20.過去に向かった先で、目にしたものとは
夜、一人になってから深く息を吸い込む。白いネグリジェ姿のシャーロットが、扉に背を向けて佇んでいた。窓の向こうには、黄色い三日月がぽっかりと浮かんでいる。綺麗。あの時と一緒だ。お母様に会うために、必死で森の中を探検しに行った、あの時の夜と一緒。深い夜の匂いと森の湿った匂い。そして、唐突に現れた美しい人外者の男性。ぎゅっと、胸元に下がった、鍵の形をしたネックレスを握り締め、その名前を唱える。
「イライアス……ねぇ、来てくれる?」
掠れた、囁くような声で唱えた瞬間、こうっと冷たい風が吹き荒ぶ。ぎゅっと両目を閉じて耐えていると、ふいに、誰かが私の目の前に立った。そっと目を開けてみると、冷たい指先が頬に触れ、上に移動して私の前髪を整えてゆく。こちらを見つめるのは、夜更けの色が混じった瞳。瞳孔の端のほうには青色が滲んでいて、中央は漆黒を流し込んだかのような黒色。肌は白いを通り越して、青ざめており、くちびるは青紫色。黒髪は艶やかで、少しだけくせがあって波打っていた。あまりにも近い、その距離に息を飲み込んでいると、彼がようやく口を開く。
「久しぶりだね、シャーロット。……お母さんに会いたくなった?」
「あ、ええっと、その、お久しぶりです……覚えていますか? 私との約束を」
アルフレッド様が嫉妬してしまうから、二歩、三歩と距離を取って、その男性を見上げてみる。イライアスは出会った頃と同じように、黒いスーツを身にまとっていた。埃一つなく、不自然なくらいの新品。黒い靴もぴかぴかに磨き上げられ、ポケットに差し込まれた、皺一つない真っ白なハンカチーフがどことなく不気味さを漂わせている。
「もちろん、覚えているとも。あの時の君はまだほんの子ウサギちゃんで、俺が自由自在に過去に行けると、そう思い込んでいたね?」
「は、はい。でも、過去の映像が見れるんでしょう?」
「どうやらまだ、君は俺の力を勘違いしているらしい」
薄いくちびるを吊り上げ、にやりと笑った。でも、浮かべる笑みはどこか親しげで怖くはない。両耳が震えそうになったけど、何とか耐える。ああ、こんなところ。お義母様とお父様に見られたら、なんて言われることか……。
「正確に言うと、その過去の中に行ける。が、触れもしない。あちらはこちらを見もしない。……かつてあったことは常にそこにあって、そこへ行って見つめるだけだ。たったそれだけ」
「じゃ、じゃあ、犯人にもばれずに済むんじゃ……」
「犯人? 一体何のことかな?」
「えっ、ええっと、そのですね? 実は」
重要な部分を伏せて、ひとまず、王太子様を殺した犯人がどこの誰かだけを突き止めたいと、そう伝えてみると、得心気味に頷いてくれた。細くて青白い顎に手を添え、どこかあらぬ方向を見つめる。
「じゃあ、君は亡くなった母親に会えなくても構わないと?」
「かっ、構わなくはありませんが……でも、アルフレッド様の方が大事なんです。私」
そう、アルフレッド様と結婚して一生お傍にいてあげたい。このもふもふ毛皮で癒して、時には守って差し上げたい。涙が滲み出てきそうになった。お母様、お母様。私が子ウサギの頃に、病気で亡くなってしまったお母様。もう、その姿も甘い匂いも遠くて、ろくに思い出せやしないけど。でも、いいの。肖像画もあるんだし、いつまでもお母様に縋って生きては行けないから。ぐしぐしと、手で目元を擦って前を向く。イライアスが「ふぅん」と呟いて、興味深そうな顔で私のことを見つめていた。
「だっ、だから、どうか連れて行ってくれませんか? 私、私、犯人を突き止めると、そう王妃様にも約束してしまって」
「いいよ、それはもちろん。何だか楽しそうだし」
「よ、良かった! ありがとうございます! それじゃあ」
「うん。日時指定が必要だけど……そうだなぁ。あの件はそっくりさんが絡んでいたなぁ、そういえば」
