなしに言いに来ては、私の指輪をしていない左手を見て、くすりと笑うものだから、怒りで毛が逆立ちそうになってしまった。一旦、人だかりから離れて、大広間の中央に移動しつつ、アルフレッド様に愚痴をこぼす。


「なっ、何なんですか! あれはっ! みっ、みんなして私のことをバカにして! これみよがしに耳を震わせたり、尻尾を振ったりなんかして!!」

「大丈夫だよ、ロッティ。君より魅力的な女の子なんていないし、たとえ、毛皮が無くても好きになっていたからね? ……まぁ、つまりは」

「はい? ふぉっ!?」


 大勢の人々がこちらを見てくる中で、アルフレッド様が慇懃無礼(いんぎんぶれい)と言ってもいいぐらい、わざとらしく、うやうやしく腰を折ってから、私の手を持ち上げ、軽くキスをしてきた。ちゅ、と音がしたのはきっと、気のせいなんかじゃない。真っ赤になって震える私を見つめ、また、蕩けるような甘い微笑みを浮かべる。


「どんな君でも好きだし、一番可愛いよ? だから笑って、ロッティ。いつもの可愛い笑顔を私に見せて欲しい」

「ふぉっ? ふぉ? ふぁ、ふぁい……」


 す、すごい! 先日お貸しした、恋愛小説の影響なのかな!? 私が硬直していると、眉をひそめる人、ねっとりとした視線を送ってくる人、微笑ましそうに見つめてくる人で見事に分かれた。アルフレッド様がそれらの視線を気にせず、優雅に前を向いて、私をエスコートし、踊る人々の中へと進んでゆく。


 その時、ふっと音楽が途切れた。調節をしてまたこれから、新しい音楽が奏でられる。上から吊り下がったシャンデリアの輝きは眩しくて、私の網膜(もうまく)をじりじりと焼いてゆくものだから、こちらを見つめてくる、アルフレッド様の瞳の色しか目に残らない。深い、海のようなブルー。


「さぁ、踊ろうか? ロッティ。大丈夫、私だけを見ていてくれ。……雑音に傷付く必要は無い」


 真剣に、でも、憂いを帯びた表情で見つめてきた。涙が滲んで視界を揺らがせる。アルフレッド様、大丈夫です。私、大丈夫です。たとえ周囲の人々が「あんな獣人の女など」「尊い血が穢される」と囁き合っていたとしても、大丈夫です。貴方はいつだって私に優しく、腰に添えられた手も、私の手を持ち上げる手も何もかも、すごく丁寧で、手袋越しでもその愛情が伝わってくる。だから、傷付かないでいられる。これから、貴方とダンスに集中が出来る。


 何も言えないで見上げていると、少し痛ましい顔をして「傷付かなくてもいいよ、ロッティ。気にしないで」と、小さな声で囁いてくれた。音楽が鳴り止んでいる僅かな間、アルフレッド様と見つめ合い、それから両目を閉じる。


「……はい。大丈夫ですよ、アルフレッド様。貴方が気にかけてくれるのなら、どんな罵詈雑言だって受け止めてみせます」

「ロッティ、それは」

「貴方がいるから、微笑んでいられる。傷付いてもまた、すぐに何事も無かったかのように踊れる。……ねぇ、気が付いていますか? 私も貴方に助けられているんです。弱くて、自分が嫌いだっておっしゃるけど、私はそんな貴方のことが好きなんです。いつも救われています」


 その弱さがあるからこそ、私は強くなれる。二人で手を取り合って、乗り越えようと思える。アルフレッド様がぐっと、涙をこらえ、私の手を強く握りしめた。その瞬間、アップテンポの曲が流れ出す。少し難しい、上級者向けのワルツだけど大丈夫。今ここに、私の目の前にアルフレッド様がいるから。


 同じ気持ちなのか、私と目を合わせ、にっこりと微笑んだ。そう、大丈夫。誰が何と言おうと、私達は婚約者同士で、この舞踏会を楽しめる。始まってすぐに、流れるような動きでステップを踏んで、踊る人々の間を通り抜け、微笑みを交わし合い、二人で奥へと向かう。そう、目指すは大広間の中央。一番目立つ場所へ。ぐっと、また腰を抱き寄せられる。


「さぁ、行こうか。ロッティ。ここにいる連中に見せつけてやろうじゃないか!」

「はい、アルフレッド様! 見せつけてやりましょう!」

「よし、速くなってきたな。腕の見せどころだ……」


 ダンスはいかにこの、人がひしめき合っている中で優雅に踊るかだ。誰にもぶつからず、相手の足も踏まず、曲に合わせて正しくステップを踏む。ものすごく難しいけど、好きな人とぴったり息を合わせて、完璧に踊れた時の達成感はすさまじい。まるで、溶け込んで体が一つになったかのよう。


