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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第一章 本当はか弱い王子様とウサギ令嬢の私
28/83

27.廃墟のような広間と昔話

 



 ぐらりと、彼女の顔が歪む。めまいか貧血か、それとも疲労か。よく分からないが、一瞬だけ視界が揺れた。すぐに彼女が気が付いて、張りのある薄いペールブルーの布を重ねたドレスの裾を揺らし、立ち止まる。


「アルフレッド様? 大丈夫ですか?」

「ああ。……すまない、連日の心の準備でストレスが」

「心の準備でストレスが……?」

「ああ。舞踏会でもしも私が君の足を踏んで、笑い者にでもなったら雪の女王の山脈近くの古城にでも、」

「あの、アルフレッド様? そこは厄介な王族の方々が収容されていたところでは……?」

「そうだ、ぴったりだ。どうしよう……?」


 彼女の手からそっと、手を放して軽くうずくまると、呆れもせずに心配している声で「アルフレッド様!? 大丈夫ですよ、ぴったりではありませんからね?」と言って、背中を優しく擦ってくれた。ああ、胃が痛い。今朝も今朝で義姉上が渋い顔つきで、「ごめんなさい、説得は無理だったわ。でも、舞踏会では気をつけて。陛下が何かしてきそう」と言ってきたし。ああ……。深いダークブルーのスリーピースを着たアルフレッドが、頭を抱える。


「私は……兄上に嫌われてるんだ、きっと」

「陛下に? どうしてですか?」

「分からない……私を育ててくれたのは、兄上のはずなんだが」

「陛下が? 初耳です、それは。アルフレッド様……」


 彼女が続きを聞きたがっているので、頑張って立ち上がる。顔色悪く、胃の辺りを押さえていると、すぐにふわりと微笑んで、「すごいですね、アルフレッド様! 回復が早くなってきましたね!」と褒め、手までぱちぱちと叩いて拍手を贈ってくれた。


(ああ、情けない。なんて情けないんだ、私は……)


 彼女は本当に、こんな自分の一体どこがいいんだろう? 理解に苦しむ。でも、こちらをひたむきに見上げてくる、澄んだグリーンの瞳には幸福そうな煌きが宿っていた。いいのか、これで。本当に?


「あの……すまない。どうも舞踏会が控えていると、いつもはその、上手くこなせていることが上手く出来ず……」

「大丈夫ですよ! 私もその、ドレスの調整でナーバスになっていますから」

「もうそれ以上、痩せなくても別にいいんじゃないかな?」

「嫌です! あと五センチ、あと五センチぐらい、コルセットを締めれるようになりたいです……!!」


 彼女が青い顔をして、十分くびれている腰周りをさっと両手で押さえた。何となく触れたくなって、その手の上から手を重ねてみると、赤くなってたじろぐ。


「あ、あの……? アルフレッド様?」

「……ちょっと休憩しようか、ロッティ」


 白く、滑らかな石の床が冷気を放っている広間には誰もいなかった。亡き母上が好んだという、細かな雪の花が浮かんだ石材はつるりとしていて、踊るには向いていないような気がする。天井には見事な、青い海と人魚、溺れる船乗りが描かれていた。シャンデリアは妖精が銀糸を変化させ、冬の夜明けの中で紡いだという、ほんのりと青みがかった、角度によっては青紫色にも、銀色にも見える、気が遠くなるほど繊細なデザインのシャンデリア。冬と夏、海と雪。ここには母上が愛したものが沢山詰まっていて、そのちぐはぐさが胸の奥を詰まらせる。


 かつて、父と母はここで踊っていたらしい。誰も寄せ付けず、母上が抱えていたという古いオルゴールをかけ、夜中に踊っていたらしい。二人に思いを馳せながらも、彼女の頬に触れていると、嫌だったのか、魚のようにするりと逃げていった。


