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王弟殿下はウサギ令嬢の私をご所望です  作者: 桐城シロウ
第一章 本当はか弱い王子様とウサギ令嬢の私
13/83

12.お茶目な王女様と貴方の好きなところを沢山

 



「あ~、どうしよう? 失敗してしまった、死にたい」

「あら、陛下の意向を無視してまで婚約したというのに? もう振られてしまいそうなの? アルフレッドお兄様」



 何故か私の部屋の肘掛け椅子に座って、お茶を楽しんでいる、一番下の妹が愉快そうに微笑んだ。銀を溶かして紡いだかのような銀髪は波打ち、青い瞳は常にきらりと光り輝いている。今日は掠れた灰色のエンパイアドレスを着て、上から白いガウンを羽織っていた。それに、膝の上には真っ白な猫を抱えている。忙しいので切実に帰って欲しい。だらしなく、カウチソファーで寝そべりつつ落ち込んでいると、膝の上に乗せた猫を優しく撫でながら、愉快そうに笑う。



「ねぇ? 私もお会いしたいわ、未来のお義姉様に」

「振られるかもしれない……死ぬかもしれない、私が」

「そこは頑張って頂かないと。ふふ、陛下ったらもう、最近は不機嫌で不機嫌でもう……」



 陛下。一番上の兄で家族。……なのだろう、たぶん。面と向かって話すことがあまり無いので、よく分からない。仰向けで寝そべりながらも、額に手を当てて考え込む。



(昔は……もうちょっと、何かを話していたような気がするんだが)



 いつだって薄っすらと、涼しげな笑みを浮かべている人だった。芸術に造詣(ぞうけい)が深く、何をやらせても嫌味なくさらりとこなす。それでいて社交的で、狩りの腕もよし。乗馬も得意で、時にはヴァイオリンでさえも演奏なさる。その浮かべる微笑みは涼しげと賞賛され、いつだって女性に囲まれていた。このエオストール王国の現国王であり、どこか冷淡にも見える美貌と見事な政治手腕から、“歴代でもっとも完璧な国王”と称えられ、同時に敬遠されている人でもある。



「あの人は……陛下は前例が無いから反対だそうだ。どう思う? オーレリア」

「いつだってそうではなくて? あの人は」

「うーん……私がおかしいのか? その、妃が獣人というのは」

「一体どうして? もふもふのウサギちゃんで可愛らしいじゃない? ねぇ、オデットちゃん?」

「うにゅうん」



 妹がべたべたに甘やかしているからか、成猫となった今でも子猫のような声を出して鳴く。呆れて体勢を変え、肘を突いて眺めていると、くすりと微笑んだ。



「お会いしたいわ、私。そして、会ってもふもふするの。毛皮コンテストで優勝した、素晴らしい毛並みをお持ちだとか」

「……相変わらず耳が早いな。一体どこから仕入れているんだ?」

「それはもう、あちこちから。それに、公務しかしていないお兄様は知らないんでしょうけど噂の的よ? どこに行ってもそればかり! 近頃はね?」



 最近、好奇の目でじろじろと見られるのが嫌で、舞踏会やお茶会は腹痛で欠席している。目を逸らしていると、また深く笑った。



「大丈夫よ、陛下はなんだかんだ言ってお兄様に甘いもの」

「ええ~? そうかぁ? 大体、顔を合わせてもろくに喋りやしないのに?」

「執務室以外でお話しすることを推奨するわ。婚約のこと、これからのことをね?」

「怖いから嫌だ……」

「ああ、もう、情けない。本当にだめな王子様ね? お兄様って」

「知るもんか……お説教をするつもりなら出て行ってくれ。私は忙しいんだ、今」

「落ち込むので?」

「……」



 何も言えずに黙り込むと、深く溜め息を吐いた。どうせ私の目を盗んで、会いに行くつもりなんだろうな。彼女に。ごろりと寝返りを打って、その姿を視界から追い出す。



「彼女に……彼女に会ったら愛していると、そう伝えてくれ。きちんと中身をって、そう……」

「それぐらい、自分で伝えたらいかが?」

「伝えたとも。伝えたんだが……その、いまいち理解して貰えなかったようで」

「なら、理解して貰えるまで言葉を重ねるべきだわ、お兄様。その一手間を惜しむ男は嫌われますよ」

「分かってる……あああああああっ!! もう憂鬱だ、最悪だ。はーあ……」



 自分の飼い猫を抱き上げ、オーレリアが立ち上がる。ゆったりとガウンの裾を揺らして歩き、扉に白い手をかけた。我が妹ながら、考えていることがよく分からない。やはり腹違いだからか。