(頑張ろう! ええっと、次は)


 アルフレッド様の視線で、次にすべきことが分かる。足を動かし、ステップを踏んで、老夫婦らしき二人組の間を通り抜け、微笑みを優雅に浮かべる。もう少し、もう少しで中央に踊り出る。失敗は出来ない。ここだけ空間が空いていて、一番目立つから。


(みんな、中央には来たがらないのよね……分かる! 私だって、すみっこの方で地味に踊っていたいもの)


 でも、それじゃ意味が無いの! あの、あのこれみよがしに尻尾を振ってきた女達に見せ付けてやらなくては……!! ふんふんと鼻息を荒くさせ、ステップを踏んでいると、アルフレッド様が何故か怯えて、「ろ、ロッティ? 落ち着いて? 心なしかヒゲが出てきてるよ……?」と言ってきたので、慌てて引っ込める。


「も、申し訳ありません! たまにこうやって、うっかり出してしまうんですよね……もう子ウサギちゃんじゃないのに、私は」

「その話、また今度詳しく聞かせて貰おうかな? ああ、見て。ほら、陛下と義姉上がこっちを見てる」

「え」


 視線につられて見上げてみると、確かに、二階の豪奢(ごうしゃ)な手すりにもたれかかって、こちらを見下ろしていた。遠目からでもはっきりと分かる、その敵意ある眼差し。冷淡な美貌を持った国王陛下は、いかにも面白くなさそうな微笑みを浮かべ、私のことを強く睨みつけていた。背筋がぞっとする。どうしてだろう? 差別とかじゃない、違う。────あれは、私個人に向けられたもの。


「大丈夫? ロッティ」

「……アルフレッド様。以前、育てられたとおっしゃっていましたけど」

「だね。次、こっちに行こうか」

「はい」


 息が上がってきた。お喋りしている場合なんかじゃない! アルフレッド様の動きに意識を集中させていると、ふっと、家庭教師(ガヴァネス)の言葉が浮かんできた。


『いいですか? シャーロット嬢。よく聞いてください。ダンスとは、男性のリードで全てが決まるものなんです』

『えっ!? どうしてですか!?』

『……女性側がいくらどんなに、美しく完璧に踊ったとしても、男性のリードが致命的に下手くそならば、意味が無い』


 こほんと、一つだけ咳払いをしてから続ける。ダンスを習い始めた当時は、「女性側が綺麗に踊っても無駄なの?」と思って、首を傾げていたんだけど。


『逆に、どんなにダンスが下手な女性でも、素晴らしくリードが上手い男性に当たれば、ダンスを楽しむことが出来ます。ようするに、馬に乗る時と一緒です。無理に進みたい方向へ進まず、相手のリードを信頼し、身をゆだねてダンスを楽しんでください。その時、決して相手のリードを邪魔せず! 足を踏まず!!』

『もっ、申し訳ありません。この間、足を踏んでしまい……』


 そっか。今ならあの先生の言葉が分かる。アルフレッド様が周囲を見て、私が楽しく踊れるよう、細心の注意を払ってリードしてくれている。ちょっとの目の動きで、言いたいことが分かる。「任せて」と、そう言ってる。いつの間にか、私達の周りに人はいなくて、中央に踊り出ていた。腰に添えられた手は、力が入っていなくてリラックスしている。ふっと、目が合った。その瞬間、お互いの顔に微笑みが浮かぶ。


(そうだ、せっかくの舞踏会なんだし、楽しまなくちゃ!)


 見つめ合いながらも、アルフレッド様のリードに身をゆだね、淑女らしく微笑む。すると、肩から余計な力が抜けていった。流れてくる音楽だけに耳を澄ませ、アルフレッド様の動きに身を任せていると、自分でもびっくりするぐらい、優雅に、かつなめらかにステップを踏めた。た、楽しい!


(わぁ、すごい! 私の動きを全部理解して、リードしてくれてる……!!)