「しっ、しましょうか! 休憩……あと」

「……うん」

「育てられたとは、一体……?」

「気になるんだね、それが」


 私よりもという言葉を、何とか寸前でぐっと飲み込む。気まずくなって顔を逸らすと、くすりと笑った。今日の彼女は栗色の髪を編み込み、春の花々を束ねて冠にしたかのようなものをかぶり、白い空間に溶け込むような、ブルーのシフォンドレスを着ている。踊るたび、透き通る布がふわふわと揺れ動き、この上なく可憐で優雅だった。


「ええ、アルフレッド様の生い立ちですから」

「生い立ち……」

「はい。私、もっともっとアルフレッド様のことが知りたいです。その、差し支えない程度に教えて頂けると」

「大丈夫だよ。特にこれと言って、何かある訳じゃないから」


 彼女の手を取って、中央の白い大階段へと向かう。磨き抜かれた金色の手すりは、海の王宮をイメージして作られたものらしく、渦巻状のムーンストーンのようなものが連なり、支えとなっている。そんな手すりが張り巡らされた階段の下に、金色の肘置きが付いた、青いカウチソファーがあるのでそこへ腰かける。階段の上には絵が飾られていたが、どれもこれも春の海や、のどかな観光地の海でくつろぐ人々といった、海にまつわる絵だった。


「あー……母上は、私を産んですぐに亡くなったんだ。元々体が弱く、無事に産めるかどうかと言われていたらしい」

「そうなんですね……」

「うん。ただ、肖像画が本当に残っていなくて……父上が命じて、全部燃やしてしまったから」

「本当に一枚も残っていないのですか? じゃあ、アルフレッド様はお母様の顔を、」

「いや、実は兄上が保護というか。隠し持ってくれていて」

「陛下が……」

「そう。部屋にね」


 こっそりと、十六歳の誕生日を迎えた夜に見せてくれた。「何故今まで見せてくれなかったのか」と聞くと、肩を竦め、「子供は嘘を吐くし、約束を破るからな」とだけ言ってきた。どうも部屋にある肖像画を見せ、幼い私が父に「母の絵を見ました!」と言うのを恐れたらしい。


 ひっそりと何年もの間、王太子の部屋にかくまわれていた肖像画は状態が良く、こちらに向かって微笑みかけていた。自分とよく似た濃いブラウンの髪に、青い瞳。肌は白く、雪のようで、海のような瞳を引き立てていた。漂うのは気品と儚さ、それに優雅さ。どこか気の弱そうな顔立ちをした母は、生きていれば、自分に優しく微笑みかけてくれたのだろう。


「そんなことが一瞬で想像出来る、優しそうな人で……」

「ああ、分かります! きっと、アルフレッド様と似たような感じで、よわよわした女性だったんでしょうね!」

「やけに嬉しそうだね、ロッティ……」

「私はアルフレッド様のよわよわなところ、大好きですから! お会いしたかったです、ええっと」

「名前はマルティナ。出会いは……父が狩猟中、倒れているのを見つけたらしい」

「倒れているのを……? 森で?」

「そう、森で。記憶も無くし、古いオルゴールだけを抱えていたみたいで」


 何故、そこにいるのかもよく分からなかったらしい。オルゴールの他に持っていたのは、“マルティナ”という自分の名前だけ。探すことも出来たのかもしれない、父は。でも、その美しくて気弱な女性を王宮の中へ閉じ込めてしまった。……母が迎えられた当初、「他国の間者かもしれないのに」とそう言って、王妃を含めた女性達が反発し、壮絶ないじめをしたらしい。


