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今世紀史上を僕達と  作者: 槙島今日子
第1章 青い鳥は翼を得て始まりを運んで
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2話 出逢いは突然に

「どういうことだね?私はたしかにこの自転車を、この店の入り口に停めたはずだ」


 そう、きっとこの人が言っていることも正しい。

 だとすると……。


「少し待っていて下さい」


 僕は店の入り口を逸れて、隣に並ぶもう1つの入り口に向かう。

 多分どちらかは出口なんだろうけど、それをややこしくしているのはきっと、両方の入り口に立っているこの柱だ。

 外見に差異はない。

 意識せずにこの店を出ると、どちらだか分からなくなってしまうことだろう。

 あの人も同じように入り口と出口を間違えていたとすると……。


「あった」


 そこには青年が乗っていた自転車と瓜二つの、というか同じ車種の自転車が置いてあった。

 他にも多くの自転車が停められている。

 これは余計分からなくなるな。

 僕はその自転車をおじさんへと渡した。

 おじさんは驚きつつも、ああそうだったと、納得した様子を見せて青年に謝罪していた。


「いや、本当に申し訳ない。言い訳するつもりではないが、先ほどパチンコで40万円負けたばかりで気がたっていたんだ」

 

 40万!?


「妻になんて言われるか、考えるだけで恐ろしいよ」


 たしかに、それは気が気じゃないだろうな。

 40万なんて大金、僕の小遣いが……ええと、あーすごい。とんでもないや。


「俺はそんなに興味ないけど、そういうのは早めに言っちまった方が楽だぞおっさん」


 と、そんなことを言う青年。

 おいおい、ちょっと辛辣すぎじゃないか?もう少し言葉ってものがあるだろ。

 おじさんも好きで負けたんじゃないはずだし、悪意があったわけでもない。

 まあでも、それなりのリスクを負ってのこの惨状ってことだから、仕方ないといえば仕方ないのか。

 

「本当にその通りだよ。これからはパチンコを自重して、妻に何か買ってやるとするよ」

「おう!上手くいくといいな!」

「君も、すまなかったね」

「いえいえ、たまたま気づけただけですよ」

 

 おじさんは最後に深深とお辞儀をして、その場を後にした。

 僕たちも。


「ふぅー、とんだ目にあったぜ」

「……」

「やっぱ話し合いってのは人類史上最大の発見であり発明だよな」

「……」

「互いが互いの考えを理解して手を取り合えば、戦争なんて無くなるのも、俺たちになら出来ると思わねぇか?」

「……あのさ」

「どうした兄弟」

「帰ります」

「や、ちょ、待って待って、落ち着けって!せっかく来たんだし!な?とりあえず座れって、はいコーラ」


 僕たちはおじさんを見送ったあと、それぞれ挨拶を交わして解散……とはならなかった。

 では現在、何をしているのかと言うと、青年に連れられて近くのファミレスへと訪れていた。

 そこで僕は世界平和についてだとか、人類の成した偉業だとか、そんな中身がありそうで、その実カラッカラな話を聞かされていた。


「これは礼だよ礼。最近じゃあんな輩ばっか増えて困ったもんだよな」


 閑話休題とばかりに、青年はようやく本筋を話し出した。


「輩って、そんな言い方はないだろ。おじさんだって悪気があった訳じゃないだろうし、それにあれは立地が悪いよ」

「そんなことは分かってる。俺が言ってるのは周りの傍観者の話だ」


 む、随分と核心に迫ったことを言うじゃないか。

 確かにそれは僕も感じていたことだった。

 目の前で人と人が言い争っていて、その言い争いは落ち着きどころを見失い加速するばかり。

 そんな状況で彼らは、我関せずとその場を素通り、興味ありげに覗き込む人もいれば、もっとやれと囃し立てる人もいて、その誰もが安全な場所から眺めている。

 それを分かっていながら、感じただけで考えないようにしていたのは、心のどこかで仕方の無いことだと思っていたから。

 どうせ言ったところで何かが変わるわけでもない。

 どうせだめだ。

 どうせ無駄だ……と。

 それを、この青年は問題視したのだ。

 当たり前のことを当たり前のように。


「そういうくだらない道理や常識をへし折って、この世界を変える!それが俺の夢なんだ!」


 世界を、変える。

 簡単なことじゃない。

 というか無理だ。出来るはずがない。

 でも、それは僕の話だ。

 この人になら、出来てしまうのかもしれない。

 少なくとも、僕にできないことを、この人はやろうとしている。

 応援する、しないは置いといても、僕がこの人の(あゆみ)を邪魔するべきじゃない。


「分かった。気持ちは十分伝わったよ。ありがとう」


 僕はそう締めくくり、その場を去ろうとして。


「お前、北高?」

「?そうだよ」

「ふーん、転校生とか?」

「そうだよ」

「え、まじ?あ、だよね。はは」


 なんだよその反応。

 制服着てるんだからこの辺の住民だったら分かるだろ。

 でも転校生って分かったのはすげえな。


「なんで転校生って分かったの? 」

「俺も北高生」

「そーなんだ」

「俺は学校でお前を見たことがない」

「そりゃ中にはいるだろうよ。それにまだ5月だよ。僕が新入生って可能性もある」

「だから見たことがないんだって」


 ん?どゆこと?


「もしかして全員の顔を覚えてるの?」

「まあな」


 まじかよ。


「それで?どこのクラスになったんだ?」

「1年2組」

「俺1年5組」

「1年!?」

「おう」


 てことはこの人、入学して1ヶ月で学校にいる生徒全ての顔を覚えたのか!?

 とんでもねぇ!


「いや、今日転校生が来るって噂は聞いてたんだけどよ、今日に限って休んじまったからな」


 世界を変えるって本気で言ってるのかもしれない。


「あ」

「ん?」

「君も1年年ってことは、もしかして、部活決まってなかったりする?」

「俺の部活?あー、いや、うん。そうしよう」


 なんか自己完結したぞ。


「僕まだ部活決まってなくて、先生に聞いたけど、生徒の部活参加は半強制らしいじゃん。それで困っててさ」

「そーだな。部活は参加しなきゃいけねぇ。悪いが、俺はもう部活に参加している。そして活動もしている。」


 そうだよな。

 なんか行動力ありそうだもん。

 そりゃ入ってるよな。


「明日俺の部活動を見学させてやる。放課後教室で待ってろよ 」

「うん。助かるよ」


 そうして僕は彼と別れて、帰宅を再開した。

 日は完全に落ちてちらほら街灯に明かりがつき始めていた。

 飲み干したコーラの味が口の中に残っていた。


「ただいま」

「おかえり。どうだ?分かったか?」


 分かった?


「えっと、何が?」

「電池」

「あ」


 完全に忘れてた。


「ごめん、ちょっと色々あって、忘れてた」

「おいおい、電話したのほんの3時間前だぞ?」

「本当にごめん」

「まぁいいや、仕事で使うやつだし明日買うよ」

「電池全種なんて、何に使うの?」

「ちょっとした実験だよ。そんな急用でもない」


 なら良かった。

 とても口には出せないけど、ちょっと安心。


「それより、学校はどうだった?」

「まぁ、初日にしては無難だったと思うけど」

「そうか」


 その日の父さんとの会話は、それが最後だった。

 言ったろ?そんな会話が多い方じゃないって。


 僕は僅かに残る高揚感と共に、眠りについた。

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