「では、おやすみなさい。お兄様が振られないよう、明日の礼拝で祈ってあげるわ」

「どうもありがとう……神様になんとかするよう、そう言ってくれ。嫌われたくないんだ、絶対に」

「ふふ、神様の力でもどうにもならなかったりして? ごきげんよう」



 最後に余計な一言を言ってから、ぱたんと扉を閉める。最悪だ。今日はきっと嫌な夢しか見ない。



(ああ、さようなら。安眠……)












「えーっと、ロッティ? 今は……」

「アルフレッド様。どうかしましたか? お茶の時間じゃないですけど、まだ」



 笑顔で硬直したまま、突っ立っていた。シュトラ語を教えるために来てくださった、老齢のケビン・マクレガー先生が品良く笑って、「ごきげんよう、殿下」と言っている。このご老人は白髪混じりの茶髪とアーモンド色の瞳を持っていて、ヘリンボーン柄のスリーピースを着ていた。立ち尽くしているアルフレッドを見て、深いグリーンの花柄ドレスを着た、シャーロットがこてんと首を傾げる。



「あの? 私、まだ書き取りが残っていて」

「ああ、悪いね……邪魔をして。それじゃ」



 ぱたんと、力なく扉が閉まる。一体どうしたんだろう? でも、見当はついている。複雑な気持ちで革のノートに向き直ると、先生が低く笑った。急遽、私の勉強部屋として解放されたこの部屋は広く、机と椅子が並べられ、横の大きな窓からは陽射しが射し込んでいた。そこからは王宮の緑豊かな中庭が見える。春らしい、甘い匂いを含んだ風が首筋を撫でていった。



「あれかな? もしかして、シャーロット嬢は殿下と上手くいっていないのかな?」

「ううーん? いえね、先生。私、ちょっとだけ殿下の愛を疑っていまして」

「あの様子を見るに、そんな心配はいらなさそうだが……ああ、ここ。間違えてる。やり直し」

「ひーん……難しい! 喋れるようになったらいいんですけど」

「少しぐらい、読み書き出来るようにならないと。それにどうしても言葉が通じない場合、紙に書いて伝えることだって出来る。頑張りたまえ、未来のお妃様」

「ふぁい、頑張ります……」



 本を片手に「お利口、お利口」と言って低く笑う。いい意味でも悪い意味でも、私を特別扱いしない先生だった。でも、落ち着くし楽しい。真剣にノートに向かって問題をこなしていると、ふいに扉が開いた。また殿下がいらしたのかな? と、そう思って顔を上げる。それなのに、そこに立っていたのは私とそう年が変わらない女の子だった。涼しげに整った顔立ちには、綺麗な微笑が浮かんでいる。自然と眩い銀髪に目がいった。侍女と同じドレスをきて、きっちりと銀髪をまとめている。



「ごきげんよう。少しお喋りがしたいのですけれど。いいかしら? ケビン先生」

「これはこれは……おう、」

「あっ、待って待って。それ以上は言わないで? だってその方が面白いもの。ねっ?」

「いやはや。これは兄上も手を焼かれるはずだ……」



 不思議に思って首を傾げ、その女の子を見つめる。あれ? どこかで見たことがあるような気がするんだけど。気のせいだったかな。ふいに「にゃあ」と、彼女の足に擦り寄って、真っ白な毛並みの猫が鳴く。



「入ってもいいかしら? シャーロット様」

「ど、どうぞ……」

「私はね、アイリーンっていうの。王女様付きの侍女をしている……ああ、ほら、この子が王女様の飼い猫なの。名前はオデットちゃん」

「ああ……」



 聞いたことがある。末の王女様は猫がたいそうお好きだって。でも、社交界デビューもまだで、城のバルコニーで手を振っているお姿しか見たことがない。首を傾げていると、「あれかな? 君は王女様に言われてやって来たのかな?」と先生が尋ねた。その問いかけに微笑みを深め、足元の猫をひょいっと抱き上げる。