「そのことを兄上が教えてくれて……ただ、どれもこれも大きくなってから、聞かされた」

「陛下はアルフレッド様のことが大事なんですねえ」

「どうだろう……。よく分からない。婚約も許してくれないし、嫌がらせにお茶を飲みには来るし」

「嫌がらせに……?」


 隣に腰かけた彼女が、不思議そうな顔をして首を傾げる。そのことについては、あまり言いたくなかった。思い出すだけで気が滅入りそうだ。


「それで、私やロッティに嫌がらせを……」

「う、うーん……陛下、楽しいんでしょうか? そんなことをして。お忙しいのに?」

「あー、うん。あの人は微笑みながら、楽しんでいそうだけどなぁ」


 母が愛したという広間はどことなく、がらんとしていて空虚さに満ちている。母の命日────つまりは自分の誕生日が近付くたびに、父はここへやってきては何もせず、ひっそりと佇んでいた。他に多くの美しい愛人や側室がいるのに、どうして母一人に執着するんだろう。それが、幼い自分にとっては不思議でならなかった。こっそりと夜中、部屋を抜け出して父に会いに行く。父はそれなりに可愛がってくれたが、本当は自分のことをどう思っているんだろう。


「……母と引き換えに、この世に産まれたんだ。憎まれているかもしれない」

「アルフレッド様?」


 だから、いつも王宮では肩身が狭かった。王妃もそれなりに良くしてくれたが、自分の息子の手前、そうしていただけなのかもしれない。


『父上……そこで、何をしてらっしゃるのですか?』

『おお、アルフィー。だめじゃないか、ちゃんと寝ていなきゃ』


 掠れたような色合いの金髪を持った父は、年老いてなお、その美しさを誇っていた。体を鍛えるのが趣味で、年々顔色は悪くなっていくが、国王としての威厳も備えており、美丈夫と褒めそやされていた。母の死後、新しく側室を迎えはしなかったが、貴族の女性の何人かには手を出していたらしい。


『さぁ、おいで。……冷えるだろう? 戻らなくては』

『父上。父上の手も冷たいです、僕よりも』


 軽くガウンを羽織っただけの父の手は、老人のように硬く、ひんやりと冷え切っていた。懸命に、小さな手で擦り合わせ、温めようとする私をじっと見下ろし、次の瞬間、破顔する。


『優しいなぁ、アルフィーは……本当に、マルティナそっくりだ』

『母上にですか?』

『そうだ。まぁ、お前一人、残っているだけでもよしとするか……』


 母とよく似て、気弱で病弱な私をよく気にかけてくれた。風邪を引けば、母のようにあっさり死んでしまうのではないかと心配して、見舞いにやってきては、その度に、兄上に追い返されていた。


『父上には公務があるでしょう? どうぞお戻りください、陛下』

『そ、そんな! 国王命令だっ! 息子に見舞いぐらい、』

『アルフィーの病状が悪化するだけです。どうぞお引取りを』

『まぁ、そう言わずに! 少し顔を見るぐらい、』

『どうぞお引取りを、陛下。午後も予定が詰まっているとか』

『ギルバート……』


 そんな会話が部屋の戸口でなされることもよくあった。そんなことをとうとうと語れば、何がおかしかったのか、彼女がくすくすと笑い出す。


「そうなんですねぇ。アルフレッド様は愛されていたんですねえ」

「そうかな? よく分からない……」

「愛されていたんですよ。でも、これでよく分かりました」

「何が……?」


 彼女はウサギだからか、観察眼が鋭い。いつか、寝室に隠してあるウサギのぬいぐるみ数匹を見つけ出して、処分してしまうのではないかと、そう考えるだけでひやひやしてしまう。可憐な横顔をじっと見つめていると、澄んだグリーンの瞳が光り輝いていた。奥には大きな窓があって、王宮の中庭に面している。今でも目を凝らせば、微笑みを交わして見つめ合う、父と母の姿が見えてきそうだった。


