表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第一章 本当はか弱い王子様とウサギ令嬢の私
29/83

28.舞踏会が始まったので、まずは敵を蹴散らしにいきます!

 





「き、緊張してきました……」

「大丈夫、いつも通りにしていれば。ロッティ」


 白いレースに縁取られた胸元を押さえていると、私の腰に手を回しているアルフレッド様がにっこりと微笑んだ。でも、緊張しているのか、額にじんわりと汗を掻いて、ひたすら前を見つめている。


 ここは大広間の近くにある控え室で、明かりは暗く落とされ、ふんだんに活けられた白百合の香りが甘く漂ってきていた。壁際にはいくつもの椅子が並べられ、低いテーブルと、座り心地の良さそうなソファーも置いてある。ふうと、すぐ横に立ったアルフレッド様が胸元を押さえ、息を吐いた。緊張しているみたいだけど、でも。


「今日のアルフレッド様、すごく素敵ですね……!!」

「そ、そうかな? ありがとう、ロッティ。その、君の方が素敵だけど」


 照れ臭そうに微笑みながらも、私の手を握って褒めてくださった。いつも適当に流してある前髪は、整髪料で整えられ、きりりと色っぽく掻き上げられている。それがまた、黒い優雅な燕尾服と合っていて素敵。一方の私は栗色の髪を巻いて、ふんわりと波打たせ、アルフレッド様が選んでくださった、青い宝石と黄金で出来たリーフ柄のティアラを頭に載せている。本来は妃しかつけてはいけないティアラみたいなんだけど、アルフレッド様いわく「宣戦布告だから、これは」らしく……。


 どうも陛下に怒ってらっしゃるみたい? それから、この日のために仕立てたドレスは、アルフレッド様の瞳の色を映し出したかのような、深みのあるブルーのドレス。緩やかなハート形を描いた胸元には、たっぷりのレースが縫いつけられ、透き通ったパフ袖は大きく膨らんでいて、すごく可愛い! でも、裾に施された金銀の草花刺繍や、煌くサファイヤのネックレスが甘さを残しながらも、大人な雰囲気に仕上げている。


「す、素敵ですか? あの、私、こんなに着飾ったのは初めてで……」

「すごく似合ってるし、素敵だよ。大丈夫! それに、二の腕の脂肪もそこまで減ってしまわなくて良かった……」

「……お袖に隠れているのでまぁ、よしとします」


 アルフレッド様が酷くほっとした顔で、私の二の腕を掴み、ぷにぷにと揉んで楽しみ出す。娼婦だったこともあるというお義母様が、「いーい? ロッティちゃん。太ってないし、そんなに痩せなくてもいいの。殿下はお歳が十も上なんですから、若いロッティちゃんにはある程度ぷにぷに、もちもちしていて欲しいのよ」と言っていたけれど……。次は嬉しそうに、私の両耳をもふり出したアルフレッド様を見て、何だかもやもやしてしまう。


「アルフレッド様……やっぱり、私の体が目当てなんですか?」

「そ、そんなことはないけど!? ご、ごめん。嫌だったかな……?」

「いいえ……。でも、あちこちぷにぷにで気にしてるんです。王妃様のような体型が憧れなんですけど」

「義姉上は痩せすぎなんだよ、ロッティ。それに今回、二キロも痩せたんだろう? また戻さなきゃな……」

「い、嫌です! バタークッキーとかキャラメルとか、私に高カロリーなおやつを与えないでください……!!」


 ぞっとして首を横に振った瞬間、扉が開いた。見てみると、そこに立っていたのは堂々とした佇まいの王妃様だった。今夜は華奢な肩に、蝶の羽根のような黒いローブを羽織っている。一見、花嫁のヴェールを連想させるけど、薄く透き通ったローブには色とりどりの宝石が縫い付けられ、歩くたび、きらきらと眩い光を放つ。


 ドレスもそれに合わせて黒く、ゆったりと締め付けないデザインでありながら、腰の細さは強調されていた。胸元には金と銀の刺繍が施され、まとめた黒髪の上には、月桂樹の輝くティアラが載せられている。


「……悪かったわね。私は痩せすぎていて」

「いえ、あの、その、これはちょっとした行き違いというか、なんというか……」

「王妃様は耳が良いんですね! ごきげんよう」


 私がにこにこと笑ってご挨拶をすると、ほんの少しだけ口元を緩め、ばたんと扉を閉める。その音を聞いて、アルフレッド様がびくっと肩を揺らした。それから、さりげなく後ろへと下がって、私の背中にしがみつく。そんなアルフレッド様を見て、王妃様が無言で眉を持ち上げた。素敵なドレスを着ているからか、いつもより怖さが倍増している。


「あの、アルフレッド様に代わってお詫びします。申し訳ありません……」

「っふ、いいのよ、もう。別に気にしなくて」

「は、鼻で笑った……!!」


 背後のアルフレッド様が、私にしか聞こえない声でぼそぼそ呟いたあと、小刻みに震え出す。目の前に立った王妃様がそれを見て、「どうして、私はこんな男を警戒していたのかしら?」とでも言いたげな、微妙な顔で黙り込んだ。こ、ここは私が何とかしなくては!


