8. 力の判定はポケベルで
通された部屋は、城内のお客さまをお迎えだか、泊まってもらうだかする貴賓室――ホテルの部屋? のような場所だった。
お高そうな花瓶? だの、絵画だのの調度品が飾られていて、壊したらいくらくらいになるんだろう? お給料どれくらい吹っ飛ぶかな……なんていう、しょうもない考えが浮かんで消える。
奥にもう一部屋あるのか、白い扉があり、左壁側にも扉が二つ。
部屋の中央には応接セットのような、赤いベルベット張りのお高そうなソファと木製のローテーブルがあった。
「奥にベッドがある。左側の扉の向こうは風呂だ」
「えっ?!」
「その隣には厠(トイレ)もある」
「えっ?!?!」
……牢屋みたいなところに入れられたから、てっきりもう罪人だと思ってたけど……この待遇、もしかしてただの勘違い?
「塔を壊した責はお前にある、と皆考えているからな」
期待したのがわかられてしまったのか、ジガルド様から釘を刺された。
「ではやはり、牢屋に入っておりませんと」
お風呂に入れそうな雰囲気に期待してた分、しょんぼりしながら口にした。
頭はわかりやすく垂れてしまった。
「あ〜、その、だな。責はあるが罪となるかはまだ決まっていない」
その一声で、私はガバリと頭を上げるとジガルド様の方を見る。
今、なんて言いました?!
「私ではないと、わかってもらえそうなんですの?!」
「いや、爆発元を調べたが火薬などの形跡がなかった。ゆえに特殊な力であろうとの結論は出ている。そして可能性があるのはこの国、その場にいたものの中でお前だけだ」
「そう、ですの……」
まぁ座れ、と言われたので大人しく応接セットに腰を下ろす。
対面に、ジガルド様も座り、何から話せば良いかと思案する風に指を唇に当てた。
「まず、怪我人はいなかった」
あの塔は使われていたのか、と単純に思った後。
怪我人がいなかったとわかって、ほっとした。
ほんとはきっと、真っ先に人の命を気にしなきゃいけなかった。
私は薄情なんだろう。
けど城の中の人に思い入れはない、のは正直な気持ちだった。
「怪我がなくて何よりでした」
自分の情のなさに、なんだか情けなくなって、笑みがきっと歪んでる。
ジガルド様はそんな私を見て、無意識なんだろう、口元にやった指を一瞬だけ噛んだ。
「備品破損はまぁまぁあった。これは給金から天引きだ」
「勿論ですわ。けれど、私がやったという証拠はございますの?」
「それをこれから判別するために、力の測定をしてもらう」
「力の、測定?」
試験でもあるんだろうか?
けど、あの牢から出たいと願っても叶わなかったように。
リア重爆発しろ、と今なんとなく思っても、何もならない。
これで測定とやらが、できるんだろうか?
疑問が顔に出ていたのか、不思議がる私にジガルド様が告げた。
「言うより実行した方がわかり良いだろう。測定器の場所へ案内する」
立ち上がるとスタスタと足を進め、部屋から出る。
私も慌てて立ち上がると、その後に続いた。
ふかふかの絨毯のひかれた廊下。
天井にはシャンデリアが下がり、右側には部屋の扉、今ので何個目だっただろう? とにかく沢山。
左側は中庭かな? があるようで、大きな窓越しに花園が見えた。
どれくらい歩いたか。
これまでに見た扉とは毛色の違う、ちょっと古ぼけた取手と、木製で植物を模した彫刻の施された扉の前で、ジガルド様が歩を止めた。
そうして鍵を取り出すと解錠し、ゆっくりと開けた先。
私の目の前に、石造りの階段が姿を現した。
「これは……?」
「地下室だ。測定器は聖品となるゆえ、厳重に管理し普段は何人たりとも入れぬようになっている。ついてこい」
言うとジガルド様が階段を降りていく。
扉へと近づくと、ひんやりとした風が頬をゆっくりと撫ぜた。
階段は十段も過ぎれば左に、また十段ほど過ぎれば右に、と交互に折れるのを繰り返し、入ってきた扉の左下方向へと伸びているようだった。
そんなには歩かず、また扉の前についた。
上にあった扉と段違いでたくさんの彫刻がなされたそれは、一種異様なほどの圧を放っていた。
厳かすぎる…………怖い。
そう思ったと同時に扉は開かれた。
石積みの壁。
地下だからか窓はなく、壁に取り付けられた灯りが煌々と部屋を照らしている。
周りの三方を覆っているのは、天井からぶら下がる薄く向こう側の透ける布。
中央には私の胸くらいまである、人の持ち上げる姿の彫刻のある台座。
その台座に不思議な力で浮かんでいる、板のようなものが見えた。
「あれは?」
「あれが聖品。能力測定器だ」
言われ、吸い寄せられるように近くへと足が向かう。
なんだろう、知らないはずなのに、懐かしい空気……。
私の目の前には「14106」の文字が宿った薄い板が、光を纏って鎮座していた。
『え、ポケベル??!!』