「ええ、そうなの。だって、王女様からしたらお義姉様になるわけじゃない? シャーロット様は」

「お、お義姉様……」

「そうでしょう? ああ、先生。授業はあとどれくらいで終わるんですか?」

「もうそろそろ休憩に入ろうと思っていたところだよ、アイリーン嬢。どれ、厨房で何か貰ってこようか」

「お願いします。お茶とクッキーが欲しいわ、私」



 品良く微笑みながら頼み、優雅に歩いて、私の目の前までやって来た。そして青い瞳を丸くさせ、しげしげとノートを見下ろす。



「すごいわね、上達していて」

「えっ? あの……」

「ああ、ごめんなさい。始めたばかりだとは思えませんね、シャーロット様。ここに座っても?」

「ど、どうぞ……?」



 年下に見えるんだけど、随分と大人びている。私と同じ十八歳かもしれないし、はたまた、大人びた十五歳かもしれない。よく分からない。目を白黒させていると、ついさっきまで先生が座っていた椅子を引いて腰かけ、猫を膝の上におろした。



「それで、どうなんですか? 殿下とは近頃、上手くいっていないようだとか」

「うわさ、噂話が広まるの、早いですね……!?」

「だってここ最近、注目の的ですよ。シャーロット様と殿下は!」



 白い毛に青い瞳を持つ猫が「にゃあ」と鳴いて、机の上に飛び乗った。アイリーンが笑って、その膨らんだ白い背中を撫でてやる。



「……殿下は女嫌いですもの。やはり、上手くいく方がおかし、」

「い、いいえ! あの、私が意地を張っているだけなんです!」

「意地を? まぁ、一体どんな?」

「ん、んん、その、殿下は私の毛皮が好きなので……それで選ばれたのかなぁと」



 まさか豊満な胸元を気に入られて、だったのかもしれないとは言えない。あれからなんだかちょっと、上手く笑えなくてぎくしゃくしている。羽根ペンを置いて、机のふちに手を添え、ぐーんと体を伸ばして息を吐いた。



「……もちろん、殿下は否定してくださいますが。ただ、私が勝手に落ち込んでいるだけで、別に不仲ではないと、」

「それを聞いて安心しましたわ、シャーロット様。王女様はあなたをいたくお気に召しているもの」

「ええっ? 会ったこともないのにですか……?」

「その耳。王女様は大の動物好きなのです。ね~?」

「うにゃあん」



 いつの間にか、机に飛び乗っていた猫を抱えている。でも、ちょっとだけ猫は怖い。垂れ耳を少しだけ震わせていると、ふとこちらを向いた。綺麗な青い瞳だった。殿下のそれよりも透明度が高く、初夏に生み出された宝石のようで。


「シャーロット様は? ……体が目当てだとしても殿下のこと、お好きなんですか?」

「それはもちろん……ただ、好きだからこそ悲しくなってしまうんです。上手く笑えない」


 好きだからこそ、出来れば中身を好きになって欲しかった。


「一緒にいて楽しいだとか……私と同じ理由で好きになってくれたのかな? って。今まで無意識にそう思い込んでいて、いざ違うって分かったら、ああ、まぁ……殿下は否定してくださっているんですけど」



 ああ、なんて我がままなんだろう。殿下は違うって、そう言ってくれてるのに。アイリーンが青い瞳を細め、にんまりと笑う。



「可愛らしいですね、シャーロット様。そんなことで落ち込んでしまうんですか?」

「うっ……分かってます、私がただ、駄々をこねてるだけだってこと」

「ふふふ、素敵ですねぇ。ほっとしました」

「にゅう」



 大きな猫を抱えて、すりりと頬擦りをする。甘えん坊なのか、うっとりと青い瞳を細めていた。ちょ、ちょっとぐらい、触っても大丈夫かな……?



「あの、私、実は猫を触ったことがなくて」

「まぁ、そうなの? お友達も飼っていなかった?」

「飼ってはいたんですけど、猫ちゃんがみんな、臆病で……ええっと、私はもふもふしたかったんですけど。なにせ触ったことがありませんから、引っ掻くのとか」

「この子は引っ掻かないの。お腹に顔を埋めてもね? 肉球でぷにぷに蹴ってくるだけなの。可愛いでしょう?」

「たっ、確かに可愛い……!!」



 期待を込めてオデットを見てみると、「うにゅう?」と鳴いて青い瞳をまん丸にした。可愛い。アイリーンが「ほら、いいこいいこして貰いなさいな」と言って微笑み、「うにゅっ」と鳴くオデットを机の上に乗せる。それからオデットはしげしげと私の顔を見つめたあと、「こうすればいいのかな?」とでも言いたげに、ころりんと、真っ白でふわふわなお腹を向けてくれた。



