うつろいゆくもの(三十と一夜の短篇第79回)
モミジ、イチョウにモミジバフウ。
すこし緑が残っているけれど、ハナミズキの葉とニシキギの鮮やかな赤も添えて。
暖かいお日さまのあたる切り株のうえ、カンナは集めた木の葉を並べて大忙し。
赤に黄色にちょっぴり緑。
色とりどりの葉を繋げるのは松葉の針と乾いたツルの糸。
「どのツルが良いかなあ」
並んだツルを前にカンナはうーんと腕を組む。
ノブドウ、アイビーそれからアサガオと太さも色も違うツルのなかからカンナは、ほっそりした枯れ色のツルを手に取った。
からりと乾いた、けれど丈夫なツルはオレンジの実をつけていたカラスウリのもの。
カンナは選んだツルを束ねて、曲げ伸ばし。
しなやかで肌触りのいいツルになったら松葉を使って木の葉を縫っていく。
「おや、冬支度かい?」
通りかかったジョウビタキが声をかけた。
「ううん、シモちゃんにあげるポンチョを作ってるの」
「そうかい、きれいな秋の色だ」
小枝にとまったジョウビタキはうんうんうん、と頭を上下。
しばらくカンナの手仕事を眺めていたが「いけない、秋が終わってしまう」と飛び立った。
さくさくさく。
重ねられた木の葉同士がこすれる音。
カンカンカン。
どこかでジョウビタキが鳴いている。
ふと吹いた風の思わぬ冷たさにカンナは顔をあげた。
「わ、もう日が落ちはじめてる!」
空は夕焼け。寒々とした夜がじわりじわりと広がるのを感じながら慌てて松葉を動かす。
「いそげ、いそげ!」
「何をそんなに急いでいるの」
「ポンチョを縫ってるの! 大切なひとにあげたくって」
答えてから顔をあげたカンナは、ぱあっと頬を赤く染める。
「シモちゃん! どうして? まだ夜のさかい目まで時間があるのに」
いつもほんのひと晩しか会えない相手が日暮れ前に目の前にいることにカンナはびっくりにこにこ。
「こんばんは、カンナ。昨年は君を長く待たせてしまったようだから」
「それで早く来てくれたの? うれしい!」
飛びつくカンナをしっかりと受け止めて、シモツキはその場に腰を下ろした。
「早すぎるのは褒められたものじゃないけれど、暗くなってしまえばわかりやしないと思ってね」
「じゃあそのぶん、今夜はあたしが長く居る! 明日の朝日が顔を出すまで、いっしょにいましょ」
ふたりは切り株に並んで腰かける。
何をするでもなく眺めた夜空には、いつ散らしたのか数え切れないほどの星がまたたく。
冷えた空気はキンと澄んで、ずっと遠くの星まで見えた。
「わあー、きれいだねえ」
カンナの感嘆といっしょにこぼれた吐息が白くたちのぼる。
「くしゅんっ」
くしゃみをひとつ。震えたカンナの肩を抱いて、シモツキは眉を下げる。
「寒いから、もう行って。朝までなんてカンナの体に良くないよ」
気づけば星はぐるりと位置を変え、時刻は今日と明日のちょうど真ん中。
役目を終えたカンナは眠る時間。
けれども「やだ」とひと言、立ち上がる。
「そんなときのために、これ!」
ばさりと広げたのは葉っぱのポンチョ。
シモツキの背中にポンチョをかけたカンナは、シモツキの脚の間にちょこんと座りポンチョを自分の胸の前で閉じる。
暗闇のなか、木の葉の音がかさかさと鳴る。
「これ、カンナが?」
「そう。シモツキにあげたくて作ったの。ふたりで使うことになっちゃったけど」
もじもじと手遊びするカンナの手のなかには、ポンチョの端につけられたプラタナスの実。
きっとカンナの耳は赤いのだろう、とシモツキは暗がりのなかに色を見る。
「そばにはいられないけど、代わりにあなたをあっためてくれるようお願いしたからね」
「ありがとう。君が作ってくれたんだ、どんな枯葉よりも温かい」
「うれしい。またね、また来年……」
応えるカンナの声は、にじみはじめた朝日に溶けた。
夜があける。
シモツキはひとり立ち上がり、羽織ったポンチョの色鮮やかさに気がついてくすりと笑う。
「今年はずいぶんとにぎやかな月になりそうだ」
白い息をこぼし、踏み出した足元でしゃりりと霜が音を立てる。
季節は秋と冬の間。
神奈月が終わりを告げ、霜月がはじまる。
たまには季節を感じたいので。