「そっくりさん? って、もしかして」
「そのもしかしてだよ、シャーロット。ロッティ。素敵なふわふわちゃん?」
くすりと笑って手を伸ばし、私の両耳をもふもふと撫でてゆく。意外と優しい手つきにうっとりと目を細めていると、いっそう、その微笑みを甘く深めた。
「あれは何かとお節介な性格をしているからね……まぁ、こんな機会でもない限り、エオストール王家の人間には手出し出来ないし?」
「そ、そうなんですね? じゃあ、どうして王太子様は……」
「人間からの依頼だったんだろう、シャーロット。それじゃあ、行ってみようか。陰謀と欲が渦巻く、かつての過去へと!」
「わっ!? ちょっと待って、まだ心の準備が出来てないんですが……!?」
ぐいっと手首を引っ張られ、転びそうになった。でも、すぐに風が吹いて前が見えなくなる。熱風が渦を巻いて私の体を包み込み、ぐらりと意識が傾いてゆく。だ、だめだ。頭がぐわんぐわんする。ここはどこだろう? ああ、ベティも心配するし、明け方までに帰ってこれたらいいんだけど────……。
ふっと胃が浮いた。気持ち悪くなって、視界がちかちかと点滅し出す。冷たくなった額を押さえ、息を荒げていると、誰かが私の背中をゆっくりと擦ってくれた。
「ほら、見てごらん。ロッティ? 君の婚約者と亡くなった王太子様だよ」
「えっ? あるふ、アルフレッド様が……? ああ、本当だ。少しだけお若い」
四年前だからか、ほんのりと少年のような瑞々しさを漂わせている。そこはよく晴れた、セピア色の王宮の中庭で、緑の芝生が生い茂る上を子供が走ってゆく。王太子様だった。くるくるの金茶色の巻き毛に、こぼれそうなぐらい、大きな青い瞳に白い肌。浮かべる笑みも愛らしくて、見ているこちらの頬も緩んでしまう。白いシャツに、サスペンダー付きの黒いズボンを着た王太子様が、笑顔で腕を広げて待っている、かつてのアルフレッド様に飛びついた。
「叔父様! お待たせしましたっ!」
「っはは、元気いっぱいだな? ユリシーズ! どうだった? 昨夜は。父上と一緒にランタンを見に行ったんだろう?」
「はい! たくさん空に浮かんでいて、きれいでした!」
「そうかそうか、それは良かった。楽しかったみたいで何よりだ……」
にこにこと、屈託の無い笑顔で王太子様を抱き上げている。ある、アルフレッド様。傷付いたでしょう? 苦しかったでしょう? 貴方は私が思っている以上にちゃんとしていて、優しい叔父様だった。二十四歳らしい若さが残っているのに、幼い王太子様を抱えたその顔つきは凛々しく、でも、今よりもずっとずっと穏やかだった。胸の奥が苦しくなる。今のアルフレッド様が、瞳の奥に抱えているような、憂鬱さや億劫さはどこにも見当たらなくて。また、熱い涙が浮かんできた。視線の先で二人が穏やかに笑い合っている。
「アルフレッド様……辛かったでしょう? もう、もう、あんな風に笑ってくれることってないのかなぁ」
「そんなことはないと思うけどねえ。甥っ子は甥っ子だし、妻は妻だろう。大事さの種類が違う」
「そ、そうですかね……? でも、私にはあんな風にその、無邪気に笑いかけてくださらないから……」
ここへきてようやく、アーサーが言っていた「アルフレッド様はずいぶんと、穏やかな顔をするようになりましたよ」という言葉の意味が分かった。四年前まではあんな風に屈託無く、無邪気に笑っていたというのに。一歩、匂いのしない芝生を踏みしめて近付く。触れられないと分かっているのに、腕を伸ばしていた。眩しいぐらいの笑顔を浮かべている、アルフレッド様に向かって。その腕をがっと、イライアスが掴んできた。
「だめだよ、もうすぐで悲劇が起きてしまうんだから」
「うそ、待って、まさかあのお菓子に!? ねぇ、待って! ちょっと待って、お願いだから!!」