「可愛い~!」

「にゅうん」

「ふふ、でしょう? ねぇ、シャーロット様」

「はい? わ~、ふわふわだ~……」

「にゅう」



 私には敵わないけど! 指を広げ、ふわふわと柔らかな手触りの毛皮を楽しんでいたら、アイリーンがこちらを向いてにっこりと笑う。



「ウサギの姿に変身してくださらない? なんでもシャーロット様はコンテストで優勝した、素晴らしい毛並みをお持ちで、」

「そっ、そうなんです! あ、あの、毛皮自慢をしてしまって申し訳ありません……私をもふもふ、します?」

「します」



 ううん、なんて罪深いのかしら。私の毛皮って。アイリーンが真顔で、それまでお腹を向けていた猫を引き寄せ、抱き上げて床に下ろす。



(一介の侍女でさえも虜にするっ……ごめんなさい、殿下。あんまり他の人にはもふられてうっとりしないようにって、貴方はそう仰っていたのに)



 そこで先日のお胸発言を思い出す。まぁ、いっか。お腹にぐっと力をいれて、ぽんっとウサギの姿に変身すると、青い瞳を輝かせ、「まぁ!」と叫んだ。



「素晴らしいわ……!! この真っ赤なドレス! 紐の隙間から魅惑のむっちり毛皮が溢れ出てっ……ああ、吸い付くような手触り! なんて素晴らしいの!?」

「で、でしょう!? でも、アイリーンさんは殿下と同じ考えで、」

「堪らない~! このっ、しっとりと吸い付くような毛皮っ……滑らかで極上という言葉に相応しい! 寝具にしたいっ」

「寝具にしたい……」



 でも、殿下も私を抱えてお昼寝した時、「君と同じ手触りのシーツと枕カバーが欲しい」と仰っていた。なんだか言ってることが似てる。



「ねぇ、アイリーンさん? あなたはもしかして……」

「ロッティ? 入ってもいいかい?」

「お茶を持ってきましたよ、王女様。侍女たちがそろそろ戻ってくるよう、そう言っていたので潮時かと」

「先生、それにアルフレッド様」



 扉を開けてぴたりと、殿下が硬直する。アイリーンが私を仰向けにして、お腹に顔を埋めていたから。慌てて前足でぽふぽふと、その銀髪頭を叩いてみたが、くぐもった声で「ぐふっ」としか言わない。どうしよう……。



「ロッティ……その毛皮狂いはね? 私の妹なんだ……」

「ふぉっ!? や、やっぱり!? どうりで指の動かし方が似ていて、」

「あら、そこで気が付いたの? 黙っていてごめんなさい、シャーロットお義姉様」

「いえ、あの、王女殿下? まだ結婚したわけではないので、どうぞシャーロットとお呼びくださいませ……」

「ふふふふ、なら私の愛しいウサギちゃんとでも呼ぼうかしら? ねぇ、お兄様? どう思って?」

「今すぐ帰って欲しい……お前はこれから公務があるんだろう?」

「そうね、行ってくるわ。あーあ、つまらない。ここでもふもふしてた~い」

「私だってそうだよ、常にそう思っているのに……お前ときたらまったく」



 殿下がじっとりとした視線を注ぐと、お茶目な王女様はにっこりと微笑んで、私のお腹に指先を埋めた。うん、お腹のもふもふ技術は殿下の方が上だった! そんなことも言えずに、とりあえずお腹向け姿勢を保っておく。



「心が狭い男は嫌われますよ、お兄様。実の妹にまで嫉妬するだなんて!」

「……」

「はは、オーレリア様は相変わらず、お兄様に手厳しいですなぁ」



 そんな二人に謎めいた微笑を向けたあと、ご満悦な顔をして私に向き直る。白い指がもふりと、私の毛皮に埋もれていった。



「ねぇ? ごめんなさい、お義姉様。今まで騙していて」

「い、いいえ、そんな……」

「また私と一緒にお茶でもしましょう? イーディルハンスに嫁いでいったお姉様がね、来週辺りに帰ってくるの。陛下がごちゃごちゃ言っていてうるさいみたいだがら、王族の味方を増やしておきましょうよ。ねっ? 私の可愛いもふもふちゃん?」

