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第9話 アジトへ侵入

「…マジか」


 エデンは沈黙のアジトの入り口から、そう遠くない物陰から様子を伺っていた。

 場所は知っていたが、これまで来ても危険だと思って近づかなかったエデンは、ヤバンの店を出た後に直行した訳だが、アジトは裏道よりも薄暗く畏まった場所にあり、建物の前には2人の見張りのような者が立っている。


(来たは良いけど…通して貰えないだろうな。何ならボコボコにされるのが目に見えてる……諦めるか?)


 そう考えていると、2人の見張りの下に同じ様な服装をした者が1人来て、身振り手振りをし、話し掛ける。何を話しているかは分からないが、もう1人の方は何処か嬉しそうだ。

 話し掛けられた2人は少し悩む様に顎に手を添えた後、その者と共にそこから離れて行った。


(何で2人共居なくなった? いや…でも好機だ!)


 エデンはすぐに駆け出し、沈黙の鐘のアジトへ入った。




 入ったアジトの中は、廃れた直径2メートルぐらいの石造りのトンネルだった。周りの壁には、大通りにある魔石ランプが掛けられており、所々苔が生えていて、酒のアルコールだろう匂いが漂っていた。大通りの様な表の部分と、裏道の様な裏の部分が存在している。流石は『ディンバラ』の裏組織の中でも1、2位を争う組織と言った所だろう。


 エデンは少し辺りの様子を観察しながらも、下り坂になっている道の奥へと進む。

 そして3分程経つと、奥から強い光が差している部屋を見つけ、エデンは慎重に入り口から壁を背に覗き込む。


「ーーーー」

「ーーー?」


 部屋の中では2人が、楽しそうに近くの木箱に座りながら、楽しげに話しているのが聞こえる。


「俺だって、あんなのと酒飲んでればキリ無いぜ?」

「だよなー…だけどよ? 実はお頭ーーーらしいぜ!」

「はぁ? 何処の情報だよ、それ?」

「俺の昔の知り合いから聞いた話だ」

「…マジか……」


 要領を得ない会話だ。


「ん…?」

「どうした?」


 1人の男が突然話をやめ、顔を強ばらせる。


 そして。


「…おい、そこに誰かいるだろう。出て来い」


 男は此方を見ながら言い放った。

 それと同時にエデンの心臓は心拍数を上げる。


(ヤバい! バレた!? どうするどうする!?)


 いきなりバレてしまったのだ、無理もない。

 エデンは狼狽えながらも、脳を回転させる。

 今すぐ此処を離れるか、それとも出て行って誤魔化すか、出て行って強行突破するか、この3つが直ぐにエデンの頭で考えられる事だった。


(出て行っても2対1の手練れ相手に俺が勝てる訳がないし、上手く誤魔化せる口もない…此処は一先ず逃げ


 ザッ


「ほぅ? 誰だお前?」


 逃げようと踵を返した瞬間、部屋の中で物音が聞こえ、また急いで壁を背に中を覗く。


 そこに居たのは。


「此処のお頭に用がある、だぜ」


 何処か変な語尾で、ドレスを纏った煤けた白髪、あの子供だった。


(居た!!)


 エデンは、小袋を取り返そうと身体が動くのを我慢して様子を伺う。


(ったく…アイツめ…腰に自分の様に付けやがって! アレは俺が死ぬ様な思いをしてとった物だって言うのに…早くそいつらにボコボコにされろ! そしたら俺がそこで掻っ攫ってやる!)


 エデンは腰に付けられた真っ白な紐をした小袋を見つめ、呪詛を掛けるかの様に睨みをきかせる。

 そんな事は知らずに、子供は意気揚々と小袋を掲げて言った。


「これを売りに来ました、ぜ!」


 それを聞いた男達は少しポカンと呆れ果てた顔を見せた後、肩を竦める。


「その小汚い袋をか?」

「それに何の価値があるんだよ?」

「こ、これには凄い価値があるの、だぜ?」

「へぇ、ならその価値を教えて貰おうか?」

「そ、それは…」


 男達に責め立てられ、俯いて黙り込む。

 エデンが何時になったらアイツが痛い目に遭うかと、見ていると。


「…おい」

「ん?」

「ーーー? ーーー?」

「ーー? ーーー!」


 2人の男達が小さな声で話を始める。

 そして何回か会話すると、その子供に向き直る。


「いや、分かった。お頭に会わせよう」


 1人の男がそう言うと、子供は大きく表情を変える。


「ほ、本当ですか!?」

「あぁ。案内してやる」


 男はニヤニヤと笑っている。

 エデンはそれを見て思う。


(どう考えても罠だろ…)


 あんな表情をされたらムカつくが、わざわざ相手の口車に乗る事は避けるべきだ。普通あんな簡単に通れる訳ないのだから。

 そんな事を考えている内に、男は奥の扉を開ける。


「じゃあ、こっちに来てくれ」

「はい!!」


 1人の男と子供は奥へと入って行くのを見たエデンは、どうするか悩む。


(沈黙の鐘の頭に小袋が渡れば、取り返すのはほぼ不可能…今から追えば取り返せるか?)


 その扉の前にはもう1人の見張りの男が欠伸をしながら、立っている。

 先程、アイツが居る事に気付いた男だ。気配に機敏なのか無闇に近づけない。


(…いや! 行くしかない!)


 そう言ってエデンは、何の考えもなしに飛び出す。


「あん?」

「…あ、あれ? ここは…」


 エデンはおどおどしながら、男へと近づく。


「またガキかよ…入り口の見張りちゃんとやってんのかよ…」


 頭を掻いて、呆れた風に溜息を吐く。


「あ、あの! 此処は何処なんですか!?」

「あぁん!? 邪魔なんだよ!失せろ!」

「ぼ、僕、家が無くて! だからあったかい所に来たくて…」

「ちっ…まぁ、暇潰しにちょうどいか…」


 男は下卑た笑みを浮かべて油断していた。

 まだ傷跡も無く、煤けた姿の少年。最近孤児になったばかりで此処に運悪く迷い込んだのだろう、直ぐに泣き叫ぶ、そう思い立ったのだ。


 だが、男のその認識は間違っていた。




 少年はそんな小枝の様にポッキリと折れる精神をしていなかった。


 例えるなら雑草。何度も踏まれても起き上がるしぶとい雑草。他の者達が大きく成長していく中、1人だけ何度も踏まれ、成長を阻害された可哀想な雑草。




 自分にもっと力があったら。


 そこに居たのは自分だったのに。


 強くなりたい。


 こんな事をしなくとも対抗出来る強さを。




 何度もそんな事を思った雑草だった。


 男は油断し切った顔で拳を少年に振り下ろした。


 しかし、その拳が当たる事はなかった。


 何故なら。


 その前に、全長10センチも満たないナイフが胸に突き刺されていたから。


 男は急激な胸の熱さ、痛みに膝を着く。そして意識が途切れる瞬間見た。


「もう俺は強く生きるんだ…!」


 踏まれた雑草はその分強く育った。

 ダンジョンの最奥で手に入れた、果物ナイフと言う強い力を得てーーー。

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