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3.メンチの切り合い

 神官ぽい人は自己紹介を始めた。


「私はジガルド=ケルヒャーだ。ジガルド様と呼ぶといい」

「あ、はい。ご丁寧にどうも。私はた……花蓮(かれん)(たちばな)です」

「カレン、だな。どこか痛いところはないか?」


 ジガルド様は少し面倒臭そうに尋ねてきた。

 試しに足を掛布の中でぱたぱたさせてみたり頭を左右に振ってみたり、腕をぐるぐる回してみたけど、痛むとこは特にないようだ。


「大丈夫みたいデス」

「そうか。お前は突然倒れ床に(したた)か頭を打って気を失い、二日ほど眠っていたのだ」

「そうなんですね」


 彼は、私を爪先から頭のてっぺんまで、無遠慮にしげしげと眺めてくる。

 その視線には警戒と、どこか馬鹿にしたようなものが混じっていた。

 巻き込まれただけの人間に、失礼な人だ。

 しかも記憶が合ってるなら諸悪の根源はこのジガルド様のはず。

 そんなことを考えてる私にお構いなく、目の前の人物は説明を続ける。


「医者の話では、こちらの空気が悪さをしたのだろうと、慣れさえすればいずれ大丈夫とのことなのだが……」


 まさかのマジで洗礼だっとは。

 けれど――


「確かに今は平気です。むしろ何だか調子がいいので」


 そう、倒れる前よりも格段体がなんだか軽い。


「恐らくここの空気と相性が良いのだろう。稀有(けう)なことだが」


 ふーん、空気にもマッチングとやらが、こっちの世界ではあるのかな?

 よくわかんないや。

 けど体が軽いのはありがたいかも、私はいつも疲れがちだったし。


「えーと、私多分おまけでうっかりこちらにきたみたいなんですけど、今からすぐ帰ることって可能ですか?」


 何はともあれ、間違いで転移してきたので帰りたい。

 私は目の前の神官だというジガルド様に、スパッと尋ねた。

 じっと顔を見ると、ハッとした後非常に気まずそうな表情をするもんだから、わかってしまう。

 私、帰れないんだ……。


 途端、心細くなった。

 このジガルド様って人が言うことには、私は今この人としか会話ができない。

 こっちの世界がどういうものかもわからない。


 聖女とやらだったらしい先輩と、会えるかさえわからないのだ。


 どうなるのかな、面倒は見てもらえるんだろうか……。

 いや、保障なんてなにもないのだ。


 私は意を決してジガルド様に詰め寄った。


「あのっ! 不躾なお願い事なんですが、読み書きの先生と仕事をもらうわけにはいきませんかっ?!」

「はっ?」


 言われたジガルド様は、偉そうにすましていた顔がとてつもなく崩れた。


「何故私がそのような事をしなければならないのだ」


 けれどすぐに気を立て直したらしく偉そうにこちらを見てくる。

 ん?今この人サラッと自分のした事スルーした?

 私は目をかっぴろげさらに詰め寄りながら口を開いた。


「いやいや、私の記憶が確かなら、ジガルド様が聖女をいきなり攫うから私誘拐だと勘違いしてタックルしたんですよ?」

「ゔっ、だっ、だが勘違いするお前もお前だろう? それにっ、緊急だったのだ!」


 ジガルド様は顔を真っ赤にしながら怒鳴ってきた。

 美丈夫が怒るとちょっと怖い。

 だけどこちらも命が掛かっているといっても、過言ではない。

 負けじと声を張り上げる。


「急を要することとしても、最低限説明やきちんとした姿勢があれば私だって勘違いなんてしませんし、とめませんでしたーぁ!」


 私とジガルド様は超至近距離でメンチを切り合った。

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