「陛下は、お兄様はきっと拗ねてらっしゃるんでしょうね!」

「えっ」

「私という、もふもふウサギちゃんに取られて悲しいんでしょうけど! まぁ、仕方ありませんね……陛下にはもふもふ毛皮も、可愛い尻尾も付いていませんからね!」

「嫌だなぁ、付いてたら怖いなぁ……」

「ふふふふっ、確かに!」


 二人で顔を見合わせ、笑う。幸せだった。何となく分かった、彼女と出会ってから。父が母に執着していた理由を。手を伸ばして、彼女の柔らかな手を握り締める。


「きっと、落ち着いたんだろうなぁ……母も、権力とか宝石とかに興味が無かったと聞く。だから誕生日プレゼントに、父上はこの広間をプレゼントして、」

「この広間を!? プレゼント!?」

「改修させたそうだよ。今は私が自由に使ってもいい広間だが、当時は立ち入り禁止にされていた」

「た、立ち入り禁止に……ひっ、広いのに?」

「そう、広いのに」


 でも、この豪華で静謐(せいひつ)な広間でパーティーを開きたくないという気持ちがよく分かる。初夏の陽射しに照らされ、透明に光り輝く広間はがらんとしていて、廃墟のようなロマンを漂わせていた。人が来ては去り、人が来ては、また去ってゆく。そんな賑やかな往来(おうらい)には向いていないのかもしれない。


「あれ? オルゴール……?」

「……ああ。置いてあるんだ、ここに」


 入り口の扉は魔術でしっかりと施錠されているため、盗まれる心配も無い。カウチソファーのすぐ横の、チェストに置かれたオルゴールを見て、彼女が手を伸ばし、すぐに引っ込めた。こういうところが彼女らしいなと、そう思う。


「いいよ、触って。かけて」

「あっ、いいんですか? でも、思い出の品なんじゃ……」

「うん。さっき、話に出てきた……母が持っていたオルゴールなんだ。古いけど、ちゃんと音は出るよ」

「そ、それじゃあ、失礼して……」


 やけにそわそわとした様子で、飴色のオルゴールを持ち上げ、ネジをそっと巻いた。瞳が輝いてる、可愛い。ゆったりと背もたれへ背中を預け、足を組み直しながらも、その嬉しそうな顔を見つめる。


(好きなのかな、オルゴールが……今度、贈ってみようか)


 細く、柔らかな栗色の髪を指先で巻きながら、深くて甘いメロディーが耳に届くのを待つ。すぐにころんころんと、砂糖菓子のような音色が流れ出てきた。最初のテンポは遅く、まろやかで、けれども徐々に速くなってゆく。


「わぁ……聞いたことない! 綺麗!」

「だね。母も気に入って聞いていたらしいよ、ロッティ」

「ふぉっ!?」


 そろそろいちゃいちゃしたくなって、後ろから抱きついてみれば、驚いてびくっと体を揺らす。どうもまだ慣れないらしい。でも、そんなところも初々しくて、可愛かった。彼女の肩に顔を埋め、両目を閉じる。


「分かるなぁ、父上が悲しんでたこと……」

「アルフレッド様?」

「きっと、私にとってのロッティだったんだろうな? だから、肖像画も全部燃やしてしまった……」


 見れば、胸の奥が痛み出すから。もしも、彼女が私の子供を産んで死んでしまったらどうしよう? 生きていけるんだろうか、その先を。子供の立派な父親として。


「君が死んだらどうしよう……? 子供なんていらないな」

「大丈夫ですよ! 私は母と違って体が丈夫ですし、ウサギは大体安産ですからね!」

「どうやって産むのかな……いや、うん。き、聞くのはやめておこう。ごめん、忘れてくれ」


 婚約者とはいえども、女性に一体なんて質問を……。後悔して落ち込んでいると、彼女がこてんと首を傾げ、「選べますけど?」と言ってきた。


「えっ、選べるんだね? どうやって?」

「母からは陣痛がきた時に、ウサギの姿に戻れと言われました!」

「あっ、そ、そうなんだ……」

「まぁ、普段もウサギちゃんで過ごした方が楽なんですけどね! 段差とか」

「段差」

「はい! あと妊娠中、お腹が空いてもちょっとで済むって。そう言ってました!」

「ウサギだもんな……」

「はい! 食材もちょっとで済みます。お得」

「お得……まぁ、普段から気にせず食べるんだよ? ロッティ」


 離れたあと、そう言って頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑って「はい!」と言っていた。至福の時間だが、残り少ない。早急にいちゃいちゃしたい。