「距離が近いんじゃないか? オーレリア……」

「まったくもう、心が狭いのね? では、ごきげんよう。未来のお義姉様。いらっしゃい、オデット。帰るわよ」

「にゃあん」

「あっ、あの……」



 椅子から優雅に立ち上がると、私にうっとりするような甘い微笑みを向け、するりと離れていった。慌てて起き上がっていると、殿下が駆け寄ってきて、私をひょいっと抱き上げる。



「大丈夫か? ロッティ。ああ、美しい毛並みがこんなにも乱れて……」

「で、殿下。あの、ご挨拶を」

「大丈夫よ、お義姉様。ほら、行きましょう? 先生。邪魔しちゃ悪いわ」

「やれやれ、せっかくお茶を持ってきたのにな……シャーロット嬢、私は別室でゆっくり休んでいるよ。君も三十分ほど、休息をとった方がいい。じゃ」

「あ、ありがとうございます……」



 気を使わせてしまったみたい。ぱたんと重厚な扉が閉まって、部屋に沈黙が訪れる。おそるおそる見てみると、どこか浮かない表情で私を抱っこしていた。



「あの、殿下……?」

「……やっぱりあれかな? 私があんなことを言ってしまったから?」



 もふんと、私の頭に顔を埋める。あ、熱くてもぞもぞしてしまう。前足をもぞもぞと動かしつつ、「アルフレッド様」と言い直してみた。まだちょっと慣れない。でも、嬉しそうに微笑みを深めた。



「ごめん。こうやってウサギ姿の君を、抱きかかえていてはその、説得力が無いかもしれないが……」

「あっ、戻りましょうか? 人の姿に」

「それは嬉しいな、色んなことが出来る。先日は邪魔が入ってしまったからね……」

「ひえっ、あの、私、やっぱりウサギちゃん姿のままでいます……」

「……」



 無言できゅっと、神経質に私のことを抱き締める。わか、分かりやすい!



「あ、あの、アルフレッド様? 嫌ではなく、ええっと」

「いつになったら慣れる? ……私と一緒に練習しようか」

「ふぉ、ふぉ!? あの、ええっと、わた、私にお胸が無くても好きになってくれましたか!?」



 聞くなら今しかない。ウサギの姿のままでだと、勇気を出して色んなことが聞ける。それまで神経質に、私のことを抱き締めていた殿下がふっとおかしそうに笑った。



「もちろん。君に胸があっても無くても、好きになっていたと思うよ。いつもいつも、私のことを一番に考えてくれるし。それに」

「それに……?」

「何でもないことを話している時に、目をきらきらと輝かせている君が好きなんだよ。ロッティ。……君と一緒にいると悩みが吹き飛ぶ。このままずっと、こうしていたいっていつもそう思うんだ」

「アルフレッド様……」



 私がカマキリと戦った時のこと、鼻先にダンデライオンの綿毛が付いたままお散歩をして、屋敷に帰った時のこと。殿下はどんな些細な話でも、優しい微笑みを浮かべて聞いてくださる。しみじみと、嬉しそうな顔をしてくださる。もにもにと、前足を動かして、腕の中に収まり直した。



「あ、あの、最近、ぎこちなくてごめんなさい……でも、今のを聞いてほっとしました。わた、私は、その、わざわざ甘い人参を取り寄せてくださるところが好きです!」

「私の取り柄はそれだけなのか……?」



 一気に声が暗くなってしまった。ほ、他にもいっぱいありますよ!?



「え、ええっと! あと、ブラッシングが上手なところもですね! 草の実を取る時も、ちゃんと毛の根元を押さえて取ってくださいますし! でも、一番上の兄なんかはいつもいつも、ぶちっと引き千切るから痛くて痛くてもう」

「あと他には?」

「ほか、他はええっと……? もふもふがお上手。ボールを優しく投げてくださるところと、丁寧に抱っこをしてくれるところ。寝返りを一度も打たないところ。眠ってる時、びくっとしないで済みます」

「……」

「あ、アルフレッド様……!? まだまだいっぱいありますよ!? 耳の後ろの痒いところをちゃんと掻いてくださいますし、私と目線を合わせるために、そっとしゃがんみ込んでくれたりとか、」

「あっ、うん。もういい、ありがとう」

「アルフレッド様……!? あの、ええっと……!!」




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