 頭で考えなくても踊れる。体がするすると、アルフレッド様のリードに従ってステップを踏んでゆく。それが楽しくて、嬉しくて、アルフレッド様に笑いかけてみると、額に汗を滲ませながらも微笑み、次の瞬間、私の額へちゅっとキスをしてきた。


「ふぉっ!?」

「ごめん、我慢が出来なくて。あまりにも可愛く笑いかけてくるから、ついね?」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ……!?」

「またおじいさんになってる、可愛い」


 にこにこと嬉しそうに笑う、アルフレッド様の青い瞳は煌いていて、過去の笑顔と重なる。よ、良かった。またあんな風に、ううん、あの時よりも、もっともっと嬉しそうだ。嬉しくて涙が滲み出てくる。私がほんの少しでも、あの穏やかな日々を過ごしていた時よりも、この御方を幸福に出来たら。涙をこらえ、微笑み合って踊る。


(ああ、もうすぐで終わっちゃう……)


 さっきまで賑やかだった音楽が徐々に、その速度を落として低くなってゆく。でも、これからは何度だって、貴方と一緒に踊れるから。


 曲が止まって、踊り終えると、誰かが盛大な拍手を送ってくれた。それに合わせ、困惑しながらも人々が拍手を送ってくれる。息を荒げつつ、そちらの方を見てみると、やけに爽やかな微笑みの男性が立っていた。向かいに立ったアルフレッド様が、「……リカルド?」と呟く。


 どんな知り合いなんだろう? リカルドという名前らしき彼が、大きく拍手をしていた手を下げ、またにっこりと微笑む。上質なミルクチョコレートのような髪に、淡い琥珀色の瞳を持っていた。顔立ちは甘く整っているけど、野生的な雰囲気が漂っている。体は燕尾服の上からでも分かるほど、しなやかで筋肉質。背も驚くほどに高い。軍人だと聞かされたら、納得してしまう。でも、彼は王族ならではの、人に(かしず)かれて当然といった自信を、その淡い琥珀色の瞳にみなぎらせていた。


「久しぶりだな、アルフレッド! この間はすまなかった。つい、背中から落としてしまって」

「リカルド……一体、何年前の話をしているんだ?」

「せいぜい、五、六年前の話だろう? そう昔の話じゃない」

「人間の私からすると昔の話なんだ。それに五、六年前じゃなくて、十二年前の話だよ……」

「まぁ、細かいことはいいじゃないか! 俺にも紹介してくれよ、婚約者殿をさ」


 親しげな微笑みを浮かべた彼が、ぽんと、困った顔のアルフレッド様の肩を叩く。困惑しつつも、ひとまずカーテシーを披露し、「殿下の婚約者の、シャーロット・オーウェンと申します」と自己紹介する。額の汗を軽く拭ったアルフレッド様が、私の腰に手を添え、「ここじゃ何だから、あちらのバルコニーにでも行こうか?」と提案してきた。それを聞いて、リカルドが眉を持ち上げる。


「おいおい、別に内緒話をしに来た訳じゃないんだ。踊らないか? 俺と。シャーロット嬢」

「えっ?」

「しかし、彼女も疲れていて……」

「大丈夫大丈夫~。どうかな? 嫌?」


 にこにこと、親しげに笑いかけながら聞いてくる。この方がどういう身分の方か分からないし、それをさっと、さりげなく説明する気力はもう、アルフレッド様に残ってないみたい? すぐに次の曲が流れ出した。私が「大丈夫です、踊れます!」と言ったら、リカルド様がにやりと笑った。アルフレッド様は嫉妬しているのか、きゅっとくちびるを引き結び、青ざめている。


「そう言うと思った! ああ、アルフレッド? お前、邪魔だからあっちへ行ってるように。いいな?」

「……相変わらずだな。頼んだ」

「大丈夫大丈夫。こんなちっこい子の足を踏んだりなんてしないさ」

「ち、ちっこい……」


 たっ、確かにそうだけど! 背の高いアルフレッド様やリカルド様と並んだら、映えなくてちんちくりんなのかもしれないけど! じっとりとした目で見上げていると、肩を揺らして笑い出す。


「あーあ、おもしろ。じゃ、行くかぁ~」

「わっ!?」


 さっきよりも速いテンポの曲に合わせてか、いきなりぐいっと、私の手を引っ張ってステップを踏み出した。でも、すごい! アルフレッド様より上手い! 次々と楽しそうにステップを踏みながらも、「おっと! いけるかな~? 大丈夫かな~!?」と呟いて笑い、人々の間を通り抜け、情熱的なリズムに合わせて、きっちりと正確にステップを踏む。でも、しっかりと腰をホールドしてくれるし、その上、こちらの動きを見ながら、進む方向と速度を調節してくれる。