意味が無いのに叫んでしまう。ここは過去で、もう取り返しがつかない場所で。それでも、笑顔でお茶を囲んだ二人の傍へと駆け寄って、その腕を掴んでしまった。でも、すり抜ける。淡く透明で、アルフレッド様はこちらを見ようとはしない。当然なんだけど胸が痛んだ。毒が入っているとは知らず、傍に控えていた執事が追加したお菓子を手に取って────それは個包装のクッキーだった────丁寧に包装紙を破き、いつもの優しい笑顔で手渡している。
「ありがとう、叔父様!」
ああ、だめなのに。食べてはだめ。それを食べたら、貴方は……。ごくりと唾を飲み込んで、笑顔で頬張る王太子様を見つめるしかなかった。ぐっと、青い瞳が限界まで見開かれる。ああ、私の息まで止まってしまいそう。呆然と立ち尽くしていると、ふいに目の前が真っ暗になった。イライアスが私の目元を覆っている。
「ここは見せるべきところじゃなかったな、刺激が強すぎる。さぁ、次へ行こうか? 犯人探しだよ」
「あ……待って、アルフレッド様は!? アルフレッド様!!」
耳をつんざくような、女性の叫び声が上がる。聞いていて真っ青になるぐらい、悲痛なアルフレッド様の「ユリシーズ! ユリシーズ!? 一体どうしたんだ!?」という声が聞こえる。きっと、かき抱いて慟哭している。アルフレッド様、アルフレッド様。貴方のせいなんかじゃないんです。でも、貴方は優しいから、自分を責めてしまっているんでしょう? でも、違う。違うんです。犯人は他にいて、悪いのは絶対に絶対に、その人達だから……。また視界がぐるりと回ってゆく。頭が揺れる、意識も揺らいでゆく。吐き気を堪えていると、とんっと、何か柔らかいものの上に着地をした。
(あ、絨毯だ。これ)
くらくらする頭を抑えていると、黒いスーツ姿の男性が何人か立っていた。みんな、一様に背が高くてこちらに背を向けている。すぐ隣に立ったイライアスが「先にこの光景を見せていれば良かったかもしれないね? ごめんね、シャーロット」と、少しだけ残念そうな声で呟いた。
「ひっ!? な、なに、おまえ、お前達は……」
「ああ、いいよ。何も言わなくて。お前には王太子を殺して貰わなくちゃいけない。ああ、記憶の書き換えと、それからは」
怯えて震える、老人に近い年の男の首を締め上げていた。アルフレッド様が。いや、アルフレッド様の姿にそっくりな、“似姿現し”のそっくりさんが。古来から人間に化けて、何かと残酷なことをしでかす銀等級人外者。そのすぐ近くに立っていた男性が「おい」と言って、そっくりさんに話しかける。
「記憶を書き換えるのなら、何も、その姿にならなくて良かったんじゃないのか?」
「あー、あー、やだやだ。ロマンが無いなぁ、まったくもう! そっくりさんが何のためにこの男に化けていると?」
「楽しさからか」
「そう! その通り! これで忠実な執事はあの男に頼まれたと、そう勘違いするだろうね……」
首を絞められていた男が、どさりと足元の床に崩れ落ちる。暗くてよく見えないけど、ここはどこかの屋敷の寝室だった。そっくりさんが「ふん、ふふん」とわざとらしく鼻歌を歌って、優雅にしゃがみ込む。
「ああ、いいなぁ。やっぱり……人の欲はなんて深くておそろしいんだろう? 何でも叶えてあげたくなっちゃうなぁ、なんて愛おしいんだろう?」
さらりと、長い指先で気絶した男の髪を梳かしてゆく。心底ぞっとした。一体どうして。彼らが理由なく、こんなことをする筈がない。このことを願った誰かがいる。人外者に記憶を書き換えるよう頼んで、毒を盛って殺せと指図した誰かが裏に。ぽんと肩を叩かれた。はっと我に返って振り返ってみると、にっこりと、イライアスが優しげな笑みを浮かべている。
「行こう。ごめんね? ややこしくて。そっくりさんをけしかけた彼女に会いに行こうか?」
