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7. 牢の中の一夜

「どうなってますの?! ここから出してくださいまし!!」


 黒く冷たい格子を両手で握りしめ、ガクガクとしようとしてその頑丈さに絶望しながら叫んだ。




 私、今、鉄格子入っちゃってます!!!!

 なんで?!?!?!


 特殊能力も何にもないから、ほんと、無抵抗のままいつの間にか入れられてしまっていて。

 壁は無骨にノミだかで荒削りなだけの石! って感じのシンプルさだし。

 なんていうか部屋の隅にお便所が仕切りなしであって、そこはかとなく臭いし。


 ドウシテコウナッタ……。


 いや、わかってはいる、何となくだけど。

 あの爆発のせいだ。


 私がしたわけじゃない。

 けど、いきなり爆発したらしく、調べても火薬とかの跡がなかったらしい。

 そこで身元の怪しい私を、とりあえずしょっぴいたっぽかった。


 聖女帰還のことを知る間もなかった。

 噂だけ聞いて。


 取り残されたのは私一人ってことだ。

 あんまりだ。

 しかもイケメンと噂だった護衛とだとか。

 それ明らか何かの見せ場じゃん?!


 モブで部外者なのは重々承知! だけど、せめてそういう、スチルみたいな大ゴマみたいな、そういうのはさぁ、特典として見たかった……。


 部屋の隅に体操座りでうずくまり、膝小僧に顔を埋める。


 帰れるってことだ。

 方法が、わからないけど。

 希望はある。


 目下、どうしたら出してもらえるのかがわからないのは問題だったけど。


 帰らなきゃいけない。

 ここに私の役割はないんだもん。


 役割。

 しなくてはいけないこと。

 そのために、帰らなくちゃ。


 憂鬱な気持ちのまま、どうしたらこの状況を変えられるか必死になって考えた。

 けれど、結局夜が明けるまで何も思い浮かばなかった。




 ちゅん。

 ぴちちちち。


 ふっと視界が明るくなった。

 頭を上げる。

 相変わらずの体操座りをしていた。

 どうやら、このまま寝ていたらしい。


 おしり、痛い。


 立ちあがろうとして、失敗して、前側にゆっくりと身体を横たえ万歳のままうつ伏せになる。

 まるでカエルの死体だ。

 轢かれたヤツ。


 石造りの床がひんやりする。

 まずい、もよおしてきた。


 顔を横に向けて、トイレだろう場所を見る。

 今日もそこはかとなく臭っている。

 何なら何匹か、虫が舞っている。


 あそこでしなくちゃいけないとか、マジで?


 どうにかできるなら、外の便所の方がマシだ。

 だけど出られる保証もない。

 そもそも昨日寝落ちたばっかりに、今したい、どうしても。


 壁、と言っていいのか一面全部鉄格子の方を見る。

 見張りのような人はいない。

 ただ、息遣いは聞こえていて。

 多分少し離れたところにいるんだ。


 音……オトヒメ、プリーズ……。

 乙女に、オトヒメ。

 なんちゃって。


 寒い。


 もう我慢できない。


 結局恥とか何とかはもうかき捨て根性というか、背に腹はかえられなくて。

 私は嫌だ嫌だと思いつつも朝イチの儀式を部屋の隅のその便所で、済ませたのだった。


 おならも出したよこの際。




 それから少しすると、いい匂いが漂い始めて足音がした。

 見張りの人が格子の下から差し入れたトレイには、豆のシチューと硬いパン。

 私みたいな使用人に普通に出てくる食事だった。

 ご飯の待遇はそう悪くないらしい。

 そのことに、少しだけホッとした。


 食べられないのは、ひもじい。

 それくらいは、知っていた。


 食べ終わって手を合わせた。

 こればかりは習慣だからなかなか抜けなくて。

 こちらの人は両手を握って各々が祈るから、最初は随分と不思議がられたものだった。

 私の神様に祈る時はこうするんです、と説明したけれど、なんだかヘンテコな気分だった。

 何の宗教も信仰してなかったけど、感謝という信仰というか願いというか、祈りがそこにあったのかもしれないって気づいて驚いた。


 合わせた手を戻しながら。

 そんなことをつらつらと考えていると、また足音が近づいてきた。

 誰だろう。

 出してくれる人だといいな。


 現れたのは、見目麗しい銀髪クソ野郎だった。


「身元は保証されてたはずです、何でわたくしが拘束されてますの?!」


 思わず鉄格子へと駆け寄り叫んだ。


「うるさい騒ぐな」


 美丈夫はそれだけ言いながら自身の指を鼓膜方向へと突っ込み、耳の穴を塞ぐ。


「ちょ、わたくしの言葉を聞かないおつもり!?」

「その格好でその口調はやめてくれ」

「上流階級向きの家庭教師をつけたのは、そちらでしょう? わたくしが好んで喋っているわけではございませんわ!」


 そう、言葉遣いはどえらく丁寧なものを教えてもらったらしい。

 職場で培ったちょっと荒々しい言い回しも、少しならできるけど、言葉のほとんどをこちらで覚えたもんだからぎこちなさすぎる。

 結果、使用人風情が貴族ごっこをしてるみたいな珍妙な喋り方になっていて。

 初対面の人に逐一事情を説明するのが大変だった。


 格好は伸びっぱなしの髪が肩までついていて、質素なワンピースにエプロンという仕事着のまま。

 なんてのはいつもの格好なのだから、言われる筋合いがない。


「……聖女が、お帰りになったと聞きました。元の、世界へと……」

「……ちっ」

「今舌打ちしましたわね?! いたいけな、何も知らない女子に!!」

「いたいけ……いたいけな少女は、いきなり来た見も知らぬ土地に順応したりしない」


 言いながら、ジガルド様がじっと私の顔を見る。


「ぐっ……イイカエセナイ……図太いついでに便所の改修を要請しますわ」

「それには及ばない。昨日は急なことで、別室の用意が間に合わなかっただけだ。出ろ、場所を変える」


 話しながら鍵を差し込んでいたらしく、ギィ、という音と共に格子の扉が開いた。

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