「な、何だか自分の体じゃないみたいですっ! すごいっ!」

「ははは! よく言われるよ、それ。任せたらいい、全部俺に。足だって、踏んでくれて構わないよ?」

「えっ!? いや、それは流石にちょっと!」

「ドラゴンだからね。たとえ、そのピンヒールに踏み抜かれても、穴なんて開きやしない」

「ドラゴン!?」


 そ、そう言えば、お客さんが来てるとか何とか言ってたような……? 混乱していると、ぱちんとお茶目にウインクしてきた。す、すごい! 私、踊るので精一杯なのに! 焦って見上げれば、ぐっと体を近付け、耳元で囁きかけてくる。


「味方してやろうか? シャーロット嬢。ただし、条件があるけどね?」

「じょ、条件……!?」

「とは言っても、別に大した条件じゃないさ。あとでもふらせてくれたらそれで」

「いいですよ! それぐらい、いくらでも!」


 ぱっと顔を輝かせた私を見て、くすくすと笑い出す。リカルドが淡い琥珀色の瞳を細め、従兄弟のような優しい微笑みを浮かべた。


「いくらでもか。気前が良いな! さてと、またテンポが速くなるぞ? 大丈夫か?」

「ふぁっ、ふぁい……!!」


 踊るのに必死だし、私は息が上がっているんだけど、彼は涼しい顔をして汗すら掻いていない。そのうち何も考えれなくなって、ひたすらリードを信じ、頭を空っぽにさせて付いて行った。合間に「そうそう、上手い上手い!」とか、「そら! もう少しだぞ、頑張れっ!」と言いながら、私の手を高く上げ、くるりと体を回してきたから、思わず笑ってしまった。


 情熱的な恋のダンスなはずなのに、色気なんてちっとも感じられない。踊り終えてふと、群衆に目を向けてみると、アルフレッド様が最前列にいて、ものすごく青ざめた顔でこちらを見つめていた。


(あれっ? はがれてる、王子様の仮面が……)


 虚ろな顔で拍手をしているし、あれはきっと「捨てられるかも、見捨てられるかも……!!」って思ってる時の顔だ……。流石に息を荒げ、肩を上下させているリカルドがこちらの腰に手を添えながらも、不思議そうに「あいつ、なんであんな顔してるんだ?」と言って首を傾げる。差し出された手を取りながら、苦笑して返す。


「アルフレッド様は嫉妬深い方なんですよ……」

「へえ。心が狭いな? たかだか踊ったぐらいで」

「でも、そんなところが好きなんです。私」

「お熱いことで!」


 そんなことを話して、笑い合う。そうやって、途中まで丁寧にエスコートしてくれていたのに、青ざめたアルフレッド様の前に立った瞬間、軽く笑って「そらよ! お待たせ~」と言い、私の背中をどんっと押した。勢いに驚いてつんのめっていると、慌てて、アルフレッド様が体を受け止めてくれる。


「っおい! リカルド!?」

「ご、ごめんごめん、力加減を間違えちゃったみたいで……」

「常々気をつけてくれと、そう言ってるだろ!? 人間の体はもろいんだ。それに、意識していないのかもしれないけど、お前達ドラゴンはバカ力なんだからな!?」

「わっ、悪かった、ごめん……。今度からは気をつけるよ」


 怒ったアルフレッド様に詰め寄られ、驚いた顔をしつつ「どうどう」と言って、両手を上げる。わ、私もちょっとびっくりした。


(怒れるんだ、アルフレッド様って……)


 意外に思ってじっと見上げていると、眉間にシワを寄せ、怒りの混じった溜め息を吐いた。ご機嫌取りなのか、リカルドが焦ったように笑って、その肩をぽんぽんと叩き出す。


「まっ、まぁまぁ! 落ち着けって……ああ、でも、良かったな!? 素敵な女性に巡り会えて!」

「……ありがとう。ただ、また反対はされているけどな」

「っふ、蹴り飛ばせばいいだろ? そんなやつらは」

「お前が言うと、言葉通りの意味にしか聞こえないな……」

「言葉通りの意味で言ったんだ。いざとなったら、全員蹴り飛ばしてしまえ!」

「それは流石にちょっと。穏便に話を進めるよ、穏便にな」


 ずいぶんと空気が柔らかい。邪魔をするのもなんだと思って、にこにこと微笑みながら会話が途切れるのを待つ。すると、いくつかの近況報告を交わしていたリカルドがこちらを振り向いた。


「ああ、そうだ。シャーロット嬢。今、ここでウサギの姿に戻ってくれないか?」

「えっ!?」

「断る!」

「お前に聞いている訳じゃないんだけどなぁ~……」


 困ったように笑って言う。でも、このドラゴンの王子様による提案がのちに、私を社交界の華へと押し上げることとなった。







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