「あっ、はい……」
今度はあまり揺れなかった。ふわりと生温かい風が吹いて、薔薇と似たような芳しい香りが漂う。でも、気のせいだった。大きな薔薇と葉が描かれた、毛足の短い絨毯に金と白のストライプ壁紙。それに、あちらこちらにふんだんに活けられた真っ赤な薔薇たち。奥のシェードランプはぼんやりと光っていて、金色のフリンジが付いている。薔薇の香りがすると思ったのは、この豪奢な寝室のせいだった。重厚な、金の刺繍が織り込まれた天蓋付きのベッドは、芳しい薔薇の香りが漂ってきそうなほど豪華で圧倒されてしまう。
辺りをきょろきょろと見回して、「ほわ~」と言っていると、隣のイライアスがくすりと微笑んで、私の腰に手を回して促してくれた。慌てて前を向くと、ベッド近くの椅子に誰かが腰かけている。こちらに背を向けていて、その顔はよく分からない。でも、薄闇に浸された中でも、光り輝くような白肌と波打つ金髪。華奢な体に、たっぷりのレースが縫いつけられた白いガウン。その後ろ姿だけでも美女だと分かる。赤ん坊でも抱えているのか、しきりに椅子を揺らして、甘い声で「よしよし」と言ってあやしていた。よく見てみると、椅子も揺り椅子だった。
ふいに、後ろの扉がぎいと音を立てて開く。はっとして振り返ってみれば、冷たい笑みを湛えたアルフレッド様が立っていた。でも、違う。アルフレッド様じゃない、この人は。そっくりさんだ。だって、アルフレッド様は絶対に絶対に、あんな笑い方しないもの。呆然と、でも、息を殺して見守っていると、弾むような足取りで室内へと入ってきた。彼女は驚きもせずに、赤ん坊を甘い声であやし続けている。そんな彼女の傍に寄り添って、細い肩にそっと手を置いた。
「さぁ、殺してきたよ。リリアナ? 君の望み通りにね?」
「……あら、まだ殺してなんかいないでしょう? だって、そんなニュースは届いていないもの」
「そりゃそうさ……翌朝、発表されるだろうよ! この国の王太子が毒を盛られて死んだって、そうね?」
「ありがとう、そっくりさん。心から感謝するわ、貴方に」
それはびっくりするほど、甘くて優しい声だった。でも、背筋がぞっとしてしまう。それまで、彼女の腕の中ですやすやと眠っていた赤ん坊が、おもむろに目を覚まし「んぶぅ、ふえ、ぶえええっ」と泣き出した。彼女が苛立った様子で赤子を抱え直し、「ああ、よしよし。もう」と呟く。
「でも、これで本当に良かったのかい? 君にとっては、甥っ子に当たる子供だろうに……」
「いいのよ。だって、あの子が国母になるだなんて……考えただけでぞっとするわ。あの子が? 本当に? 国母に?」
(え……)
一瞬、何を言っているのかよく理解出来なかった。亡き王太子様の叔母に当たる女性。そして国母。あのまま王太子様が生きて、王位を継げば誰が国母となる? くちびるが震えた。もっともっと、違う誰かが黒幕だって、そう思い込んでいたのに。
「あれは……そんなまさか!」
「そう。幸運にも、そっくりさんを捕まえて気に入られ、今回の件を仕組んだのは王妃の姉……ああ、今は侯爵夫人だったかな? 結婚して姓も変わっている」
「うそ、だって、甥っ子、甥っ子なのに? 一体、どうしてですか……?」
「ん~、語られるかなぁ? さて、どうだろう。見てみないとよく分からないな」
震える私の肩を抱き寄せ、こてんと首を傾げる。距離は近かったけど、気にする余裕はなかった。目の前の女性────リリアナがふうと、安堵にも似た溜め息を長く吐く。
「一体、どうしてかしらねえ……あの時、陛下に選ばれていたら少しは違ったのかしら?」
「そんなにあの男が好きなのかい? ねぇ、リリアナ?」
「いいえ。でも、あの子さえいなければ、今頃は私が王宮で王妃として振舞っていたのかもしれない。こんな、こんな屈辱さえ受けずに……」
(屈辱? 何の話……?)