「寛大なお心に感謝します、王妃様。あの、こちらへはどういったご用件で……?」

「改めて、この間のお礼を言いにきたのよ。その、随分と情けない姿を見せてしまったし」

「お礼なら人参で十分ですよ! 定番ですよ!」

「定番なのね……? まぁ、いいわ。またお茶でもしましょ、シャーロットちゃん。じゃあ、またあとで。あっ、そうそう」


 (きびす)を返して扉に手をかけていた王妃様が、くるりとこちらを振り返る。私の肩を掴んでいるアルフレッド様の手に、きゅっと力が入った。こんなところも可愛い~。


「今度、そのじめじめとした暗い男は置いてきてちょうだい。うんざりだわ、もう。じゃ」

「あっ、はい……でも、それを言われると……」


 こ、これから舞踏会なのに……。案の定、振り返ってみると、早速うずくまって膝を抱えていた。そしてぶつぶつと、「どうせ、どうせ王族には相応しくない、じめじめとした気持ち悪くて暗くて、情けなくて視界にも入れたくない男だよ……部屋に閉じこもって暗い余生を過ごすべきかなぁ? 国民と国のためにも」と言って、さっきまでの素敵さをことごとく消してらっしゃる。


「あっ、アルフレッド様!? 大丈夫ですよ!? そのままで! 貴方は!」

「やっぱり、義姉上は私のことを嫌っているんだ……もういやだ、寝台に帰りたい……」

「だっ、だだだだ大丈夫ですよ! 一緒に踊りましょう? あの、私、アルフレッド様と踊るの、すごく楽しみにしているんですけど……?」

「そっか……じゃあ、頑張らないとだな」


 すんと鼻を鳴らして立ち上がり、奇跡的に回復してくれた。良かった! ウサギちゃんの姿にならなくても、大丈夫だったみたい。意識して優しく笑いかけていると、アルフレッド様もふんにゃりと、嬉しそうな微笑みを浮かべてくれた。


「楽しみでもあるね? 緊張するけど……」

「ですね! ゼリーも食べましょうね、一緒に」

「だね。ああ、そうだ。今回は義姉上が復帰したお祝いも兼ねているから、一段と豪華みたいだよ? デザートメニューが」

「わっ! たっ、楽しみです……!! ミルフィーユとかありますかねえ」

「あるといいねえ。小さいタルトとかも」


 のんびりとお喋りを楽しんだのち、呼ばれて入場する。まず継承権が低い王族から順に呼ばれ(つまりは、オーレリア様とか)、最後は国王夫妻が登場して、一番高く、大広間を見渡せる玉座の前に立つ。


 眩いシャンデリアの光に照らされた、国王様は年齢を感じさせない美しさを誇っていた。冴え渡るような、氷の美貌と言ってもいいかもしれない。金茶色の髪は強くうねり、後ろへと乱暴にまとめてある。薄い笑みを描く口元も、鷹のように鋭く光っている青い瞳も、まるで冬の神様のよう。隣に並び立つ王妃様に合わせたのか、黒い軍服の上から、真っ黒で金色の房飾りが付いたローブを羽織ってらっしゃる。


「……こうして、集まってくれて感謝する」


 いつもいつも、陛下は余計なことを仰らない。深みがあって、よく通る低い声は穏やかなのに、聞く者を身構えさせるような()()()存在していた。広間にいた人々が息を飲み込み、国王に全集中する。数多の熱っぽい視線を浴びても、氷の微笑みと称される微笑みを浮かべ、決して崩しはしなかった。しゅわしゅわと泡立つ、金色の液体が入ったグラスを片手に、王妃様の方をちらりと見つめ、呼び寄せたあと、その肩を優しく抱く。


「皆が気にかけてくれたお陰で、こうして王妃の体調も良くなった。それに今夜は、ヴァネッセとルートルードから客人も来ている。楽しんでくれ。では、乾杯」

「「乾杯」」


 一斉に何百人もの人々の声が重なる。その瞬間、金色の液体が弾けて打ち上がった。ひゅるるると、高い音を鳴らしたあと、豪華に光り輝くシャンデリア付近でぼんっと大輪の花を咲かせ、眼下にいる人々の頭へと金粉をまき散らす。それと同時に、楽団が賑やかな音楽を奏で出した。人々が浮き足立ち、まずは王族の方々へ挨拶しようと、一斉に押し寄せる。そんな中で、広間を見渡していたアルフレッド様がぐっと、私の腰を抱き寄せた。


「帰ろうか? ロッティ。もう……」

「あの、ご挨拶は……!?」

「もうしなくていいんじゃないかな? ああ、帰りたい」

「でっ、出てますよ! よわよわが……」


 わ、私はアルフレッド様を射止めたことを自慢して、先程からこっちを睨みつけてくる女性達を蹴散らしたいのに! 垂れた両耳をふるりと震わせ、にっこりと微笑みかける。豪勢に着飾った女性達が眉をひそめ、お互いに何かを囁き合った。


「アルフレッド様は女性に人気がありますからね……!!」

「えっ」

「ここでちゃんと、私のものだと理解させなくては!」

「理解、させるんだ……?」

「はい! ですから、もうちょっとだけ頑張ってくださいね? さぁ、ご挨拶に行きましょうか! 私を婚約者だって、きちんと皆様に紹介してください!」


 倒すべき敵はいっぱいいるもの! 陛下とか、陛下とか陛下とか陛下とか!! 鼻息荒く主張すると、一転してきょとんとした顔になる。でも、次の瞬間、ふわりと嬉しそうに微笑んでくれた。


「そうだね……私も私で、牽制(けんせい)しておかないとな」

「も、元婚約者に会わなければいいのですが……どうでしょう?」

「大丈夫。いるだろうから、見せ付けてやろうか?」

「はい、そうしましょう! 楽しみですね!」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