「あー、ロッティ? 私としてはその」

「はい? どうかしましたか?」

「ブラッシングでも散歩でもなく、ボール遊びでもなく、爪切りでもない、人の姿でいちゃいちゃをしたいんだが……?」

「わ、分かりました! 頑張ります!」

(良かった……)


 先日、冗談めかして「疲れたから、いちゃいちゃがしたいな」と言ってみると、すかさず「どうぞ!」と言いながら、爪切りをさっと手の上に乗せられた。どうも、私がウサギ姿の彼女を抱え、耳元で「えらいね、賢いね」と言いつつ、ぱちんぱちんと爪を切ったことが、彼女にとっては刺激的だったらしく、終わったあと、ソファーで「ふぉおおおおっ!!」と叫んで転がり回っていた。以後、爪切りもいちゃいちゃに追加されてしまって……。


「……ロッティにとって一番刺激が強い、いちゃいちゃって何かな?」

「あの、今もかなり刺激が強いです……!!」

「これだけで?」


 向かい合って両手を上げ、恋人繋ぎをしているだけなんだが。彼女が赤い顔をして、ぎゅっと両目を閉じた。ふと悪戯心が湧いて、絡めていた手を解き、彼女の垂れた両耳へと手を添える。


「あの……?」

「実験、かな」

「実験? 何のですか?」


 何も分かっていない、きょとんとした顔にたまらなくなって、その柔らかな垂れ耳へかぷりと噛みついてみた。噛んだとは言っても、甘く歯を立ててみただけだ。それでも刺激が強かったらしく、途端に「ふおおおおおっ!?」と叫んで、後ろへと倒れ、次の瞬間、ぼふんとウサギの姿に戻ってしまう。


「あっ……ロッティ、そんなに?」

「いっ、いいいい今のですっ! 今のが一番、刺激が強かったです! その次はシャンプーです!」

「そういえば、この前も洗ったね」


 あれを「過激ないちゃいちゃ」に認定してしまったらしく、ものすごく甘えんぼな気持ちの時は、ウサギ姿で擦り寄ってきて、「アルフレッド様~! その、汚れたりしてないんですけど、洗って欲しいです!」と言ってくるようになった。彼女はお腹を丁寧に洗われたり、前足に付いた泡をシャワーで落とされると、緊張してときめくらしく、大体、洗ったあとは疲れてソファーに寝転がり、「ふぁ~……ドキドキしたぁ!」と言っている。どうしよう。


「私としては……その。いや、いい。人の姿でのいちゃいちゃで、あと刺激が強いのは?」

「人の姿ではその、首輪を外して貰う時でしょうか……!!」

「そっか……あとは?」

「爪切りです!」

「いや、ウサギの姿なんじゃ……?」

「あっ」


 そこから頭を悩ませた末に、閃いた顔をして「キスが一番ドキドキします!」と言ってきた。


「即答じゃないんだね……」

「もっ、申し訳ありません! でも、やっぱり、洗われてる最中が一番ドキドキするかもしれません!」


 だが、私にとってはただ、ウサギを丁寧に洗っているだけだ。落ち込んでいると、彼女はもう満足してしまったらしく、「もう一度かけていいですかー?」と言い、オルゴールをかけだした。まろやかな音色が耳に心地良く、次第にまぶたが重たくなってくる。彼女に寄り添い、まどろんでいると、また閃いたのか「あっ!」と呟く。


「ウサギ姿で抱っこされてその、お昼寝してる時もすごくドキドキしますね……!!」

「うん、そっか。良かった……」


 ただ、それもウサギと寝ているだけなんだが……。そんなことは言えず、そっと両目を閉じた。かつて、父と母が語り合っていた美しい広間にて。





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