彼女に割り当てられているであろう、寝室は豪華で私の寝室とは比べ物にならない。それに夜会で何度かお見かけしたことがあるけど、夫婦仲も良さそうだった。でも、確か噂によると、彼女は流産していて……。
「ああ、いずれこの家もこの子に乗っ取られるんでしょうねぇ。腹立たしいわ、本当に」
「なら、育てなきゃいいじゃないか。愛人の子なんて……その赤ん坊も殺してあげようか? そっくりさんが」
「だめよ。子供に罪は無いし……それにあの女、自分の手で育てたかったんですって。いい気味だわ、本当に」
彼女の子供かと思ったら違った。低い、でも、甘い笑い声を静かにもらして、「おお、よしよし……」と言って赤ん坊をあやし続ける。もう赤ん坊は、すうすうと健やかな寝息を立てて眠りに就いていた。
「私が子供を産めさえすれば……あの子じゃなくて、私が選ばれていたら? もうちょっと違ったはずなのに。もうちょっと、何かが楽になっていたはずなのに」
「それで? 王太子様を殺して、君は幸せになれたのかな?」
「いいえ、ちっとも。……そっくりさんには分からないでしょう? いいえ、男性には分からないでしょう? 私だけ、自分の赤ちゃんが産めないの、手に入らないの。自分のせいなの。でも、あの子は手に入れた……あの子に似ず、可愛くて綺麗な赤ちゃんだった」
ずっとずっと、心のどこかで自分よりも、容姿が劣っている妹を見下していたのかもしれない。彼女が虚ろな、甘い声で子守歌をひたすらに歌っている。それがふつりと途切れ、次の言葉が紡がれる。
「……あの時、陛下が私を選んでいたら? なら、きっと、この侯爵家に嫁ぐこともなかった。嫌な思いをすることもなかったでしょうに」
「だから、妹が憎いって? なら殺せば良かったのに。妹の方をさ?」
「いいえ。だって、あの子のことは可愛いがっているもの、私。殺したいわけじゃないの。そんな酷いこと、したくないわ……ただね?」
「うん。どうしたの? そっくりさんに、全てを吐き出してごらん?」
ああ、嫌だ。吐き気が込み上がってきた。アルフレッド様とよく似た彼が、リリアナにそっと寄り添って、華奢な肩に手を回している。お願い、やめて! その姿でそんなことをしないで。そんな、怖くておかしい女性にそんなことをしないで……。アルフレッド様、アルフレッド様。
「あの子が陛下に選ばれて、王宮で何不自由ない、優雅な暮らしをしていて……あの陛下もすっかり、あの子に夢中になっていて」
「うん。それでそれで?」
「私、どうしたらいいのかよく分からなくなっちゃったの。そりゃあね? あの子も、子供がなかなか出来なかったけど……でも、結果的には出来たじゃない。可愛い男の子が産まれた、可愛い男の子が。私も、私も欲しかったのに。あの子みたいに可愛い男の子が」
し、姉妹揃って病んでらしたみたい……。怯えて震えていると、イライアスが低く笑って「怖いかなぁ? これが?」と言いながら体を揺らし始めた。部屋は薄暗く、赤ん坊は何も知らずに眠り続けている。
「あの人、あの人も私のことを好きになってくれなかったし……派手な女性は嫌いなんですって。持参金目当てだったんでしょうねぇ、公爵家の。あの子はいつもいつも、どことなく私のことを羨ましがってたけど、でも、今では違うの。きっと、私を見て、ほくそ笑んでいるだろうから……」
「どうだろう? 考えすぎじゃないかな?」
「ふふふふ、違うと思うわ。そっくりさん。分かるのよ、姉妹だから。どこの誰よりもね……」
そっくりさんが微笑んで、彼女のこめかみにキスをした。彼女が目元の涙を拭い、それから、膝の上の赤ん坊に目を落とす。
「でも、ほっとしたわ……あの子、私を頼ってくれるかもしれない」
「頼って欲しいのかい? 一体どうして?」
「ん~……よく分からないけど、昔に戻ったような気がするから? あの頃が一番良かったのにねぇ。まぁ、マーガレットは今が一番幸福なんでしょうけど。私とは違ってね」
ぐらりとまた、視界が傾いていった。こんなこと、一体どうやって王妃様に説明したらいいんだろう? まさかそんな、実の姉が自分の子供を手にかけただなんて。「おっと!」と言って、咄嗟にイライアスが私の体を支えてくれた。
「君には刺激が強かったかな? 成長した可愛いふわふわちゃん?」
「かも、かもしれません……一体どうしてでしょう? よく、よく分からなくて。私。私だったら、ヴィーやその子供にそんなこと、絶対しないのに……」
たとえ、アルフレッド様が義妹を選んだってこんなことはしない。自然と涙が溢れ出てくる。貴女に姉としての愛情はないんですか? リリアナ様。王妃様のことを思うと、次から次へと、熱い涙が溢れ出てきて止まらなかった。イライアスの腕にしがみついて、はっと息を吐き出す。
「もう、もういいです。帰りましょう? イライアス……」
「ああ、でも、待って? 会いに行こうか、君のお母さんにね」
「えっ? わ、わわっ……!?」




